二ノ宮てとら
2025-06-10 23:21:35
6457文字
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ドームシアター

遊戯王 城海
20代前半でデートをする話。臨海地区の展示施設に行きます。2013-14年位、直し済み。城之内克也
海馬瀬人 2025年

 招待券を貰ったから行こうと持ちかけられた。目処が立たないと言っても耳に入らないらしい。一方的に候補日を幾つか挙げられ、連絡を待ってると明るい声で通話は切られてしまった。
 城之内はたまにこんなことをしてくる。計算しているわけではないからたちが悪いと海馬は眉間に皺を寄せた。
 仕事を始めてからというものすれ違うことが多くなった。約束を破りがちな海馬でも待たせることがないので会うなら邸が良いだろうと伝えたことがある。ところが城之内はたまには昼間に外で会おう、デートをしようと照れながら笑うのだ。それに逆らえないでいることを海馬は認めたくなかった。

 施設の名前には聞き覚えがあった。シアターの内容に興味を持ったことと、時流に逆らうかのように現地で当日の朝に指定回を申し込む予約方式をとっていることを思い出した。
 都合がつくと伝えたら、早朝に出掛けて約束に間に合わないかもしれない自分を待つのだろうと想像に難くない。暖かな琥珀の瞳はきっとなんでもないことのように笑うのだ。
 しかし行ってみたかった場所ではある。せっかくの誘いに乗ってみるかと考え直した。デスクに肩肘を付きながらスケジュールをチェックする頃には柔らかな表情に変わっていた。

 ドームシアターの入る建物は臨海地区の体験型教育展示施設群のひとつだった。公園の中には意匠を凝らした建物が点在している。宇宙をテーマにした施設の目玉は吹き抜けに浮かぶ地球儀だった。

 海馬がなんとか都合をつけられた日は小雨混じりの春まだ遠い祝日だった。午後からしか空けられなかった。
 城之内はどう時間をつぶしたのだろうと考えたところで、吹き抜けのエントランスに佇む姿が目に入った。黒のダウンパーカーにジーンズで手袋もしていない。肩からはトートバッグを下げていた。
 声を掛けるまで気付かなかった。こちらを見て驚きの表情で固まっているのがおかしかった。人混みに紛れ込めるように、髪色を隠す野球帽とダークカラーの眼鏡を掛けてきたのは正解だったらしい。

 シアターは科学教育施設の中にある。親子連れで賑わうここで目立つことは避けたかった。そういった諸々にようやく合点がいったらしい城之内は、照れ隠しに金髪に指を挿し入れながら、疲れも見せずに満面の笑みを浮かべた。

 混雑した場が和み視線が留まるのが海馬には分かる。相変わらず邪気のない笑みは人を惹きつける。城之内が目立つほうがこちらに注意が向かなくて良いのかもしれない、そう思っていると、肩をつかまれて中へと向かう道すがら愚痴のようなものを聞かされた。
「オレも変装してみたかった」
 Pコートにコーデュロイのパンツは世間一般の海馬瀬人のイメージからは離れているかもしれないが。
「変装など却って目立つのではないか」
 城之内は落ち着いた物腰を身につけたほうが変装をするより効果があるだろうと言ったら、思案顔をした後に、
「わかった。それじゃぁ、かい……瀬人は若者らしくはつらつとした動きを頼む」
 そう言って笑いを噛み殺した。なんだそれはと訊いてみれば、二人とも落ち着いてたら悪目立ちをするだろうと減らず口で返された。

   † †

 上映時間までには余裕があった。
 最上階に近いその場所へはエスカレーターで移動した。入り口からゆっくりとした速度で登っていく。大人が横に並んで5、6人乗れそうな大きさで上下で2基あり、その隣には同じ横幅の大階段も並んでいる。壁面の窓からの展望用途も兼ねていた。エレベーターを使う者の方が多いのか、途中のフロアで子供連れを数組見かけた以外人影はまばらだった。

 城之内は海馬に昼食はとったのかと尋ねた。まだだと答えが返ってきた頃にカフェテリアの側を通過した。
「調べたらここ飲食店一軒しかないっていうから。ほら、まだ混んでる。その代わり持ち込みOKでカフェスペースは広いんだって」
 階下になった店からは良い香りが漂っていたが、長い行列ができていた。
 フロアをいくつか過ぎてテーブルが並ぶ開けた場所へと足を運んだ。エントランスの上にあたるらしい場所で、大きなガラス窓からは周囲の公園の景色が一望できた。ランチタイムを過ぎていたせいか休憩にとくつろぐ人々が見受けられた。

 城之内は海馬を席に着くよう促すと、トートバッグから紙袋を取り出した。中身は城之内のお手製サンドウィッチだった。バッグから出てきた水筒から温かい紅茶が用意されるにいたって、海馬はどんな表情をしたら良いのか分からなくなった。いつからこんな細やかなことをするようになったのか。

「なに難しい顔してんだ。ボトルは普段会社に置いてあるんだけど、間違えて持ってきちゃったからあっただけ。あ、でも中身は奮発した! 今日はローストビーフ」
 そんなに疑問があふれていただろうかと思いながら、口をつける。バケットサンドは肉と野菜のバランスが絶妙で美味だった。
「おいしい」
「良かった」
 海馬は色々と考えるのはやめにして食事を楽しむことにした。それが提供者への礼だろう。
「ハンバーガーにナイフとフォークって言われた頃もあったなぁ」
 サンドウィッチを頬張っている海馬の姿を見ながらのんびりと城之内が言った。
 変化があったのはお互い共にらしいと気付かされて心の中で苦笑した。

 ローテーブルにソファの席に並んで座っていた。
 外は薄曇りだったが、芝と緑の木々の中を点在する建物が見えていた。普段見る街の屋根はなくてくつろいだ気分になった。

   † †

「実は待ってる間に一回体験してみました」
 悪戯を見つけられた子供のような顔で城之内が告白した。チケットは数枚貰ったのだと言う。
「どうだった?」
 海馬の問いに複雑な目の色をした城之内がいた。
 周囲に人がいないのを確かめると口を開いた。
「世界の海馬サマを連れて来ちゃって良かったのかなぁって悩んでたんだけど、全然違ってて安心した」
「プラネタリウムだろう? そんなことを気にしていたのか?」
 ソリッドビジョンと比べているのだろうと分かったが、投影方式がまったく違っている。
「うん。でもそっちの技術でやったらもっと凄いのができちゃうのかなって。
 きっと星雲の中に入ったりできるよな。ここのは、そりゃぁ、星が降ってくるみたいにきれいだけど」
「星に触れてみたいのか?」
「小さい頃、天の川をつかんだりしてみなかったか? オレだけかな」
 海馬の技術を使い遊園地等で様々な体験ができるようになっていたが、星のプログラムはなかった。
「手のひらの中で星が光ったら、オレはうれしいな」
 ソリッドビジョンシステムは主にライド、搭乗型で使われていた。デュエルディスクのように装着するタイプはまだ少なかった。
「星を掴み、手の中で生まれるところから消えるところまでを見られたら楽しいか?」
「スーパーノヴァとか見られんの⁈ 見たい!!」
 海馬はふむと考えた。一部生化学の分野では使われ始めていたが、この方面からプレゼンを受けたことはなかった。膨大なデータを扱うのにKCは慣れている。たまには自社開発も行なってみようかという気分になった。
 城之内は海馬が取り合ってくれたことがただ嬉しかった。

   † †

 祝日の午後で満席だった。チケットによると入場は開演の10分前からだ。
 詳しく聞くと海馬は仕事で館長など役職者に会ったことがあると分かり、目立たぬようにと開始直前に着席することにした。混雑時は上の立場の人間も現場を見に来ているかもしれないと、城之内は気が気ではなくなっていた。
「落ち着け。
 今声を掛けられていないなら大丈夫だ」
……そうだな」
 席に深く座り直し大きく息を吐いた。アナウンスの案内に従いリクライニングのレバーを倒すと身体が倒され視界がぐんと開けた。シートはゆったりと作られていて隣の席も気にならなくなる。

 照明が落ちると海馬は帽子と眼鏡を外し、プログラムの解説が始まるのを待った。
 進行のため館内の照明は最小限に落とされていた。不思議と温かみを感じる闇だった。観客の期待が高まっているせいだろうか。
 隣にいる城之内の肘を軽く叩いてみると、腕が差し出された。手を握るとぎゅっと力強く返される。
 海馬は余計なことに気を取られないで星の世界に浸りたくなった。それが手のひらを通じて城之内へ届けばいいのにとも思った。

 落ち着いた音楽が流れて宇宙全体が示される。
 様々な銀河を経て太陽系の成り立ちが紹介された。地球上に人類が生まれてからほんの瞬きにも満たない時間しか経っていなかった。
 ドームの真ん中に球体が現れ地球の形になり、ゆっくりと回転しだした。
 現人類の活動足跡は白い光が示してくれる。
 球体には昼と夜があり、太陽が当たっていない地域は都市の光で輝いていた。
 光の輪で繋がった地図。中でも一際明るい縦長の島は日本の形をしていて、見つけられたことが誇らしいような気分になった。
 一瞬の暗転の後に満点の星空に包まれるようになっていた。春の星座は天の川に埋もれるように控えめに輝いている。……プログラムが終わったのだ。

「少し寝ていただろう」
っ、わかった?」
 とはいえ本気で怒っているわけではなかった。握る力が弱まったのは、ほんの数分だった。早朝から準備をしてくれたことは分かっている。
「瀬人の手、気持ち良かったんで、つい」

   † †

 シアターから下りのエスカレーターに乗っていた。
 閉館までまだ時間はあった。
 常設展を見学しようという話しにはならなかったが、館のメインテーマであるジオアースは見て帰ろうかということになった。球体は1階から5階までの吹き抜けの空間に存在している。カーブになったガラスの壁に守られて宙に浮かんでいるかのように見える大きな地球のオブジェだ。

 展示の終わる階から忍び込んだ。普通とは逆さまに、ループ橋を下っていった。
 回廊の中心にある、発光体が集まってできた球体に様々な情報が乗せられ変化していく。青い地球の雲の発達具合を見せるのが基本で、竜巻や台風も再現される。時折宇宙ステーションからのメッセージや各地の気候状況などが浮かび上がる。時間帯によってはショートムービーも流されていた。

 海馬は城之内はこのあとどうしようと考えているのだろうと、のんびりと笑う横顔を窺った。エスコートされて甘やかされているような状況にどうにも慣れないでいた。どちらが話しを振ることが多かっただろうか。普段は気にとめてもいなかったことに頭を悩ませていたせいか、話し掛けられないでいた。
「瀬人のところの研究室みたいな部屋がある」
 壁面と回廊の間には国際宇宙ステーションやスパコンの模型の置かれた交信ブースのような部屋が枝分かれして繋がっていた。入ってみるかと指を差されたが海馬は首を振って断った。
 球体の周りは展示のルートからは外れているので混み合うこともなく地上へと辿り着き、人混みのざわめきの中に戻ってきた。

   † †

 外に出ると雨上がりの暗いまま夕暮れに向かっていくようだった。
「瀬人、明日は早い?」
 まだ会場近くだったためか名前で尋ねられる。それもやりにくい一因かもしれない。
「いや、それほどでもない」
「んじゃ、どっかで飯食ってこう。この辺と町の近くとどっちがいい? ……そうだ、ここまで何で来た?」
 今更な質問に海馬は喉奥でくくっと笑った。普段の皮肉屋な一面が表に出るが、まだ目立たぬようにと気を張っていたので腰に手を当てたりはしないよう気をつけることができた。
「車で送ってもらったから、帰りはどちらでもいい」

 城之内は海馬の無理をした仕草に笑いたくなるのを堪えていた。ついで海馬の全身へと目を走らせると改めていつもとは印象が違うのを感じた。
 短めの紺のコートに柔らかめの暖かそうなパンツとスニーカーで小さめのリュックを背負っている。帽子と眼鏡もブランド物とかではないようで、なんとなく地味なのだ。勉強熱心な理系の大学生がおしゃれをしてきたといえばいいだろうか。団体客にもそのような学生が多く、違和感がなく紛れていた。

「ここに来る人はマイカーかバスが多いみたいだけど、せっかく変装してきてくれたから、ちょっと離れてるけど路面電車に乗って大きな街に出てから帰ろう」
 海馬の手を取ると駅へ足を向けた。最寄り駅とはいえ不便な路線であるためか、そちらへと向かう人影はなかった。
「城之内、手は……
「もう暗いし誰も見てないって。あったかいな瀬人の手」
……名前を」
「なかなか新鮮で、癖になりそう」
 控えめに照れる海馬というのが珍しくて調子にのった城之内だったが、町に近付いたら普段に戻すよと言う。

「克也、今日は楽しかった。
 別にそのまま呼んでいてもいいぞ」
 海馬の反撃に目を瞠ったが、予想の範囲内だったので城之内は声を出さずに笑顔を見せる。それに笑うなという声が小さく続いた。
「瀬人って普通の格好もできるんだな。またやってよ」
 普段と何が違うのか実のところ海馬には分からなかった。周囲に馴染む姿でと指示を出し用意をさせただけだった。けれど城之内が楽しげだったので考えておくと答えた。

   † †

 街灯とコンテナが一定間隔で置いてあって帰り道を照らしていた。駅への道は海風が強かったが、手をつないだ分だけ暖かくなった。

「今晩は曇ってるから星見えないなー。海馬……瀬人の作ってくれるシステム、楽しみにしてる」
「まだ面白いと思っただけだ。……フルネームで呼ぶな」
「聞かれてたら今日の苦労が水の泡になるとこだった!
 瀬人、ちょっと良い?」
 城之内は周囲に人気がないのを確かめると眼鏡に隠された海馬の瞳を覗いた。足を止めると帽子のつばを後ろに回し、後頭部に手を添え引き寄せてキスをした。
 風に濡れて冷たい唇を割ると熱い舌が待っている。舐めて吸って絡め取って、海馬からこぼれかけた唾液をゴクリと飲み込んだ。お互いの息が上がって来た頃にようやく海馬を解放した。
「一週間分の瀬人をチャージした感じ」
 城之内は腕の中に海馬を抱えたまま満足げに言った。
「からだもあったかくなった」
…………
「え、たんなかった?」
「外では軽めにしろと……
「忘れてた……反省する! でも我慢できなかった。眼鏡って意外と邪魔にならないのな」
 苦笑まじりに答えられて海馬は文句を言うのも面倒になった。頬の熱がなかなか覚めなくて困らされた。
「今度は邸に遊びに行くから」
 一度ぎゅっと抱きしめるとまた手をつないだ。わざわざ反対側に回って、手を重ねてみている。
「何か意味があるのか?」
「ないけど、どうせなら両手をあったかくしておきたいかなって」
 楽しげな口調だった。屈託のない城之内の様子に今日は負けだと認めると、それ以上話しをするのを諦めた海馬だった。


                  END




   ――――――――――――――――



上から展示を逆順で見ても大丈夫です。ちゃんと入り口があります。3Dも見られるシアターです。確かプラネタリウムではありません。捏造。今はネット予約ができます。海外の理系企業っぽい団体が多いので海馬サイズでも目立たないと思います。
海馬が会ったのは毛利さんだったらいいのに。周囲はもう少し開発されました。

ロケ地 お台場(2013年位)

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