かん
2025-06-10 21:25:58
5363文字
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マドンナって、そんなにいいもんじゃない

森田ひかるさん



学園祭まで一ヶ月を切ったHRの時間。


担任の指示で何を催すか、クラスで案を出し合った。


そして3つに絞られた現在、投票になる。




「では、顔を伏せてください」




みんな喋りながら顔を伏せる。


書記の自分には、色々とよく見えた。





「ストラックアウトがいい人」



全然上がらない。



「劇がいい人」



まばらに手が上がる。




コスプレ喫茶がいい人」





半数以上、ほぼ全員一気に手が上がった。


票数を書く必要もない。






「顔上げてください」


「コスプレ喫茶に決定です」



パチパチパチパチ





自然に巻き起こる拍手。

大多数の人が賛同した証だ。





「はいはい!どうする?」


「なにが?」




「森田さんのチェキ代、いくらにする!?」




ひかる:……




「いやーっ500?」


「もうちょいいけんじゃね?」


「高すぎたら誰も買わないよ笑」




ひかる:いいやいやいやっいやいや



思わず立ち上がっている森田さん。

その表情は、どこか絶望感が漂う。



「いやいやいや笑」


「楽なものでしょ、写真撮るだけでお金取れるの」



ひかる:でも、そんな





「俺らで売り上げ一位目指すぞー!!」


「おー!」




口々に歓声を上げ盛り上がるクラスメイト。



多数の暴力だ、誰にも止められない。



ひかる:あはは……お、おー




一瞬、彼女の表情が見えた。



初めて見る顔してた。




何か諦めたように、再び席に着く森田さん。


きっと誰も、彼女の気持ちに気づかない。



自分はただ、それを傍観すること。



気づかないふりをする。






そんなことしか、できない。








**********************






「ご馳走様でした」


〇〇:ありがとうございます



放課後は静かな喫茶店でバイトしている。


落ち着いた雰囲気と客足。


美味しい料理と美味しい飲み物。


個人的には、隠れた名店だと思う。



でも忙し過ぎないのが最高、いつも合間合間で宿題やら読書やらをしてるんだけど




〇〇:



今日は何も手につかないまま。




あの時の彼女の表情、頭から離れない。



クラスの高嶺の花、所謂マドンナである
森田ひかるさん。



学校で知らない人はいない有名人。


彼女には隙がない。


学校ではいつも明るく、みんなに分け隔てなく優しい。

毎日学校に来るし、忘れ物はない。

授業も必ず起きて受け、友達もたくさん。




"森田さんでも無理なら、誰も出来ないよ"




みんなの言い訳になってしまった。




あの彼女が

森田さんがあんな顔するんだ



軽く衝撃だった。



あまり知らない自分から見て、彼女は完璧だと思ってた。


いつ見ても、あの笑顔。

揺るぎない、何かを隠す。

固い笑顔。


だから、初めてあんな


あんな辛そうな顔を見た。




〇〇:




嫌だったのか


無理してる


本心は




そしたらもしかしていつも




「〇〇くん!」



〇〇:は、はい



「お客さん、お願い」



〇〇:あ、すいませんお待たせ……しました



ひかる:ひとりなんですけど



〇〇:こちら、どうぞ



ひかる:ありがとうございます



森田さん


森田さんだ。


見間違いではない、あんな綺麗な人他にいないから。



〇〇:


変な汗が噴き出してきて頭が真っ白になる。

よりによってこんな日に


とにかく、いつも通り




〇〇:お冷です


〇〇:お決まり次第、お呼びくださ






ひかる:おすすめってなんですか?


どこか不安そうで、怯えてる彼女の瞳がこちらを捉えた。



〇〇:人気なのはアイスティーですねあ、抹茶ラテもおすすめです



ひかる:じゃあアイスティー



〇〇:かしこまりました
 



早足で裏へ行き、大きく深呼吸をひとつ。




〇〇:アイスティーです


「はーい」







気づかれてないよな。




いや、いいんだ。全然むしろ気づかれなくてよかったよかった

知ってたら気まずいし

僕なんかを森田さんが知ってるわけない







気づかれてない




安堵と失望が押し寄せた。






「うわー、降ってきたよー」



〇〇:


窓にぶつかるように雨が打ちつけてくる。

予報よりも早い。



「お客さん、傘ありますか?」


ひかる:あ……ないです


「じゃあ、しばらく休憩しててってください」


ひかる:えでも


「〇〇くん!」


〇〇:はい




「デザート、お願いね」


〇〇:


ひかる:いやっ私、お金が


「サービス、サービスだから全然大丈夫」


ひかる:ありがとう、ございます


「じゃ、〇〇くんよろしくね!」




〇〇:はい













森田さんと目が合った。



やっぱり、学校とは全然違う。

灯りが消えていて静か。


こういう時は何か誤魔化せたらいい。


とにかく、美味しい物を食べてもらおう。


食べて、少しでも手助けできたらそれでいい。





無我夢中で手を動かした。











〇〇:お待たせしました


ひかる:あ……


〇〇:アイスティーと、モンブランです



テーブルにゆっくりお皿を置く。



ひかる:すみませんわざわざ


〇〇:全然、サービスなので


ひかる:ありがとうございます



〇〇:ごゆっくり



「〇〇くん!休憩入っていいよ!」



〇〇:あ、はーい



ひかる:あのっ



〇〇:……僕?


ひかる:●●くんだよね?




〇〇:覚えてくれてるんだ


ひかる:え?


〇〇:あーいやいやこっちの話



ニヤけそうな頬を必死に抑える。



〇〇:森田さん、だよね?


ひかる:よ、よかったぁ



わかりやすく安堵した様子。



〇〇:え?


ひかる:あ、あの違ったら色々ダメだから






学校の外でも、演じるのか。


〇〇:


ひかる:あ、もしよかったらそこ座って


〇〇:いいの?


ひかる:●●くんがいいなら!




なかなか上手に、断る理由を塞がれた。

流石森田さん。



〇〇:お邪魔します


森田さんの隣、少し間を空けて座る。




ひかる:んアイスティー美味しい


〇〇:あよかった


ひかる:ここでバイトしてるの?


〇〇:うん、去年から


ひかる:いいな〜、私まだバイトしたことないから羨ましい



森田さんがバイトするってなったら、色々面倒なことが起こるんだろう。

弊害があることを、彼女自身わかってる。



〇〇:森田さん、ひとりで来るんだ


ひかる:ん?なんで?


〇〇:意外だから学校だといつも誰かと一緒にいるし


ひかる:あー確かに笑



また、作り笑いをする。



〇〇:理由があるの?


ひかる:うーんまぁ、ひとりだとすぐ囲まれちゃって


〇〇:


ひかる:付き纏いとか盗撮とかされるから、友達がいてくれるんだ



だからいつも友達と一緒にいるのか。

ここは学校から少し離れた場所。

ひとりでも目立たない。


辻褄が合った。




〇〇:大変だね


ひかる:まぁ仕方ないよ笑、いつものこと!




全然大丈夫、とアイスティーに口をつける。



無理矢理、前を向いているように見えた。




〇〇:ほんとに大丈夫?


ひかる:大丈夫!全然余裕余裕!


〇〇:無理、してない?


ひかる:い、いや大丈夫だよ!毎日楽しいし!


〇〇:そっか



彼女がそう言うなら、きっと大丈夫。

自分に言い聞かす。



ひかる:って、もうすぐ学園祭だね!


〇〇:あー、うん


ひかる:もう一年経ったんだね


〇〇:確かに、あっという間


ひかる:うん、あと二回



あと二回

3年間なんてあっという間に終わる。




〇〇:コスプレ喫茶


ひかる:うん、楽しみ!


〇〇:森田さん、ほんとにチェキ撮るの?


ひかる:そ、そりゃあみんなにお願いされたからね頑張るよ



あれはお願いなんかじゃない、無言の圧。

暗黙の了解だ。




〇〇:嫌じゃない


ひかる:嫌じゃないよ!めっちゃ楽しみ!



スラスラ言葉が出る、準備してたように。

きっと友達にも聞かれたんだ



〇〇:ほんとに大丈夫?


ひかる:大丈夫!余裕!


〇〇:無理してるよね


ひかる:そんなことないよ!


ひかる:みんな楽しみにしてるし、私も頑張らないと!


〇〇:森田さん


ひかる:二日間頑張って欲しいって、みんなが言ってくれてる


ひかる:私が無茶すれば一位取れるから、だから







〇〇:森田さん




ひかる:


〇〇:森田さんが楽しくないと、意味ないよ


ひかる:


〇〇:無理してやってることは、無理なことだから


〇〇:周りばっかり見なくてもいいと思う




〇〇:自分には、嘘つかない方がいい




思わず、言ってしまった。

だが不思議と、後悔はない。



無理に笑う彼女に、我慢できなかった。




ひかる:


〇〇:本当は、どう思ってる?


ひかる:


〇〇:森田さん?





ひかる:グスッ



〇〇:え?


唇をぎゅっと結んで、必死に涙を堪える森田さん。


〇〇:も、森田さんあの




ひかる:


初めて見た、彼女の素に近い部分。




〇〇:ご、ごめん






ひかる:無理.


〇〇:え?





ひかる:やりたくない


〇〇:





ひかる:頑張ったけどやっぱり……ぅぅ


〇〇:森田さん



ひかる:しんどいグスッ……無理……無理


〇〇:





森田さんにこんな思いさせた奴らが許せない。

そしてそんな彼女に気づいていたのに、何もできなかった自分に腹が立つ。





ひかる:うぐっ……グスッ


〇〇:ゆっくり深呼吸して、ゆっくり




小さくなった彼女の背中を、優しく摩る。


すると徐々に堪えた物が、涙となって溢れてきた。






ひかる:グスッ……気づいてたんだ




〇〇:うんごめん、助けられなくて






ひかる:ううん誰かに気づいてほしかった








ひかる:ありがとう







初めて自然に笑った森田さんを見た。

そう感じるくらい




綺麗に笑う彼女に、心が惹かれる。




ひかる:グスッ……これ、食べてもいい?

 

涙を拭い、自分が作ったケーキを指さす。



〇〇:口に合えばいいんだけど


ひかる:いただきます




小さな口に大きくいっぱいいっぱいケーキを詰め込んだ。




ひかる:んっ……


〇〇:どうかな?






ひかる:おいしい……





ひかる:ごれ……お゛ぃじぃ




〇〇:え、ほんとに


再び涙を溢す。




ひかる:うっ…….●●くんおいじぃ……




〇〇:ふふっ涙拭いて




綺麗な顔に、優しくハンカチを当てた。


マドンナさんに、感情が戻った瞬間だった。








〇〇:ありがとうございます



ひかる:こちらこそ、ありがとうございます



〇〇:ごめん、何にもできないけど



ひかる:ううん、話聞いてくれるだけで嬉しかったよ



〇〇:そっか



ひかる:また、来てもいい



〇〇:あもちろん、大歓迎



ひかる:やった




ちっちゃくガッツポーズする森田さん。


可愛いすぎて胸が苦しい




ひかる:ご馳走様でしたー



「ありがとうございましたー」





ひかる:じゃあ……バイバイ




〇〇:え、あバイバイ




手を振ったまま店を出て行く。





〇〇:










「え、彼女ー?」



〇〇:ち、違うましよっ!




テンパリ過ぎて、めっちゃ噛んだ。





**********************








それからというもの