学園祭まで一ヶ月を切ったHRの時間。
担任の指示で何を催すか、クラスで案を出し合った。
そして3つに絞られた現在、投票になる。
「では、顔を伏せてください」
みんな喋りながら顔を伏せる。
書記の自分には、色々とよく見えた。
「ストラックアウトがいい人」
全然上がらない。
「劇がいい人」
まばらに手が上がる。
「
…コスプレ喫茶がいい人」
半数以上、ほぼ全員一気に手が上がった。
票数を書く必要もない。
「顔上げてください」
「コスプレ喫茶に決定です」
パチパチパチパチ
自然に巻き起こる拍手。
大多数の人が賛同した証だ。
「はいはい!どうする?」
「なにが?」
「森田さんのチェキ代、いくらにする!?」
ひかる:
……え
「いやーっ
…500?」
「もうちょいいけんじゃね?」
「高すぎたら誰も買わないよ笑」
ひかる:い
…いやいやいやっ
…いやいや
…
思わず立ち上がっている森田さん。
その表情は、どこか絶望感が漂う。
「いやいやいや笑」
「楽なものでしょ、写真撮るだけでお金取れるの」
ひかる:
…でも、そんな
…
「俺らで売り上げ一位目指すぞー!!」
「おー!」
口々に歓声を上げ盛り上がるクラスメイト。
多数の暴力だ、誰にも止められない。
ひかる:
…あはは
……お、おー
…
一瞬、彼女の表情が見えた。
初めて見る顔してた。
何か諦めたように、再び席に着く森田さん。
きっと誰も、彼女の気持ちに気づかない。
自分はただ、それを傍観すること。
気づかないふりをする。
そんなことしか、できない。
**********************
「ご馳走様でした」
〇〇:ありがとうございます
放課後は静かな喫茶店でバイトしている。
落ち着いた雰囲気と客足。
美味しい料理と美味しい飲み物。
個人的には、隠れた名店だと思う。
でも忙し過ぎないのが最高、いつも合間合間で宿題やら読書やらをしてるんだけど
…
〇〇:
…
今日は何も手につかないまま。
あの時の彼女の表情、頭から離れない。
クラスの高嶺の花、所謂マドンナである
森田ひかるさん。
学校で知らない人はいない有名人。
彼女には隙がない。
学校ではいつも明るく、みんなに分け隔てなく優しい。
毎日学校に来るし、忘れ物はない。
授業も必ず起きて受け、友達もたくさん。
"森田さんでも無理なら、誰も出来ないよ"
みんなの言い訳になってしまった。
あの彼女が
…
森田さんが
…あんな顔するんだ
…
軽く衝撃だった。
あまり知らない自分から見て、彼女は完璧だと思ってた。
いつ見ても、あの笑顔。
揺るぎない、何かを隠す。
固い笑顔。
だから、初めてあんな
…
あんな辛そうな顔を見た。
〇〇:
…
嫌だったのか
…?
無理してる
…?
本心は
…
そしたら
…もしかしていつも
…
「〇〇くん!」
〇〇:
…は、はい
…
「お客さん、お願い」
〇〇:あ、すいませんお待たせ
……しました
ひかる:
…ひとりなんですけど
…
〇〇:
…こちら、どうぞ
…
ひかる:
…ありがとうございます
森田さん
…
森田さんだ。
見間違いではない、あんな綺麗な人他にいないから。
〇〇:
…
変な汗が噴き出してきて頭が真っ白になる。
よりによってこんな日に
…
とにかく、いつも通り
…
〇〇:
…お冷です
〇〇:
…お決まり次第、お呼びくださ
ひかる:
…おすすめって
…なんですか?
どこか不安そうで、怯えてる彼女の瞳がこちらを捉えた。
〇〇:
…人気なのはアイスティーですね
…あ、抹茶ラテもおすすめです
ひかる:じゃあ
…アイスティー
…
〇〇:
…かしこまりました
早足で裏へ行き、大きく深呼吸をひとつ。
〇〇:
…アイスティーです
「はーい」
…気づかれてないよな。
いや、いいんだ。全然
…むしろ気づかれなくてよかったよかった
…
知ってたら気まずいし
…
僕なんかを森田さんが知ってるわけない
…
気づかれてない
…
安堵と失望が押し寄せた。
「うわー、降ってきたよー」
〇〇:
…
窓にぶつかるように雨が打ちつけてくる。
予報よりも早い。
「お客さん、傘ありますか?」
ひかる:あ
……ないです
「じゃあ、しばらく休憩しててってください」
ひかる:え
…でも
「〇〇くん!」
〇〇:はい
…?
「デザート、お願いね」
〇〇:
…え
ひかる:いやっ
…私、お金が
…
「サービス、サービスだから全然大丈夫」
ひかる:
…ありがとう、ございます
「じゃ、〇〇くんよろしくね!」
〇〇:
…はい
森田さんと目が合った。
やっぱり、学校とは全然違う。
灯りが消えていて静か。
こういう時は何か誤魔化せたらいい。
とにかく、美味しい物を食べてもらおう。
食べて、少しでも手助けできたらそれでいい。
無我夢中で手を動かした。
〇〇:お待たせしました
ひかる:あ
……
〇〇:アイスティーと、モンブランです
テーブルにゆっくりお皿を置く。
ひかる:すみませんわざわざ
…
〇〇:全然、サービスなので
ひかる:
…ありがとうございます
〇〇:
…ごゆっくり
「〇〇くん!休憩入っていいよ!」
〇〇:あ、はーい
…
ひかる:あのっ
…
〇〇:
……僕?
ひかる:
…●●くん
…だよね?
〇〇:
…覚えてくれてるんだ
…
ひかる:え?
〇〇:あーいやいや
…こっちの話
…
ニヤけそうな頬を必死に抑える。
〇〇:
…森田さん、だよね?
ひかる:
…よ、よかったぁ
…
わかりやすく安堵した様子。
〇〇:
…え?
ひかる:あ、あの
…違ったら色々ダメだから
…
学校の外でも、演じるのか。
〇〇:
…
ひかる:あ、もしよかったら
…そこ座って
…
〇〇:
…いいの?
ひかる:●●くんがいいなら!
なかなか上手に、断る理由を塞がれた。
流石森田さん。
〇〇:
…お邪魔します
森田さんの隣、少し間を空けて座る。
ひかる:ん
…アイスティー美味しい
…
〇〇:あ
…よかった
ひかる:ここでバイトしてるの?
〇〇:うん、去年から
ひかる:いいな〜、私まだバイトしたことないから
…羨ましい
森田さんがバイトするってなったら、色々面倒なことが起こるんだろう。
弊害があることを、彼女自身わかってる。
〇〇:森田さん、ひとりで来るんだ
ひかる:ん?なんで?
〇〇:意外だから
…学校だといつも誰かと一緒にいるし
ひかる:あー
…確かに笑
また、作り笑いをする。
〇〇:
…理由があるの?
ひかる:うーん
…まぁ、ひとりだとすぐ囲まれちゃって
…
〇〇:
…
ひかる:付き纏いとか
…盗撮とかされるから、友達がいてくれるんだ
…
だからいつも友達と一緒にいるのか。
ここは学校から少し離れた場所。
ひとりでも目立たない。
辻褄が合った。
〇〇:
…大変だね
ひかる:
…まぁ仕方ないよ笑、いつものこと!
全然大丈夫、とアイスティーに口をつける。
無理矢理、前を向いているように見えた。
〇〇:
…ほんとに大丈夫?
ひかる:大丈夫!全然余裕余裕!
〇〇:無理、してない?
ひかる:い、いや大丈夫だよ!毎日楽しいし!
〇〇:
…そっか
彼女がそう言うなら、きっと大丈夫。
自分に言い聞かす。
ひかる:
…って、もうすぐ学園祭だね!
〇〇:あー、うん
ひかる:もう一年経ったんだね
〇〇:確かに、あっという間
ひかる:うん、あと二回
…
あと二回
…
3年間なんてあっという間に終わる。
〇〇:
…コスプレ喫茶
ひかる:
…うん、楽しみ!
〇〇:
…森田さん、ほんとにチェキ撮るの?
ひかる:そ、そりゃあ
…みんなにお願いされたからね
…頑張るよ
…
あれはお願いなんかじゃない、無言の圧。
暗黙の了解だ。
〇〇:嫌じゃない
…?
ひかる:嫌じゃないよ!めっちゃ楽しみ!
スラスラ言葉が出る、準備してたように。
きっと友達にも聞かれたんだ
…
〇〇:
…ほんとに大丈夫?
ひかる:
…大丈夫!余裕!
〇〇:無理してるよね
…
ひかる:そんなことないよ!
ひかる:みんな楽しみにしてるし、私も頑張らないと!
〇〇:
…森田さん
ひかる:二日間頑張って欲しいって、みんなが言ってくれてる
ひかる:私が無茶すれば一位取れるから、だから
…
〇〇:森田さん
ひかる:
…
〇〇:森田さんが楽しくないと、意味ないよ
ひかる:
…
〇〇:
…無理してやってることは、無理なことだから
〇〇:周りばっかり見なくてもいいと思う
〇〇:自分には、嘘つかない方がいい
思わず、言ってしまった。
だが不思議と、後悔はない。
無理に笑う彼女に、我慢できなかった。
ひかる:
…
〇〇:本当は、どう思ってる?
ひかる:
…
〇〇:
…森田さん?
ひかる:
…グスッ
〇〇:え?
唇をぎゅっと結んで、必死に涙を堪える森田さん。
〇〇:も、森田さん
…あの
…
ひかる:
…
初めて見た、彼女の素に近い部分。
〇〇:ご、ごめん
…
ひかる:
…無理
….
〇〇:
…え?
ひかる:
…やりたくない
…
〇〇:
…
ひかる:
…頑張ったけど
…やっぱり
……ぅぅ
…
〇〇:
…森田さん
ひかる:
…しんどい
…グスッ
……無理
……無理
…
〇〇:
…
森田さんにこんな思いさせた奴らが許せない。
そしてそんな彼女に気づいていたのに、何もできなかった自分に腹が立つ。
ひかる:
…うぐっ
……ぅ
…グスッ
〇〇:
…ゆっくり深呼吸して、ゆっくり
…
小さくなった彼女の背中を、優しく摩る。
すると徐々に堪えた物が、涙となって溢れてきた。
ひかる:
…グスッ
……気づいてたんだ
…
〇〇:うん
…ごめん、助けられなくて
…
ひかる:
…ううん
…誰かに気づいてほしかった
…
ひかる:
…ありがとう
初めて自然に笑った森田さんを見た。
そう感じるくらい
綺麗に笑う彼女に、心が惹かれる。
ひかる:
…グスッ
……これ、食べてもいい?
涙を拭い、自分が作ったケーキを指さす。
〇〇:口に合えばいいんだけど
…
ひかる:
…いただきます
小さな口に大きくいっぱいいっぱいケーキを詰め込んだ。
ひかる:
…んっ
……
〇〇:
…どうかな?
ひかる:
…おいしい
……
ひかる:
…ごれ
……お゛ぃじぃ
…
〇〇:
…え、ほんとに
…?
再び涙を溢す。
ひかる:
…うっ
…….●●くんおいじぃ
……
〇〇:ふふっ
…涙拭いて
…
綺麗な顔に、優しくハンカチを当てた。
マドンナさんに、感情が戻った瞬間だった。
〇〇:ありがとうございます
ひかる:こちらこそ、ありがとうございます
〇〇:
…ごめん、何にもできないけど
…
ひかる:ううん、話聞いてくれるだけで嬉しかったよ
〇〇:
…そっか
ひかる:また、来てもいい
…?
〇〇:あ
…もちろん、大歓迎
…
ひかる:
…やった
ちっちゃくガッツポーズする森田さん。
可愛いすぎて胸が苦しい
…
ひかる:ご馳走様でしたー
「ありがとうございましたー」
ひかる:
…じゃあ
……バイバイ
…
〇〇:え、あ
…バイバイ
…
手を振ったまま店を出て行く。
〇〇:
…
「え、彼女ー?」
〇〇:ち、違うましよっ!
テンパリ過ぎて、めっちゃ噛んだ。
**********************
それからというもの
…
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