スサ
2025-06-09 21:52:26
2723文字
Public
 

【鬼水】となりで

既に成立している鬼水で、久しぶりに訪れた鬼太郎と疲れてて眠い水木の、何もしないで一緒に寝る夜の話です

本当にいいのか?」
 申し訳なさそうに聞いてくる顔に、鬼太郎は笑った。笑って手を握る。潜り込んだ同じ布団の中で。
「僕はそこまで見境ない男じゃないですよ」
 小さななりをして、しかし中身はとっくに大人の男の落ち着きを持っている。
 冗談めかした言い方に、水木はほっと息を吐いた。そして半分くらい目を閉じる。とても眠そうだった。
「疲れてるでしょう。早く寝たほうがいい」
 宥めるように笑って、鬼太郎は繋いだ手を離す。が、離れた瞬間、水木の方から繋いできた。
………?水木さん?」
……まだねたくない」
 子どものような駄々に一瞬呆気にとられたが、ふふ、と鬼太郎は笑った。
「目がくっつきそうなのに?」
「ねたら今日が終わっちまう。せっかく鬼太郎がきてくれたのに
 ぼそぼそと言う声もかなり眠そうだった。子どもがぐずるような様子で、普段は、特に義息に対しては大人の顔を崩さないのにと思うと、そんな顔を見せてくれることが嬉しくてならなかった。

 ──その日、特に先触れもせず、ただ顔が見たくて訪れたのは、夜も更けてからのことだった。22時は回って、もしかしたら23時近かったかもしれない。水木は早寝早起きだから、場合によっては寝ている可能性も考えていた。それでも、寝顔だけでも見られたらいいと
 結果から言えば水木は起きていたが、もう寝る寸前で、どころか何と目の下には隈ができていた。いつもの涙袋かとごまかされそうになったが、そんなことはない。全体的に疲労の色が濃く、心配になった。
 それでも水木は、鬼太郎の顔を見るなりぱっと華やいだ表情になる。良く来たと時間の遅さになど一切触れず、何か食べるかとか、お茶がいいか、コーヒーか、それとも酒か、とあくびをこらえながら、そんなことを。
 鬼太郎は、いいえ、あなたの顔が見られたらそれで、と首を振った。それは紛うことなき本心で、確かに全く下心なく訪れたかと言われたら答えは否だが、水木に無理をさせたいなんて欠片も思わない。だからそれは本心だった。
 しかし、首を傾げた水木が、でも、二ヶ月ぶりだ、とぽつりと言った。その顔はさみしげで、どこかに焦がれるような色があった。
 ドキリとして。鬼太郎は咄嗟に何も言えなかった。
 それを水木がどう思ったのかはわからない。ただ、黙って鬼太郎の手を取ると、ズンズン自分の寝室に引っ張っていく。無言の背中を見上げながら、自分の鼓動が早まっていくのを鬼太郎は感じていた。
 意識したらだめだった。水木の体臭や、家の中の匂い、廊下が立てる音、しめやかな夜の空気。
 けして多くはないが、けれど確かにあったいくつかの夜の記憶が蘇る。止まらない。考えてはいけないと思うほどに。
 既に敷かれた布団の前で水木が立ち止まった。手を繋がれたままの鬼太郎も立ち止まり、振り返った水木を見上げる。
 水木はわずかに首を傾げるようにして、そ、と自分の寝間着の帯に手をかけた。
……、いいです」
 鬼太郎は繋がれた手を離し、水木の手を止めた。首を振り、それから、両手で水木の手を取る。
「あなたとても疲れてる。ちゃんと休んで」
…………でも」
 鬼太郎はもう一度首を振った。ぎゅ、と水木の手を握る。
「じゃあ、一緒に、隣で寝させさて。何もしません」
………しないのか」
 不本意そうな水木に笑ってしまいそうになりながら、はい、と答えた。もう大丈夫だろうとそっと手を離し、笑いかける。
「さ、お布団入って」
「ああ
 膝を畳につけて布団をめくってやれば、水木も膝を折り、布団の中へ入っていく。
「おまえも」
 布団の端をぽんと叩いたら、むうと眉間にしわを寄せた水木に手を掴まれる。
「はい」
 ちゃんちゃんこを脱ぎ、布団の横に畳んで置く。まだか、と目で訴えてくるのに笑ってしまいそうになりながら、どうにか堪えて潜り込む。
 そうすれば、待ってましたとばかり水木に抱きしめられる。それは昔、本当にただ親子だった頃のことを思い出させた。気持ち体を擦り寄せれば、水木もふっと笑った。細めた目は愛おしげで、鬼太郎はまじまじ見つめてしまった。
 水木は黙って顔を近づけて、鬼太郎の額にちゅっと口付けた。それから少しだけ体を伸ばして、電気のスイッチの先に括り付けた紐を引っ張る。
 暗くなった部屋の中、鬼太郎には水木がほのかに光っているように見えた。
 再び隣に戻ってきた水木を見つめれば、水木は目をたわめて笑った。
 それからひそやかに息を吐いて、鬼太郎と手を繋ぐ。呼吸にあわせて上下する胸元につい目がいってしまう鬼太郎に、水木は内緒話のように話しかける。
「たまってないのか」
っ、な」
 取り繕えなくて鬼太郎は赤くなる。眠そうな目をしているくせに、水木は指をゆっくり絡めて来る。
「おれはすこし、寂しかったぞ」
「っ!も、もう、あなたってひとはっ」
 くすくす笑いながらなのだから、きっとからかっている。それでも赤くなってしまう。
 ふぁ、と水木はあくびを噛み殺したような息を吐いた。
「やっぱり、眠いんでしょう」
 水木も今度は何も言わなかった。それまで鬼太郎を翻弄しているようだった顔が、子供っぽいそれに変わる。
……本当にいいのか?」
 今度は申し訳なさそうに聞いてくる顔に、鬼太郎は笑った。笑って手を握る。潜り込んだ同じ布団の中で。鬼太郎も、もううろたえたりしない。
「僕はそこまで見境ない男じゃないですよ」
 小さななりをしていたって、中身は、人間ならとっくに大人の男だ。我慢くらいはできた。それくらいの矜持はあった。
 冗談めかした言い方に、水木はほっと息を吐いた。そして半分くらい目を閉じる。今にも寝てしまいそうだった。
疲れてるでしょう。早く寝たほうがいい」
 宥めるように笑って、鬼太郎は繋いだ手を離す。が、離れた瞬間、水木の方から繋いできた。
………?水木さん?」
……まだねたくない」
 子どものような駄々に一瞬呆気にとられたが、ふふ、と鬼太郎は笑った。
「目がくっつきそうなのに?」
「ねたら今日が終わっちまう。せっかく鬼太郎がきてくれたのに
 鬼太郎は目を見開いた。それから、背中を伸ばして水木の瞼の上に唇をくっつける。
「明日も泊めてください」
…………
 水木はとうとう眠りそうな半目になり、鬼太郎をぎゅうと抱きしめた。
「なんにちでもいいおれのそばに
 最後は、すう、という寝息にとって変わられてしまったが。
 健やかな寝息を立てる水木を抱きしめ返して、鬼太郎は囁く。
……はい」