静かな木漏れ日が差し込む中で、ロイは立ち止まって振り返った。子どもの頃のように無邪気に、両手を体の右側へやりながらじゃじゃーんと笑顔で言ってみせる。
「ここが僕の秘密基地!」
彼の背の向こうには一本の木を中心に二方向に分かれた木の板が三角の屋根を形作っている。板は壁や床にも使われており、意外にもしっかり小屋という感じだ。
「これロイが作ったの?」
「ああ。島で余ってる板とか色々もらって、じいちゃんにも手伝ってもらってさ」
「そうなんだ…ロイってけっこう器用だよね」
「へへ、まあね。さあ、入って入って」
手招きされてリコは秘密基地に足を踏み入れた。中に入ると、屋根の隙間から太陽の光が漏れて差し込んできている、見渡すと部屋の右奥には宝箱が置かれている。いにしえのモンスターボールもここにしまっていたのだろうか。なんて考えていると、ロイがレジャーシートを広げた。座るよう言われてリコは腰を下ろした。その隣にロイが座ると、シートは狭くて互いの距離はちょっと近い。
「どう?僕の秘密基地」
ロイは少し誇らしげだ。自信に満ちた顔で、リコの返事を待っている。かわいいと思いつつ、リコは率直に感想を告げる。
「想像してたよりずっとスゴいよ。なんていうかカッコいいね」
「でしょ?リコも気に入ってくれて嬉しい!」
いつもより近い距離で、ロイの笑顔がよく見える。こっちまで嬉しくなるような彼の笑顔がとても眩しい。
「初めてホゲータとリコと…それにライジングボルテッカーズのみんなと出会った日にさ、ホゲータがここにあった食べ物探して荒らしちゃったみたいでね。あのときはびっくりしたなあ」
「そうなんだ。ほんとに食いしん坊だね」
「ね。ラウドボーンになってもよく食べてるし。いっぱい食べてるのはかわいいんだけどね」
「そういうとこ、ロイと似てるよね」
リコはそう言って笑った。しかし『そういうとこ』はいっぱい食べることなのかその後のかわいいまで入っているのか。どっちか気になるけどそれはそれで聞きづらい。ロイは少々頬を赤らめた。
それに気づくことなくリコは秘密基地全体を見渡している。そしてしばらくして、口を開いた。
「ほんとよくできてるね…他にも誰か連れてきたことあるの?」
「んー…できたときに嬉しくてじーちゃんに見せたかな。でも多分それ以外はリコが初めてだよ。なんたって秘密基地だからね」
「そっか…」
リコは胸に手を当てて微笑んだ。ロイが不思議に思っていると、リコは続ける。
「それだけ大事なところに連れてきてもらえたんだ…嬉しいな。…でも、なんで連れてきてくれたの?」
「リコは特別だから。他の人には教えちゃダメだよ」
少しいたずらっぽく笑ってロイは言った。『特別』。リコはその言葉を心の奥で反芻する。『リコは特別』。そう言ってもらえることは嬉しいけど、理由が気になる。
「どうして、私は特別なの?」
「…それは」
ロイの頬の赤みが濃くなった。ロイは黙り込んでしまって中々口を割らない。じっと見つめていると、目を泳がせてあーえーあーと言葉にならない声を出した。その後ロイは喉を唸らせて苦笑いを浮かべた。
「あはは、特別は特別だよ」
「答えになってないよ」
「あー…リコは僕の大事な人だから…」
目線を下にそらしたロイの頬と瞳の色がシンクロした。そんな彼を見つめるリコの頬もいつの間にか同じ色に染まっている。
お互い何も言わないまま数分が経つ。目も合わず、心臓だけが激しく動く沈黙。耐えきれなくなったロイがそれを壊した。
「だ、だからさ!リコにならなんでも教えていいかなって!」
「な、なんでも?」
「うん。リコの聞きたいことならなんでも。僕の秘密…そんなに無いと思うけど教えてあげるよ」
何を聞こうか。リコはロイの顔をじっと見つめたまま考える。ロイの秘密をなんでも。ロイとはたくさんの時間を一緒に過ごしてきた。一度離れ離れになったこともあったけれど、それでも彼のことはよく知っている。その上で聞きたいことなんて一つくらいだ。ロイが頬を掻き始めた頃、リコは聞いた。
「じゃあ…」
枕詞に反応してロイの視線が上がり、真剣な眼差しのリコと目が合った。ドキッとしてロイが息を飲むと、リコははっきりと言った。
「ロイの好きな人、教えて」
「え…?」
好きな、人。リコの口から出た言葉にロイは固まり、瞬きを繰り返す。身体はじっとしたまま動かないのに心臓はバクバクと騒ぎ立てる。
「ロイ…聞いてる?」
「え!あ、ああ!聞いてる聞いてる!!」
「…ほんとに?もう一度聞くよ?ロイの好きな人、教えて」
「ど、どうしても…?」
「なんでも教えてくれるんだよね」
リコは顔を赤くしたまま目を細めて言った。誤魔化したのが裏目に出た。ロイは自分の判断を呪う。こうなったらもう誤魔化しきることはできないだろう。全身の至る所に汗が流れて止まらない。
「ロイ…お願い、教えて」
その声は、若干震えていた。いや、声だけではない。身体も少し震えている。リコも勇気を出して聞いているんだ。なのに答えないのはダメだ。ロイは覚悟を決め、大きく深呼吸した。
「…リコ。僕は…君が好きだ」
「ロイ…ほんと?」
「ああ。僕はリコのことが大好きだよ。仲間としても、友達としても…恋人になりたい人としても」
ロイの言葉と共に壁の隙間から風が吹いて、リコの髪を揺らした。心臓が激しい音を立てていき、リコの顔は赤いまま表情が和らぐ。
「ロイ…私も…私もロイのこと、大好き。ずっと…ずっと…一緒にいたい」
「…!ああ。リコ、ずっとそばにいさせて」
その言葉と共に、ロイはリコの背に手を回して、自分の方へ勢いよく抱き寄せると、リコもその勢いに乗って、見事にロイの胸へダイブした。二人の大きな心音が想いと共に重なり、より気持ちが高揚していく。
「えへへ…ロイ…嬉しい…大好き」
「僕も…へへ、ちゃんと言えてよかった」
幸せだ。お互いの体温によって夏の日差しを受けているくらいの熱が生じてなお、幸福のぬくもりをリコとロイは感じていた。通じ合った気持ちが二人にとって全てだった。しばらく静かに抱き合っていた二人はゆっくりと身を離した。改めて見えた互いの顔を見てまた静かに笑う。体を入り口の方に向けて、ロイは天井を見上げた。
「告白…できたのは嬉しいけど、ここですることになるなんて思わなかったよ」
「どんなところでしてくれる予定だったの?」
「予定ってほど考えてはなかったけど…もうちょっとこう…ロマンチックなところで」
「そうなんだ。でも、こういうのもロイらしいと思うよ」
「…褒めてるの?それ」
「うん。そういうところも私好きだから」
リコはニコニコしてそう答えた。屈託のない笑顔にロイはまたドキッとして顔を上げた。そんなロイの考えを読んでか知らずか、リコは「でもね」と続けた。
「ここだって、十分ロマンチックだと私は思うよ」
「そう?」
「うん。木漏れ日が明るすぎないくらいになってて、レジャーシートの上は少し狭くて、なによりロイ以外ほとんど誰も知らない秘密基地で二人きりだよ?」
リコは得意げに笑っている。そう言われると確かにいいところで告白できたのかも…などとロイが考えていると、リコはさらに付け足した。
「まあ、告白の流れはあんまりロマンチックじゃなかったけど」
「…だよね」
ロイが顔を落とすと、リコは苦笑いを浮かべた。表情を戻すと、体を傾けてロイの肩に体重をかける。気づいたロイが顔を向けると目が合った。肩に頭が乗っているから、リコは少し上目遣いだ。頬もうっすらと赤く、ロイはうっとりとしてしまう。五分ほど見つめ合ってリコは離れた。ふーっと息をつくリコを見てロイが言う。
「そろそろ帰ろっか」
「うん。今日はほんとにありがとう、ロイ。秘密基地のことも、あなたの気持ちも聞けてほんとうに嬉しかった」
「こちらこそ。リコ、これからは恋人として…よろしくね」
その言葉にリコは笑顔で頷いた。最後に記念の写真を撮ろうと言ってロイがスマホを取り出した。カメラを起動し、リコの肩を掴んで抱き寄せて幸せいっぱいの笑顔でシャッターを切った。後ろには蓋が開いた宝箱が映り込んだ。
レジャーシートを片付けて、秘密基地を去る二人。見送るように吹いた風が宝箱を閉ざした。中にあるのはいっぱいの思い出と、今日の幸せ。
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