きなこ
2025-06-08 23:38:47
3213文字
Public
 

【ビエワグ←ブケ】お題:白馬の王子様と黒馬の侯爵

お題ガチャで出たのを書いてみたよ。
注意事項
ビエワグ前提。ロックブーケの片想い描写と少々失恋っぽい描写ありです。気になる方はバックでお願いします。

お題↓
小さい頃からワグは白馬の王子様よりも黒馬の侯爵の方が好きだなと思っていた。周りの人にはあまり理解されないけど、まさにビエは黒馬の侯爵だったらしい。

#お題ガチャ #愛重め攻めとクール可愛い受け https://odaibako.net/gacha/15839

 昼食に入った店は、こぢんまりとした規模の割には賑わっていた。家族連れも多く、子供達の賑やかな声も響いている。
 棚の上に置いてあった絵本を手に取り、ロックブーケは微笑みを浮かべた。手を取り合う金髪の王子と王女の表紙に、幼い頃の記憶を思い出し、胸がほっこりと温かくなる。
 子供のための、料理が出てくるまでの暇つぶしの本だろう。ロックブーケはそれを借りて、席に座る兄達の元へ持っていった。
「お兄様、見て」
……懐かしいな」
 ノエルは目を細めた。
 内容は魔王に攫われた王女を救う王子の物語だ。白馬にまたがった王子が黒馬の侯爵と共に旅をして、数々の困難を乗り越えていき、最終的に王女を救って結ばれる話である。
「毎日、寝る前に読んでくれとせがまれたな」
「オアイーブ様にお借りして、感想を語り合いましたわね」
 金髪に眩しい白い服の白馬の王子様。お姫さまのピンチを救うその姿にロックブーケは憧れていた。
 テーブルの上の絵本を見るふりをしながら、ロックブーケはそっと視線だけを上げて、目の前に座るワグナスを盗み見する。
 白磁の肌に、切長の涼しげな目元、すっと通った高い鼻梁に形のいい薄い唇。端正としか言いようのない、彫刻のように美しい人だ。思慮深い眼差しで、表情は少し険しいことが多いが、そこが彼の清廉潔白さを示している。髪こそ黒の長髪なので王子とは異なるが、民を思い自らの命をかけて敵と戦う姿は、絵本の王子と重なる部分が多い。
 ワグナスの長い指がそっと絵本をめくる。
 節目がちな目元に、長いまつ毛が影を落とす。その切れ長の瞳が柔らかく緩んだ。
 その優しい表情に、ロックブーケの鼓動が高鳴った。
 ――なんて慈悲深く、お美しい表情なのだろう。
 ふっ、と柔らかく息を吐き、ワグナスは隣に座るスービエを見た。
「懐かしいな。覚えているか?」
「ああ。お前が続編にハマっていたな」
 椅子の背もたれにもたれかかったまま、スービエは相槌を打つ。
 ロックブーケは目を瞬かせた。
「続編があったなんて、知りませんでしたわ」
 ワグナスとスービエは視線を交わし、頷いた。説明をするのはスービエの方だ。
「俺たちが知る限りでは三冊あったな。一冊目は姫さまを助けるヒロイックロマンス的な話だが、それ以降は王子が国民を助けたるような内容なんだよ」
 スービエの言葉を受けてワグナスが頷く。
「王子と黒馬の侯爵のコンビで解決していくような話だな」
……ああ、あの二人はそれぞれ、とても素敵な殿方ですものね。女子の間にも派閥がありましたわ」
「 お前とオアイーブは、いつも争っていたな」
 当時を思い出したのか、ノエルが苦笑と共に呟いた。
 ロックブーケは圧倒的に王子派だったが、オアイーブは侯爵派だった。ノエルはどちらに似ているかで真っ向から対立したのも良い思い出だ。
 そんな回想をしているうちに、料理がテーブルに運ばれてきた。スービエの前にはパエリアが、ノエルの前には肉の塊が並べられる。サフランの独特の香りに混ざって磯の香ばしさが漂った。それを掻き消すように、鋭い嗅覚を刺激する香辛料がたっぷりとかかった肉汁の旨みが、湯気に乗ってテーブルを包む。
 温かいうちにどうぞと促され、二人は食べ始めた。
 ワグナスは本に視線を落としたまま、穏やかな顔で絵本を読み進めていた。
「私は侯爵が好きだったな」
「私は王子様派でしたわ。ワグナス様は、侯爵のどんなところが好きでしたの?」
「まずは見た目がかっこいいと憧れたな。藍色の服に黒い鎧、黒髪、黒馬という特徴は敵方の要素だ。さらにぶっきらぼうで品行方正とは言い難い。しかし彼はいつでも王子の友人として、王子のピンチには駆けつけ、命を賭しても王子を助けてくれる。そんな友情を羨ましく思ったものだ」
 優しく弧を描く目元はどこか遠くを見つめているようだった。凛々しい眉がわずかに上がり、普段は厳しいその顔には柔らかい感情が乗っていた。
「見た目に反して心は熱い。そして民を思う気持ちは王子と同じだ。お人よしで世間ずれしている王子をスマートにサポートしていく姿は子供心に憧れたよ。……私もかくありたいと願ったが、なかなかうまくいかぬものだ」
 ワグナスの長くて滑らかな指先がコップの縁をゆっくりと撫でる。憧れの人を語る度、純粋な微笑みが口元に浮かんでいく。
 ――恋をしているワグナスを見ているようだ。と、ロックブーケは胸の前で手を組んで、眼福だとばかりにうっとりと見守る。
 ワグナスとロックブーケの前にも料理が並べられた。シーフードドリアの魚とチーズの芳香な香りが、鼻腔とお腹を刺激する。
 ロックブーケはスプーンを手に取り、ふぅふぅと息を吹きかけて一口食べる。口の中にチーズの濃厚なコクと、海老の甘みがふわりと広がり、口元を緩めた。
「そういえば……
 美しい所作でドリアを食べていたワグナスが、ふと、顔を上げて隣のスービエを見る。
「侯爵はお前に似ていると思っていたよ、スービエ」
 飲み込もうとしていた水が変なところに入って、ロックブーケはむせた。
 ハンカチで口元を拭い、心配そうに背中をさする兄に、大丈夫だと首を振る。
 深呼吸をして、顔を上げた。
 ワグナスは気遣わしげな顔をしてロックブーケを見ているし、スービエは呆れたような顔をしていた。
 ロックブーケは引き攣った顔で、なんとか微笑みを浮かべた。
「お見苦しいところをお見せして、申し訳ありません。……ええっと。ワグナス様は、侯爵さまがスービエに似ていると思っていたのですか?」
「ん? ああ、そうだな。スービエは私が困っているとさりげなく助け舟を出したりしてくれるからな」
 ワグナスの口元が微かに緩んで、柔らかな表情になる。
 食事を再開させたスービエは我関せずで、ガツガツとパエリアを口に運んでいた。一見がついているように見えるが、スプーンの持ち方や運び方などの所作は意外と美しかった。
 ロックブーケからの反応がなかったことから、ワグナスも食事を続けた。
 ロックブーケの背中に冷たい汗が流れた。
 先ほど、侯爵のことを語るワグナスの瞳には、憧れの君への思慕が溢れていた。その侯爵とスービエが似ているとは。重ねて見ているとは。どういうことだろうか。
 そこから導き出される答えは――
 ごくりと喉を鳴らし、ロックブーケは一堂を見渡した。
 皆、無表情のままで食事の手を動かしている。
 ――これ以上は聞いてはいけない。
 そんな気がして、ロックブーケは口をつぐんで、スプーンを手に取った。
 ドリアを頬張ったが、あんなに美味しかったドリアは何の味もしなかった。

 食事が終わって店を出た。
 強い日差しに当てられたワグナスの白い服がきらりと輝く。その神々しい姿を見ても、ロックブーケはときめきを覚えず、胸の奥はきゅっと締め付けられるようだった。
 ワグナスの秘密を知ってしまったかもしれない。
 失恋の予感に悲嘆に暮れているわけではなく、どちらかというと落ち着かない気持ちだった。
 優しい風が髪を揺らす。
 ロックブーケは傍に立つノエルの腕を引っ張り、身をかがめさせて、その耳元でそっと問うてみた。
「お兄様、ワグナス様とスービエはどういう関係ですの?」
 ノエルの眉が寄る。
 彼はロックブーケから並んで前を歩く二人へと視線を移し、パチリと瞬きをした。そして真顔のまま、低い声で告げる。
「従兄弟だろう」
……お兄様に聞いたのが間違いでした」
 恋愛ごとに鈍いノエルに聞いたことを、ロックブーケは後悔した。
 誰かに話したい。誰なら話を聞いてくれるのだろう。このモヤモヤを分かち合いたい。
 そう悶々とするロックブーケの前で、従兄弟達はいつも通り、近い距離感で話をしながら歩いているのだった。