慣れない式典から逃げるようにして、やっとのことで自宅に帰った。豪奢な迎賓館、着飾った男と女、贅沢の限りを尽くした料理に囲まれた空間に留まるのは苦痛だった。自らの賽の出目を決めるために、権力者や伝手に心にも無い世辞や賛辞を浴びせて擦り寄る人間の多さに辟易する。
ネオ・ジオンは難民の群れであり豊かなコロニーではない。パトロンや連邦に足元を見られないようにパフォーマンスをしているのだ。そうであっても貧困にあえぐ民にこの様を見せたら暴動が起きそうだ。
人だかりからひとつ分金髪の頭が出ていた。
やりたくなくて一刻も早く逃げ出したいくせに、望んで苦痛の焦点に留まる馬鹿な男だ。
長身に金髪碧眼、真っ赤な正装。派手が派手な服を着て歩いている。ネオ・ジオンのアイコン。
ひっきりなしに高官や貴族に囲まれ、まるで絵本から出てきた王子様がどこか知らない国の祭りに担ぎ上げられているようだった。馴染まないくせに慣れているのか、それとも生まれつきで持っているものなのか、顔色ひとつ変えずに笑顔で応対する男に呆れを通り越して尊敬すら覚える。優雅で繊細な身のこなしは女性だけではなく、男も釘付けにした。
溜息混じりにシャンパンを揺らしていると、渦中の馬鹿と目が合った。逸らすのは癪だから睨みつけてやると、一瞬男の目元が緩んで有象無象の応対に戻った。舌打ちが出る。
今夜はあの男――シャアの付き添いだ。
ギュネイが護衛としてシャアの側に控えている。このような場所は負の感情の坩堝で、彼の感情に負荷がかからないといいと毎回心配になる。視線をギュネイに向けたら「給料泥棒」と言わんばかりのキツい視線が返ってきた。ギュネイは素直で、好ましいと思う。
今日の仕事はシャアの付き添いだけだ。この場に留まっているだけで職務を果たしている。というか、俺ではなくシャアの公私混同を責めろ。俺は巻き込まれただけだ。何が悲しくてシャアの付き添いなどやらねばならない。この話がなければドックでおとなしく機体の整備をしていたのに。空のグラスをウェイターに渡し、訝しむギュネイに背を向けた。
シャアの頼みを受けた昼間を思い出す。
ドックに向かっていた腕を掴まれ、「今夜の式典に付き合ってくれないか」と背後から耳元で囁かれた。
久しぶりの声に背筋が跳ねる。「君がいなくて寂しいんだ」耳朶に唇をつけたまま甘える声に油断した。
「は、」
冗談を言うなと振り払おうとすると、一番近い部屋に押し込まれた。横目で閉まる扉を見ていると、目を見ろと顎を掴まれたが額の傷を見ることにした。碌な依頼ではない。真面目に受け取ると馬鹿を見る。
「君がいないと、腐った爺どもを殺してしまうかもしれない」
人にものを頼む態度ではない。
「何を」
会いたくない人間が多く集まるから冷却材として見守ってほしい、と。脅迫か、と笑い飛ばしてやろうと息を吸おうとしたが、壁に押しつけられ、低い声で重ねて頼むと縋られては断れなかった。流れ込んでくる思惟に触れると本当に寂しいだけらしい。交渉が上手いのか下手なのか分からない。
「……分かった」
「感謝する。君はいてくれるだけでいい。護衛はギュネイに任せる」
了解の意を込めて頬に当たるシャアの耳に口づけを落とすと、ぴくりと肩が震えてシャアが名前を呼んだ。業腹だが、この男の頼みごとを聞くのは嫌いではない。ひとつ、ふたつ唇を合わせた後、部屋を出た。軽やかに去っていく背中を眺めながら、俺への頼み方を熟知しているんだろうなと複雑な気持ちになった。
頼む理由が大袈裟でも嘘でもどちらでも良かった。自分があの男に弱いことを認識させられる、それを認めたくないだけだ。
長い催しからようやく解放され、自分の部屋に戻った。堅苦しい軍服の襟を開けながら、ベッドに腰掛けてブーツに手をかける。動き回るのは苦ではないが、立っているだけというのはいささか疲れる。シャワーを浴びた後はストレッチをしよう。浮腫む足を擦りながら、もう片方のブーツのファスナーを下ろそうとした。
その時、ドアノブが回る音がした。
「……ピッキングの能力があるなんて聞いていないが」
「いや、合鍵だ」
普段より派手に着飾った総帥という肩書を持つ男が見下ろしていた。どれだけ偉くても家主の許しを得ず家に入り込むのは犯罪だ。
「貴方に渡した記憶はない」
「私を誰だと思っている」
話が噛み合わない。めちゃくちゃだ。
顔を上げると、シャアは胸ポケットに大事そうに鍵をしまった。もう片方のブーツを脱ごうとしていた手を掴まれる。
「合意だから何の問題もないだろう」
シャアはおもむろに足の間に跪き、ブーツを脱いだばかりの足を膝に乗せた。男の行動が分からない。そのまま、ふくらはぎに指を滑らせ、むき出しになっている踵と爪先に触れた。
待て。いつ俺が合意した。犯罪者が。
「おい」
「……君のおかげで殺さずに済んだよ」
「ッな、ぁ!」
恭しく足の甲に口づけられ、ゆっくりと俺に目を合わせた。「感謝を」
わざと音を立てて爪先にキスをして、においを嗅がれる。正気じゃない。ブーツを脱いだばかりだ。
「やめろ! 離せ!」
「アムロ……」
「き、たない……ッ」
蹴り上げようと足に力を込めるが、びくともしない。すんすんとシャアに足のにおいを嗅がれている。恥ずかしいにもほどがある。
「おい、聞いているのか!」
爪先が粘膜に包まれた。指の腹、指の股に舌を這わし、土踏まずを擽られる。嫌悪感で鳥肌が立ったが、目の前でいやらしく名前を呼ばれ、にゅぐにゅぐと舌先で弄られているうちにおかしな気分になってきた。
こと男、ついにストレスで頭がおかしくなったのか。
「アムロ……」
リップ音の合間に向けられる甘い名前に、ゾクゾクと腰が重くなってきた。伏せた睫毛が時々上がり、嬉しそうに見つめてくる。声といい瞳孔といい既に理性を飛ばしているようだった。蒼い瞳が熱をもってどろりと溶け出す。
視線を下ろすとシャアの股間が膨らんでいた。
「ッ、お前……」
「君の熱い視線を受けてから昂ぶってしまって、ああ……君の香りは堪らない」
すん、と再度においを嗅ぎ、とろんと溶けた目で見上げる男の顔は幾分か幼い。ずっとこうしたかったと掠れた言葉が吐かれ薄い唇が涎に塗れ、てらてら光っている。
「へん、たい……がッ」
「そうだな、君のせいで私は狂わされてしまった」
もう片方のブーツを脱がされ、同じように足にキスをしてからシャアの股間に爪先を導かれた。そこは既に硬く盛り上がっていた。
「ヒッ、ぁ……男の足を嗅いでおっ勃ててんじゃ、ねぇよ」
「君の、だからだ。そのまま、君の足で擦ってくれないか」
足首を引かれてぐ、と足の甲に男のちんこが乗せられる。総帥ともあろう男が何を言っているんだ。熱が籠もる視線に何も言えなくなる。
黙っていると、シャアが腰を押しつけて熱い息を吐いた。ごりごりと足の甲に勃起したちんこが擦り付けられられる。生々しい肉の塊が肌を這いずる感覚に似たものを思い出し、慣れた身体は疼き出した。
「ぁ、あっ……ひぁッ、分かった、から、それをやめろッ……」
この男の自慰の道具にされるくらいなら、動いてやる。シャアはスラックスの前を寛がせ、俺は爪先を股間に滑り込ませた。既に先走りで下着が湿っていた。軍服が高い布でできていて命拾いしたな。
「今日ほどこの服に感謝した日はない」
「人の思考を読むな」
足の親指と人差し指で太い竿を掴むとシャアは息を詰め、熱い吐息を零しながら放って置かれた片方の足を持ち上げた。唾液で滑りが良くなった爪先に指を絡ませて笑った。
「壁にいる君を見ているだけで駄目だった。私から距離を置いているのに、私の視界に常にいて、んっ」
シャアの語りは長いから、構わず頼まれたことを全うしよう。竿を足の指で挟み、上下に扱き始める。指を往復すると先走りが竿に垂れて滑りが良くなる。いつからこの状態だったんだ。
張った血管に親指を伝わせ、土踏まずで亀頭を撫でてやれば、シャアは低く唸って身体を小さくしてひくひくと震えた。親指の腹でカリをなぞってやると、爪先に歯を立てられる。
「は、意識の中に私を置いている君に堪らなくなって……ッあ、アムロ」
どろりと唾液がシャアの口端から糸を引いて垂れた。
「貴様、仕事中だろう……ッ!」
親指と人差し指の股を執拗に舌先で突かれると声が我慢できない。そのまま、指のつけ根を甘噛みされ、音を立てて口を離される。
「ん、ぁ」
足の裏に舌を器用に滑らせ、笛を吹くように側面を食む。唇の隙間から舌先や白い歯が覗き、まるで優雅に食事しているように錯覚した。
「必要最低限の仕事はしたさ。君、足を嫐られるのが好きなのか」
シャアの視線の先にはだらしなく広がった足の先、膨らんだ股間があった。いつの間にか軍服の裾が捲れあがって露わになっている。慌てて足を閉じようとするが、シャアに阻まれた。
「ああ、それとも足で男の性器を扱くのが好きなのかな」
「ぃ、ちが……!」
「だとしたら、君に仕込んだ男は許せないな」
足遣いが慣れている、と目の前で膨れ上がる見当違いの怒気に腹が立った。
シャアに頼まれたからやっているだけだ。なぜそこまで貶められなければならない。
「貴、様……ッ」
ベッドに押し倒され、下着ごとずり下げられる。外気が濡れた肌を冷やす感覚、次いで合わさる熱い体温に息を飲んだ。剥き出しの濡れた熱が言葉を失わせる。
「私が、君を」
蒼い視線が突き刺さる。
シャアはそのまま腰を押し付け動かし始める。ぬぢ、ぬぢ。シャアの勃起したちんこが滑り抉られた腹で勘違いした身体は、中をぎゅうと締めつけた。恥ずかしくて死にたくなる。
「っあ、ッ……ん、しゃ、あ……ッ」
「アムロ」
「ひ、クソ……ッ」
シャアの腕で囲われながら、シャアの腰に足を絡みつけている。お互い服を着て股間だけ露出したまま、擦り合う。
「君がいないとおかしくなる、」
「逆、だろ……ッ」
荒い息混じりで呼ばれる名前に返事をしてしまう声帯に呆れた。この男に呼ばれると無視できない。
俺がいない方がシャアは安定するだろう。壁だとか足のにおいだとか足コキがどうだとか。気持ち悪い方向に執着する相手がいない方が、精神衛生上良いに決まっている。シャアのカリが亀頭を擦って一瞬、イキそうになった。
「ん、ひ……ッ!」
「分かっていないな、君は」
シャアは呆れた顔をして口を塞いだ。
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