たくとろ
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#rylkweek2506 Day1「僕たちの空、隣にいる君」

2人旅中にあったかもしれない話

雲も少なく乾いた空から太陽が姿を隠す頃、リコとロイはとある山を登り始めた。夕陽が落ちると共に暗くなっていく空は視界を狭める。

「あっ」

不安定な足場。地面から浮き出ていた少し大きな石にリコは躓いた。元々前傾になっていた体の重心はより前へとかかる。落ちるような感覚は一瞬。すぐにロイがリコの手を掴んで持ち上げた。ギリギリ転ばずに済み、リコは顔を上げる。暗がりでほっと息をついたロイの表情は柔らかだ。

「危なかったね、リコ」
「ありがとうロイ」
「うん。でもまた躓いたら危ないし、このまま手繋いでよっか」
「そうだね。じゃ、ロイが転けそうになったら私が引っ張るね」
「ニャ」
「アチ」

リコとロイが手を握り合っていると、空いているリコの手をマスカーニャが、ロイの手をアチゲータが握った。みんなで手を繋いで安心安全。横並びになって登山を再開した。アチゲータの炎を頼りに歩幅を合わせてゆっくり歩くこと約十五分。頂上に辿り着いた彼らはその光景に目を輝かせる。

「わぁ!」

全てを覆いつくさんとばかりに広がる満天の星。青白い光が無数に輝く。まさに星の海と呼ぶに相応しいだろう。

「ドットの言ってた通りだ!ほんとうにきれいだね」

スマホロトムで写真を撮りながらリコも頷く。そう、今夜ここを訪れた目的はこの星空だ。昼間、ドットとの通信中に彼女の口から出た提案だ。

『そういや、今二人がいる場所の近くにある山でとびきりの夜空が見えるらしいよ』
「とびきりの夜空?」
『ああ。その周辺一帯の空気がとても澄んでいて、特に山の頂上からは綺麗に見えるんだってさ。せっかくだし行ってきたらどう?』
「いいね。行こうよリコ!」
「うん!ありがとうドット」

そうして彼らは目的の山へ向かい、夕方ごろに登山を開始したのだ。話に聞いていた通りの絶景、有名なためかベンチが一つ置かれている。せっかくなので腰を下ろしたが、マスカーニャとアチゲータも座るとかなり狭く、リコとロイは肩と肩が触れ合う距離感だ。

「リコ、苦しくない?」
「あうん、平気だよ」

でも近い。口には出さないが、いつも以上に迫ったロイの顔を見て、リコは鼓動が速くなるのを感じざるを得ずにいた。ほんのりと頬が熱くなる。できるだけ顔を見られたくない。リコは景色に目を向ける。

「ほ、ほんときれい!少し遠くの街の夜景まで見えるね!」
「ほんとだ。星が見えないとこはビルの光が素敵だな」
「うん。自然の光も、人工の光も、同じくらいきれいなんだね
「ああ、人とポケモンみたいだ」

遠くを眺めながらロイがそう言うと、リコは視線を隣に向けた。暗がりで夜風に靡くロイの髪。朗らかな表情とその横顔が、リコの心臓をまた鳴らした。

「ん?どうかした?」
「え?あ!いや、なんでもないよ
「そう?なんかこっち見てたから」
なんかロイ、いいこと言ったなあって」
「あはは。思ったこと言っただけだよ」
「でも真理じゃないかな」

リコはマスカーニャの方へ目を向ける。そしてロイと、少し体を前に倒してアチゲータを覗き込んで笑う。

「人とポケモンが一緒ならなんだってできる。一緒にいたから色んなものが発展して今、私たちが見てる景色が広がっている」
「そうだね。だから、ビルの明かりも空に浮かぶ星も輝いてるんだ。確かにリコの言う通り、僕いいこと言ったかも」
「でしょ?」

リコが得意げに笑うと、ロイも頷いて笑う。マスカーニャとアチゲータも元気に笑い、リコとロイは他のポケモンたちもボールから出した。みんなで夜景を楽しみながら事前に用意したサンドイッチを食べる。

「こんなに星空が近いの久しぶりな気がするな
「あの頃は、もっと近かったね」
「うんまた、あの距離で見てみたいね」
「きっと見れるよ。この冒険の先で、僕たちはまた大空に旅立って、また新しい冒険を始めるんだ」
「ロイそうだね、そのための冒険だもんね。絶対、一緒に見よう」
「ああ。リコと、みんなと」

いつかもっと美しい空を。あの飛行船からの眺めを再び見ることを約束して、リコとロイは目を向け合った。いつの間にかベンチから降りたアチゲータが歌い始め、ロイも歌声を重ねる。リコも微笑みながらリズムに合わせて身を揺らし、ポケモンたちも大盛り上がりとなった。
そうして過ごしていると、山頂に到達してから一時間ほどが経過した。

「ふわぁ
「リコ、眠そうだね」
「うんいっぱい歩いたし疲れちゃったかも
「どうする?もう暗いし下山するには——

すとん。ロイの肩に少し重みがのしかかった。リコの名を呼びながら右に顔を向けると、ぶらんと手が放り出された無防備な姿で小さく寝息を立てていた。

寝ちゃったか。どうしようかな

下山するにはもう暗い。山の中腹にはキャンプ場があったが、ここに来る途中でもリコが転けかけた。彼女を背負って降りるのは難しいだろう。
それに、ポケモンたちもすっかり眠っている。アチゲータをみんなで囲んで暖をとっているようだ。

「仕方ない。ここで寝よう」

ロイはカバンから毛布を取り出して自分とリコの身を包むようにかける。そして一息ついて目を瞑る。しかし、右肩からすーすーと可愛げな寝息が頬に当たる。

寝れない」

いつになく近い。ほっぺにリコの唇が触れそうなくらいだ。だから、少し顔を傾ければ唇と唇が

「って何考えてんだ僕は落ち着けなんか体熱くなってきちゃったけど寝れば大丈夫だ

そう自分に言い聞かせながらロイは目を瞑る。大丈夫大丈夫何度も唱えていると、いつの間にか意識が落ちていた。
時は流れて、まだ陽が見えない早朝。冷たい風が肌を撫で、リコは目を覚ました。

「んんん

目をパチパチとさせて、段々と視界が鮮明になっていく。目に映るのはそう長くない黒い睫毛と、上から下に向かって伸びたピンクの毛。視界が開けても、まだ脳は目覚めきっていない。目の前にあるものが何かハッキリと理解して飲み込めたのは、唇が視界の外に広がる彼の頬に触れてしばらくしてからだ。

あれ?ろいロイ?ロ——!?」

思わず大声が出そうになりリコは口を両手で塞いだ。身を引いたことで毛布がはがれると、ロイの姿勢がはっきりと見えた。足を少し広げたまま座り、顔がリコの方に傾いている。

「そっか私昨日寝ちゃったからロイもここで寝て

太ももにまだかかった毛布に手を当てて、静かに口角が上がる。ロイの体温だけでないぬくもりをそこから受け取っていた。リコが顔を上げると、ロイの寝顔が目に止まる。一年前よりも頼もしくなった彼のやわらかい寝顔は少しかわいい。本人には絶対に言えないなとリコは静かに笑う。そして、もう少し近くで見ようとまた体を寄せる。みんなが寝ている高い山の上で、ロイの無防備な姿を独り占めできるこの状況を存分に楽しもう。そういうスイッチの入ったリコはロイの肩の隣に手を置いて体を伸ばし、彼の寝顔を少し上から眺める。

「やっぱりかわいい写真はさすがにダメだよね」

欲望に耐えつつ、リコの視線はロイの頬へと向く。触るくらいはいいだろうと寝起きでまだ理性が整っていないリコは人差し指を伸ばした。

「ロイのほっぺやわ

味を占めたリコは彼の左頬を何度も指先で軽く押す。目を輝かせてしばらく続けていると、ロイの顔がリコの方へより傾いた。すると、体のバランスが崩れる。

「えっ」

ロイの体は瞬く間に倒れ込み、リコの上に覆い被さった。顔の右半分がリコの胸に乗っている。

「えっあっあっ!」

戸惑うリコは言葉が出ない。突然のハプニングにまた鼓動が強まっていく。その音を聞いてか体が倒れたことによる衝撃のせいか、ついにロイは目を覚ました。

ん?なんかやわらかい?」
「あロイ
「リコ?なんで下にあ」

右手をベンチの背もたれに置いて起き上がったロイの目には顔を全面真っ赤にしたリコ。さっき自分が頭を置いていた場所もなんとなく想像がついた。すぐさまロイは立ち上がり、リコから離れる。

「ご、ごめん!!リコ!!」
「気にしないで元々私のせいだから

何をしていたかはさすがに言えないと思いつつ、リコも上体を起こした。地面に落ちた毛布を拾って一息つくと、砂を払いながらロイの方を向く。

「ロイ、昨日これかけてくれたんだよね。ありがとう」
「ああ冷えるとよくないからね。大丈夫?風邪とか
「うん、おかげで元気だよ」
「よかった」

話しているうちに落ち着きを取り戻すロイ。すると、その視界に鮮やかな光が差し込んできた。同様にそれに気づいたリコと共に顔を横に向けると、まだ薄い空に強い光を放つ朝陽が昇り始めていた。空にまだ少し残っていた星々も太陽の光に段々と飲まれていく。

「きれい早起きできてよかったかも」
「だね。リコと一緒にいい景色を二つも見れるなんて、ドットにちゃんとお礼言わないとな」
「うん。写真も送ってあげよ」

リコがスマホロトムを構えて朝陽を収めた。せっかくだから一緒に映って撮ろうというロイの提案を受けてもう一枚。
太陽が昇るにつれて強くなる日差しを受けて、ポケモンたちも目を覚ました。二人はみんなに自然と揃った声で言う。

「おはよう」

その言葉をお互いに言ってなかったことにも、すぐに気づいた。一日の始まりは、君との挨拶から。

「リコ」
「ロイ」
「おはよう」

また重なった声に笑う二人を、ポケモンたちはふしぎに思いながら見つめていた。