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澄ひろえ
2025-06-07 19:36:11
11900文字
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守りたかったものは
ククゼシ2人旅ツイート小説「闇のレティシア編」を加筆、修正した物です。 ログ見逃した人どうぞ。最終ページは後書きです。
1
2
村に入った途端、オレ達は目を丸くした。
建物はおろか、村人達までがモノトーンの姿をしていたからだ。
そして、その村人達からはオレたちがやって来た世界のレティシアの村人よりも鋭い視線を感じた。
好奇心・・・?いや、これは、敵意、か?
村人達が次々とオレ達の周りに集まってくる。すっかり取り囲まれてしまった。
「あんた達、レティスの仲間か?」
鋭い視線をしたまま男の村人が言った。
「こんな派手な色をした姿をしているんだ。レティスの仲間に違いないさ!」
別の男が叫ぶ。色で判断かよ!まぁ、こっちの世界の人間じゃないってのは見た目で分かっちまうか。それにしても、この村ではレティスは敵視されてるのか?
「誰か長老を呼んでこい」
最初に声をかけてきた男が言う。取り囲んでいた内の一人の男が奥の大きな建物に走って行くのが見えた。
その間、オレ達はずっと敵意の視線を向けられっぱなしだ。こっちから何かするわけにも行かない。喧嘩をしに来た訳じゃないしな。
やがて、奥の建物から呼びに行った男に伴われ、一人の老人がゆっくりと歩いてきた。
長老の姿はあちらの世界の長老と瓜二つで・・・オレは少し不安になった。
「その姿・・・もしや、お主達は異世界への破れ目を通ってこちらへやってきた光の世界の住人なのかね?」
「・・・光の世界?」
長老の言葉に首を傾げる。こちら側の世界ではオレ達の生きてるあちら側の世界をそう呼ぶのか?
「・・・まぁ、そうなるのかな」
オレの言葉に長老は頷く。
「やはりそうじゃったか・・・今この時におぬし達が来たのは天の意思かもしれんな。皆の者。この者達は敵ではない。いつも通りにするのじゃ」
長老の言葉に村人達は若干戸惑っていたが、やがて群衆の輪は崩れ、元いた場所へと戻っていく。それでもチラチラと刺さるような視線を投げかける者がいるにはいたが。
・・・やれやれ、どうにかなったか。オレ達は安堵の息をつく。さすがに色の違いがあるとは言え、人間相手に戦うわけにも行かなかったしな。
「お主達、よければ詳しい話をしたいんじゃが、儂の家に来てはくれぬか?ほれ、あの奥の一番大きな建物じゃよ」
長老の言葉にオレ達は頷く。どうやらこっちの世界の長老はオレ達の世界の長老と違ってしゃんとしているようだな。
「わかった。オレ達も聞きたいことがあるしな」
オレ達は長老と共に長老の家へと向かった。
長老の家へ向かう途中、辺りを見回す・・・思ったより壊されている建物が多い。怪我をしている動物たちもいる。
「なぁ、この建物って魔物達に襲撃されて壊されたのか?」
オレの言葉に長老は首を横に振った。
「・・・レティスじゃよ。神鳥レティスを崇めるレティシアの村は神鳥レティスによって破壊されてるのじゃよ・・・」
レティスがレティシアの村を攻撃しているだって?一体どういうことなんだ?オレはゼシカと顔を見合わせる。
「・・・まぁ、詳しい話は儂の家で話そう」
そうしているうちに長老の家へたどり着いた。中に通されると敷物を進められる。はやる気持ちを抑えつつオレ達はその上に座った。
おもむろに長老がぽつぽつと話し始めた。
「この村が荒れ果てた原因が神鳥レティスによるものだという事は先程話した通りじゃ。しかし、儂にはどうしてもレティスがそれを望んでやったとは思えんのじゃ」
長老はそう言いながらオレ達に飲み物を差し出してきた。
「そう思う、根拠は何なんだ?」
勧められた飲み物に口を付けつつオレが訪ねる。少し苦い。だが、話の邪魔にならない飲み口ではあった。
「神鳥レティスが崇められてきたのはその姿の優美さだけではない。かの神鳥が人の味方であるゆえなのじゃ・・・そこで頼みがあるのじゃが、お主達にはこの村を襲ってきたレティスの真意を問うてきてもらいたいのじゃ」
「・・・どうして私達なんですか?」
ゼシカの疑問の言葉に長老はふむ、と顎をさすった。
「儂は、お主達が光の世界よりこの地へやって来た事を偶然とは思っておらん。かつて二つの世界を自由に飛び越えたというレティスの力。それがお主達を呼んだのではないか?なれば、レティスにはお主達を呼び寄せた訳があるはずじゃ。きっとお主達には真実を語るじゃろう」
長老はオレ達の顔を見回した。そして目を伏せる。
「身勝手な願いだとはわかっておる・・・だが、このままでは村人とレティスが戦う事になってしまう。それだけは避けたいのじゃ。そうならんうちにレティスの真意を確かめたいのじゃ。頼む。どうか、引き受けてはくれぬか?」
長老はそう言ってオレ達に向かって頭を下げた。
オレは飲み物を下に置き、腕組みをして考えた。
ここの村人とレティスが争う・・・。それは、この村の問題でありこの村で解決すべき事だ。オレ達には何の関係もない。
だが、今まで神鳥と崇められてきたレティスがいきなりレティシアの村を攻撃し始めた。そこは確かに気にはなるところではある。長老の言うとおりオレ達に真実を語るとは限らないが・・・。
・・・それに、レティスに助力を求める為にオレ達はわざわざ異世界への破れ目を通ってここまでやってきたんだ。人間との関係が更に悪化した状態で会うのは得策ではない・・・か。
オレはゼシカを見る。目が合ったゼシカは頷いてみせた。
どうやらゼシカもオレと同意見らしい。なら、やるべき事は一つしかないか。
「・・・わかった。レティスに会ってみよう」
発したオレの言葉に長老は顔を上げ、わずかに目を輝かせる。
「そうか、やってくれるか!ありがたい!レティスは草原に置かれているレティスの止まり木と言う大岩の辺りでよく見かけられるんじゃ。とりあえずそこへ行ってレティスを探してみてはどうじゃろうか」
どうやらこちらにもレティスが止まり木にしている構造物があるらしい。おそらく場所も同じ所だろう。
・・・やれやれ、ここまで来てレティスが邪悪な存在じゃやってられねぇからな。レティスに何か考えがあることを祈っておくか。
オレ達は長老の家で休息をとり、レティスの止まり木目指して出発した。
予想通り、レティスの止まり木はオレ達の世界で言う『神鳥の止まり木』と呼ばれる場所にあった。そっくりな構造物が立っている。
さて、長老の言葉通りにレティスはここに現れるのか?
ふと上空で鳥の鳴き声が聞こえた。思わず見上げる。
・・・色が。アメジストのような鮮やかな紫色をした鳥が上空を舞っていた。
あいつが神鳥レティスなのか?
「きれい・・・」
ゼシカが声を上げる。と、その声に反応したわけじゃないだろうが、レティスがこちらに向きを変え、一直線に急降下してきた。
・・・って、おい、ちょっと待て。
「ゼシカ!構えろ!」
レティスから放たれる殺気にオレ達は慌てて身構えた。
・・・デカいな。オレ達を余裕で背に乗せて飛べるんじゃねぇか?
と、レティスが声を上げる。次の瞬間、電光がオレ達を捉えた・・・ライデインかよ。だったら跳ね返させてもらうぜ。オレはマホカンタの魔法障壁を張る。
だが、それもレティスの放った凍てつく波動であっという間にかき消されてしまった。
オレは舌打ちをして剣を抜いた。レティスに斬りかかる。しかし、
「か、硬え!」
剣はあっけなく弾き返された。どんな硬い羽根してるんだよ。この神鳥さんはよ!
と、レティスが翼を拡げ、こちらに飛びかかってきた。
(早い・・・避けられねぇ!)
オレの体はレティスの右足にがっちりと鷲掴みにされた。
「が・・・あ・・・っ」
レティスはその巨体に見合った力で足に力を込める。レティスの足指が体に食い込み、ギリギリとオレの体は締め付けられる。なんとか逃れようとするが、鷲掴みされた体は全く動かない。
息が出来ない。声が、出ない。
ミシリ、と骨のきしむ音がした。
(まずい・・・このままじゃ骨がいく・・・!)
と、その時。
「ククールから・・・離れなさーい!」
ゼシカの放ったメラゾーマの大火球がオレの鼻先をかすめ、レティスの右足に直撃した。流石のレティスも声を上げオレの体から足を離して飛びすさる。
オレは胸を押さえ激しく咳き込んだ。急いで肺に空気を送り込む。
・・・怖かった。レティスも怖いがゼシカも怖えぇ・・・。
「大丈夫!?」
ゼシカが駆け寄ってくる。
「ああ・・・なんとかな」
とりあえずベホマで回復しながらオレはレティスを見やる。
「メラゾーマもあんまり効いてないみたいだな・・・」
オレの剣よりは遙かにマシではあるんだが。気を高めて撃てば効果は高いだろうが、そうなる前に凍てつく波動で高めた気がかき消されそうだ。
今まで戦ってきた相手を遙かに超える強敵。さて、どうするか・・・。
「・・・」
オレは剣を鞘に収めた。そして剣を地面に置き、体の状態を確かめ、トントンと軽くステップを踏んでみる。
・・・なんとかいけそうかな。
「ククール?」
ゼシカが怪訝そうな顔をする。
「ゼシカは効き目悪いだろうけど、ひたすらメラゾーマ撃ってくれ」
「それは分かったけど・・・ククールはどうするの?」
丸腰状態のオレの姿にゼシカは不安そうな表情になる。
「あいつの攻撃を引きつけて・・・避ける」
「ええっ!?」
相手の攻撃を見切ってぎりぎりでかわす。相手の挙動に集中する必要があるんだが、その時装備している武器が邪魔になる。必然的に丸腰になってしまう。
「まぁ全部避けるのはきついだろうけど。剣が通じない以上回避盾になるしかねーだろ」
そう言いながら、オレはレティスに向かって身構える。
「頼んだぜ!ゼシカ!」
オレは地面を蹴った。向こうもオレが丸腰で突っ込んでくるのは想定外だったらしい。レティスは戸惑った様子を見せたが、それも一瞬の事。翼を拡げ、飛びかかってくる。
「・・・っと!」
ぎりぎりの所で奴の爪をかわす。続いてくる嘴もどうにかかわしてみせる。オレの動きにレティスは明らかに苛立っている様子だった。
ゼシカの放ったメラゾーマがレティスの胸を直撃した。ギロリとレティスの目線がゼシカを捉える。
まずい!レティスの注意をこっちに向けなければ・・・丸腰でも使える特技・・・これか!
「魅惑の・・・まなざしっ!」
オレの眼光がレティスを捉える。バチリと音がしてレティスは声を上げた。
レティスがこちらを向いた。
・・・お?思ったより効いてるのか?
レティスは再びオレに向かって襲いかかってくる。オレは再び回避行動を取るために奴の挙動に注視する。爪を、嘴を僅差でかわす。そしてこちらに注意を引きつけることを忘れない。時折放ってくるライデインは喰らうが、致命傷には至らない。
そして、十数発目のメラゾーマがレティスの体を直撃すると、レティスの体ががっくりと項垂れた。
・・・やった、のか?
オレは身構えたままレティスを注視する。
・・・殺気は感じられなくなっていた。オレは膝に手をやり、大きく息をついた。額に浮いた汗を拭う。剣を拾い上げて身につけた。回避に徹するってのはかなり神経使うものなんだな。
「ククール、平気?」
ゼシカが駆け寄ってきた。
「ん?ああ。問題ないぜ」
オレはそう答えて戦意を喪失したであろうレティスを見やる。
「さて・・・と、聞きたいことは沢山あるんだがな・・・なぜ、オレ達の姿を見ていきなり襲ってきたんだ?」
オレの言葉にレティスはゆっくりと姿勢を正した。
「流石は私の影を追って光の世界よりやって来た者達。見事な戦いぶりでした。もうお気づきかも知れませんが今の戦いはあなた達の力を試すために仕掛けさせてもらったものです」
レティスは落ち着きのある澄んだ声で答える。
・・・て事は、あれはオレ達に合わせた力しか出してないって事か・・・。
「私は今、力ある者の助けを必要としているゆえ・・・どうか許して下さい」
そう言ってレティスは頭を下げる。
「神鳥と呼ばれ、レティシアの民から崇められているレティスが助けを必要とするって、一体どういう事なんだ?」
「・・・それは」
オレの言葉にレティスは一瞬言いよどむ。
「まさか、儂らにレティシアの村を襲うのを手伝えと言うのではなかろうな?だとしたら儂らを見くびるでないぞ!」
いつの間にかオレ達の横にいたトロデ王が叫ぶ。
「あー・・・おっさん。話がややこしくなるから少し黙っててくれ」
オレはトロデ王の体をひょいと持ち上げると馬車の中へ押し込んだ。扱いがぞんざいだと抗議の声が聞こえるが無視した。
「・・・誤解しないで下さい。村を襲ったのは本意ではありません」
レティスの言葉にオレは頷く。まぁ、レティスが本来の力を発揮して村を襲えばあっという間にあんな村滅ぼせるだろうしな。
「・・・とはいえ、それは私が助けを欲している理由とも無関係ではありません」
「どういう事だ?」
レティスは語り出した。
かつて、七賢者と共に暗黒神ラプソーンと戦ったレティスは、暗黒神の配下から恨みを買ってしまっていた。
その一方でこの島にあるレティスの巣では、レティスの産んだ卵が目覚めようとしていた。
しかし、暗黒神の配下である妖魔ゲモンに巣を乗っ取られ、卵は人質に取られてしまった。
そしてゲモンは命じた。卵を壊されたくなければレティシアの村を襲え、と。レティスは卵を守るため、仕方なく村を攻撃していた。
そうしながらもレティスは自分に変わってゲモンを倒してくれる勇気ある者を探していたという。
・・・そこへひょっこりと光の世界から異世界への破れ目を通ってオレ達がやってきたって訳だ。
「そして、実際手合わせをして確信しました。ゲモンを倒しうるのはあなた達だけだと!」
レティスの言葉を聞いて・・・なんだろうな、すっげぇ嫌な予感がするんだが。
「どうか、お願いします。この島の人々のためにも私の巣へ行き、ゲモンを倒し、私の卵を救ってはもらえないでしょうか?」
・・・ああ、やっぱり面倒事だ。オレはげんなりする。
そして、どうせこいつは引き受けることになるんだろうな。なにせ。
「親が子供を想う愛情につけ込むなんて。何て卑怯な奴なのかしら!任せて!そんな奴私達でやっつけてやるんだから!」
正義感とやる気満タンお嬢さんがこっちにはいるのだから。
「ありがとうございます。それでは参りましょう。皆さんは馬車に掴まるかか中に入るかして下さい」
その言葉でゼシカは馬車の中に入った。オレは馬車の御者台の柵に掴まり、車輪に足をかけた。トロデ王も御者台に移動し、手綱を掴んだ。
「それではいきます。振り落とされないように」
レティスは翼を広げ羽ばたいた。レティスは飛び上がり・・・片足を馬車の幌、もう片方の足を・・・おいおい、馬姫様を鷲掴みかよ!
そして、そのまま巣があるという山へ向かって飛び立った。
レティスの止まり木がどんどん小さくなっていく。
そのまま南へ飛び続けること数分。高くそびえる山が視界へと入ってきた・・・あれか。
レティスは山の麓にオレ達を下ろす。ゼシカが馬車から飛び降りた。流石に馬姫様が涙目になっているが、フォローはトロデ王に任せよう。
「私が案内できるのはここまでです。これ以上近付くとゲモンに気づかれる恐れがありますから」
「・・・で、卵はどこにあるんだ?」
嫌な予感を覚えつつ、オレはレティスに尋ねた。
「この山の頂上です」
レティスが山を見上げる。オレも釣られるように見上げて、心の中でため息をついた。
・・・こいつは骨の折れる事になりそうだ。
「よーし、ちゃちゃっと登ってそのゲモンって奴を倒しに行くわよ!」
ゼシカさーん。これを見て、どっからそのやる気が出てくるんだよ・・・。
神鳥の巣に私達は侵入した。
卵は頂上。そこへ行くには岩山の中に入って螺旋状に続いている道をひたすら登っていくと到着するみたい。
「そりゃ、まぁ高い所の方が安全なんだろうけどよ・・・そりゃわかるけどよ・・・登る方の身にもなってくれよ。空を飛べる奴はこれだから・・・」
歩きながらククールがぶつぶつぼやいている。
・・・でも、登らないって選択肢は選ばないのよね。
思わずクスリと笑みがこぼれた。ククールが不思議そうな顔でこちらを見る。
「何か可笑しい事あったか?」
「いえ、何でもありませーん。ほら、早くレティスの卵の所に行かないと」
私の言葉にククールはやれやれといった感じで肩を竦めた。
中は思ったより入り組んでいて、徘徊する魔物も強かった。徐々に疲労が貯まってくる。
・・・まだまだ、頂上は遠いのよね。
「・・・と、ここは行き止まりか」
私達は周りを水に囲まれた、少し開けたところに出てきた。
「丁度いい、ここで休憩するか」
確かに不意打ちを受けにくい場所だわ。ククールの提案に異議はなかった。
汲み上げた水を煮沸して、お互いのカップに注ぐ。向き合う形で座り、カップに口をつけた。白湯とはいえ、温かい飲み物を飲むとこわばっていた体がほぐれていく。
「それにしても、レティスに協力を仰ぐつもりがレティスの手助けをする事になるなんてな」
ククールはそう言って息をつく。
「それはそうだけど。仕方ないじゃない」
私は言葉を続ける。
「レティスだってお母さんなのよ。子供は大切なのよ。守りたいって思う気持ちは分かるわ」
「・・・そういうものなのかね。あんまり覚えてねーや」
ククールのその言葉に胸が詰まる。そうだ。ククールのお母さんは彼が幼い時に流行病で亡くなっているんだったけ・・・。
「で、でも。大切なものを、人を守りたいって気持ちは分かるでしょう・・・?」
ククールは無言でコップの縁を指でなぞっている。嫌な沈黙が辺りに流れる。
・・・ねぇ、何か言ってよ。
やがて、ククールはぐいとコップの中の白湯を飲み干すと立ち上がった。
「・・・休憩できたな。そろそろ行くか」
私達は岩山の登頂を再開した。
お互い無言でひたすら螺旋状に続く道を登っていく。喋ると体力を消耗するから・・・それはククールの持論だけど、先程の気まずい空気を引きずっているようで気分が良い物ではなかった。
道を遮る魔物達を退けつつ登っていくと、やがて見えてくる外へ出る穴。
「・・・あそこかしら?」
小声でククールに問いかける。
「多分な。今のうちに体勢整えとくか。ゼシカは魔力を完全に回復しといてくれ」
私は頷くと道具袋から祈りの指輪を取り出す。指にはめて指輪の石から魔力を吸収する。
これが、どれ位で魔力切れになるか指輪によって違うから困るのよね。数個の指輪の石が魔力切れで砕けた頃、魔力が完全に回復したのを感じる。
「じゃあ、行くぜ」
私達は外へ出る穴へ向かっていった。
外に出てまず目に入ったのは瑠璃色に輝く大きな卵。これがレティスの卵。何て綺麗なんだろう。
続いて目に入ったのは卵の前に立っている三つの目と大きな翼をもった怪鳥のような魔物。色はこの世界の魔物達と同じく影のように黒い。
こいつが妖魔ゲモンなのね。
と、ゲモンの三つ目が私達を捉えた。
「何だ貴様達は。どうしてこんな所に人間達がいる?それにその姿・・・この闇の世界の住人ではないな。一体どこから迷い込んだ?まぁいい。丁度卵を見張っているのも飽き飽きしていた頃だ。暗黒神ラプソーン様の腹心である妖魔ゲモン様が直々に遊んでやろう」
ゲモンは舌なめずりをして、身構えた。
そうして、ゲモンが声を上げると、2匹の魔物が飛来してきた。
「マヌーサ!」
ククールが唱えたのは相手に私達の幻影を見せる呪文。これが効けば相手の攻撃を受けにくくなるけど・・・。ククールは舌打ちした。
「ふん、そんなチャチな呪文効きはせぬわ!」
魔物達が一斉にククールに襲いかかった。避けきれずに攻撃を食らってしまう。
「ぐうっ・・・くっそ」
なんとかベホマで回復したみたいだけど・・・。こう数が多いならイオナズンで攻めた方がいいわね。
私は意識を集中させる。でも、イオナズンの詠唱を聞いてククールははっとなった。
「待て!ゼシカ!」
ククールが私の右手を掴む。集中が切れ、詠唱が止まってしまった。
「ちょ、ちょっと何するのよ!」
「そりゃ、こっちの台詞だ。あいつをよく見てみろ。ゼシカ」
私はゲモンを注視する・・・うっすらと見える魔法障壁。
「えっ・・・マホカンタ?いつの間に?」
あのままイオナズンを撃っていたら、そのままこっちに跳ね返っていたわ・・・。私はぞっとした。
でも、どうしよう。このままじゃ私の呪文はあいつに撃てない・・・役に立てない。
「大丈夫だ、ゼシカ」
私の心の声をくみ取ったかのようにそう言いながら、ククールはニッと笑う。
「アレなら跳ね返されない。魔法障壁ごとぶち破るさ。折角覚えたんだろ?使ってみたらどうだ?あ、卵には気をつけろよ」
アレって・・・。思い当たる呪文は一つだけ。うまく出来るかしら?
「その間奴らの相手はオレがしておくから、任せたぞ!」
ククールはそう言ってゲモン達に斬りかかっていった。
敵の攻撃を受けながら、炎に巻かれながらククールは雑魚敵を退け、時間を稼ぐ。
その間に私は気を高めていく。
(・・・こんなものかしら)
充分な気の高まりを感じ、私は次の行程に入った。
私は目を閉じ、両手に意識を集中させる。私の体の中にある全ての魔力を両手に注ぎ込む。
(・・・よし)
「ククール、離れて!」
私は目を開き、ククールが離れたのを確認すると、魔力で光り輝く両手を天にかざした。光は5本に分かれ、光柱となってゲモンに降り注ぎ、回転しながら輝く光の球に収束し。
「マダンテ!」
私の声と共に大爆発を起こした。
「・・・っはぁっ・・・」
私の体をひどい虚脱感が襲う。体が思うように動かない。
(これ、マダンテ撃った反動・・・かしら)
肩で息をしながらゲモンを見やる。
こちらの反動が大きいとはいえ、ゲモンには大ダメージを与えたみたい。あいつももう立っているのがやっとといった感じだった。
「バカな・・・こんな強い人間がいるとは・・・」
ゲモンはよろめきながら呻く。だけど、はっと何かに気付いたようだった。
「・・・そうか、レティスだな!・・・奴がオレ様を倒させるために光の世界から貴様達を・・・おのれぇ!そうと分かったらこのまま倒されるわけにはいかぬわ!」
ゲモンはよろめきながらレティスの卵に近付いていった。
な、何をするつもりなの。
「奴の卵も道連れにしてやる!死なば諸共よ!このゲモンを謀った事を後悔するがいい!」
道連れって・・・もしかして自爆するつもりなの!?
ダメよ!そんな事させるわけには・・・。でも、ゲモンの体が徐々に光り始める。間に合わない!
ゲモンは高笑いした。
ゲモンの体から次々閃光が放たれ、巨大な爆発を引き起こした。
爆風がこちらにも勢いよく迫ってくる。このままの状態で食らったらただじゃすまないわ。
防御しなきゃ・・・でも、マダンテの反動のせいだろう。まだ体が言うことを聞かない。動けない。
思わず目を閉じる。その直前に見えたのは鮮やかな赤と・・・銀。
ゴウゴウと爆風が周囲を通り過ぎていくのが分かる。でも衝撃や熱を感じない。一体どういうことなのかしら?
やがて、爆風が収まり、静かになる。私はゆっくり目を開いて・・・あまりの衝撃に目を丸くした。
「ククール!」
ククールが私の前に立ちはだかり、その背中で私を爆風から守ってくれていた。
「・・・大丈夫か?」
「それはこっちの台詞よ!」
「ああ、問題ねぇよ・・・ベホマで治る・・・問題なのは・・・」
ククールは振り返った。その目線の先には・・・消滅したゲモンと砕け散り、煙を上げる卵の殻。
そして、あの爆音を聞きつけたのだろう。レティスがこちらへ飛んで向かってくるのが見えた。
「さっきの音は一体何が・・・」
レティスはそう言って、砕け散った卵の殻を見てはっとなった。
「こ、これは・・・どうしてこんなことに!?私の赤ちゃんが・・・卵が粉々になって・・・」
レティスは悲痛な声を上げる。
私は口を開こうとした、けどククールがずいと私より一歩前に出る。
「・・・見ての通りだ。オレ達の力が足りないばかりに・・・。すまない、レティスよ」
そう言ってククールは頭を下げる。
どうしてククールが謝るの?私がちゃんとゲモンをマダンテで倒しきれなかったから・・・だから・・・。
レティスはきっと私達を責めるだろう。責められても仕方ない。
「・・・どうやら、あなた方には迷惑をかけてしまったようですね」
だけど、レティスは優しい声で私達に話しかけてくる。
「光の世界から呼び寄せておいて、こんな嫌な思いをさせてしまうなんて、本当に申し訳ありません」
その毅然とした態度に彼女がなぜ神鳥と呼ばれるのか、分かった気がした。
「さぁ、ここにいても成すべき事はありません。光の世界への扉まで送っていきましょう」
レティスが翼を広げる。その時。
(母様、待って下さい)
砕けた卵の殻の所から幼い声が聞こえた。
「ま、まさか。私の赤ちゃん・・・?」
レティスの声に反応するかのように黄金色の幼鳥が姿を現した。
だけどその体は半透明で実体を持ってないことがわかる。
(そうです母様。生まれてくる事も出来ず、こんな姿でお話しすることになってごめんなさい。だけどボクを助けに来てくれたその人達にお礼がしたくて、こうして姿を現したのです)
「お礼?しかしあなたは・・・」
レティスが怪訝そうな声で幼鳥に問う。
(いいえ母様。こんなボクだからこそ出来ることがあると思うんです。実体を持たない魂だけの存在のボクに皆さんの体を貸してもらえば空を飛べるように出来るはず)
そう言って幼鳥はくるりと私達の方を向いた。空を・・・飛べるですって?
(どうか、皆さんの旅にボクをご一緒させてくれませんか?)
「私からもお願いします。この子があなた達のお役に立てれば私も救われます。どうかこの子の願いを叶えてあげて下さい」
レティス達の言葉に拒否する理由もなかった。
(それではボクは皆さんとご一緒出来るよう姿を変えます。力が必要な時はいつでも呼んで下さい)
幼鳥はそう言うと、光り輝く玉へ姿を変えた。
ククールが前に進み出てその玉を手に取る。私も近付いて玉を覗き込んだ。光り輝くその玉の中でなにか脈打つのを感じる。
神鳥の魂。姿形がなくてもこの子は生きている。
「さぁ、今度こそ、光の世界の扉まで送っていきましょう。私の背中に乗って下さい」
レティスはそう言って身を屈めた。
私達はレティスの背中に乗った。レティスは翼を広げて巣を飛び立つ。
一気に麓まで降りる。馬車の姿が見えてきて・・・トロデ王ったら寝ちゃってるじゃないの!
レティスはまた馬車の幌と馬姫様をその両足に掴んで再び舞い上がった。飛び続けること十数分。私達は異世界への破れ目の前に戻ってきた。
「それでは、その子の力。どうかお役に立てて下さい」
レティスは私達を降ろすと、また翼を広げ、飛び立っていった。
「レティシアの長老に報告しなくていいのかしら・・・?」
「んー・・・まぁレティスが村を襲う理由もなくなったんだ。どうにかなったと思うだろ。さっさと元の世界へ戻ろうぜ」
私達は異世界への破れ目を通って元の世界へ戻ってきた。
「はぁ、やっぱりこっちの世界の方がいいな。向こうの世界は文字通り女性に色気が無かったからな-」
ククールはそう言って大きく伸びをする。その様子に少し呆れたけど。
「・・・ククール」
「ん、どうしたんだ?」
ククールがこちらを見た。
「まだお礼言ってなかった。ありがとう・・・ゲモンから庇ってくれて」
「・・・別に。それに、何となく分かった気がする」
「え?何の事?」
首を傾げる私に向かってククールはニッと笑う。
「秘密」
「えーっ!?なんなのよ。教えなさいよー!」
「まぁ、いつかな」
なんなのよ一体。もう、気になるじゃないの!
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