きなこ
2025-06-07 07:56:03
3199文字
Public ダンボク
 

【ダンボク】キスのお題

お題ガチャで出たのを書いてみたよ。
セフレっぽい関係のダンボク。

お題↓
もう体力の限界で、冗談混じりに口移しで水が飲みたいと言ったボク。本気にしたダンからぬるい水を口から口へ流し込まれて、ついでに深く口付けられた。舌なんて絡ませなくても飲めると物申しても、ダンは全く聞く耳を持たない。

 空気を裂くような金切り声が響く。
 赤い粒子を散らせながら、魔物だったものは霧散した。
 ふぅと一息をついて、ボクオーンはその場に崩れた。カラカラと軽い音を立てて愛用の棍棒が地面を転がる。
 うつ伏せに転がったボクオーンの体を、隙間なく生い茂った草花が受け止めてくれる。青臭い香りに混ざる甘い花の香り。睡眠効果はないはずなのに、まぶたが落ちそうになる。

 ボクオーンはダンターグとクジンシーと共にこのあたりの調査を行なっていた。その最中、魔物の大群に襲われた。
 多勢に無勢といえど、戦力的には申し分ない三人であった。ただ、敵が膝丈よりも小さい体躯で素早く、さらに打撃が効きにくいことから苦戦を強いられた。
 巨漢ダンターグの槍のひと凪で、多数の魔物が蹴散らされた。
 だが敵の数は多いし、小さくて狙いが定めにくい。
 敵の攻撃は軽いが、生半可な攻撃は跳ね返され、主にクジンシーの矢と剣が弾かれた。ダンターグの打撃も浅ければ勢いを殺される。
 結局、ボクオーンの術で敵を殲滅することになったのだが、敵の数が多すぎて、魔力が空っぽになるまで酷使する羽目になった。
 
 ボクオーンは指の一本すらも動かしたくない気分だった。
 体が鉛のように重い。底なし沼にはまったかのように身動きが取れず、沈んでいく感覚だけがある。
 がさっ、と。草を踏み締める音が耳に入ってきた。
 顔を上げることも億劫だ。だが、歩く重量からして、近づいてくるのはダンターグだろう。
「おう、大丈夫か」
 声をかけられたが、乾いた喉が痛んで掠れた咳が出る。クジンシーがいちいち変な場所にいたので、退けとわめていたせいだろう。
 脇腹を蹴られて、仰向けに転がされる。
 もう少し丁寧に扱えと思ったが、ダンターグだし仕方がない。
 開けた視界に光が差し込んでくる。眩しさに目を細めると、太陽とボクオーンの間にダンターグが割り込んで影になった。
「怪我はねぇか」
 頷く。
「水は?」
 もう一度頷く。
 ダンターグは懐から水筒を取り出してボクオーンに差し出してきた。
「起き上がれません」
 掠れた声で訴えると、ダンターグの眉間に皺が寄る。
 ダンターグは苛立つように舌打ちをしたが、戦闘で助けられたことを気にしているのか、傍に片膝をついてボクオーンを抱き起こした。
「ほれ」
「腕が上がらないので、口移しで飲ませてください」
 半分冗談だが、腕が上がらないのは事実だ。少し魔力が回復するまでは何もできないかもしれない。
 ダンターグは顰めっ面を作ったが、無言で水を煽り、ボクオーンに口移しで流し込む。
 元からなのか、ダンターグの口の中で温度が上がったのかは定かではないが、液体は随分と温かった。
 ボクオーンの喉が鳴る。
 受け止めきれなかった水分が、口の端から溢れていった。
 本当に口移しで飲まされるとは思わなかった。
 戸惑うように揺れる瞳に、徐々に大きくなるダンターグの姿が映る。
 もう一度唇が重なった。
 とっさに口を引き結ぶが、舌が無理やり隙間をこじ開けて侵入してくる。少しずつ水を流し込まれて、ついでに分厚くて熱い舌が口内を掻き回していった。
「舌を絡めなくても、水は飲めるでしょうっ」
 喉が潤ったおかげで声は出しやすくなった。
 ボクオーンは文句を言うが、頬がほんのりと上気して、目元が潤んでいた。
 その様子を見やったダンターグがにやりと笑う。
 さらに水筒の水を口に含み、飲ませてくる。深い口付けに、調子に乗るなと頭を殴ってやりたい衝動に駆られたが、体が本当に動かないのでされるがままになる。
 ようやく解放をされて、ボクオーンはこめかみを引き攣らせながら注意をした。
「こんなところで盛らないでください」
「あいつら、ムカつく小ささだったんだよ」
 だからといって、こんなひらけた場所でダンターグのストレス発散に付き合うわけにはいかない。
 咎めるような視線を受けて、ダンターグは億劫げに髪を掻きむしった。
 ――その視界の片隅で、黒がゆらりと動いた。
 ボクオーンが目線を動かし確認すると、その黒はクジンシーだった。
「クジンシー、何をしているのですか?」
 問うと、彼の体が飛び跳ねる。
 彼は油が切れた歯車のように、ぎこちない動きで首を回して視線を合わせてきた。
「いや、お邪魔かと思って」
「気にすんな。こんなところで、おっ始めるわけねぇよ」
「こらっ」
 直接的な表現に思わず注意をすると、ダンターグは口をへのじに曲げた。
 無駄に長生きはしている長命種だが、経験値が低いクジンシーには刺激的だったのだろう。真っ赤な顔をして、忙しなく手を動かして。目に見えて動揺をしている。
「今まで気付かなかったけど、お前ら、付き合ってんの? もしかして俺だけが知らなかった感じ?」
 ボクオーンとダンターグは顔を見合わせた。
 そして同時に首を傾げる。
 付き合うとはなんだろうか。ボクオーンは考えた。彼とは確かに関係は持っているが、愛だの恋だのという感情とは違うような気がする。
 ダンターグは早々に考えることを放棄して、やや遠くの木々を眺めているようだ。緑の葉の中に鮮やかに映える赤い果実が付いている。空腹なのかもしれない。
「付き合っているわけではありませんから、誰かが気付くも何もありませんよ。仲間外れにしているわけではないので、大丈夫です。気にされぬよう」
「べ、別に気にしてねぇよっ」
 顔を顰めて強い否定を示すクジンシー。気にしていたんだな、とボクオーンは察して、口元に薄い笑みを浮かべた。
 おもむろにダンターグが放った槍が、どすんっという重い音とともにクジンシーの足元に落ちて地面を抉る。
「それを運んどけ」
 ダンターグはクジンシーに声をかけ、自らはボクオーンのことを抱き上げる。
 いかつい顔はそのままで、古傷だらけの大きな手でそっとボクオーンを横抱きにした。
 大事にされているようで、ボクオーンの胸がくすぐったくうずく。
 ダンターグは無言で歩き出した。
 両手で槍を抱えたクジンシーが、よろよろとおぼつかない足取りで追いかけてきた。
 丁寧に運ばれながら、なんとなくボクオーンは考えてしまった。自分とダンターグの関係はなんと定義すべきなのだろうかと。
 一言で言えば利害関係の一致だ。三大欲求の一つを解消する関係。仲間の中で後腐れない関係を築けるのが互いだっただけだ。
 一番近い定義としては『セフレ』なのかもしれないが、そんな軽い関係でもない。
「あなたは、私のことが好きですか?」
 なんとなく問うてみると、敵を警戒しながら歩いていたダンターグの険しい視線が、一瞬だけこちらを向いた。
「好きか嫌いかって言ったら、好きだな」
「なるほど」
 まあ、嫌いな相手と肌を合わせることはしないだろう。
 沈黙が訪れる。
 耳に入ってくるのはダンターグが地面を踏む重い足音と、クジンシーが立てる軽い足音。
 草木が爽やかな風に揺れて、さわさわと音を奏でる。
 ゆりかごの中にいるような心地よい揺れに、ボクオーンの意識はまどろんでくる。
 ダンターグは同じ質問をボクオーンに返しては来なかった。彼にとっては、ボクオーンから自分に向けられる感情などどうでも良いことなのだろう。
 ダンターグへの感情を表現するのであれば、好ましい。愛なんて強い感情も、独占欲もない。だが、セフレと呼ぶには互いに情を持ちすぎている。
「小難しいこと考えてねぇで、とっとと寝ちまえ」
……はい。お言葉に甘えて」
 顔を傾けて、彼の胸に頬を寄せる。トクトクと規則正しくなる鼓動が子守唄のように、心を落ち着かせてくれる。
 ひだまりの中のような心地よさの中で、ボクオーンの意識はゆっくりと沈んでいった。