himuri
2025-06-08 22:10:00
2053文字
Public #鋼徹ワンドロワンライ
 

【村荒】変わっていく関係性

第四回 鋼徹ワンドロワンライ お題「弧月」



 黒い弧月を太一考案で村上が使った後、すぐに荒船から連絡があった。見せろ、というので頷いた。
「原理はどうなってんだ、これ」
「トリオンで光る部分をいじってもらって」
 相手が浦だった事で、想定よりは刺さらなかったが、これぞ初見殺しというやつだろう。建物の照明の掌握が第一条件ではあったが、盲点だった。
「いい案だったよな」
「うん」
 村上は思わずにっこり笑ってしまった。
 太一はどちらかというとやらかしが多くて、あまり手放しに誉められない。だからこそ荒船の言葉は隊員として嬉しかった。
「鋼もすごいことやってたろ」
……あー、咄嗟にな」
 追い詰められた瞬間だったからこそではある。まさか玉狛第二のエース二人に挟み撃ちに遭うとは思っていなかっただけに、咄嗟に出た動きだった。
 だが、その結果は思った以上に出た、と思っている。
「ああいうの、練習してたのか?」
……荒船と昔見た映画でさ」
「映画?」
「武器は身体の一部となるまで馴染ませろ、みたいな話あっただろ」
「あったな。あの映画、俺も好きだった」
「うん。だから頑張ったよ」
 文脈に若干首を傾げる。
「おー……? そんなハマってたのか」
「あの頃よくその話をしてたから」
 村上の言葉に、ようやく意味を理解した。
……俺が」
「うん」
「あぁ……、なるほど、大体わかった」
 荒船頭を抱えるような動作をしたものの、仕方ねぇな、という顔で笑った。
「おまえが強くなる原因のひとつがあの映画で、俺がハマったからだってんなら、まぁ良かったよな」
「あぁ」
 嬉しそうな顔で笑う村上に、荒船は調子を狂わされたような気分で、ちょっとだけ面白くない。
 件の映画はアクション映画として大変良い出来で、口コミからおおいに盛り上がったものだった。
 そういう映画を見つけられると嬉しいのは、よく映画を見ている人間からすると当然で、広めなければと妙な使命感すらわくのだが、それが果たしてこの結果を生むと誰が思うだろうか。
 映画はしょせん物語だ。作られた話の中で、主人公たちが自分たちの正義の為に立ち上がる王道展開。生身でのアクションも大変すばらしかったが、まさかそのアクションがあの弧月のアクションにつながっていくとは。
……鋼はいい布教先だよな」
「そうかな?」
「ああ、俺は今、結構感激してる」
 フィクションの中の戦いは、いろいろな人間が携わって息を合わせて製作していく。それを見て、武器を極めようという人がいたら、……やはり嬉しい。
「よかった」
「おう」
「荒船とこの話、したかったけどずっと出来なかったから」
……あぁ、そうか」
 村上の言葉に、その映画が流行った頃のことを思い出す。そうだ。あの頃に荒船は狙撃手に転向したし、村上との師弟関係も終えたのだ。
「来馬先輩からもらった動画で荒船の言葉聞いて、もう一度あの映画、一人で観てきたんだ」
「そうだったのか」
「うん。だから頑張ってる」
「弧月で?」
「そう。太刀川さんにも勝つ為に」
 村上の決意のこもった眼差しをまっすぐ向けられて、荒船はくすぐったいような気持ちになった。自分が教えていた弟子が、自分の言葉にどれだけ真剣に向き合ってくれていた事か。
 俺に勝ったくらいで強くなったと思うな、とは言った。だがそれ以上に村上の心に、荒船の言葉が響いていたのだなと思うと。
……弧月はおまえに任せちまっていいと思った俺の判断も、良かったよな」
……
 あの頃。
 村上に抜かれた事はショックだった。その抜かれるまでの期間も短かった。一応マスタークラスだという自負もあったから、悔しかった。
 ただ、あの時、これで未練なく狙撃手に転向出来ると思ったのも確かだ。
 その事で村上がそこまでショックを受けるとは思わなかったし、来馬から呼び出されるような事が起こるとも思っていなかったけれど。
 とはいえ、あの一件でそれは解決したし、それ以上何かはないだろうと思っていた。
 だからいまだに、村上が、荒船の言葉に影響されている部分があるとは。
……久しぶりに映画観るか」
「俺も観たい」
「おう、じゃあうち来るか?」
「えっ」
「え?」
「い、いいのか?」
……別に、映画観るだけだぞ?」
「う、うん」
……まぁ、今日誰もいねぇけど」
 ちょっとした悪戯心でそう付け加えれば、村上は明らかに焦っている様子だった。
 弧月からこういう展開になるとは思わず、荒船は少しばかり苦笑した。
 関係が変わっていくのはおかしなことではないだろうが、少しばかりいたたまれない気持ちもあって、たぶんそれは村上もそうだろう。
 とはいえ。
「赤くなってんじゃねぇよ」
 そう言っている自分も赤くなっているのだから、始末に負えないよな、と思うのだった。


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ひむり
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