ながひさありか
2025-05-11 02:43:13
2045文字
Public STR-Phaidei
 

ファイモス:なにか甘いものもひとつ

現パロ。いつもの同棲してる二人です。甘いものは別にそんなに好まないファイノンを置いて一人でパフェを食べに行こうとしたら拗ねられる話。

「そう言えば、明日は少し出掛けてくる。夕食までには戻るつもりだが、遅くなるかもしれないから、夕食は作ってから出て行く」
 俺の帰宅が遅ければ先に食事にしていてくれ、と日記をつけ終えたモーディスが思い出したように口にした。
 ファイノンは料理動画をザッピングしていたタブレットから顔を上げ、ソファの隣に座るモーディスの顔を見つめた。
 モーディスに時々「今夜は何が食いたい」と問われることがあるので、ファイノンはたまにこうして、作ってみて欲しい料理をリストアップする習慣があった。
「買い物? 途中まで迎えに行こうか」
 明日は平日で、モーディスは休みだったが、残念ながらファイノンは普通に仕事だった。
 遠出するなら僕がいる時にしたらいいのに、とファイノンは少しだけ拗ねた気分で尋ねると、いや、とモーディスが首を横に振る。
「以前から気になっていたパフェを食べに行くだけだ。いちごの季節だろう、写真によればこのぐらいの大きさで」
 と、モーディスは大袈裟に一メートルほど手を広げる。
「しかも白いちごも使われていて、綿あめまで乗っている。春の限定メニューで昨年から気になっていたんだが、前回は時期が悪くてな。今年はどうにか予約が取れたが、店まで電車で二時間ほどかかるから、帰りが少し遅くなるかもしれない」
……誰と?」
「? 俺一人に決まっているだろう」
……………………
 モーディスの答えに、ファイノンはわかりやすく不愉快も表に眉を寄せた。
 時々、本当に時々ではあったが、モーディスがこうして一人で、好物の甘味を食べに遠出をする趣味があるのはファイノンも知っている。
 ただ、二人の休日が重ならなかった時ばかりモーディスが遠出をしているのは何故なのだろう。それがどうにも気に入らない。
 別にファイノン自身は特別甘味が好きということはないが、かと言って嫌ってはいない。モーディスが時々家で作るクッキーだのシフォンケーキだのタルトだのゼリーだのババロアだのプリンだの、ファイノンには細かいところはよくわからない様々な色合いのケーキやお菓子を「一口食うか」と差し出されれば食べるし、デートでモーディスがスイーツを食べに行きたいと言えば反対もしないし止めもしない。
 例えばクレープリーに行ったとして、最後のデザートに出てきた甘いクレープを二つともモーディスが食べることになるか、あるいは塩気のあるシンプルなメニューがあればファイノンはそれを選ぶとか、そう言っただけの話だった。
 付き合う前に一度だけ、モーディスが「付き合わせて悪いな」と言ったことがあった。ファイノンはその時にも「え、別に好きなものを食べたらいいじゃないか。幸せそうでいいなとしか思ってないよ」と言ったのだが、モーディスはまだ、なんとなく気が引けるらしい。
「何を拗ねている? お前はそれほど甘味に興味がないだろう。俺の趣味嗜好に毎度付き合わせるのも悪い」
「君が好きなものを食べるのを、どうして僕が嫌がると思うんだ? 一緒に行くって前も言ったのに、その時も僕に食べられるものが本当にないとか苦手だろうとか言ってたけど、本当は僕と出かけたくないだけなんじゃないか?」
 眉を下げ、ファイノンは拗ねた口調のままじっとモーディスを見つめた。まるで捨てられた犬のような表情をする男に、モーディスは妙な罪悪感を抱いてしまう。どうにもこの手の顔をされると弱い。
 それほど悪いことをしたとは思えなかったが、ファイノンの詰るような言葉と情けない表情を浴びると、何故か裏切ってしまったかのような感覚がした。
 ファイノンの頭から悲しそうに垂れた耳が生えている姿を幻視してしまい、耳を撫でる代わりに、髪に手を伸ばした。
「お前とどこかへ行きたくない時思ったことはない。以前から何度も言っているが、いくらお前がいいと言っても、食えるものがないのはつまらないだろう」
 風呂上がりのまだ少ししっとりとした感触のファイノンの髪を撫でていると、くすぐったいな、と笑いながらファイノンがただでさえ近い距離を詰めてくる。
「いやつまらなくないよ、君を見てるから」
……いや、それは……お前はそれでいいのかもしれないが……
 至近距離で顔を見つめながら、恥ずかしげもなくきっぱりと口にしたファイノンに、モーディスは結局「悪かった」と折れてしまう。ファイノンの青く大きな瞳が嬉しそうに瞬くのを見て、まだこの目の強さに慣れないな、とそう感じた。
「明日は一人で行くが、次回からはお前に声をかける。ワンオーダー制の店なら我慢して食えよ」
 ため息を吐くふりをして視線を逸らし、モーディスは乱雑に撫でていたファイノンの髪から手を離した。
「わかった、明日のことは水に流すよ。それじゃあモーディス、僕を愛してるならお詫びにキスしてくれ」
……どんな理屈だ」
 モーディスは口先だけで悪態をつくと、すでに瞼を下ろしているファイノンにキスをする。


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