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ながひさありか
2025-03-10 21:25:53
2388文字
Public
STR-Phaidei
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ファイモス:再会とゆりかご
現パロ。今までと全く話は繋がっていません。大学時代に付き合ってたけど別れて、結婚して離婚したモーディスがファイノンと再会する話。
妻と別れた話を風の噂で聞いたのか、はたまた本当に本人が言う通り偶然なのか、数年ぶりにファイノンに再会した。
何の用だ、と尋ねた俺に、ファイノンは「いや久々に君の顔が見たくなって」とまるで悪意や下心などひとつもないかのように、屈託のない笑顔を見せる。それがいっそ不気味だった。
数年前、この男に別れを告げた。理由は単純なもので、散々学生時代に逃げ回っていた家業と家督をとうとう継ぐしかなくなり、それと同時に許嫁との結婚が決まったからだった。勿論ファイノンを騙して付き合っていたわけではなく、告白をして来た男に「努力はしてみるが、親同士の決め事だ。いつかはそうなるかもしれない」と最初から伝えていた。長くても大学卒業までだろう、と口にした俺に、ファイノンは「そうなんだ」としか言わず、「その時が来たら考えるよ」と楽観的な物言いをした。果たしてこんな軽い答えの男と付き合ってもいいのだろうかと悩みはしたが、結局、俺はこの男の熱烈な告白に折れた。
付き合ってからの三年間は、お互い、この件について話し合うこともなく、深く考えることもなく、まるで一生を誓い合った仲のように日々を過ごした。その間、ファイノンには黙って親戚の誰かが家業と家督を継ぐようにできないかと工作を試みてみたが、うまくはいかなかった。
大学卒業間近になっていよいよ逃げられなくなったことを悟り、別れを切り出した。ファイノンは怒りもせず、ただ静かに「そっか」と残念そうに口にして、傷ついた顔で俺の前から去っていった。一緒にどこかへ逃げようとばかな提案をされたり、あるいは激怒されるだろうと身構えていたが、ファイノンはどれもしなかった。聞き分けの良い男ではないはずなのにあっさりと諦めて、幸せに、なんて笑って去って行く男の背に、捨てたはずの俺の方が傷ついたような気分になった。
そうして家業と家督を継ぎ、結婚もしたが、結婚生活は長続きはしなかった。離婚の理由は元妻の不貞が露見したことで、俺たち夫婦の間にはまだ子どもがいなかったこともあり、醜聞を恐れた元妻の家からは即日離婚届と和解金が俺の元へ送られた。不貞の相手は、別れた妻の学生時代の恋人だった。彼女は俺とは違い、卒業を契機に割り切れなかったらしい。
離婚が成立したその夜、ファイノンに連絡をするか正直なところ迷っていた。しかしそれは、あまりに身勝手で都合のいい振る舞いだ。数年越しによりを戻したいだなんて言えるわけもない。そもそも再婚を打診される可能性も高かった。
結局しばらくして父親が亡くなり、まるで呪いにでもかかったかのようにばたばたと親戚が倒れて、一族を存続することは難しくなっていた。ファイノンが俺の前に再び現れたのは、手元の資金が尽きる前に家業の殆どを畳み、俺の代で潰して終わりにしようとしていたところだった。
身なりのいい格好をしたファイノンは会社帰りの俺を捕まえて、「近くに君の会社があることを思い出したから、久々に会いたくなったんだ。もし時間があるなら軽く飲まないか」と笑った。こいつは俺が殆ど酒を飲まないことをよく知っている。だからこの誘いは明らかにおかしかったが、それがわかっていたのに誘いに乗ってしまったのは、離婚が成立した夜、本当はこの男に会いたいと考えていたからだろう。
流されるままにホテルのバーで飲んで、ほろ酔いになった俺は、この男と別れてから今までのことを洗いざらい吐いた。本当はお前と別れたくなかったこと。それでも仕方がないとようやく諦めがついた矢先に、全てが無意味だったと悟ったこと。昔はばかみたいなペースで酒を傾けては酔って面倒な絡み方をして来たファイノンだったが、歳をとって飲み方をようやく覚えたのか、この日に限って随分と冷静だった。
奴は静かに俺の話を聞き、最後に、「まだ僕のことを好きだと少しは思っているのか?」と笑って問いかけてきた。まだも何も、お前を忘れられたことがない。それでもこれが俺の人生で、どうにもならないものはどうにもならず、仕方がないと全てを諦めて生きて来たと言うのに、全てがどうでも良くなってしまったところだった。
そっか、と嬉しそうに眦を下げた男の、懐かしくも眩しい笑顔にまた魅かれてしまう。視線を逸らし、ファイノンを見ないようにする。都合のいいことを言って傷を掘り返すべきではない。わかっている。もう二度と、この男を俺の人生には巻き込まない。巻き込むべきではない。
そう思っていたはずなのに、誘われるままにファイノンの部屋へ向かってしまい、数年ぶりにこの男に抱きしめられている。懐かしい匂いが肺に満ちて、涙が出そうになった。本当はあの時こそこうして奪って欲しかった。お前とならどんなボロ屋でも、いくらでも未来を描けたはずなのに。そんな被害妄想を考えているうちに、ファイノンの懐かしい手が肌を這い、あの頃、散々この男に愛されたことを思い出してしまう。熱に包まれ、散々昇りつめさせられて、小さな死を何度も何度も体験させられる。思考がかき混ぜられ、感覚と呼吸がすべて奪われる。理性を手放さないようしがみついていた指をひとつひとつ絡まされて、傷になればいいと祈られているかのように深くまで穿たれる。声を出せば塞がれて、手繰り寄せた理性が解けて行く。思考は泡のようにぱちぱちと弾け、溶けて、この男の腕の中で、俺自身が作り替えられて行く。
言ってくれ。そうすればあとは全部どうにでもするから。手足を放り出したまま、もう何度目になるのかわからない熱を注がれた体ではうまく思考が働かなかった。君はただ頷けばいい。あとは僕に任せてくれればそれで。囁きが肌に落ち、全身と心臓を震わせる。瞬きと共に落ちたものを舐め取られた気がした。わかった、と頷いたのを最後に、今度こそ目を閉じる。
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