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ながひさありか
2025-03-10 00:42:59
3270文字
Public
STR-Phaidei
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ファイモス:日常茶飯時
現パロ。モーディスの店でバイトをしているよく喋るモブがいます。中身が本当にない。
「店長〜、彼氏さん来てますけど、どうし
——
あ、すいません」
「
…………
教育中だ。それから、いちいちあいつが来たくらいで呼ぶなと前も言ったはずだが」
バイト入店一日目にして波乱の予感がした。私にキッチン教育をしてくれていた、ゴツい見た目の割に普通に優しい店長さん(よかった
……
)は目尻を吊り上げ、キッチンに入ってきたホールの先輩を見つめた。
彼氏? と思わず視線を先輩と店長さんに交互に向ける。先輩は私と目が合うと、「後で教えてあげる!」とでも言うようにウィンクをした。
「買ったらすぐ戻るって言ってますし、顔くらい見せてあげたらいいじゃないですかあ。あたしその間、その子に教えておきますよ」
「客と余計な話をするな」
「別に仲のいいスタッフに挨拶くらいすると思いますけどねえ。あたしだって必ず顔見せて欲しいってお願いされたおばあちゃんとかいますよ」
明らかにニヤニヤしている先輩は、店長さんの表情がどんどん曇って、普通に怒っているのに全然気にならないらしい。こんな見た目で舐められてるのかな、とも思ったけれど、内容が内容なので判断がつきづらい。と言うかこんなにガタイのいい年上男性を揶揄う勇気は私にはないので、あの先輩はもしかすると勇者なのかもしれない。
「
……
新人の教育中だ。二度も言わせるな」
「えー。まあいいですよ、代わりにあたしが彼氏さん拝んでおきますから」
ちら、と先輩が店長さんに視線を向けるのが見えた。店長さんは先輩を無視して、私にむかって「どこまで教えたんだったか」と言いながら、マニュアルを指でなぞっている。
「いいなー、あたしもあんなに溺愛されたーい」
「さっさと行け!」
ホールに響かない程度の声で、店長さんが叱る。真横で怒りのオーラを浴びてしまい、無意識にぴゃっ、と肩が飛び上がった。
「
……
悪かった。本気で怒っているわけではない」
と、言っている店長さんを見上げると、目を瞑って怒りを耐えるようにため息をついている。いや怒ってるじゃん、と心の中でつっこみつつも、はぁ、とだけ答えた。
だけど目を開けた時の店長さんは、本当に何事もなかったかのように淡々と説明を進めてくれていた。ただ、ホールで一瞬、先輩たちの沸いた声が聞こえた瞬間だけ、店長さんの眉がぴくっと動いていた。
「あ、本当に彼氏さんいるんですか」
研修終わりに、休憩に入ったホールの先輩が「さっきのことなんだけどさ〜」とにやにやしながらこのお店の暗黙のルールとやらを教えてくれる。
「そーそー。なんかね、この辺の会社に勤めてるらしいよ。で、たまにおやつ買いに来たり、コーヒー飲んでくんだけど、店長の反応が面白いからなるべくホールに出させるといいよ。ベストなのは店長がホールにいる時に来てくれることなんだけどね〜」
はぁ、と気のない返事が出てしまったのは、私が店長さんのことをまだよく知らないからだろう。見た目の割に優しくて真面目な人だと言うことがわかって安心したものの、かと言って先輩のように揶揄う
……
と言うのもまだ乗れない提案だった。
「彼氏さんってどんな人なんですか? とんでもないイケメンとか?」
正直人のカレカノなんて興味はあんまりなかったけど、バイト先の人間関係を初日から拗らせるのも嫌で、話を振ってみる。
「なんかね、大型犬って感じ! 今度シフトの時に来たら絶対教えるから! エグいから」
わー楽しみですー、と答えたものの、本当に興味はなかった。
なんと言うか、もしかしてこれただ単に店長さんがバイトのみんなに好かれているだけで、つまり身内の贔屓目なんじゃないのか? と思ったので。もし彼氏さんがいい人なら、店長さんの人の良さも合わさって総合評価とか上がるだろうし。
と、思っていたけれど、先輩や他のバイトの子達が言う通り、店長さんの彼氏さんは普通に、本当に、ただのイケメンだったので慄いてしまった。
もしかしたら外面は演技かもしれなかったけれど、「えっと注文は
……
」とちょっとおどおどしながら注文を取りに行った私ににこっ、と笑顔で注文してくれる顔を見て、この人が? と動揺するあまり、二回も注文を聞き返してしまった。それでも嫌な顔ひとつせず、見ない顔だけど新人? 頑張って! と応援の声をかけてくれる。青い瞳がきらきらしていたし、着ている白いシャツがよく似合っていた。あ、本当に指輪してる、と思わず目が左手の薬指を見てしまった。
注文を取り、キッチンにいる先輩に思わず声をかけ、「アレですか」と言ってしまう。アレよ、アレ。パフェにフルーツを刺しながら、先輩が笑う。
アイドルタイムの店内のホール担当は私と店長さんだけだった。店も三席ほどしか埋まっていないので、本当は一人で回す時間帯だけれど、まだ私が不慣れなので、店長さんが何かあった時のヘルプとして見てくれている。
店長さんがいたから店に来たのかも、と考えていると、「この間は会いたくないみたいですー、って言ったらしょんぼりしてたからねー」と恐ろしいことを言う。
「先輩それ、店長さんよく怒らなかったですね
……
」
「え、だって店長絶対本気では怒らないし、ヘーキヘーキ」」
もしかしてこの店で一番怖いのは先輩なのかもしれない、と思いつつ、背後から聞こえてくる会話に耳をそば立ててしまう。
*
「
……
この時間に来るな」
「ちょっと休憩したら帰るよ。僕の方が今日は帰りが早いから、何か買うものはあったかなと思って」
ファイノンはブラックコーヒーとミックスサンドを運んできたモーディスに、あれ、普段はバイトがいたら自分で持ってこないのに君が来るんだ、と考えていた。
「メッセージにしろ」
「だって君、勤務中は絶対にスマフォは見ないじゃないか。帰りまでに君が休憩にはいらなかったら、聞いたところで返事が来ないだろう?」
「
…………………
」
はぁ、とため息をついたモーディスは「買い物はない。わかったら食べて帰れ」となんとか絞り出した。
「ところで、この間は僕に会いたくなかったって聞いたんだけど」
「誰にだ」
「多分今キッチンにいる子?」
モーディスはあいつか、とため息をつきはしたが、かと言って責めるつもりにはならなかった。今のところ彼女の仕事ぶりには問題がない、はずだったので。
ファイノンも俺が困った顔をするのが見たいだけだろう、と決めつけて、機嫌が良さそうに笑っている男を見下ろす。
「俺のいる日にかまって欲しそうに来るなとは前から言っているだろう」
「付き合う前は僕が来るたびに嬉しそうにしてくれたのに」
「
…………………
」
眉を下げてしょんぼりしているファイノンに、いやこの顔は芝居のはず、とモーディスは胸の痛みを無視し、錯覚だ、と言い聞かせる。
確かに付き合う以前はファイノンが店に来るたび嬉しかったのは事実だが、今となってはスタッフも妙にからかってくるしで、恥ずかしいのでやめて欲しいとしか思えない。
「まあとにかくこれを食べたら帰るし、買い物はなし。オーケー?」
「
……
そうだ」
すみません、と声が響き、モーディスはファイノンと会話を打ち切る。呼ばれた方へ歩を進めようとすると、新人が足早に客の方へと駆けて行っていたので、そのままファイノンを放置し、料理の受け渡し口まで戻る。
「おい」
「はいはーい」
モーディスが声をかけると、キッチンに入っていたバイトリーダーは「相変わらずラブラブですね〜」と余計なことを言う。
オーダーが入った通知音が響き、彼女はレシートをぴっと機械から破ると、「えーとカフェオレと〜」と言いながら、機嫌が良さそうに調理に入ってしまう。
「余計なことを言うな」
「あれ、もしかして喧嘩になっちゃいました?」
あの程度でなってたまるか、と思いつつ「あいつが調子に乗るからやめろ」と真顔で告げると、「いや、流石にお腹いっぱいなんでその報告いらないっす」と顔を顰められる。理不尽だった。
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