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ながひさありか
2025-02-26 00:01:19
4611文字
Public
STR-Phaidei
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ファイモス:パフェの行方
現パロ。付き合った当初とかの話です。いろいろふわふわ自由です。
今夜も残業してもらうことになるので、一旦食事にして、一時間後からまたやりましょう。
目の下にクマを作った上司の言葉に、正直食事休憩をとるより一時間早く帰りたい、と思った。けれど、「そうと決まればさっさと食事に行くぞ!」と三つ子の先輩は容赦なく僕とキャストリスさんを事務所から追い出し、電気を消して、鍵をかけた。追い込みの時期こそチームワークが大事だからな! とトリアン先輩は楽しそうにスキップしていたけれど、多分、疲れすぎてハイになっていたのだと思う。
そうして連れてこられた場所というのが、会社から歩いて十分のモーディスの勤務するカフェだった。店は先月新装オープンしたばかりで、結構評判がいいとキャストリスさんが教えてくれる。
平日の夜八時を回った店内は比較的空いていて、意外なことに食事も充実していた。
モーディスは上司
――
アグライアの昔なじみで、少し前までパーソナルジムのトレーナーをしていたけれど、趣味を仕事に活かそうと決めて、現在は雇われ店長をしているそうだ(どうして雇われなのかというと、経理が苦手なので、独立するのは現実的ではないと言う事らしい)。
残業続きでへろへろになっている僕たち(トリビー先輩をはじめとした三つ子の先輩たちだけは元気だった)にメニューを持ってきたモーディスは、いかにもSNS映えしそうな可愛い店内にはあまりにも似つかわしくない風体だった。清潔感はあるけれど、半そでのシャツからも襟からもいかつい刺青が覗いている。
アグライアとトリアン先輩はメニューを選ぶ傍ら普通に世間話をしていたが、僕はオススメメニューを聞きながら、彼が勤務すべきはせめてバルとかパブだろうと思った。後でお店のSNSアカウントを見たが、いかにも女性向けという感じの写真ばかりだったので余計にそう思った。
頼んだオムハヤシやパスタが運ばれてくると、アグライアが「あと三十分で戻ります」と食べる前から消化に悪いことをいった。
「相変わらず忙しいのか?」
自家製レモネードをを運んできたモーディスがアグライアに尋ね、アグライアは「今週末には落ち着く予定です」と若干死んだ顔でため息をついた。
その頃、僕たちは春の
コレクション
ファッションショー
の準備をしていた。モデルがなかなか決まらなかったり、決まったと思ったら体調不良で辞退されたり、アグライアの気に入る布や糸がなかなか手に入らなかったり、手違いで型紙と違う服が仕上がったりと、とにかく近年稀に見るトラブルに見舞われていた。
僕とキャストリさんはアグライアやトリアン先輩たちのように会話をする気力も、デザートのプリンをつつく胃の容量もなく、殆ど飲み込むみたいにオムハヤシを平らげ、食後のコーヒーを啜っていた。
アグライアが告げた通り、きっかり三十分で席を立ち、会計をすませていると、「持って帰れ」とモーディスが僕にテイクアウト用の手提げ袋を差し出した。
「お前には昔世話になったからな、サービスのフルーツサンドだ」
僕たち以外に客のいなくなった店内で、モーディスはアグライアに向かってそう言った。
「ありがとうございます。これで朝まで頑張れそうです」
珍しく本当に嬉しそうに口にしたアグライアに、モーディスは複雑そうな顔で「
……
体には気をつけろよ」と言った。隣で聞いていた僕も、いや、せめて二時くらいで一旦帰らせてほしい、と思った。
お腹の満たされた僕たちは再び修羅場に戻り、二時頃にフルーツサンドをつまみながら休憩をとった。フルーツサンドを意識して食べたのが人生で初めてだったせいかもしれないが、フルーツと生クリームの甘さが疲れた頭と体に異常に沁みた。
もうこんな職場やめてやる、と修羅場中に思うのは今回がはじめてではなかったけれど、今回こそは心底そう思った。だけど、喉元過ぎれば熱さを忘れると言うべきか、コレクションが無事に成功して、アグライア、ひいては僕たちのチームがきちんと評価されると、まぁもう少し頑張ってみよう
……
と言う気持ちになっていた。
全員で夕食を取ってから、アグライアとトリビー先輩たちはモーディスの店でおやつを買うのが習慣になったらしく、事務方、というか雑務全般を引き受けていた僕は時々モーディスの店におやつを受け取りに赴くことになった。受け取りの際にぽつぽつ世間話をしているうちに、見ている映画だとかドラマの好みが実は結構似ていることに気が付いた。
その頃、仕事に忙殺されて友人のいなかった(正確には疎遠になっていた)僕は、もし休みが合えば一緒に映画に行かないかと彼を誘った。コレクションの後は三週間程のリフレッシュ休暇が許されていたので、僕がモーディスの休みに合わせるのは簡単なことだった。
そんなこんなで時々一緒に遊びに行っているうちに、彼の家で食事をご馳走になったり、僕の家で古い映画を一緒に見たりする仲になった。
仕事の忙しい時もおやつを買いにいかされたり、途中で抜け出してテイクアウトのコーヒーと軽食だけを買って帰るような生活を続けているうちに、なんだかもう少し彼と一緒にいたいと思うようになっていた。
五度目に一緒に映画を見たその日、珍しくハズれを引いた。なんとも消化不良な気分を味わい、もう一本見てから帰ることにした。次の映画を待つまでの一時間で「敵情視察だ」と言うモーディスに連れられてカフェに行き、話の流れで「恋人はいないのか」と尋ねた。モーディスは、少し間を置いて「今はいない」と答えた。
へぇ、モテそうなのにな。気のないフリをして続けつつも、内心よかった、と思った。「今は」いないなら、いつかは作るつもりがあるってことだろう、と。
二本目の映画は一本目と違い、ちゃんと面白かった。そのせいか、余計に一本目のつまらなさってなんだったんだ? なんて話で盛り上がったが、どういう話の流れだったか、最終的に「選んだ僕のセンスが悪い」というオチになった。いや、君だって「それで構わない」って言ったじゃないか、と少しむっとしたけれど、なんだかモーディスが楽しそうだったので、まぁいいか、と単純に思った。彼とは時々しょうもないことで言い争い
……
とまではいかない口論に発展することがあったが、お互いに忘れっぽいのか、はたまたモーディスがさっぱりしているのか、気まずい別れをしても、アグライアにおつかいを頼まれて店にいけば、いつも通り、楽しく世間話ができる相手だった。
映画の感想を言い合って別れた後、家に帰ってから次の休みの予定を聞いた。感想を言うのに夢中で、次の予定を聞くのを忘れていたからだ。
その頃には、出会ってから一年近くが経過していた。
僕としてはデートのつもりで夕食の約束を取りつけたその日、モーディスに好きだと告白した。
食後にコーヒーと桃のパフェを運んできた店員が、果たしてどっちがどっちなのかと悩みつつ最終的に僕の前にパフェを置き、モーディスの前にコーヒーを置いたのを、どうしてかいつもこうなるな、と笑って交換したあとのタイミングで、何故だかわからないが、今言うべきだと思って口にした。
モーディスは細長いパフェ用のスプーンを持ち上げたまま、ぱちぱち、と瞳を何度かまたたかせて、僕をじっと見つめた。そういう顔をすると、案外目の大きいモーディスの表情がいつもより幼くなる。心臓が飛び出しそうになりながら答えを待っていた僕に、モーディスはスプーンの置き場所に迷って何度か手を上下させていた。パフェの器のはしから、溶けはじめたアイスがあふれて、テーブルに流れて行く。
『ごめん、食べ終わってから言うべきだった。溶けたらもったいないし、食べてから答えを聞かせて欲しい』
ナプキンでテーブルをふきながら慌てて口にした僕に、「気にするのはそこなのか?」とモーディスが呆れた声で言う。
え、だってそうだろう。モーディスが甘いものを好きだってことは知しっていたのに、僕はそれを食べ終わるのを我慢できなかったんだから。
『ファイノンのどこがよかったのですか?』
なんとなく、礼儀かと思ってアグライアにモーディスと付き合うことになったことを伝えると、彼女は僕の目の前で真顔のまま高速で携帯にメッセージを打ち込み、ピコッと返信が届いた瞬間、そのままモーディスに電話をかけ、開口一番そんなことを言った。せめて僕のいないところで聞かないか? と思ったが、口を開こうとした僕に、アグライアは片手を差し出して制止した。
彼女は二言三言モーディスとやり取りをすると、通話を切り、事情はわかりました、と何故か重大な審問でも終えたかのような声を出した。
アグライアとは実は息子と母親ほど歳が離れていることを唐突に思い出し、もしかして彼女にとってモーディスは息子のようなものなのだろうか、とびくびくしながら構えていると、「あなたもいい大人なので、別に口出しするつもりはありません」と目の前で電話をかけたとは思えないことを言う。
『以降は報告は不要です。仲良くやりなさい』
それでは私は帰ります、と普段はなんだかんだ遅くまで事務所に残っているアグライアは、あの日に限ってトリビー先輩をつれて飲みに行ったと後日トリアン先輩から聞いた。それがどういうことなのか未だにわかっていないが、付き合ってしばらくして僕がモーディスの家に転がり込むようになり、家賃がもったいないだろうと叱られて同棲をはじめた今になっても、アグライアから何かを言われたことはない。
*
「おい、寝るならベッドに行け」
「あれ
…………
、寝てた?」
ばさ、と雑誌が落ちる音がした。モーディスが雑誌を拾い、ローテーブルに置くのが目に入る。夕食の後、ソファで仕事の資料を読もうとして、いつの間にか眠っていたらしい。
眠い目を擦ってあくびを繰り返していると、「さっさと寝ろ」とモーディスが僕の両手を掴み、無理やり立たせようとしてくる。乱暴だー、と適当なことを言いつつ抱き着き、首筋にキスをすると、腰を持ち上げられて、「寝ろ」と無慈悲に寝室まで運ばれてしまう。
「君も一緒に寝よう」
「まだやることがある」
「それって僕よりも大事なのかい?」
半分瞼を下ろしながらうだうだ絡んでいると、ベッドに腰を下ろしたモーディスが笑いながら僕の髪を梳いてくる。
「まぁ、お前より大事な用ではないな」
「
……………………
」
「聞いておいて黙るな」
笑ったモーディスに鼻をぎゅっ、とつままれ、痛いよ、とぼそぼそ口にした。くそ、かっこわるいな、と今更自分の言動に思ったが、モーディスに甘やかされるのは悪い気分でもないのが救えない。
「ゆっくり寝ろ」
腹の上をぽん、と優しくたたいたモーディスがベッドから立ち上がるのを見て、モーディス、と名前を呼びながら手首を掴む。
大人しく振り返ったモーディスをじっと見つめていると、僕の言いたいことがわかったのか、そっと屈んでくれる。
おやすみのキスがないと寝れないなんてガキか、と以前言ったくせに、結局モーディスはキスをしてくれて、もう一度「寝ろ」、と呟き今度こそ寝室を出て行く。
耳が少し赤くなっているのを見ながら、今度、おいしいケーキを買ってきてあげようと思いながら目を閉じた。
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