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ながひさありか
2025-02-24 04:52:29
3354文字
Public
STR-Phaidei
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ファイモス:デザートを先に食べたっていい
現パロ。相変わらずふわふわです。
『散歩ついでにお店に行くね』
休憩時間に携帯を確認し、ハートを撒き散らしている犬のスタンプのついたメッセージを見て、モーディスは「今日は忙しいから来るな」と高速で返信した。
三日前にSNSで新作スイーツの宣伝をしたところ、異様なバズり方をした。一体何が要因だ? とアルバイトや副店長の女性陣と議論したが、どうにもピンとこない。映えてはいると思いますけど、いつもと変わらないですよねえ。副店長の出した結論にモーディスも同意だった。
そんなわけで、普段はそれほど混まないモーニングからずっと忙しく、バイトに一時間早く来てもらったり、休憩時間をずらしてもらったりしている有様だった。ウェイティング何組? 十です、とドアの向こうからピリピリした声が聞こえてくる。客の前で態度にだすなと注意しておいた方がいいな、と考えていると、ファイノンから悲しそうな顔をしたスタンプが送られてくる。
『来ても二時間待ちの可能性が高い。上がれる時間も不明だ』
そう返信すると、携帯を鞄へ仕舞う。勤務実績上は後五十分休憩が残っているが、今のうちに雑務をやる必要があった。昨日確定した食材の入荷数を再調整し、休みを取りたいと申告してきたバイトのシフトを修正する。それを終えると、もう休憩時間の終わりだった。
再び店内に戻り、キッチンとホールスタッフ両方に指示を出しながら、客を捌くことに集中した。あそこまで言えば、きっとファイノンは店には来ないだろう、と言うか来ないでくれ、と祈るように真剣に胸中で願った。
*
三時間も残業し、夕飯時になってようやく客足が落ち着いた。ようやく夜シフトのバイトも揃い、モーディスは副店長と入れ替わりで退勤することにした。
バックヤードで着替えをしてから鞄の中にしまった携帯を取り出し、ファイノンからメッセージが来ていないことを確認して電話をした。二コールで通話が繋がる。
『終わった? それともまだ帰れない?』
少しは拗ねているかと予想したが、意外にも通話先のファイノンの声は普段とあまり変わらなかった。それに少し安堵しつつ、「終わった。今から帰る」と口にする。上着に袖を通し、後ろで髪を纏めていたゴムを解く。
『すぐそばの本屋にいるからそっちに行くよ』
来なくていい、と口にしようとしたが、移動先を指定するのが面倒になった。了承して通話を切り、裏口から出て表へ回る。店の前でファイノンを待つのは落ち着かないが、と考えていると、モーディス、とすぐに声がかかる。振り返った先では、紙袋を持ったファイノンが笑顔で手を振っていた。
「お疲れ様。昼間にお店をちらっと覗いたけど、今日は本当にすごかったんだな」
店内に視線を向けたファイノンがそう口にし、モーディスは眉を寄せた。
「本当に来たのか?」
「散歩ついでだよ。君の言う通り待ち時間が長そうだったから、一旦は家に帰った。それより夕飯はどうする? 食べに行ってもいいし、テイクアウトにしてもいい。君は何が食べたい気分なんだ?」
ファイノンは携帯を取り出し、食べに行くならこの辺かな、と事前にリストアップしていたらしいイタリアンの記事をモーディスに見せながら、「ティラミスが美味しいらしいよ」と笑う。退勤時間が遅いと案外拗ねることが多い男にしては珍しく上機嫌だな、と思いながら「そこでいい」、と口にしようとして、「テイクアウトならどこだ?」と尋ね返す。
「ここから十五分先の中華かな。ほら、マンゴープリンが美味しかったところだよ」
「そこでいい」
「じゃあ適当に買ってくるから、車で待ってて」
ファイノンは上着のポケットから鍵を取り出し、モーディスに握らせようとする。一緒に行けばいいだろう? と鍵を受け取らずに首を傾げたモーディスに「まあまあ、疲れてるだろうから」とファイノンは無理やり鍵を握らせ、「あそこの駐車場に止めてあるから」と指差して足早に歩いて行ってしまう。
そんなに疲れているように見えるのか? とモーディスは携帯の液晶画面を鏡がわりに確認してみるが、自分ではいまいちわからない。まあ、そう見えているのなら休んでおくか、と駐車場へ向かい、車中でファイノンが戻ってくるのを待った。
三十分ほど経って、窓を叩いたファイノンからテイクアウトの料理を受け取り、後部座席へ置く。車内に作りたてのうまそうなにおいが広がり、モーディスはそこでようやく空腹なことを思い出した。どうやら疲れてわからなくなっていたらしい。
運転席に乗り込み、エンジンをかけたファイノンがシートベルトを閉めるのをぼんやり見ていると、「どうかしたかい?」と笑って尋ねてくる。優しくて穏やかな声が耳に心地良く、疲れた体に沁みてくるような気がした。
「
……
いや、流石に疲れたなと思っただけだ」
「ちょっと働きすぎだと思うよ。まあ、明日はゆっくりしよう」
そうだな、と答えた深いため息をつくと、モーディスは目を瞑った。
自宅まで三十分の道のりだったが、気づけば眠っていたらしい。ドアを開けたファイノンに肩を揺さぶられ、モーディスはようやく目を覚ました。
「食事は?」
「もう運んでおいた。あとは君が帰ってくるだけだよ」
ファイノンに手を引かれ、モーディスはあくびを噛み殺しながら車を降りる。食事の前にシャワーを浴びるべきだと思ったが、浴びれば、食事をせずに眠ってしまいそうだった。ぼんやりしたまま、手を引かれて帰宅すると、そこでようやくファイノンが手を離す。モーディスは玄関の鍵をかけ、上着を脱いだ。
室内にはすでに灯りがついていて、ファイノンが「僕も流石にお腹が空いたな〜」と鼻歌を歌いながらダイニングへ向かう。その背を追い、ファイノンがビールを冷蔵庫から取り出すのを見ながら「飲みすぎるなよ」と声をかけた。
「え、明日も休みなのに?」
ようやく不服そうな顔をしたファイノンに、モーディスは両腕を組み、どう切り出すか少し悩んだ。食事の後に言おうと思っていたが、今、口にした方がタイミングがいい気がした。
「それとも朝からデートしようって?」
「それはそれでいい考えだと思うが」
真顔で煮え切らない反応を返すモーディスに、ファイノンは首を傾げる。デートはしたいのか、と思うと頬が緩む。
とりあえず、とビールの栓を抜き、ボトルに口をつけようとすると、「それで仕舞いにしろ」とモーディスが感情の読めない声で言う。モーディスは飲めるくせに飲まない男だったが、ファイノンはモーディスに注意されなければ何時間でも飲み続けてしまうタイプだった。記憶をなくしたことはないが、二日酔いにはなる。それを心配しているのだろうか? と考えていると、モーディスがちょいちょいと手招きをする。
二人しかいないのに内緒話? とおかしく思いながら、瓶を棚の上に置いて、はいはい、とモーディスのそばに寄る。
「何?」
「
………………
」
呼んだくせに、モーディスはじっとファイノンの顔を五秒は見つめていた。あんまり見つめられるとムラつくんだけどな、と思いながら必死に煩悩を押さえつけていると、「おい」と今度は一転して不機嫌になった男が瞳を吊り上げた。
え、と首を傾げると「今日に限って挨拶もなしか?」と本当に苛々した声でモーディスが不満を表し、そっと腕を広げる動作をした。それでようやく合点がいき、ファイノンはモーディスを力強く抱きしめた。
「ごめんごめん、君もお腹が空いているだろうと思ったから」
「俺は食欲に劣るのか?」
珍しく『怠い』ことを言いながら顔を覗き込んでくるモーディスの姿に、笑ったら怒られそうだな、と思いつつファイノンは笑ってしまう。案の定ムス、とモーディスは不愉快そうに視線を下げながら、何故かファイノンの腰をくすぐってくる。
「君が怒るのを承知で言うけど、君の方が美味しいのは知ってる」
疲れてる君ってかなり色っぽいんだよなあ、と思いながら、ファイノンは腰をくすぐってくる手をそっと掴む。
今回の答えはお気に召したのか、ちら、と向けられた視線でモーディスの機嫌が治ったのがわかった。
「なら今すぐ食うか?」
「
…………………
え!?」
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