ながひさありか
2025-02-20 22:36:15
3303文字
Public STR-Phaidei
 

ファイモス:また後であたためなおして

現パロ書きたかったので現パロ。全部ふわふわです。

 土日祝日だけモーニング営業を始めることになった、とファイノンに告げた時、彼の眉がほんの一瞬だけ寄ったのを見逃したわけではないが。
 モーディスは完全に拗ねている様子の男を見つめながら、果たしてどう相手をすべきかと考えていた。
『へぇ、そうなんだ。君も出るのかい?』
 片方は出ることになるだろうな、と答えた際には、表情をすでに戻していて、まるで理解のある男のような顔をしていたのは何だったんだ、と文句を口にするのは簡単だったが、仕事から帰ってきて恋人と喧嘩をすることほど疲れるものもない。
 普段の休日(基本的にファイノンにとっての、だ)であれば仕事帰りに店の近くで待っているか、あるいは「散歩ついでだよ」と店に来てドリンクを頼むか、はたまた玄関で熱烈に出迎えるかのいずれかだったが、今日はどれもなく、ファイノンはリビングの大型テレビ前のソファにだらしくなく横になっていて、最近ずっと見ているらしいドラマを再生していた。
 ファイノンはただいまの声に「おかえり」と視線も寄越さずおざなりに返し、ほとんど台詞も聞き取れないような音量で画面を眺めている。
 十五時半を指している時計を一瞥してから、モーディスはとりあえず今夜と明日以降の食材を冷蔵庫にしまい、店で買ってきたザクザクとチョコレートのかけらの入ったスコーンを皿に乗せる。夕食の調理をするには少し早い時間だったので、少し休憩がてら、ファイノンの相手をしてやる必要があった。
 コーヒーを入れるために電気ケトルでお湯を沸かしながら、「お前も飲むか」と、コーヒーミルに豆を入れてガリガリと挽きながら尋ねる。
「どっちでも」
 拗ねている相手を気にしていないフリをしてかけた言葉は、相変わらずテレビから視線を外さないファイノンから、面倒臭い言葉として返された。
 ファイノンは寝転んだままリモコンを操作し、配信一覧に切り替えると、次に何を見るかおすすめをザッピングし始めている。
 朝の六時半から働いてきた俺の方が疲れてるんだが、と思いつつ、モーディスは二人分のマグカップを用意した。棚から蜂蜜、冷蔵庫から牛乳を取り出し、コーヒーを入れ、ブラックのままファイノンのマグカップに注ぎ、残りをカップの半分ほどまで自分のマグカップへ。そうしてから牛乳を温め、ハニーカフェオレを作った。
 マグカップ二つとスコーンの二つ乗った皿を持ってソファに行き、はじの方にようやく座れる余地を残しているファイノンの足をじっと見る。足をどかせろ、と言うのは簡単だっだが、やっぱり別に喧嘩をしたいわけではない。
 つまらなそうに画面を眺めていたファイノンは無言で体を起こし、「隣に座ってもまぁいいよ」と言わんばかりの顔をする。
 モーディスはファイノンの無駄に長い足を蹴っ飛ばしてやろうかと一瞬思ったが、飲み物を持ったままでは散時になるかもしれなかった。ローテーブルにマグカップと皿を置き、「二月の新作だ」とスコーンをひとつ取って言う。
「君がチョコレート選びをしたんだっけ?」
「そうだ」
「すごく甘そうだ」
「だからお前のコーヒーはブラックにしてある」
………………………
 勝手に気まずくなっているのか、むむむ、と唇を結んで眉を寄せている男を無視してスコーンに齧り付く。
 温めればよかったのに、ファイノンに腹を立てて忘れていた。
 数秒悩んでから皿に戻し、ファイノンのスコーンごとやっぱり温めようと皿を持って立ち上がりかけたモーディスの手首を、ファイノンがつかむ。
「待った。捨てるとか言わないでくれ、ちゃんと食べるから」
 ファイノンのなぜか慌てた様子に、モーディスは皿を持つ手を掴まれている理由に数秒かけて辿り着き、思わず笑う。
……ヒーティングを忘れたのを思い出しただけだぞ」
「え」
「少し温めた方がチョコレートが溶けて美味い」
…………………あ〜……
 ぱっ、と手を離したファイノンは右膝の上に肘をついて手のひらで顔を覆うと、左手を虚空でふりつつ、「そうだよな、君が捨てるはずがない」とかなんとか、もごもごと恥ずかしそうに早口で呟く。よっぽど自分の勘違い、もとい、不機嫌をアピールするような空気を作っていたことが急に恥ずかしくなったのか、「朝早くからお疲れ様」と突然まともなことを言う。
 首の後ろまで少し赤くなっていることに気づき、モーディスは本来であればお前の態度は最悪だった、と詰るべきだろうと考えながら、眦をゆるめて、皿をテーブルに置く。
 かろうじてパジャマからは着替えていたが、いまだに寝癖のついたままの男の髪をそっと手でなでつけてやり、「昼は食べたのか?」と笑う。
 頬杖をつき直して顔を横に向けたファイノンが「一応は」と呟く。彼がこう答える時は本当に「一応」で、プロテインバーをかじっただけだとか、そんなレベルの話だった。
「軽く作ってやってもいいが、どうせ二時間もすれば夕飯を仕込み始めるから我慢しろ」
 降りてきたファイノンの前髪を指先ですくい、耳にかけてやると、「だからスコーンは食べるよ」と気まずそうに返ってくる。また温めるのを忘れていた。
 モーディスはファイノンの髪から手を離し、そうか、と皿を取って今度こそソファから立つ。
 電子レンジに皿を入れて温めのスイッチを押すと、予想通りいつのまにか後ろに立っていたファイノンの腕が伸びてくる。
 肩口に顔を埋めながら抱きしめてくる男に「機嫌がなおったのか?」と揶揄うように言えば、「いや別に僕は……」と言い訳が続く。
「一応言っておくが、今朝は出る前に声をかけたぞ。声をかけろと昨日お前がうるさかったからな」
…………………
 まあ、起きなかったわけだが、とモーディスは今朝、五分声をかけても起きなかったファイノンの姿を思い出しながら口にする。
 自分が家を出てから目を覚ました男が約束を違えられたとショックを受けたり、いやもしかすると自分が起きれなかっただけかもと自省したりする内に、結局「休日の朝を一緒に過ごしてくれないなんて、僕は君にとってそんなにどうでもいい存在なのか?」とか、余計なことを考えたのだろう。
 そもそも、付き合い始める前から、ようは二人がただの友人であった頃から、土日祝日休みの少ないモーディスに譲歩するような姿勢を見せていたのはファイノンで、それをありがたいと思ってはいるから、モーディスも休日の片方はなるべく仕事を入れないように努力もしている。たまたま今週は二日とも休みが取れなかっただけで、かわりに仕事から帰ってきて時間を作っているし、そんなに構って欲しかったのであれば時々恥ずかし気もなくやっているように、店まで来ればよかったのだが。
(まぁ……
 と言いつつ、モーディスも、多少はファイノンに悪いな、とは思っていた。だから理不尽な拗ね方に怒って声を荒げることはしなかったし、彼のコーヒーをいれてやりもした。昨晩、「どうしても」としたがったファイノンに「五時起きだぞ」と呆れて先に眠りについてしまったのは事実だったので。
 あたため完了の電子音が響き、モーディスは背中からのしかかられたまま、レンジの戸を開ける。開けたまま、皿を取り出さず、腹の前に回されたファイノンの手に片手を重ねて、頭を撫でてやりながら、髪にキスをする。頬も唇も鼻も、髪に隠れて見えなかったからだ。
 レンジの戸を開けたのは、閉めたままでは電子音が響き続けてうるさいからと言うだけで、別にこのまま冷めてしまってもいいか、と思っていた。風味は多少落ちるが、また後で温めればいい話だった。
 モーディスが予想した通り体を反転させられたかと思うと、カウンターキッチンに尻を乗せるように腰を持ち上げられる。
 唇を重ねてくる男の首に手を回し、キスの合間に「シャワーは浴びるぞ」と笑う。
「そのままでいいよ」
「お前が良くても俺はごめんだ」
……じゃあ二人で入るなら」
 まあその程度はいいか、と待ても聞けずにシャツの下に手を入れてくる男に、「おい」と怒ったフリをした。


wavebox→ https://wavebox.me/wave/89uagf8c6xx6ggar/