陽の落ちることのない今、時間は五つに区切られているものの、朝と夜の感覚は誰しもが希薄だった。それでも夜は来るし、朝と明日がくる。
どれほど夜が遅くとも、早朝から起き出して鍛錬に勤しんでいそうな雰囲気をしているくせに、意外と朝の弱い男だ。ファイノンは隣で寝息を立てながら無防備に眠っているモーディスを見つめ、そんなことを思う。
昨晩、随分と遅くまでモーディスと触れ合っていた。戦闘の後はお互いひどく昂ったまま、熱の続くことが多い。
ピュエロスで体を冷ましたところでどうにも治まらない日は、お互いを都合よく使うことにしている。そういうわけで、昨晩は浅くぬるい湯船でモーディスに治めてもらっていた。「いい加減休ませろ」、と口から白濁を吐き出してため息をつくモーディスを宥め、もう一度付き合ってもらってから、ようやく就寝した。だから、彼には少しだけ無理をさせた自覚はあった。
ファイノンは眠っているモーディスを起こさないよう床を抜け出し、眠る前に日差し避けのために閉めていた重い窓を開け放つ。渇いた新鮮な空気が部屋へ流れ込み、バルネアから微かな石鹸と花の香りが漂ってくる。いつもと変わらない日常に安堵しながら、眠っているモーディスを振り返る。
日差しを受けた肌が眩しく輝いており、その姿はまるで床の上で眠る美しい彫像のようだった。金から朱へと色の変化する髪が陽光を反射し、彼の体に無造作に張り付いている。
ファイノンは足音を殺しながら彼のところへ戻ると、まるで忠誠を誓う騎士のように跪き、彼の美しい髪をそっと撫でた。
昨晩、ファイノンが櫛を通し、オイルを揉み込んだ髪の艶やかさな手触りに満足していると、「寝込みを襲うな」と掠れた声が落ち、鼻先を拳がかすめて行く。
「どう見ても襲ってないだろ」
反射で顔を引いたファイノンが不服そうに呟き、反撃するかわりに飛んできた拳を掴む。うっすらと瞼を開いた金色の瞳がファイノンを見上げ、小さくあくびをする。
何度か瞼を開けようと奮闘しているモーディスの姿に、クレムノス人は野蛮で残忍だと信じる人々が見たら唖然としてしまうだろう、と感じて笑みが零れる。勿論、英雄であるこの男のこんな姿を民に見せるわけにはいかないから、ファイノンだけが知っていればいいことだった。
「起こしてごめん、今日はなにもないはずだから、もう少し寝ていればいい」
ファイノンは受け止めた拳に唇を寄せながらうっとりと囁き、ぼんやりと見上げて来るモーディスを見下ろす。モーディスは眠たそうな金色の瞳を眇め、掴まれた手をゆっくりと振り、ファイノンから離させる。
大型獣のようなゆったりとした動きで上半身を起き上がらせると、長い髪を片手でかきあげ、「さすがに眠りすぎだ」と零しながら、ファイノンの方へ視線を送る。
金色の瞳に陽光が差し込み、ちかりと炎のように瞬くのが見えた。陽に透けた髪の輪郭もまた同じように輝き、ファイノンは瞬間的に目を伏せる。
「どうした」
ファイノンから顔をそらし、ぼんやり中空を眺めながら、モーディスがまたひとつあくびをする。
「なんでも。モネータを信仰しようかなとか思っただけ」
お前が? と揶揄うような声が返って来るのを期待したが、「それはすでにアグライアのものだろう」と生真面目な言葉が返って来るだけだった。
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