ながひさありか
2024-12-18 03:30:32
3174文字
Public STR-Mozeqiu
 

モ椒:現パロっぽい話

全てがふわふわで続かない。19歳と40歳(童顔なのでそうは見られない)くらいのイメージ(飛霄は26くらい)

 帰宅した瞬間、他人の気配を感じた。今朝、家を出る際に鍵を閉め忘れただろうかと一瞬思案したが、そもそも今、鍵を回してドアを開けたことを思い出した。
………………
 泥棒だろうか。杞憂であればいい。そう思いながら、息を殺して恐る恐る短い廊下を歩む。電灯のスイッチをつけた瞬間に襲われるような気がしてつけられなかった。どこの部屋にも灯りはなく、室内は暗く静まり返っている。それなのに、他人の気配があった。
 ぞわぞわと背筋を流れていく不気味な気配に心臓がどくどくと音を立てて跳ねている。うるさい。恐る恐る足音を消して、慎重に室内を進む。
 何か武器になるようなものはないだろうか。鞄を持ったまま立ち止まり、いや、持っていたとしても何もできないだろうと思い直す。
 物音。心臓がすくみ上がり、鞄を落としそうになる。叫び声をあげそうになるのを堪えて、音を伺う。ドアの真ん中の長方形のすりガラスから、光が漏れてくる。リビングの灯りがついたのが見え、足が止まる。
 ドアを開けずに廊下を引き返し、外に出て警察に電話をするべきだと思った。携帯電話が尻ポケットに入っていることを確かめ、熊と対峙した時のようにドアを見つめたままそろそろと玄関に向かって後退する。
「あ」
 と、廊下に積み上げていた段ボールに体がぶつかる。先週、部屋の大掃除をして、古本屋に売りに出そうとしてそのまま何もしていなかった本だ。段ボール二箱を積み重ねていたが、収まりきらなかった本をその上に積み上げていた。週末にどうにかしようと思ってそのままにしていたので、自分の怠惰さを呪う。
 積み重ねていた本が揺れて、床に落ちていくのが視界にスローモーションで映っていた。思わず片足を差し出すが、到底受け止められる量ではない。
「いっつ……!」
 足の甲に落ちた本の痛みに声を上げてうずくまる。本がドサドサと落ちて、あたりに散らばって行く。ガチャ、と背後でドアが開く音に、うずくまったまま飛び上がる。
 くそ、こうなったら本を盾にするしか……、と慌ててそばのハードカバーを掴んで勢いよく振り返る。
……何してるんだ?」
 ドアの向こうから、見知った青年が顔を出していた。え、と混乱する。もちろん強盗の類でなくよかったのだが、予想外の来訪者だった。
「そ、それは僕の台詞ですよ! 君こそ何してるんですか僕の家で」
 ドアを開けた無表情の青年が、無言で近寄ってくる。泥棒かと思いきや知り合いだった。気が抜けた瞬間、足の甲に激痛が走る。
「あたた……、君ね、来るのは構いませんが、連絡ぐらいしてくださいよ……
「いつきてもよかったんじゃないのか?」
 うずくまる僕のそばにしゃがみ込んだ青年——モゼが、「歩けるのか?」と心配そうな声で言う。平気ですよ、とため息をつきながら立ち上がり、壁に手をつきながら片足を上げ、ぴょんぴょんと歩いた。折れたりヒビが入ってはいない気がしたので、冷やして湿布を貼っておけばいいだろう。
「っわ、」
 ところが、気づけば体は宙に浮いていた。え? と声を上げた僕の太ももと背中の下にはモゼの腕があり、軽々と抱えられていた。
「あの、すぐそこですし歩けるんですが……
 と言う訴えは聞き入れられず、モゼは無言で僕を抱えたまま、つま先をドアの隙間に差し込み、行儀悪く足でドアを開いて、ソファまで僕を運んでしまう。恭しく丁寧に下ろされたかと思うと、靴下をすっぽぬかれ、「待ってろ」と靴下を持ったままモゼが消える。洗濯カゴに入れに行ったのだろう。
 すぐに戻ってきたモゼは棚から救急箱を取り出し、ソファの前のローテーブルに置く。
「これでいいか?」
「どうもありがとう……
 なんだかいまいち釈然としない、と思いながら、とりあえず湿布を貼ってテーピングをしておく。明日は休日だ。シャワーは朝でもいいだろう
「ではなくて!」
 救急箱に湿布と包帯をしまっているモゼを見ながら、ハッとして声を上げた。
「それで、何の用でうちに?」
 彼は、一年前まで隣に住んでいた甥っ子のような存在で、彼の保護者であり、僕の古馴染み兼現職場の上司の飛霄に頼まれて、食事だの勉強だのの面倒を見ていた。別に彼女がネグレクトをしているわけではない、と言うより、モゼの家庭環境は複雑すぎるし、彼女は仕事が忙しすぎた。
 当時、仕事に疲れて休職し、田舎に戻っていた僕の前に現れた彼女は、幼いモゼをつれて「面倒を見てくれない?」と僕に発破をかけるつもりだったのかなんなのか今もよくわからないが、ともかくとしてそう口にした。結果的にうまく行っているので、彼女のやり方はきっと僕には合っていたのだろう——と思うが、改めて考えるとあまりにめちゃくちゃな話だった。
 さておき、そう言うわけで……モゼが幼い頃から家の合鍵は渡してあったのだ。大学に通うまで、学校や部活が終わればうちに来てもらって、家の中で好き勝手過ごしていいと言っていた。
 家の中を掃除してもいいかと申し出があってからは、見られて困るものもなし、家の掃除もしてもらっていた。男やもめの自由な独居生活にあぐらをかき、仕事に関するもので部屋を一つ潰していたし、埃っぽい書斎(もちろん本がダメにならないよう、湿度だけは気をつけている、つもりだった)に入りきらない本をありとあらゆるところに積み重ねていた。それを見るのが耐えられないと言う話だったので、一応決まった法則で物をしまっていた一見無秩序な棚を左上から右下に向かって分類し直し、整理をしてもらったりもした。
 話を戻すことにする。
 そんな風に、半ば同居しているようなものだったモゼは一年前、大学入学を機に引っ越して行ったはずだった。
 ここから大学までは片道十三システム時間もかかってしまうので最初は進学を渋っていたようだが、スポーツ推薦(宇宙総合格闘術だとかなんとか聞いていたが、全くの門外漢なので詳細を今も知らない)で決まった入学だったので、他校も受けずに通うことした、と飛霄からは聞いている。
………………ホームシック」
「そんな真顔で……。まぁいいでしょう、そう言うことにしておきます。それで、夕飯は食べたんですか?」
 とてもホームシックになっているとは思えない無表情さで答えたモゼに、わざとらしく肩をすくめてやりながら尋ねる。
「お前が帰ってくるのを待ってたら寝てた」
「ああ、それで暗かったんですね……
 帰ってきたタイミングでモゼが目を覚まさなければ、リビングに足を踏み入れて灯りのスイッチを入れた瞬間、ソファで寝ていたモゼを見て叫び声を上げていたのかもしれない。果たしてどちらの方がマシだっただろう、と思いつつ、「次からはちゃんと連絡してください」とようやく携帯を取り出し、やはり事前連絡がないことを確かめた。
「簡単なものしか今夜は作れませんよ。それでいいですね?」
 ゆっくりと立ち上がり、足の痛みが酷くないことを確かめながら冷蔵庫に向かう。
「風呂を入れてくる」
 僕の問いかけには返事を返さず、モゼが部屋を出て行くのを見送りながら、なんと無く、懐かしさを感じていた。昔はこんなやりとりをほとんど毎日していたのに、たった一年離れていただけでそんな風に思うこと自体がどうかと思うのだが。
「椒丘」
「バスタオルの場所なら変わってませんよ」
 風呂場へ向かったはずのモゼがすぐに戻ってきたのを、見て、首を傾げる。
「ただいま」
 君の方が早かったわけですし、逆じゃないですか? と思ったのは顔に出ていただろう。
 気にした風もないモゼを見つめ返しながら、「おかえりなさい」と口にすると、僅かばかりの変化だったが、モゼにしては嬉しそうに、口角を持ち上げて微笑んだ。


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