・前回→
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「なるほど
……」
モゼの端的な説明に、孤族の女は複雑そうな顔でそう答えた。妓楼の一室。赤を基調とした豪奢な家具と寝具が揃えられ、甘ったるい香の香りが満ちている。煙管に火をつけ時折煙を燻らせていた彼女は、「こんなことをお客さんに言うのもどうかと思うんですが」と恐る恐る口を開く。
「そんな人、やめた方がいいと思いますけどね〜」
その言葉に、モゼは答えない。そんなことは他人に言われなくてもわかっていたが、それでもどうにも気持ちの整理がつかずにここまでやってきてしまったのだから。
昨日、帰宅してとりあえず眠りにつき、翌朝早くに目を覚ましたモゼは、朝の鍛錬をしながらぼんやりと椒丘に言われたことを振り返っていた。昨晩はショックで頭が回らなかったが、何度考えても椒丘の態度も言葉も腑に落ちない。恋愛感情を向けられること自体に嫌悪感があるわけではないだろう、と思っていた。過去、言い寄られている場面を何度か目撃しているが、追い払った後に、椒丘が拒絶反応と言うか、悍ましいだのなんだのと口走るところは聞いたことがなかった。椒丘が告白を真面目に取り合わない可能性は散々考えていたが、あんな風に、体の関係だけなら構わないが、と斜め上の回答をしてくるのは予想していなかった。
別に椒丘とセックスがしたくて告白したわけじゃない、と言うのは簡単だったが、それだって「今は」と言うだけで、もちろんいつかはしたいと思っていた。そういう意味で好きになってしまっていたし、いつからか彼の一挙手一投足に見惚れていた。白い肌、顎の輪郭、鼻筋、細い腰、すらりとした手足。桃色の耳が愛らしく動く様や豊かな尻尾がふわふわと揺れているのを見ると時々胸が苦しかった。調理をしている時の横顔、味見で匙を口許に運ぶ手と唇、舌。その手に触れて欲しいと思ったことが何度もあったし、反対に触れたいと思ったことだって何度もある。悪いことだとわかっているのに、頭の中で汚したことだって何度もあった。毎度のようにそれを後悔している。それでも時々、どうしてもそう言う気分になってしまうことがあった。
重い足で妓楼を訪れたモゼは、勧められるままに開いたキャストの一覧から、無意識に孤族を選んでいた。部屋に行き、キャストの姿を見た瞬間、こうしてまた自分の欲望と向き合わされている。
椒丘に言われたことはもしかすると事実で、本当はただ彼としたかっただけなんじゃないか? そんな風に。
「もしお客さんが乗り気だったら、逆にちゃっちゃとやっちゃいましょ〜、って言ったんだけど」
朱色の長い髪を結いあげた女が、困ったように笑う。笑った顔が似ている気がしたが、よくよく見ると似ても似つかない顔だった。
彼女は暗い顔で部屋を訪れたモゼに、「もしかして新兵さん? 罰ゲームとかそんなので来ちゃいました?」と朗らかに言った。首を傾げたモゼに、時折、清い新兵を先輩たちが好意で「男にしてもらえ」と妓楼に送り出すことがあるのだ、と彼女は説明した。
もしかしてそう言う意味だったのか? とモゼは昨晩のやりとりを思い返しながら一瞬考えたが、恐らく違うだろう。
そうじゃない、と答えてから、どう説明するべきか悩んだ。結局、いくつかの嘘を混ぜて、ここに来た理由を話すことにする。彼女の顔が曇るのを見ながら。
「ま、恋とか、やめられたら苦労はしないよね〜」
やめといたら、と真っ当なアドバイスをした彼女が、あは、と快活に笑って両手を打つ。
「じゃ、こーしよ。あたしもお金は欲しいから、ちゃんと料金分サービスはする。でもやっぱり、好きな人がいるなら本番はこんなとこで経験しない方がいいと思うし、そこは嘘ついちゃおーよ」
ね? と首を傾げた女に、そうかその手があったか、と思った。確かに、したかしていないかの証明なんて、言わなければ嘘だとバレないだろう。
「相手の人も孤族なんでしょ? と言うかどのくらい知ってる?」
どのくらい、とおうむ返しに呟いたモゼに、例えばどこ触られたら気持ちがいいとか、と女は薄い茶色の瞳を細めて、口角を持ち上げる。
「
………………」
「全然知らない? おっけー、じゃあ、特別に色々教えてあげる」
彼女は向かい合っていたモゼの手を取ると、自分の耳をそっと触らせる。耳の付け根のふわふした白い毛を撫でながら、椒丘の方がもっと気持ちよさそうだ、と思った。
さておき、彼女曰く
——、
孤族は耳がいいから、耳のそばで大きな声を上げる人は嫌。囁き声もけっこー響くから、もしやりたかったらみみの後ろに唇をつけて喋って。
それから、尻尾の付け根は敏感だから触らないで。これはどんなに仲が良くても、予告されないとかなり嫌。でも二秒くらいなら気持ちいいから、よく締まっていいとか言うよ。
……あ、想像した? あは、最初はやらないでね、多分普通は怒るから。
女はモゼの手を耳から首の後ろにずらして、うなじ、わかる? と上目遣いに見つめた。モゼは彼女の明らかに挑発的な視線に、少しもときめかない事実に安堵しながら頷く。
ここ、首の付け根あたりから、あたしたちって歩離人ほどじゃないにしてもちょっとフェロモン出てるらしいの。特に、ここからいい香りがする時は感じてるか、してもいいって思ってる証拠。一応例外はあるらしいけどね。相手の人がどう言う気持ちでお客さんにそんな提案したのかわからないけど、ここにキスして反応見てみるといーよ。
モゼが無意識にうなじを撫でると、ん、と女が小さく声を上げる。びくっ、と手を引こうとすると、女が瞳を半月に緩めて、我慢して、と小さな声で囁いた。撫でて、と言われるまま、そっとうなじを何度か指先で撫でる。肌が熱くなってる感覚に戸惑いながら、そうそう、と彼女が小さく震えながら口にした。
ここにキスされたり、甘噛みされるってすごく気持ちがいいんだよ〜、でも、客にはあたしはなるべくさせない。理性が飛んじゃったら仕事にならないからね。
ふふ、と笑った彼女は、モゼの手首を掴んで首から離し
、で、と笑う。
「口でしてあげるから、それで『した』ってことにしちゃいなね。口ってけっこー『似てる』らしーよ。あたしはついてないからわかんないけど〜」
明け透けな物言い困り、モゼは眉を下げて少し視線を他所へ向けた。その反応に「かーわいい」と笑われる。それは気に入らなかった。
「大丈夫だいじょーぶ、結局セックスなんて、当人同士がよければなんだっていいんだし、最初はどうして欲しいのかお互いにわかんないんだから拙くてもへーき。まして年上なんでしょ? 絶対バレないよ〜」
そう言って下肢に触れられて、瞬間的に死にたくなるほどの罪悪感が芽生えた。誰に対してなのかは自分でもよくわからなかったが、他人に触れられて、結局反応してしまうことに不甲斐なさを感じたと言うのが一番正しかったのかもしれない。
気持ちよかった? と聞かれて、言いたくない、と素直に答えた。自分の欲望をまざまざと見てしまった嫌悪感と罪悪感のようなもので、まだ感覚は混乱していた。
女は気を悪くした風もなく笑う。それが客商売だとわかっていても、逆に自分があまりに子どもじみた思考のようで恥ずかしくなる。お互いに大した衣服の乱れもなく、まるで何もしなかったかのようだった。
お風呂もう一回使う? と問われ、頷いた。女は「ごゆっくり〜」とモゼに手を振ると、部屋に備え付けのテレビをつける。小さな音で天気予報が流れ出し、唐突に現実に引き戻されるような感覚がした。
汗を流して出てくると、「残り時間はおしゃべりに付き合ってね、早く返すと不満だったって思われるからさー」、と女が言うので、そう言うものか、と頷いて座る。
天気予報の流れていたテレビは、今は観光地案内のバラエティがごくごく小さな音で流れていた。
「唄とか楽器とか上手だったらそれで時間を潰してもよかったんだけど、そっちはあんまりなんだよね〜」
隣で、女が勝手に喋り始めていたが、モゼは最小限にしか相槌を打たない。モゼの寡黙さを女は気にしなかった。
そう言う相手を無意識に見抜いたのだろうか? と考えたが、わからない。『カタログ』には簡易プロフィールが書いてあったような気もするし、外見しか見なかったような気もした。
共通点を見出すたびに、自分が好きなのはやっぱり椒丘なのだと自覚して胸が重くなる。
「
……最初から、別にしたくないって突っぱねた方が良かったと思うか?」
後腐れのない、見ず知らずの他人だから、こんな風に明け透けに聞いてしまったのかもしれない。だけど、あの瞬間に「したいわけじゃない」とはどうしても言えなかった。
好きだから、いつかはしたいと思っていた。もしかするとそのつもりはないと嘘をついたほうが椒丘は真面目に受け取ってくれたのだろうか、とも考えるが、それもわからない。
考えているうちに、モゼは椒丘の細い腰を思い出し、今すぐ彼を抱きしめたい衝動に駆られた。ばかみたいだ、と自分の結論に呆れてしまうけど、それが正直な気持ちだった。
「んー」
唐突なモゼの言葉に、女は微笑みを崩さず小首を傾げる。女はモゼの手を取って自分の体に触れさせようとしたが、気まずそうに硬直するのを見て、笑ったまま手を離す。
「好きな人としたくたっておかしくないよ〜。生存本能だし、ましてお客さんは殊俗の民でしょ?
——ああ変なふうに受け取らないで、見た目通りの歳かなって思ってるだけ。
つまりね、天人は長命すぎてどうでも良くなる人が多いし、持明族だってほとんど似たようなもの、あたしたち孤族は寿命が来る何十年か前からは性欲が薄くなることが多いけど、人それぞれかな。相手の年齢は知らないけど、少なくともお客さんより年下ってことはないでしょ?」
モゼは「百歳くらい離れてる気がする」、と適当なことを言った。実際はもう少し上のような気がしているが、女の言う通り、孤族も実年齢がわからない。
飛霄将軍より歳上だと言うことは知っていたが、彼女の実年齢も知らない。子どもの頃に幾つなのかと椒丘に尋ねたが、何故かはっきりとは教えてくれず、「途中で数えるのをやめてしまったんですよね」とかなんとか言っていた。
「だよね〜。ま、だからさ、お客さんは若いんだし、好きな人とセックスしたくなるのはふつーのことだよ」
へらへらと笑う女の顔を見ても、あまり気は晴れなかった。少なくとも椒丘は嫌そうな顔をしていたのだし、と思うが、だけどそうなるとやっぱり、どうして体の関係だけならいいなんて妙なことを言ったのだろうと考えてしまう。
「て言うかさァ、やっぱりその人のことやめたほーがよくないかな〜、って、あ、ループしちゃった。ごめんごめん! 君って嘘つけなそうだけど、したってことだけは嘘つきなね。ま、どーにもならなくて傷ついたら今度こそ慰めてあげるから、また指名してよ〜」
女がそう言った直後にベルが鳴る。会計は玉兆でよろしく、と支払い端末を取り出す女の手許で会計を済まし、誰にも見つからないよう帰路についた。
そのまま家に帰り、もう一度風呂に入る。妓楼のシャンプーもボディソープも随分と香りが強かったし、部屋中に漂っていた重く甘ったるい香が全身にまとわりついていた。
今更気づいたが、顔が少し赤くなっているような気がした。はぁ、とため息をつくと、どく、と心臓が跳ねて、下腹部に血が降りていく感覚がする。
全身を冷たい水で洗ってみるが、熱さがおさまらない。もしかしてあの香にはなにか混ざっていたのだろうか。
「っ、は
………………」
くそ、と片手で壁を叩きながら、モゼは冷水を浴びて項垂れる。頭の中がじゅくじゅくと熱で侵されて、呼吸が浅くなっていた。店にいた時は平気だったのになんで今更、と思うのと同時に、店にいる時にこうならなくてよかった、と両方の感想を抱いた。
「
……椒丘、」
悪いことだ、と思った。罪悪感に押しつぶされそうになりながら、それでも片手を勃ち上がりはじめた自身に添える。上下に扱きながら、頭の中で椒丘がそうしてくれているのを妄想してしまう。
足の間に跪いて、白い手を添えてくれる。先端を舌先でつついたり、長い舌を(彼の舌が長いかどうかなんて、今は知らないので妄想だった)這わせて、下から上へと横向きに舐め上げてくれる。
「っく、あ
………………」
濡れた先端を舌先でつついたり、指でぐりぐりと焦らしてくれるところを想像して腰が重くなる。先走りが自分の手を濡らしているのを感じながら、そのぬるつきに、椒丘の口腔内を想像した。先端に軽くキスをして、そのままモゼを見上げる。金色の瞳と目が会うと、椒丘はふ、と眦を緩めと嫣然とし、口を開けて飲み込んでくれる。
モゼの太腿に手を置き、顔を前後させ、じゅる、じゅぶ、と下品な音をたてて舐めている椒丘の髪を撫でて、うなじを爪先でひっかく妄想をする。ぎゅっ、と熱い口腔内に締め付けられて、喉奥に先端が擦れる。
「
——っ!」
そのまま中にぶちまけたのを、椒丘は喉奥まで咥えたまま、残滓まで全てじゅる、と綺麗な顔で、下品な音を立てながら吸い取ってくれる。
「っは、
……は、
…………………は」
そう言う、妄想だった。
モゼは汚れた手を念入りに洗い、水で冷えた体を温めるために湯船に浸かる。冷えたと思ったのに、顔が熱い気がした。
悩んで、風呂を出る。
時刻を確認すると、日付が変わる少し前だった。
いつもの通りであれば、まだ椒丘は起きているだろう。
服を着て家を出る頃には、もう熱はモゼの中に戻ってきてしまっていた。
*
気配に足を止め、モゼ? と椒丘が呟くと、廊下の暗闇から予想通り、モゼが姿を現した。予告なく椒丘の家を訪れるのははじめてのことではないが、今夜は任務があったわけでとないし、何の用だろうと訝しむ。
こんばんは、とわざとのんびりしたふりで声をかけた椒丘が一歩を踏み出すと、彼の体がぎくりと強張る。
「君、顔が
……」
椒丘はモゼの異変にすぐに気がつき、駆け寄って紅潮した頬に手のひらを当てた。
風邪ではなさそうだったが、発熱していて、呼吸が浅い。モゼの瞳孔は奇妙に見開かれて、中心のルビーが光を乱反射するようにぎらぎらと輝いている。
モゼは頬に添えられた椒丘の手首を掴む。
掴んだ腕の冷たさに驚いたが、きっと自分の体温が高すぎるのだろう、と椒丘の反応から推測した。
「どこでなにをされたんですか?」
硬い声で尋ねる椒丘に、モゼは思わず笑ってしまう。お前がしてこいって言ったんだろ。そう悪態をつきたいのを堪えて、
「
してきたら、お前とするのもいいんだろ」
と、掠れた声で呟いた。
モゼを心配そうに見上げていた金の瞳が見開かれて、え、と音もなくその口が動く。
(もしかして冗談にするつもりだったのか? それとも、俺にはそんなことをする意気地がないと思ってたか?)
モゼは自分の口角が妙に釣り上がっているような気がしたが、頭の中が熱くて、だんだんともやがかかってくるような感覚に気を取られて、自分がどんな顔をしているのかはわからなかった。目をまたたかせて、邪念を振り払おうとしたけれど、椒丘の部屋は、モゼのよく知る彼の匂いで充満していた。
八角と山椒、木の匂い、調理場の方から、微かに美味しそうな匂いが漂ってきていた。椒丘の手を掴む自分の手が震えていた。頭の中がくらくらする。体が熱い。
「椒丘、
————……」
掴んでいた椒丘の手首を離し、モゼは椒丘の頬に手を添える。親指でゆっくりと唇をなぞり、形の良さを確かめる。
「好きだ、椒丘、好きだ
……」
椒丘が目を伏せ、諦めたように、再び失望したように、深いため息をついた。頭痛をおさえるように眉間に指を置いて小さく唸ってから、「本当にしてきたんですか」と口にする。
(やっぱり冗談だったのか? 俺が諦めると思って
……)
胸に刃物を突き立てられたような気分だった。俺は弄ばれたのか? と泣き言を言いそうになって、モゼはぐっと唇を噛み締める。
「
……わかりました、提案したのは僕ですからね」
おいで、と言うように、椒丘がモゼの手を掴んで、引く。
勝手知ったる椒丘の家だ。モゼは歩き出した瞬間、この道がどこに続いているのかすぐにわかってしまった。
寝室に足を踏み入れると、椒丘が左手を振る。
煌々とついていた灯りが絞られ、視界が悪くなった。普通の人であれば。
モゼには見慣れた明るさで、かえって椒丘の姿が浮かび上がる。寝る前だったのか、いつもより簡素にまとめられた長い髪、柔らかそうな布を羽織っただけのような寝巻きは、椒丘が手を動かすたびに、布地が透けて、シルエットが現れる。
腕のライン、胸から腰の細さ、小さな尻と豊かな尻尾、そこから伸びる足。体が熱い。頭の中がじくじくして、下半身がずぐんと重くなる。目の前がぐらぐらと揺れるような感覚に、明らかに何か薬の効果が現れている、と感じた。
顔を手のひらで覆って俯き、椒丘、と小さく呟く。呼吸が浅い。胸が痛くて苦しい。熱い。
椒丘は枕のそばに備え付けてあった読書灯を点けると、モゼの呼びかけを無視して、袖机の上に置いていた香の金属蓋を外すと、指先を擦り合わせて小さな火種を起こし、火をつけた。
ふっ、と息を吹きかけて炎を消すと、部屋の中に柑橘と木の匂いが微かに流れ込んでくる。
モゼはなぜか、昔、何度か同じ匂いを嗅いだことがあるような気がした。
その香りを吸って、肺にまで落とすイメージをする。いつだったか、椒丘にそう言われたことを思い出した。その時と体の状態は違っているはずなのに、もしかしてあの時の俺もこうだったのだろうか、と疑問が上る。
いくばくか頭の中が晴れたような気がしたが、またすぐに頭の中が真っ白になってしまう。
「椒丘」
はぁ、はぁ、と息を吐きながら、モゼは足を引き摺るようにしながら椒丘を追った。窓際でのんびり香の蓋を閉めていた椒丘のそばまでやってくると、首から肩、鎖骨が剥き出しになっている肌を眺めて、思わず生唾を飲み込みそうになる。
「君、自分が今、ずいぶんはしたない顔をしてるってわかってますか?」
わからない。自分がどんな顔をしているのか、椒丘がこんな自分になにを思っているのか。
だって、椒丘は呆れも失望も、もう、普段の笑みに隠してしまっていたから。
椒丘が困ったように眦を緩めて笑う。
金色の瞳が部屋の灯りを反射し、その光がちかりとモゼの瞳に飛び込んできたような気がした。
「キスはしない主義なんです。だけど、今夜は特別ですよ
——」
そう言って、椒丘はモゼの首に手を回し、背伸びをして唇を合わせてくる。触れ合った瞬間、モゼは雷に打たれたかのようにビクッと反応して、椒丘がモゼの唇を舐めながらふふ、と笑う。
無意識に椒丘の腰に腕を回して抱き寄せると、モゼは触れ合った唇を夢中で重ねた。想像の何倍も柔らかい唇で、触れ合わせるたびに心が歓喜に震えるような気がした。
誰かとキスをするのは初めてだった。その相手が椒丘でよかった、と心の底から思う。
背伸びをする椒丘の腰を抱き寄せながらキスしていると、触れ合った下腹部がどんどん重く、苦しくなってくる。椒丘、と口を開こうとした瞬間、舌が捩じ込まれて、さらにキスが深くなる。
熱い。甘い。気持ちがいい。
椒丘が舌の先を軽く噛んだり、絡ませてきたり、味蕾を擦るように舐めて、吸ってくるのが堪らなかった。
こんなのは、知らない。
息ができない、と顔を背けて咳き込むと、濡れた唇から唾液が床に落ちて行く。後で掃除をしなければ、と考えた瞬間、濡れた顎先から唇を椒丘の熱い舌が舐めてくれる。ちゅっ、ちゅっ、と音を立てて、今度はあごから首筋へと椒丘の唇が下りていく。
体が熱い。呼吸も、頭の中も。心臓がどくどくと大きく打って、今すぐにでも飛び出してきそうだった。
「っあ!」
「
……やっぱりおっきいですね」
椒丘の右手がいつのまにか下腹部に伸びていて、服の上から手の甲でさすられていた。
すりすりと何度か確かめてから、指先と手で形を確かめるような動作をする椒丘に、どう反応するべきなのかがわからない。びく、と震えながら悶えていると、ふ、と椒丘が離れて、ベッドに身を乗り上げる。
長い手足と髪を白いシーツにうつ伏せ気味に投げ出し、触り心地の良さそうなピンクの耳と豊かな尻尾を微かに揺らしながら、椒丘が瞳を細めて笑う。
「なに突っ立ってるんです?
——こっちにいらっしゃい」