ながひさありか
2024-11-30 04:21:02
2259文字
Public STR-Mozeqiu
 

モ椒:二週間前に読んだ

2.4前・厳密には片想いで付き合っていないが飛霄にはバレバレ

 本日期限の書類が、定時二システム時間前になっても提出されていないことに気がついた。椒丘は盛大にため息をつくと、飛霄のスケジュールを確認し、彼女の執務室を訪れる。椒丘が顔を出した瞬間「あ」と声を上げた飛霄に「思い出しましたか?」と詰め寄ると、「もうちょっと、今すぐ出そうと思ってたのよ」と白々しい声が返ってくる。
「どこまで完成してるんですか」
……………………
 椒丘の問いに、飛霄は笑顔を崩さないまま黙して答えない。もしや全く書いていないな? とその顔をジト目で見つめ返しながら、椒丘は「今から必要事項を聞きます。あとはこちらで仕上げるので、それでいいですね?」と肩を落としながら宙空に仮装コンソールを立ち上げた。
「さっすが椒丘様いつも感謝感謝!」
「感謝より事前に丸投げされた方がましなんですけどね……
 書類仕事が苦手な上司と同僚の尻拭いをする羽目になるたびに、もしかするとそもそも自分で全部やった方が早いのではないか、と言う考えが脳裏をよぎる。恐らくそれは事実なのだが、なるべく目を逸らしていきたい。
「そういえば、この間の罰ゲームのこと覚えてる?」
「唐突になんですか。僕はあなたと賭けをしたつもりは——……、ああ、モゼのことですか?」
「そうそう、詩の朗読をするってやつね。なんでもいいから最近ピンと来た詩にしなさいってお昼休みに読ませてたんだけど」
 いやせめて休日にしてあげてくださいよ、と椒丘は心の中でつっこみをいれつつも、「はぁ」と気のない返事をしながら箇条書きの要点を読み直し、確認事項の漏れがないか確認する。決済に関しては自分で飛霄の承認履歴をあさればどうとでもなるな、と考えながら文章を組み立て始めていると、「何を読んだと思う?」と飛霄がじっと、なんだか含みのある視線を椒丘に送る。
「モゼの読書の管理はしていないので知りません」
「ならぜひ本人に聞いてみて」
 わくわくしているのが隠せていない飛霄に、椒丘は嫌そうな顔を向ける。
「あんまり面白がらないであげてくださいよ」
「違う違う、別にあの子を揶揄ってるわけじゃなくて、本当に意外だな〜と思っただけよ!」
「そう言う顔には見えませんが……、まあ、そのうち気が向けば聞いてみます」
 完全に面白がってるじゃないですが、と思いながら、椒丘は「書類を仕上げるので戻ります」、と話を切って執務室に帰った。

   *

「腰が……
 思いの外書類の完成に時間がかかってしまった。定時からきっかり三システム時間後にようやく退勤すると、同じ姿勢で座りすぎて腰や背中が酷く痛む。夕飯は簡単なものにしましょうか、とよろよろ歩きながら玉兆を確認すると、「夕食は飛霄様が買った。」とモゼからメッセージが入っていた。
 椒丘はジト目で怒っているようなスタンプを二つほど送ってから、「書類を提出したので帰ります」と返信する。飛霄から感謝の文字が踊っているスタンプが返って来たのを確認し、次回こそもっと早くつつこうと心に決めた。こう思うのはすでに百回を越えているのだが、今は忘れることにした。疲れているので。
 なんとなく予感があり、「ただいま帰りました……」と腰をさすりながら部屋の戸を開けると、案の定、部屋の掃除をしていたと思しきモゼが顔を出した。
「おかえり。夕飯は温め直してある」
「助かります……、ついでにお茶もお願いします」
「どの茶葉だ」
「一番左の棚の上から四番目、右から二つ目です」
「わかった」
 エプロン姿のモゼが踵を返したのを確認しながら、そういえば、と声をかけた。
「この時間までいるの珍しいですね。普段なら掃除だけして帰っているのに」
…………別にいいだろ。家が綺麗になってるんだから」
「そうですね、この調子で君も書類を綺麗に書けるようになると助かるんですが」
 ついでにねだってみるが、「椒丘様に感謝感謝」と抑揚のない棒読みで呟きながら、モゼが茶を入れにそそくさと消えて行く。こう言うところは飛霄将軍に似なくて良かったんですが、と苦笑しながら手を洗って食卓に行き、茶が運ばれてくるのを待つ。
 暫くして茶を運んできたモゼにお礼を言い、箸を持ち上げてから「そういえば、どんな詩を朗読したんですか?」と唐突に尋ねた。
……なんの話だ」
「いえ、昼間に飛霄様が、先日の罰ゲームの結果が意外だったと仰っていたので」
 点心に箸を伸ばしながら答えると、心底嫌そうにモゼの表情が曇る。
「まあ飛霄様はなんだか面白がっていましたが、僕としては、君に好きな詩があるというのは喜ばしいことだと思っています」
 モゼがまだ自分の腰ぐらいの背だった頃、「飛霄に言われたから読む本を選べ」とむすっとした顔で椒丘の袖を引いていたモゼの姿を思い出し、微笑ましい気持ちになる。まるで昨日のことのような気がするのに、今、正面で恥ずかしさと不愉快さの混ざった顔でむっとしているモゼの背はとっくに自分を追い越してしまっていた。
「『一日不見、如三月兮。』」
「え?」
……なんでもない。帰る」
 聞き間違いを尋ね返そうとした時には、エプロンがきちんと畳まれて卓上に置いてあり、モゼの姿は消えていた。
……………そういえば、直接顔を見るのは一週間ぶりだったような」
 と、椒丘は事実を確認するふりをしながら、「え? それってどう言う意味で言ったんですか?」と頭の中で混乱に陥った。

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子衿より。
一日不見、如三月兮= 一日千秋




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