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ながひさありか
2024-11-17 00:57:20
1811文字
Public
STR-Mozeqiu
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モ椒:尽くす男
尽くす男×尽くす男。2.4前のどこか。
自分は尽くす男だ、と椒丘は思う。
そうでなければ医療に従事していられないとでも言うべきかもしれなかったが、ともかく、されるよりもする方が気楽だったし、それが当たり前だと思って生きてきた。将軍様の飯炊き男と揶揄されたり、一度戦場から逃げ出した男のくせしてどの面さげて幕僚の地位に居座るつもりだとか、まあ、おおよそ、他人が思いつく限りの悪口は一通り聞いてきた。歳をとればそれだけ陰口の語彙も豊かになるのは脳のリソースの無駄遣いだと椒丘自身は思うが、それもそれで彼らの健やかな人生なので口出しはしない。何を言われようと飛霄の主治医を辞めるつもりはなかったし、《飯炊き》に関してはそもそも自身の医療技術と切り離せないのだから、どう言われようと気にしたことはなかった。もちろんそういう意味だけでないことはわかっているが、歳下の彼女とは昔も今もこれからも下世話な想像をされる余地は全くない。お互いにそれがわかっているので、ばかばかしいと思って気にしていない。それから、本当に戦場から逃げ出していたのであれば、軍法会議にかけられて今頃首が飛んでますよ、と呆れてしまう。まともな軍人であればあり得ないことだとわかっているので否定する必要もないし、そうは言ってもどうせ顔を使って
……
なんてあり得ないことを考える輩に親切に真実を教えてやる気にもならない。もちろん、言われっぱなしは癪なので、あまりにやかましい場合は、会議で訪れた彼らのお茶にちょっとお通じの良くなる薬を盛ったりしたことはあるが、それだって常人が気付かないようにきちんとタイミングを測ってやっている。例えば数時間後に効果が現れるだとか。
『お前の指示通り、対象の茶に薬を混ぜてきた。』
帰還する高官たちを見送り、彼らの背が見えなくなってようやく、椒丘はモゼのメッセージを確認した。数十分前の会合で出した茶には、対象全員が口をつけていた。効果時間がズレるように調合もして小分けしておいたので、モゼには面倒な仕事だっただろう。それでも彼は一瞬複雑そうに眉を寄せただけで、「わかった」と椒丘から薬を受け取った。
「最短でどのくらいから効果が出るんだ?」
唐突に真横から聞こえた声に、椒丘は驚きもせず「二システム時間ほどでしょうか」と和やかに答えた。
「意外に時間をかけるんだな」
「疑われても面倒ですからね。まあ、並の医士では調べてもわからないとは思いますよ、たかが腹下しですから」
椒丘は踵を返し、先ほどの会合内容を書記官が正しく書き起こしているか確認するため、執務室に向かう。録音禁止の結界を張っていたので、記憶が失われる前に誤りがないか見ておく必要があった。
後ろから無言でついてくるモゼを振り返りながら、椒丘は足を止めずに「面倒なことをお願いしましたが、彼らの相手をしている僕には難しかったので助かりました」と口にした。モゼは無表情を崩さず、まぁ、と小さく鼻を鳴らす。
「殺した方が早いのは確かだ」
恐ろしく小さな声だったが、椒丘の耳には正しく届いていた。
「君ね、そんな不用心なことを言わないでくださいよ
……
」
椒丘は剣呑そうに眉を顰めながら、肩をすくめた。もちろん椒丘にだって、モゼの言いたいことがわからないわけではない。こんな小さな嫌がらせをしても一時的に少し気が晴れるだけで、根本解決にはならないのだから。ただ、ストレス解消はその程度に留めておいた方がいいし、謂れのない中傷に病むほど柔な人生も送っていない。そもそも天撃将軍の陰口を直接的に言えないからって、幕僚について人の耳のあるところで好き放題言う程度の小物だから、モゼが手を下さずとも勝手に自滅するだろうとも思っている。
「向こうが明確な敵にならなければな」
「まあ、それは大丈夫でしょう」
椒丘は足を止め、ふと頭上を見上げた。赤く色付いた紅葉が風にあおられ、ざわざわと音を立てながら散っている。肩に落ちた紅葉を摘むと、手のひらの上で大きさや形を確かめた。モゼも足を止め、落ちてくる紅葉を集めて行く。
モゼは無言で紅葉を椒丘に渡し、「魚を買って帰る」と呟いて姿を消した。
「
……
何を買ってくるつもりなんでしょうか?」
椒丘は苦笑しながら、モゼの集めた紅葉の端を折らないように丁寧に薬袋にしまう。
執務室に戻ると、書記官の議事録を確認しながら、夕餉に使う皿について頭の片隅で思案した。
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