手を触ってもいいですか、と寝台の上でうつ伏せになっていた椒丘が口にした。少し掠れた声に肌の上をちりちりと焼かれるような錯覚を覚えながら、モゼは無言で椒丘の手を握る。
「ふむ……」
椒丘は握られた手を両手で掴み直すと、神妙な様子で指先を丁寧に撫でた。モゼの親指の爪の丸さを確かめると、満足したのか次の指へ移る。
右手が終わると次は左手を出すよう言われ、モゼは同じように椒丘の手を握った。再び同じように指を丁寧になぞり、爪の丸さを確かめる椒丘に「別に怪我はしていない」とモゼは不思議そうな顔で尋ねた。
「怪我の有無の確認というわけではありませんよ」
どうもありがとう、と満足したようにモゼの手を離した椒丘の手を反対に取り、今度は椒丘の指先を見る。三日前に整えてやった爪先はまだ丸いままで、特に不都合もなさそうに思えたが、どこか気になっているのだろうか。
雑念を振り切るためにそう考えていると、「先日、随分手慣れている様子だったので君の手も普段からきちんとしているのかと気になったんです」と椒丘が笑う。
「伸びていると色々やりづらいからな」
モゼが爪先のケアをこまめに行っているのは、《爪》をつけた時に指先の感覚がズレるだとか、血や泥沼が入り込むと洗うのが面倒だとか、主にはそういう理由だった。
「お前だってそうだろ」
椒丘の手をまじまじと見つめていたモゼは、昔は自分より大きかったはずの手に手を重ねた。今や少しだけ自分の方が大きい手に指を絡めて、指先に口付けを落とす。視線を上げると、気まずそうな顔をした椒丘が明後日の方向を向いていた。
モゼは手を離し、横向けになって椒丘の腰を抱き寄せる。右手の指を背骨の窪みに数本立ててから、そのままゆっくり、足の付け根に向かって下ろして行く。
「…………ん」
椒丘は小さく声を上げて震えるが、特に抵抗はしない。尻尾がふるりと震えて、はたき落とそうか悩んでいるように揺れているのが見える。モゼは彼の足の付け根を揉むように指で撫でながら、頬骨に片手を添えて鼻先に口付ける。
不満そうな指先がモゼの腕を捉え、ついー、と肘から肩をなぞってくる。
「どうした?」
「聞かなくてもわかってるでしょう」
「わからない」
「………………っあ、」
ぎゅっ、と椒丘が肩を掴んで体を縮こまらせたその時、モゼの指は足の付け根のその奥をぐっ、と押していた。とん、とん、とん、と抽送の意思があるように、布の上から縁に指を当ててつつく。
「さっき散々したじゃないですか」
椒丘は先刻を思い出し、冷えかけていた肌が途端に火照りはじめるのを感じた。この、年下の物好きのスイッチは椒丘にはわからないことがよくある。
「お前が触るから興奮した」
「こら、こらこらこら」
はぁ、と熱いため息を吐いたモゼが椒丘の腰をぐっと引き寄せ、服の上から腹に擦りつけてくる。
先刻、疲れたので終わりにしませんか、とは言わなかったが、風呂にだって入ったし、その間にシーツも何もかも取り替えられていて、てっきりこのまま寝るのだとばかり思っていた。
「わかってる」
ぎゅっ、とモゼに抱きしめられながら、椒丘は微動だにしなくなったモゼの足にそっと触れる。
「あの……手でしてあげましょうか?」
「いい」
「あ、そうですか……」
——ならどうするんだ、「これ」は。
腹に当たっている形に散々突き上げられた感触が蘇り、止めたくせに自分の方がたまらなくなっていた。頭の中で明日のスケジュールを確認し、後一回くらいならいけるはず、と考え、あの、と顔を上げる。
「っ! …………、ん、っふ、……は、」
唇を重ねられ、モゼに舌の先を捉えられる。じゅ、と強く吸われて、ぬるついた熱い舌先が蛇の舌のように器用に椒丘の味蕾をこそぐように舐めて行く。後頭部の後ろに置かれた手にぐっと顔を寄せられて、鼻先が擦れる。くちゅくちゅと水音が耳に響き、息継ぎをした瞬間にまた塞がれる。熱くて息苦しい。舌から食べられるような錯覚に、体が震えて熱くなる。
キスだけでこんなに気持ちよくなりたくない、といつも感じてしまう。教えたわけでもないのに、一体誰とこんなキスをしてきたのかと妙な勘繰りが生じて、いつも、ほんの一瞬だけ脳裏に嫉妬が顔を出す。
「っは、は、あ…………」
腕の拘束が解かれて、椒丘はぐったりと脱力した。寝台に体を投げ出した椒丘の額に落ちた髪を、モゼが丁寧に横に分けて、ちゅ、と額に口付けを落とす。顎先を指で掬ったモゼがもう一度触れるだけのキスをして、椒丘の頬を撫でた。
息の切れた椒丘は、そのまま無言で寝台を下りて行くモゼを追うことはできなかった。濡れた口許を緩慢な動作で拭い、肩に引っかかるだけになっていた寝巻きを羽織り直すと、モゼが戻ってくるまで不機嫌に寝台の上で丸まっていた。
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