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ながひさありか
2024-10-09 01:49:07
2854文字
Public
STR-Mozeqiu
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モ椒:朝焼けの前に
雪中訓練(捏造) 2.5から数ヶ月後くらいのつもりです
「何してるんだ、こんなところで」
雪道に足を取られそうになりながら杖を片手にふらふらと歩いていると、突然声をかけられ、片腕を掴まれる。引かれた力の強さにバランスを崩してよろけると、厚い胸に抱き止められていた。
かけられた声で誰かはわかっていたので、驚きもせずに、声の方を見上げる。
「君、随分と早起きですね」
「違う。寝る前だ」
モゼの返答に、そういえば帰還予定が今日だったことを思い出した。「そういえばそうでしたね」と答えると、少しムッとしたような空気を出されてしまう。
忘れてたのか? と言いたそうな顔をしている気がし、「君はちゃんと帰ってくると思っていたので」と続けて顔を触る。
「お疲れ様でした」
皮膚の冷たさに訓練の過酷さを感じたが、モゼの声と態度はあまりいつもとかわらないように思えた。少し不満そうに唇の端が下がっているのが確認できたぐらいで。
吐く息が微かに手に触れ、熱い、と感じるのと同時に、モゼの肌に手の熱が吸い取られて行くのを感じた。
昨晩、眠る前に確認した日の出予測が正しければ、ようやく空が白み始める頃だった。なんとなく今朝は二度寝する気にならず、散歩でもしましょうか、と宿舎を出てきたばかりなので、モゼがどうしてここにいるのかはわからない。
目が見えなくなってしばらくのうち、一人で外出する際には行き先を飛霄とモゼに告げていたが、最近はそれなりに困らなくなってきていたので、よほどのことがなければ報告せずに一人で出歩いていた。
と言っても、今朝に関しては連絡をしたところで二人はそれを確認する術がなかったのだが。
「巻けてない」
そう言って、モゼがマフラーを巻き直してくれる。なんとなく緩くて落ちそうだな、と思っていたが、きちんと確認するのが面倒でそのまま出てきたことを思い出した。どうりで首許が少し寒いはずだった。
「ありがとうございます。かぶるだけのものをそろそろ探した方が良さそうですね。
……
僕は散歩に戻りますが、君は帰って眠った方がいいですよ」
「散歩って
……
こんな時間に、わざわざこの雪の中をか?」
歩き出そうとすると、再び腕を掴まれる。
「何か問題がありますか? 大丈夫ですよ、マップは玉兆に入れていますし、防寒対策もしていますから。三十分ほど散歩をしたら帰ります」
数日前から、青丘軍の訓練に同行する形で、将軍と影護衛であるモゼと主治医である僕は雪深い地方へ来ていた。
雪中訓練を行う青丘軍兵士たちの食事と現場の凍傷対策を指導する立場にあったが、暖房のきいたエリアにいるので、実際の戦闘訓練や帰還訓練に参加する飛霄やモゼと比べるとずいぶん楽な仕事だった。
「飛霄様はちゃんと帰還しましたか?」
「
……
物足りなかった、と走りに行った」
「相変わらず狂った体力ですね」
ため息をつくと、うん、とモゼも呆れたように小さく呟く。
モゼと彼女は、七十二システム時間不眠不休の帰還訓練をしてきたはずだった。
三日程前、彼らは玉兆を取り上げられ、コンパスと紙の地図、一日分の食糧と水、最低限のサバイバルキットを詰めたリュックを渡された状態で、深夜の山中に放置されていた。そこから三人一組で班を作り、自力で帰還するだけ、と言うシンプルな訓練だ。飛霄は部下と三人で帰還したはずだが、モゼは普段の任務形態から考えても、一人で帰還するようにと言われていた。
「凍傷は大丈夫そうですか?」
「大丈夫」
「本当に? ちょっと手を動かしてもらえますか」
「痛くも痒くもない。指先は全部動く」
籠手の上から手に触れると、律儀に、器用に指を動かしてくれる。足先も気になったが、本当に問題ないらしい。
「触った限りでは問題なさそうですが
……
」
もう一度顔に触れて、冷たい頬を丁寧に撫でる。暖かいのが心地良いのか、モゼが手に頬を擦り寄せるようにしてくるのが、なんだが大型犬のようで可愛いらしい。
「む、」
思わず笑ってしまうと、冷たい唇が重ねられて、すぐに離れて行く。
「こら」
頬を軽く叩くと、「だって」と言い訳が漏れた。こう言う時のモゼは物言いが妙に幼くなって、つい絆されてしまう。
「誰かに見られたら恥ずかしいじゃないですか」
「
……
まだ日も出ていないから、誰にも見えない」
「そう言う問題じゃないんですけどね」
日の出予測はどうやら外れていたらしい。日も出ていないのであれば、冷え切る前に大人しく帰るべきかと悩んでいると、「寒い」とモゼが文句を言う。
「わかりました、大人しく帰りますよ」
散歩を強行すれば、きっとモゼはついてきてしまうだろう。僕の目が見えなくなって以来、妙に心配性になってしまった彼を無駄にはらはらさせる趣味は別になかった。
元来た道を歩いて行こうとすると、モゼが僕の手を取って、自分の二の腕を掴ませる。大人しく導かれるままに歩を進めて宿舎へ着き、部屋へ戻って少しばかり二度寝をするか考えていると、モゼが「部屋に行ってもいいか」と遠慮がちに尋ねてくる。
「大人しく寝ろと言いましたよね」
「
………………
」
外套を脱ぎながら答えると、しばらくモゼから返事は返ってこなかった。
大人しく眠る気になっただろうか、とブーツの雪が落ちたのを確認して靴箱に靴をしまい、室内履きに履き替えると、雪で濡れた杖先を拭く。
マフラーを解き、外套と合わせて抱え治すと、「とりあえず、君は先に汗を流してきた方がいいんじゃないですか」と同じように外套を脱ぎ、履き物を変えていたモゼに言う。
無言で一歩近づいてくる足音に「ちゃんとノックをしてくださいね」と告げ、さっさと部屋へ戻ることにする。
彼が汗を流して体を温めた方がいいのは事実だったし、足音を消されて侵入されるのは不愉快だが、飛霄将軍の影護衛が主治医である僕の部屋を訪れるのは何もおかしいことではないので、咎める理由も別にない。帰還訓練後は、全員の帰還見込み時間から十二時間の自由時間が認められていることも知っている。モゼは予定時刻より数時間早く帰還しているので、その分余計に休息に時間を割くことができる。
来訪者が来る前にお茶を淹れて保温容器に移し、ぼんやりとタブレットで新聞を再生していると、言いつけた通りにドアがノックされる。
けれど、鍵を開ける前に勝手に侵入してきたモゼは、ソファから立ちあがろうとしていた僕の隣にいつの間にか収まっていて、椒丘、と少し疲れた声で名前を呼ばう。
それで全部すっかり説明したつもりなのか、尋ねもせずに僕を抱きしめると、「寒かった」と今更な感想を呟き、熱を奪うように頬を擦り寄せてきた。
「さっさと寝た方が疲れが取れると思うんですが」
小言を言うふりをして、きちんと乾かされているモゼの髪を撫でた。眠たそうに体重を預けてくるモゼに、「僕は三時間したら出ますよ」と告げる。
知ってる、と低く呟いたモゼの、もう暖かくなった唇が首筋に触れている。
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