ながひさありか
2024-09-24 01:17:54
3225文字
Public STR-Mozeqiu
 

モ椒:熱に撫でられている

ふつーに何も考えてないえっちなやつを書こうとしたけどうまくいかなかった供養。
いつも通り捏造ばかりです。

 この所ずっと吹雪いてはいたが、それにしても今夜はあまりに冷える夜だった。野戦病棟は凍傷の兵士で溢れており、医士達は対応に追われていた。病棟の外では延々と火が焚かれ、次から次へと湯を作っては冷めないうちに保温容器へと注がれ、屋内に運ばれていく。調理担当者も同様に火を焚き続けてはスープや鍋を延々と作り続けていた。
「もう少し唐辛子と生姜を足してください、なるべく温かさが持続するように」
 昼夜となく火鍋薬を作って回っていた椒丘は、帰還した飛霄の夕餉の準備を終えると、再び兵士たちの食事の確認のために歩き回っていた。今夜は、かつて流星が落ちたあの夜に似た寒さで、こうして歩き回っていないと余計なことを考えてしまいそうだった。手足の指先を冷やさないよう気をつけながら部下と共に食材の在庫を確認させ、残りの作戦日数から使える分量を割り出していると、夕餉を終えた飛霄に呼び出しを食らった。
「今から六時間の休息を取ること。これは命令よ」
 唐突な命令に「まだやることがあるんですが」と慌てて口にした椒丘の主張は却下された。
「他の医士やスタッフ達から、あなたが休まないと休めないってクレームが出てるの。身に覚えがあるでしょ?」
「な……
 言われて、そういえば、前回きちんと眠りについたのは三日か四日前だったような気がした。少なくともベッドで横になった記憶は随分とない。
 かつて軍医として従軍していた際、駐屯地では二、三日まともに眠らないのも普通だったので、はっきりとしたことは覚えていなかった。
「そう言うわけだから、今すぐに部屋に戻って。あたしの話は終わり」
 飛霄は涼しい顔で淡々と告げると、召喚した椒丘を部屋から追い出した。野戦病棟こそ戦争状態になっているというのに、休んでいる暇があるはずがない。それでも、戦場では上司の命令に逆らうことはできなかった。
 椒丘は半ば呆然としながら、個室へ戻る前に野戦病棟から湯をもらって来ることにした。
 残された医士たちに「今から六時間の休息に入れと飛霄将軍に命令されてしまいました」と告げると、事前に話を聞いていたのか、あるいは自分たちも六時間後には交代で休めると思っているのか、ほっと安堵の息がいくつも漏れたのが聞こえた。いくつかの指示をして「緊急時は叩き起こしてください」と言い添えると、湯を貰って個室へ戻る。幕僚としての椒丘に与えられた一室は家主がいない間も部屋を暖めて続けていて、外の身を切るような寒さとは無縁だった。野戦病棟よりも少し暖かい室温が少しだけ気に入らない、と思いながらも、諦めたようにため息を吐く。
 五分でシャワーを浴びると、携帯している薬袋からいくつかの薬剤を取り出し、貰ってきた湯で薬湯を作る。休めと言われてもすぐに眠れそうにはなかったが、それでも最善を尽くさなければならなかった。
 飲んで横になろうとした瞬間、誰かの気配を感じた。ドアの向こうに向かって「モゼですか?」と声をかけるのと、ドアがノックされるのは同時だった。
 椒丘は声をかけてから、そういえば幕僚の個室は防音装置が常に働いていることを思い出した。端末でドアカメラを起動すると、そこには予想した通りモゼの姿があった。
「どうしました?」
 鍵を開けた途端、隙間からモゼが素早く侵入してくる。その時には、本当は彼がなんの目的で来訪したのかわかっていた。
 わからないふりをしたのは、本心ではこの展開を望んでいたけれど、それを素直に認めるのはなんとなく癪だったからかもしれない。
 自分が碌に休んでいない件を飛霄に進言したのは多分彼で、彼が飛霄に言ったからこそ彼女があんな命令を出したのだろうと考えていたし、彼女はきっと、自分に伝える前に「どうする」のかモゼに話しておいたのだろうと考えていた。
「モ、」
 そう考えつつも、世間話で一旦逃げておこうとした椒丘の唇は、無言のモゼによって塞がれていた。
 壁に体を追いやられ、腰をがっしりと片腕で抱き寄せられたまま、何度も口付けを受ける。モゼの胸に右手の指先を添えると、その手を握られる。椒丘の指先を温めるように擦るモゼに舌先を吸われて、膝が震えそうになった。
 舌先が火傷しそうなほど熱く、びりびりとした痺れが頭の上から尻尾の先まで走って行くのがわかる。
 腹に硬いものが当たる感触に、椒丘の体が跳ねた。反射で顔を背けた椒丘の唇を犬のように軽く舐めたモゼの濡れた唇が、頤から首の付け根、喉、鎖骨へとゆっくり降りて行く。
「っ、…………ん、」
 何度か優しく鎖骨の上に口付けたモゼが顔を上げて、椒丘の腰をそっと撫でる。じわじわと体の奥から熱が上がってくる感覚に、痛い、と脳が錯覚する。視界がぐらりと揺れ、足から力が抜けかけた。ふらついたところを脇に手を入れられ支えられたかと思えば、次の瞬間には、自分の体が寝台の上にあった。
 組み敷かれた状態で、ぼんやりとモゼを見上げる。モゼの表情はいつもとあまり変わらない無表情さで、けれども、いつも通り不思議と冷たさは感じない瞳をしていた。
 無言でじっと見つめていると、モゼの眉が少しだけ下がって、情けない顔になった。待てを聞く従順な犬のようにじっと椒丘を見下ろしているその表情は、彼が本心から自分を心配していることが伝わってくる。きっかけはいつだって自分本位に見えるくせに。
「そういえば、烏羽怪人に助けられたと言う兵士が今夜は随分といましたね……
 独り言のように呟き、椒丘はモゼの頬に手を伸ばした。助けられた、と口にした兵士たち全員の顔が青褪めていて、寒さ以外の理由で歯の根がカチカチと鳴っていたことを知っている。曰く、死角から現れて忌み者に的確な致命傷を与えた男は真顔で返り血を浴びて血塗れになっていただとか、冷えて黒くなった血もそのまま飛霄将軍の影の中から現れただとか。
 モゼから、血のにおいはしない。綺麗好きのモゼが完璧に洗い落としたからなのか、果たして戦場で自分の鼻がばかになってしまったのか、今の椒丘にはわからなかった。
 血を浴びすぎて気の休まらなくなったモゼが、最初に椒丘に助けを求めてきたのはいつのことだったのか。それほど前のことではないはずなのに、どうしても思い出せない。
「相談する先がお前しか思いつかなかった」と言われ、なんのことやらと問診した結果、「もしかして君は誰からも性教育を受けていないんですか?」と言ったのは確かに椒丘だったし、最初に少しだけ手ほどきをしたのも、今更、知らない誰かに変な知識をつけられるよりはマシだと考えていたからだった。
 あの時、駐屯地に娼館があればもしかするとこうはならなかったのかもしれない、と時々椒丘の脳裏を掠めることがあるけれど、娼館はなかったし、何故か不快感はなかったので、彼とはこうなってしまっていた。
 別にモゼが私利私欲のためだけに自分を休ませるよう上司に進言した、とは感じなかった。実際椒丘には休息は必要で、今夜は他人の熱が恋しくなるほど冷え切っていた。
「いいですよ、しましょう」
 情緒があまりにも無さすぎる言葉だったけれど、それが二人の間では、一番後腐れのないやり取りだった。

   *

 他人の体温を感じながら目を覚ますのは妙な感覚だった。
久しぶりに短時間とは言えきちんと眠ったことにより、身体中の痛みが正しく噴出している。
 肩こりと腰痛に不快感を覚えながらのそりと起き上がろうとすると、もう一度布団の中に引きずり込まれて、「もう少し……」と眠たそうな声に抱き寄せられる。
 寒い、とわがままを言う男に苦笑しながら布団の中で足を絡めてやると、満足そうに頷いて、椒丘の髪に顔を埋めながら大人しくなる。
「目覚ましが鳴ったら起きますよ」
 背中をそっと撫でると、わかってる、と言いながらも、モゼがさっきよりも強く抱きしめてくる。


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