ながひさありか
2024-09-21 00:13:00
2754文字
Public STR-Mozeqiu
 

モ椒:Nox and Nox - 休暇・1

告白されたことを忘れて故郷にモゼを連れて行く極悪人

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 考えろ、とモゼに言われてからどのくらいの月日が流れただろう。薄情だとは自分でも思ったが、モゼからのアプローチが二度とないのをいいことに、椒丘は以前と変わらず、ただの友人、同僚として彼に接することにした。半年も過ぎると変に意識してしまうこともなくなり、最早好きだと言われたことすらほとんど忘れていた。
 その頃、飛霄から長めの休暇を言い渡された椒丘は、久々に飛雨湖にやってきていた。
 主治医としては患者と長期間離れるのは本意ではないのだが、「たまにはあなたの部下にあたしの診察を任せてみるべきよ。それに、部下に休暇をやらない上司だと思われるのも困るしね」と言い切られてしまい、気づけば出勤禁止になっていた。もちろん何かあればすぐに連絡するよう伝えているが、飛霄と——患者と十日も離れるのは久しぶりで落ち着かない。
 とはいえ、休めと言われたからには無理矢理にでものんびりすべきだろう。そう考えた椒丘は、少年時代からそうしていたように、故郷の湖に舟を出し、植物やきのこを集めた。最近はめっきり業者を通して購入している品々を自分の手と目で検品できるのは素晴らしいことだった。
 ある程度籠が埋まると、それらを背負って再び舟を漕ぎ、家へと戻る。黄色い花の咲くほとりでは、いつものように年老いた亀が甲羅を乾かしていた。
「ただいま戻りました」
「おかえり」
……ずいぶん片付きましたね。もしかして休憩もせずにやってたんですか?」
 椒丘の問いにモゼは答えず、黙ってまとめたゴミ袋をいくつも手に戸口から出ていった。朝になる前に収集場へ置きに行ったらしい。
(今夜はそろそろおしまいにさせないと、朝までやっていそうですね)
 籠を背中から下ろし、中身を丁寧に選別していると、モゼが戻ってくる。壁にかけていた箒を手にしたところから考えて、やはりそのまま掃除を再開しそうな雰囲気だった。
「モゼ、これから料理をするので、掃除はおしまいにしましょう。埃が舞ったら困りますから。そういうわけで、君はお風呂にでも入ってきてください」
「ああ」
 モゼは大人しく箒から手を離し、風呂場の方へ消えていく。その背を見送りながら、椒丘は自身の発言を振り返り、少しだけ恥ずかしくなった。風呂を入れることさえもモゼにやらせているのに、あまりに偉そうで、一体何様なのかと自分に言いたくなった。
「本当に連れてきてよかったんでしょうか……
 今更ながら、自問した。そもそもどうしてモゼと一緒に帰省したのかといえば、彼の休暇があまりにも休暇らしくなく、ある意味で心配になったからだった。

   *

 椒丘と同じく長めの休暇を言い渡されていたモゼに「君はどこかへ行くんですか」と尋ねたところ、「倉庫掃除をする予定だ」と返ってきた。
 普段、椒丘とモゼの休暇が三日以上重なることはなかった。椒丘は特段予定がなければ、休日は火鍋店を開拓したり、食材研究で市場に出かけたり、按摩を受けに行ったり、ゴロゴロとベッドの上で惰眠を貪ることに集中したりしているため、モゼと顔を合わせることはあまりない。モゼが休日に中央の庭や資料室の掃除をしていると言う話は聞いていたが、本人が「掃除をしていると落ち着く」と言っていたのは知っているので、あまりに気にしていなかった。
 とはいえ、まさか十日間も掃除をするつもりがあるのは驚きだった。
 彼が掃除に安らぎを感じているのは知っていたが、長期休暇中に職場の倉庫掃除をしているところを他人に見られるのは、あまり飛霄の印象がよくないだろう。
……そんなに掃除がしたいなら、僕と一緒に故郷に来ますか。何年も放置している自宅があるので、よければ掃除を手伝ってください』
『行く』
 そういうわけで、椒丘はモゼを連れて帰省した。椒丘は調理具の一部を、モゼは掃除用具を抱えて。
 帰省すると、椒丘が天撃将軍の主治医をしていることは当然知れ渡っており、顔馴染みの門番が「先生、天撃将軍の主治医をクビになったんですか」と少しも思っていない顔で笑う。
 椒丘が不在の間、家の管理を任せていた男から鍵を預かり、モゼと一緒に戸を開ける。錆びついて開きの悪いそれにモゼはすでにそわそわとしはじめたため、「まぁ、そこは明日からにしましょう」と牽制した。
 管理させていたと言っても盗人が入らないように外から見回りをしてもらっていただけなので、当然、数年人の出入りのない屋内は少し埃っぽいにおいがした。今夜のところは寝室とリビングを人の住める状態にするのが精一杯だろう。
 モゼに水場とゴミ収集場を教え、二人で分担して掃除をする。二人分の寝室は椒丘が、リビングをモゼが担当する。
 布団だけは新しくしておきますよ、と留守の間の管理を任せていた男がいった通り、少し埃っぽく寂れた室内に似合わない新品のものが置かれていた。
 椒丘は部屋の窓を開けると、床を適当に掃き、何も置かれていない棚の埃を拭く。小さな丸い掃除機ロボットを床に離すと、モゼに寝てもらう予定の部屋も同様に掃除し、こちらもロボットを放牧しておく。
「モゼ」
 簡素に掃除を終えてリビングへ顔を出せば、黙々と掃除をしていたモゼが顔を上げる。
「ある程度で切り上げて構いませんよ。明日の朝から続きをやりましょう」
 モゼは埃を被った棚や部屋を見て不満そうな顔をし、「一日くらい寝なくても問題ない」と口にした。
「君、一応休暇中なんですよ?」
「余計に好きにしてもいいだろ」
 真顔で腕を組むモゼに、これは折れなそうだな、と早々に説得を諦め、「わかりました」と椒丘は肩をすくめる。
「でしたら好きにしてもらって構いませんが、この家に置いてある本や、枯れたように見える植物や食品、それから調理場にあるものは捨てないでください。明日は調理場を主に掃除します」
 たとえ一晩中家の中でがちゃがちゃ掃除をされていたとしても、戦場よりはずっと静かだろう。モゼもそれがわかっているのか、申し訳なさそうな顔も見せずに黙って頷いた。
「じゃあ、僕はお風呂を入れてきますから、君は掃除をするなり、休むなり好きにしてください。——それはそれとして、お茶を淹れてきましょう」
……椒丘」
「はい?」
 調理場へ向かおうとした椒丘に、モゼが声をかけた。
 足を止め、どうしました? と振り向いた椒丘を暫く見つめてから、モゼは結局「なんでもない」と首を振る。
 モゼの表情からはなにかを読み取ることはできなかった。
 椒丘は少しだけ彼の態度が気になったが、続きを口にしないのであれば、気にする必要もないか、と忘れることにした。


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