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ながひさありか
2024-06-28 00:27:33
3261文字
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STR-Blafka
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永遠の温度
刃カフ+ホタル:刃加入直後ぐらいの刃とホタルの会話がメイン。
ねぇ、「永遠がある」って、どういう気分なの?
ホタルが刃に尋ねた時、彼女は勿論、エリオが何故この男を星核ハンターに引き入れたのかはわかっていた。故に彼がどういう状態で、どのくらいの時間を生きてきて、何に苦しんでいるのかも。
カフカが買い物に行ってしまうと、いつも「家」の中は静かだった。この男はあまりおしゃべりの相手には向かない。まだ沈黙に少しだけ居心地の悪さを感じながら、ホタルは刃の答えを待つ。
刃はホタルの問いに一瞬、瞳を眇めて剣呑そうな表情をしたが、彼女の表情は至って真剣だった。数秒黙し、瞑目すると、外見より遥かにくたびれた老人のようにため息をついた。
グラモスの鉄騎。眼前の少女がそう呼ばれていたことも、すでに滅んだ国のことも、彼女の体のことも、星核ハンターに加入して数日後には知っていた。カフカと言う名の女がかいつまんで説明してくれていたし、ホタルが自ら語ったこともある。
「お前はそれを望んでいるのか?」
瞼を開けた刃の、暗い赤と金の瞳で問われ、ホタルは「そういうわけじゃなくて」と答えた。
「どちらかと言うと、永遠はいらないって確信が欲しいんだ。
……
と言うより、そう信じられるようになりたいんだと思う。あたしの体のことは聞いてるよね?」
ホタルは手元に視線を落とすと、手のひらを開いてからそっと握り、顔を上げて刃へ視線を戻す。首肯する刃に、「あたしは」と続ける。
「死ぬのが怖いわけじゃない。ただ、もう少し納得がいくまでの時間が欲しいだけ。『生きた』って思えるようになりたいって言うのかな
……
。刃は、『自分はもう十分に生きた』と感じてる?」
刃は言葉を探すように、腕を組み、僅かに目を伏せた。
「十分かどうかはわからない。ただ、もう終わりたいと思っているだけだ。目が醒めては生き返る苦痛に失望し、既に日々は褪せている。つまらない人生だ」
「でも、君は狂うことを望んでいない。カフカが言ってたけど、君の中には『化け物』がいるんでしょう。自分を開け渡してしまえば何もかもわからなくなって、ある意味楽になれるんだって」
ホタルの言葉に、刃は皮肉そうに小さく笑った。彼の口許は歪んでいて、その通りだと肯定するようでもあったし、幼な子の愚かな問いかけを許すようでもあった。
「そうだな。だが、常時怒りや憎しみに支配されていると言うのは、中々に堪えるものだ。まだ何もかもわからなくなっているわけではない」
「あ、誤解しないで、そうしたら? って言いたいわけじゃないよ。ええと、あたしが昔はそうだったって言えばいいのかな、何も考えなかったって言うか、考えられなかったというか
……
。
ある日、もしかしてあたしだけが『あたし』で、あたし以外は顔や見た目が似ていても全員違う生き物なんじゃないかって突然気づいたんだ。そんなの当たり前のことだよね。だけど、それまではそんな風に感じていなかったの。
もしかして気づかなければ苦しまなかったのかなと思うこともあるんだけど、今は『それ』に意味があったと思いたくて
……
。ごめん、何言ってるのかよくわからないよね。刃に話を聞きたかったのに、あたしの話になっちゃった」
苦笑するホタルに、刃は表情を無くした無感動な面持ちで、「お前はお前だろう。お前が望むなら」と低い声で呟く。
「今の俺は
——
」
「刃?」
不自然に言葉を切った刃に、ホタルが怪訝そうに眉を寄せた。
「大丈夫?」
瞳を揺らしながら、片手で顔を覆って項垂れる男の腕にそっと手を置く。すぐさまその手が振り払われ、刃が「近寄るな」とふらついた足取りで離れて行く。
ホタルは獣のような呻き声を上げ、ふらふらと歩いて行く男の背を黙って見つめていることしかできない。
この男が離れて行くのは、自分を傷つけまいとしているからだと知っていた。彼の意思に反してそばに行き、戦闘になれば、目が醒めてからきっと後悔させることになるだろう。とは言え、どのみちカフカが帰還しなければ戦闘になる可能性が高い。
「カフカを呼んでくるね」
蹲り、ホタルに背を向けている男に声をかけ、部屋を出るとカフカにコールする。
数コールで出た彼女は既に事態を予測していたのか、「もう着くわ。家具を壊さないように見ていてあげて」とホタルが説明する前に、いつもの調子で朗らかに答えた。
「ただいま」
お気に入りの服がいくつも見つかったのか、カフカはさまざまな色のショッパーを肩から下げていた。デバイスを構えて刃を見つめていたホタルは、カフカの上機嫌な表情にホッとして、「おかえり」と口にする。
カフカはショッパーを床へ下ろし、「刃ちゃん」と武器を片手に床から立ちあがろうとしている男へ声をかけた。
「聞いて、刃ちゃん、そんなに苦しまなくていいの。何も考えなくていいのよ」
カフカの声に耳を傾けるように、立ちあがろうとしていた刃の動きが止まる。
ゆっくりと彼のそばまで歩いて行き、しゃがみ込むと、カフカは青白い刃の頬に手を添えた。その細い手首を刃が掴む。
「俺は
……
」
「聞いて、私の言葉だけに意識を傾けて」
刃の手から力が抜け、だらりと床へ落ちて行く。彼の剣が消えて行き、じっと、赤と金の瞳がカフカを見つめる。
わかった? とカフカが首を傾げると、ああ、と刃が肯定するように瞬いた。
「リラックスして、私の鼓動を聞いて
……
」
刃の頬骨をゆっくりと親指でなぞりながら、カフカが優しい声で続ける。
ホタルはこうした二人の姿を見るたびに、いつも、なんとなく居心地の悪さを覚えていた。
気まずいのではなく、過去、女皇に対して従順だった頃の記憶を思い出して落ち着かない。
「さ、荷物を部屋まで運んでくれる? 買いすぎちゃったの」
床に置かれた刃の片手を取り、カフカが立ち上がる。刃は手を引かれたまま同じように立ち上がり、カフカが指差したいくつものショッパーを無言で持ち上げた。
カフカが刃の背中に手を置き、背伸びをして耳許になにか囁くのを見てから、ホタルは彼女に声をかけた。すでに刃は一人で歩き出している。きっと彼女の部屋に荷物を持って行くのだろう。
「カフカ、ごめんね」
「どうしたの? 君が謝ることなんて何もないわ」
「でも、もしかしたらあたしが刃を刺激してしまったかもしれないから」
ホタルの答えに、カフカは大人しく歩いて行く刃に一瞥をくれてから、にっこりと笑いかける。
「気にしないで、この後もう少しだけ強くかけておくから、きっともう大丈夫よ。彼はおしゃべりが得意じゃないけれど、嫌だと思ったらそもそも口を利かないから。普通に会話ができていたんでしょう? それなら大丈夫。むしろ、刃ちゃんが後で気まずそうな顔をしていたら許してあげてね。
——
刃ちゃんに掛け直してくるから、また後でね。夕食は一緒に食べましょう」
「うん、わかった。
……
ねえカフカ」
「なに?」
「手を触ってもいい?」
「え?」
普段は手袋に包まれているカフカの手は、今日は指輪をいくつか嵌めているだけだった。指先のネイルは深い蘭色で、彼女の髪や瞳とよく似合っている。
カフカは不思議そうな顔をしながら、手がどうしたの? とホタルに手のひらを差し出した。
ホタルは恐る恐るその手に触れて、温かいことにホッとする。
「ううん、なんでもない」
「そう? ならいいけど。
——
待って、刃ちゃん」
ヒールの靴音を響かせながら、カフカが刃の背中を追いかけて行く。
ホタルはすでに見えなくなっている刃の姿を思い出し、永遠の行く先があの姿だというのであれば、やっぱり、永遠なんて碌なものじゃないらしい、と何度目かの確信を得る。
「だけど、」
ホタルはカフカの手の温かさを思い出し、自身の始まりの記憶を辿る。
あの日女皇に跪き、くちづけた指先は恐ろしく冷えていた。
彼は、あの冷たさを知らないのだ。
それは幸福なことだとホタルは考えている。
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