河童の皿箱
2025-06-05 10:31:58
1592文字
Public 遊戯王:短め(2025年度)
 

ふつかよい

P.U.N.K.の男連中が二日酔いしてるだけ。

 居間に並んだ3つの布団。左に寝転ぶ絵師の逞しい腕は、その目を覆い隠して、けれど隠されぬ口から漏れ出た呻きばかりは、どうにもならぬ。右に寝転ぶ雅楽師もまた、同じようにうんうん呻いては、赤いような青いような顔色で、細い目をぱちぱち瞬かせては、やはりまたうーんと呻く。そんなふたりに挟まれ寝転ぶは、屋根裏に住む黒き雷神である。しかし雷神もまた、左右と同じように顔色が悪いまま、うつ伏せで気持ち悪さを訴えた。
 はぁ、と零れたため息は、世話焼き世話好き黒衣のもの。されど、そんな黒衣ですら、今回は溜息が出るばかり。寝転ぶ3人に何があったか。端的に言えば、二日酔いである。

 事の始まりは、絵師と楽師の酒盛りであった。能楽師と人形師が出張に出て、絵師と楽師が留守番をするともなれば、夜はたいてい、ふたりきりで酒を飲むのが通例であった。幼き能楽師たちが家にいるときはたまに飲む程度、人形師が居るときは人形師も時たまに飲む。けれどやはり男ふたりの水入らずというのは貴重なもののようだった。
 そんないつもの酒盛りに、ふと降りてきたのが呪雷神ことジュラである。幽鬼とともに屋根裏に住み、下に住む人々を見守るのがいつものことであったが、久しぶりの酒盛りに盛り上がったのだろう。ふたりの楽しそうな声に惹かれて降りてきたのだそう。
 そんな神を歓迎し、もてなした絵師と楽師。盃に酒を注ぎ、グイッとあおった飲みっぷりについつい気をよくして、ぐいぐいいってしまったらしい。しかし、雷神はこれまでに酒という飲み物を口にしたことがなく、飲み方というものを知らなかった。飲めば飲むほど心地よくなる謎の飲み物をそれはそれは欲しがって、けれど絵師も楽師もたんまりと飲んで。

 そしてこの惨状である。初めに見つけた人形師が、混沌とした食卓に食べかけと酒瓶が。床に3人の男たちが転がっているのに気づき、次いで帰宅した能楽師たちがみたのがそう、この布団に包まる男たちであった。とはいえ、戻していないことだけは幸いであったか。
 「さけくさい」、と上の子が嘆けば、「飲みすぎなんだよ、バカ!」と下の子が怒って左の布団を蹴り飛ばす。「悪かったって」と無抵抗に蹴られる絵師と、「しゅまんかたにょ」と未だ呂律の回らぬ楽師。苦笑する中の子が「手伝う?」と尋ねれば、人形師は頷き、食卓の片づけを命じた。
 上の子が自分たちの荷物を、中の子が居間を、下の子が看病をと奔走する中、呆れ顔の幽鬼もまた今に顔を出しては、「飲みすぎ」と雷神を諫めた。「恐ろしい飲み物だなこれは……」とぽつぽつ零す雷神の、長い長い髪を、布団の外にまとめてやる幽鬼。
 そうこうしている間にも、人形師が茶碗を3つ持ってきた。なんとか酔っ払いどもの体を起こし、差し出したのは、残り物の焼き魚の身をほぐして入れた、冷茶漬けであった。「いただきます」と絵師が口にすれば、酒のつまみにした塩気の強い身が、飯と茶とでほろりと混ざり、疲れ切った臓腑を癒してくれる。不意に『これで酒を飲みたい』と口から飛び出そうになるも、今ここでそれを言えば、能楽師たちの痛い視線、もしくは蹴りのお替りと、今もこうして看病してくれる人形師のさらに大きな溜息が返ってくるには違いなく、旨いそれと共に飲み込んだ。

 気持ちは悪くても食欲はあったようで、空になった茶碗に一息つく人形師。常備薬にあった酔い止めの漢方薬を飲ませ、冷たい水をたっぷり用意しては、枕元においてやる。戻ってきた能楽師たちとも、心配性の幽鬼とも協力して、羽目を外しすぎた男たちの世話をする。

 長い仕事が終わって、ゆっくりできるかと思いきや、また仕事がある。それを引き起こした3人はなんだかんだで罪悪感があるようで、度々に謝罪をこぼしたが、小さな両手たちが痛む頭をわしわしといじくりまわすばかりであった。