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Ai
2025-06-05 00:45:41
1707文字
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かななゆ
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Just chill
かななゆ/珂波那由
休憩しましょ♪ってお話
珂波汰のうなり声がしたのはアイロンが温まる寸前だった。朝から作業部屋にふたりでこもり、すでに八時間が経ったころである。
アイロン台に乗せようとしていた服をあきらめて、那由汰は兄の様子をうかがった。猫背というより前のめりに近いその体勢を見て、ああ
……
と、納得する。
よりによってこのタイミングか。
今日は格安の裾上げテープとやらのお手並みを拝見してやろうと意気込んでいた。今回の裾上げテープは古着屋で見つけた三十円の代物で、そんな駄菓子みたいな値段のコイツが使いものになるのか。真偽を確かめるはずだった。
が、どうやらその前にやるべきことができた。
アイロン台に片肘をついて、那由汰はうなっている珂波汰の背中をながめるように見た。
珂波汰のうなり声はバリエーションが豊かだ。最初は「んー
……
」とひかえめだったのに、今は「あー」とか「うー」とかまでまざってきていて、ひとり言として済ませるには難しいレベルになっている。
うなってるだけなら可愛らしいかもしれないが、頭をガシガシとかき乱しながら時おり舌打ちをはさんでくるので、圧倒的にガラが悪い。
ぼけーっと考えごとをしていれば美人に見えるのに、顔の良さより不機嫌を押しだしていくスタイルが珂波汰らしくていい。
「珂波汰」
そっと後ろから声をかけてみるが、珂波汰のうなり声は消えなかった。むしろ、集中力が切れそうなのか、キレ気味の舌打ちが聞こえてきた。
「聞こえてねーな」
ガラ空きの背中。それじゃあ背後からグサッて刺されても文句言えねーぞ。
からかい半分にそう思いながら、那由汰は背後からそっと近づき、珂波汰のヘッドフォンに手をかけた。
せーの
……
で、外してやった。そのときだった。珂波汰がいきおいよく振りむいた。反動で、乱れた髪がきれいに広がり、見事に那由汰の頬を高速ビンタした。
「てっ
……
!」
那由汰は思わず目を見ひらいた。どうやら背中がガラ空きでも、反射神経の速度はすさまじいらしい。
だが、本当に驚いているのは那由汰よりも珂波汰のほうだった。いきなりヘッドフォンを外されたのだから仕方ないだろう。
「
…………
那由汰かよ」
「ビビリすぎ」
「
……
うっせー」
ただでさえ細かった集中力の線がちぎれてしまったのか、珂波汰がムッと眉間にシワを寄せた。それでも怒鳴りつけてこないのは、珂波汰が那由汰になにかと甘い証拠である。
外したヘッドホンを珂波汰の首にかけて、那由汰は音楽機材が置かれた作業机にもたれかかった。
「珂波汰ぁ、ちょっと休めば? 気張りすぎ」
「
……
あともーちょいなんだよ」
「でもさっきから進んでねーんだろ。朝から何時間経ったと思ってんだよ」
呆れまがいに言いはなって、那由汰は指先で珂波汰の手を突っついた。つんつん、と二度ほどつついたところで、珂波汰にその指先をつかまれた。那由汰はふーっと息をついて、
「アイロン できないー アイロニー マカロニー」
きれいな弧を描くやわらかな唇に、軽いメロディをのせた。
「
…………
は?」
「『は?』って、今の笑うとこじゃね?」
「どういう笑いのセンスだよ」
フッ、と珂波汰が口元に手の甲をあてて、くつくつと笑った。
「マカロニーって。腹減ってんの?」
「べつにそんなんじゃねーけど
……
。あー、けど、そう聞かれるとなんか腹減ってくんな」
「なんだよ、それ」
「んー? なんか聞かれるとそういう気になるじゃん」
「あー、ま確かに」
「だろ?」
「
……
しゃあねーな」と、珂波汰が那由汰の手を握って立ちあがった。
「休憩しようぜ、那由汰」
「うん。あ、アイロン」
「あとで良くね?」
珂波汰がぐっと天井にむけて伸びをした。さっきまでの猫背がピンと正されて、ガラ空きだった背中にいつもの気配がもどっていく。それを那由汰は見守りながらうなずいた。
「それもそっか」
珂波汰につられて、那由汰も一回大きく伸びをすると、リビングと作業部屋をつなぐ戸に手をかけた。
「なんか食う?」
「あー、マカロニー?」
「いじんなよ。てか、うちにマカロニとかあんの?」
「ねーな」
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