ながとぅ
2025-06-03 23:46:43
6090文字
Public ZZZ/ビリイト1W
 

ZZZ【ビリイト1W/急啓、無能な俺へ】

ビリイトワンウィーク!!第三弾!!!!毎度お馴染み大遅刻です!!!!
突然のシリアス回かつ、時間の問題で展開がジェットコースターです!!!!!!!!
お題①: キャンディ
お題②: 過去の亡霊

キャンディ&過去の亡霊

「おーっす、ライト!」

“あの日”からもうひと月が経った。

「この間のステッカー、シークレット出たんだぜ!第二弾の発売も決定してよー!」

静かな室内には、俺の声だけが響いて、語りかけている相手からの相槌はない。

……俺の代わりに舐めてくれる約束だったろ、ライト」

虚しさとやりきれなさに、気分も声も沈んでいく。
――何故なら。
ここは病院で、ライトは俺の目の前でバイタル測定機に繋がれて、静かに眠っている。
“あの日”以来、俺様のデキる後輩は、目を覚ましていないからだ。

【急啓、無能な俺へ】

――遡る事ひと月前。
今日も今日とてオフにかこつけ、ライトを六分街へ呼び出す。
この頃からビデオ屋の駐車場を借りて顔を合わせる事が増えていた。
バイクで移動するライトの都合がいいから――というのは建前で、この逢瀬が誰かに見られる心配もなく、気兼ねなく話せるからだ。見られる可能性があるとすれば店長達か、イアスを含めたボンプだけだが、茶化したりして来ないはずなので心配はない。当然、店長から許可はもらっている。
いや、マジで邪兎屋や郊外の連中に絡まれる心配がないだけで幾分も心が楽だ。もっと早く気付けばよかった――などと考えながら待っていると遠くから巨大な鼓動のようなエンジン音が聞こえてくる。

「おーっす!ライト!」
「昨日の連絡には大事な用って書いてありましたけどどうしたんすか?」

フェンスを開けて中に誘導し、エンジンが停止した所で話しかける。

「喜べ!飴ちゃんやるよ!」
「はぁ?何でまた

棒付き飴がミッチリ詰まったレジ袋を差し出す。
とはいえ、素直に受け取ってくれる訳もなく、どちらかと言うと訝しむような目で見つめられている。
だが、ここで諦める俺ではない。

「ふっふっふこれを見ろ!」
「スターライトナイト、キャンディ……三本入り。キラキラステッカー一枚入り全二十種?」
「このステッカーのシークレットが欲しくてぇ……
「いやいや、さっきまでの威勢はどこ行ったんすか」
「つい
「で、飴だけ俺にくれるって訳っすか」
「頼む!協力してくれ!!ウィンウィンだろ!?」

俺が両手を合わせ、必死に拝んでいると、溜息が聞こえた。
恐る恐る目を開けると――

「パイセン、頼まれた時俺が断った事あります?」
「ないッ!!ありがとな、ライト!持つべきものはデキる後輩だ!そうと決まれば141で買い占めするぞッ!」
「へーいへい

そうしてとんとん拍子で話が進み、浮かれていた。
買い物を終えた所で141で会った店長からの依頼で、ホロウに入る事になったのは誤算だったが、この後予定もないからと快諾。
そして、早く終わらせてキャンディを開封しよう、などと盛り上がる俺達。
そんな中、誰もが予測していなかった事態が起こった。
ライトが俺を庇い、庇った先で偶然生まれた裂け目に落ちたのだ。
その裂け目の中はあまりにも複雑に入り組んでいて、店長でもすぐにライトへ繋がる道を見付けられなかった。
そこから一時間が経ち、店長の案内でライトをホロウからようやく助け出す事が出来て、奇跡的に俺を庇った時以外の外傷はなかった――そこまでは良かった。
長時間ホロウにいた事で生じた侵蝕症状により、ライトは昏睡状態に陥った。

――話は、冒頭に戻る。
そんなこんなで、俺は毎日見舞いに来ている訳で。
俺の不注意が招いた事で、好意を抱く奴を救えなかった。男としてあまりにも不甲斐ない。
ライトが目覚めたら謝るべきか、それとも――
そうして答えの出ない自問自答をこの病室で一ヶ月も繰り返している。

どうやら日が落ちて室内が暗くなったようで、足元に据え付けられた常夜灯が点灯して、現実に引き戻された。

「もうこんな時間か。そんじゃ、今日は帰――
「ん……
「ライト!?」

椅子から立ち上がった矢先。
瞼が揺れて、翡翠の瞳が空に昇る三日月のように覗く。

「い、今、医者をよ――

テンパるメモリを総動員して言葉を絞り出す。

「アンタ、誰だ?」
「は?」

ライトの口から発された、掠れた声と言葉。
俺に胆というものが存在しているとしたら、抜かれたどころか鷲掴みの末、握り潰されていただろう。
いや、存在していないとしても、これはあまりにも――
正直、そこからの記憶はない。
アーカイブは残っているんだろうが、観る気には到底なれないシロモノになっている事だけは記憶に残っている。

☆☆☆☆☆

気付けば、外は真っ暗でカリュドーンの子を代表してルーシーが病院に来ていた。
帰ろうとしていたものの腑抜けとなった俺は容易く捕まり、帰らずに待っていろと釘を刺され、話が終わるのを待っている状態。
言ってしまえば、扉一枚隔てた向こう側でふたりが話をしている。
しかも俺の耳に届いていると分かっているだろうに。あまりにも人が悪い。ベンチに腰を下ろしたまま溜息ばかりが口をつく。

「ルーシー、マフラーは無事か?」
……マフラー“は”無事でしたわ。自分の命の無事を先に確認した方がいいのではなくって?」
「マフラーが無事ならそれでいい」
「もうッ!良くないですわ!貴方の頭が無事じゃねぇですわよ!」
「そういえば、パイセンはどこだ?」
「はぁ……。いかれポンチになった貴方の言う“パイセン”がどんな方なのかは知りませんが貴方が敬愛していたはずの“パイセン”なら部屋の外ですわよ」
「まさか、あの機械人か?」
「えぇ、まさしく」
「冗談も休み休み言えよ。機械人がパイセンな訳ないだろ」
「では、貴方の言うパイセンはどんな方ですの?」
「あの人はグレイッシュの髪に剃り込みと無精ひげ。口周りやら耳やら山ほどピアスを開けている愛煙家、何より体温のある血の通った生身の人間だ」
……分かりましたわ。今日は取り急ぎ私だけですけれど、明日には退院ですし、シーザーも連れて来ますわ。これからの話をしないといけませんから」

目覚めたばかりで記憶が混濁しているだけかと思ったが、そうではないらしい。
ライトは、一体誰の話をしているのか。
今の俺にそんな人間の心当たりは全くなかった。
そこからルーシーに何か言われた気もするが、記憶にない。

――その晩。
帰宅すると親分達に何か言われた気もしたが、何も考えたくなくて、意識を強制シャットダウンして眠りに就いた。
めでたいはずなのに、素直に喜べない自分がいる。
嗚呼、明日が来なければいいのに――

「おいってば」

不意に俺を呼ぶ声が聞こえる。
強制シャットダウンした俺に外からの声は基本的に届く訳がないはず。

「おーい、起きろって」

起きたら明日が来てしまう。起こさないでくれ。
反抗期よろしく、声の主に裏拳を当てるつもりで寝返りを打つ。

――ライトがどうなってもいいのか?」

待て、今、俺はシャットダウンしているのに寝返りを――違う、そこじゃない。
今、俺を起こそうとしている声の主は、ライトと言ったか。

「おっ!やーっと起きたか!」
「お前ッ!!」

起き抜けで娘達を向けたが、男は動じない。
照準を定めるために向けた視線。

「何しに来た!!」
「おいおい安心しろって。俺は敵じゃないし、ここに娘達は存在しない」

そんなまさか、と思いつつ手を見遣る。
確かに向けたはずなのに、俺の手に娘達はいなかった。
それどころか、周囲は真っ白で果てがないように見える。
つまり、シャットダウンしたはずの俺の部屋ですらない。

「まず、誤解がないように言っておくが俺はお前の世界のライトを盗るために来た訳じゃない」
「は?ライトは俺を俺と思ってな――待て、今俺の世界って言ったか?」
「おうよ。お前の世界のライト」

改めて男を見つめる。
すると視覚情報として入って来たのは、グレイッシュの髪に剃り込みと無精ひげ、口周りや耳にたくさんピアスを開けていて、口には咥え煙草。
この容姿は、紛れもなく――

「つまり、お前は?ビリー・キッド?」
「大正解!さすが機械人だよなぁ。頭の回転が速くて羨ましいぜ

冗談だろう、と耳を疑う。耳なんてないのに。
まさに頭が混乱している証だ。
回転が速いとは思えないレベルなのに、この男は何を言っている。

「俺は昏睡状態のライトを起こすために手を貸した、それだけだったはずがちーっと深く関わり過ぎて機械人のビリー・キッドが人間のビリー・キッドとして記憶が上書きされちまって、上書きされちまったんだよなぁ

一体何を言っているのか理解が出来ない。
映画の中の話でもしているのか、と声が出なかった。

「じゃあ、どうしろって言うんだよ!」

代わりに出たのは、情けない声だった。

「おいおい、分かるだろ?お前は俺、なんだからよ」

いやいや、全く・これっぽちも・1ミリたりとも意味が分からない。
一方的に現れて何を言っているんだ。
何の説明になっていない事に目の前の“俺”は気付いていないのか。

「いいか!くれぐれも後悔して俺みたいになるなよ!じゃあな、“俺”!」

いかつい容姿のくせに人好きする笑みを浮かべ、白の風景へ溶け込むように霧散していく“俺”。
すかさずそのジャケットを掴もうと手を伸ばした――はずだった。

「待てッ!お前の後悔って何のこ――
「うわっ!!びっくりした

大声を上げて起き上がると、聞き慣れた声が聞こえた。
ゆっくり辺りを見回すと、今度は俺の部屋で。
掴んでいたのは、親分のジャケットで。
そこに邪兎屋の面々が集まって俺の顔を覗き込んでいた。

「親分?猫又に、アンビー?あー揃ってどうした?」
「どうしたじゃないわよ!何回呼んでもあんたが起きないから猫又に見に行かせて、猫又が何度も起こそうとしても起きなかった!ってベソかいて戻って来たから見に来たのよ!!」
「あー……悪い

今度は納得の説明だった。
納得出来ないのは、夢の中で自分に会った事だけ。
マジであいつが自分なのかは置いておくにしても、まだ後悔はしたくない。

「親分、迷惑ついでに一つ頼みがある」
「何よ」
「今日はオフで頼む。やんなきゃならねぇ事が出来ちまったんだ」
「はぁ……。昨日から呆けたままだし、具合が悪いまま来て足を引っ張られても困るから、やる事やってから戻って来なさい!いいわね!」
「おう!!」

言うが早いか、ジャケットとビニール袋を掴んで事務所を飛び出した。

☆☆☆☆☆

吸気モジュールを軋ませる程に走り、六分街のビデオ屋に駆け込む。

「やあ、ビ――
「ッ、店長!悪い!郊外まで送ってくれ!」
「は、え?どうしたんだい?」
「手伝って欲しい事がある。店長にしか頼めねぇ」
……他ならぬビリーの頼みだ、付き合おう。リン、店番頼んだよ」
「ビリー、お兄ちゃん!気を付けて行ってきてよね!」
「助かるぜ!」

移動の間、店長は黙って俺の話を聞いてくれた。
俺を庇ったライトが目覚めた事。
ライトが“機械人としてのビリー・キッド”を忘れた事。
夢に“人間のビリー・キッド”が現れた事。
全てを語り終える頃には郊外に着いていた。

「ライト!」

俺が車から降りると同時に、トラックから降りて来るライトの姿を捉える。
偶然だとしても今を逃せば間違いなく、顔を合わせるチャンスはなくなる所だった。

「またアンタか。一体何の用だ?」
「これがマジの最後だ。金輪際、お前には関わらないと約束する」
……いいだろう」
「さんきゅ」

壁に寄り掛かったライトがサングラスの奥で瞼を閉じる。
俺の姿なんて見たくない、そんな意思表示を感じながらも深呼吸の後、言葉を紡ぐ。

「俺は、お前が好きだ。誤解のないように言うと、愛してる。ぞっこんラブってヤツで、ついでにお前が大切だ」

俺を覚えているライトなら何て言ってくれただろうか。
そんな想像をしながら、表情どころか眉一つ動かさないライトから目を離さない。

「どうあれ、結果的に守れなかった奴が何を言ってるとかそう思われても仕方ない。守り切れなかった俺の落ち度が大きい事も分かってる。だからお前に今更どうこうしろとか、あれこれして欲しいなんて言わない。今のお前に必要なのが俺じゃないビリー・キッドだとしても、俺はお前のピンチに必ず駆けつける。これだけは絶対の約束で、俺はお前だけのヒーローだ」

言葉を紡ぎ終えると共に赤いマフラーが乾いた風でなびくが、ライトはひたすらに沈黙するだけ。

……で、言いたい事はそれだけか」

ライトがようやく瞼を上げるものの、俺への敵意は変わっていなかった。
カリュドーンに拾われたばかり頃よりは丸くとも、今の俺には十分に堪えるもの。

「あぁ、満足だ。引き止めて悪かったな」

――嗚呼、これが俺の恋の終わり。
俺自身の無力さであり、自業自得だ。
あまりにも呆気ない幕引き。
こんな事ならもっと早く――玉砕覚悟で告白しておけばよかった、なんてのは後の祭り。
夢の中に出て来た“俺”の言う後悔はこれの事だったのだろうか、と一瞬だけ脳裏を過ぎったが、確認のしようもなければ、どうやっても時間は巻き戻せない。
ライトが無事だった、俺にはそれだけでいいのだ。

「そうそう、これ食ってくれ!」

ライトと少しだけ距離を詰めて、胸元に持っていた袋を押し付ける。
いっぱいに棒付き飴とスターライトナイトのステッカーが詰まったビニール袋。
未練はないと言えば嘘になる。とはいえ、踏ん切りは付けなければ。

「は?」
「じゃあな、ライト!達者でな!」

笑顔で手を振って車に戻る。
もう、振り返ってはいけないのだ。

「うっし!店長、急に送ってもらって悪かったな!用は済んだし、帰るかー!」
「そうだね、帰ろうか」

助手席に乗り込むと、店長が笑顔で迎えてくれた。
何も言わず、聞かず傍にいてくれる所が漢って感じがするなぁ、なんて思っている間に車は走り出す。

「なぁ、ビリー」
「んー?」

走馬灯、とはこういうものを言うんだろうか。
ライトと過ごした思い出が脳裏を駆け抜けては消えていく。
ぼんやりしているうちに六分街が見えて来た。
もうすぐビデオ屋で、日常に戻るタイミングが来た。

「過去の亡霊……原題はファントム・オブ・パストだったかな。今度来るまでに用意しておくから観てみないかい?勿論、僕の奢りだ」
「お、いいねぇ!アクションか!?モニカ様が出てるのか!?」
「ハードなアクションではないし、モニカ様はいないけど、面白い作品だよ」
「そうなのか。でも、店長が言うんだ!間違いなく面白いんだろうな!」

――この映画が後に転機をもたらすなど、この時の俺は知る由もない。

END?