もろ餅
2025-06-03 22:36:57
2500文字
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鴨メル未完話

頑張れたら頑張ります。

 夕ご飯も風呂も済ませ、まったりとした時間。

 頭半分でネットサーフィンをしている最中、一つの記事が目に飛び込んできた。
 鴨志田さんから話を聞いたのがついこの前のように感じる。もう話題になってるのかと記事をタップし、下へ下へとスクロールしていた指が、とある単語の上で固まった。


『鴨志田朔夜×星野アクアが出演するドラマ「ひとあめ」は人気沸騰中のBL小説が原作の感動恋愛ストーリー__』

 鴨志田さんが今度やるドラマはBLかぁ。それは聞いてないな。初めて知った。BLB

「びぃえ!?」
「うぉっびっくりした」

 横でコーヒーを啜っていた鴨志田さんの肩が大きく跳ねた。「こぼすだろうが」とマグカップをテーブルに置く姿に思わず謝っちゃったけれど、「じゃなくて!」とスマホを鴨志田さんの目の前に掲げる。

「なにこれ、聞いてない!」
「え、言ったじゃんこの前。アクア君とドラマやる事になったって」

 たしかにそれは聞いた。
 共演は東ブレ以来だな~とか、映像はいつぶりだろうな~とか。酒を飲みながら話す鴨志田さんがあまりにも楽しそうで、恋人と友人のW主演に俺も嬉しくなって。2人で盛り上がったのを鮮明に覚えている。

 ただ、問題はそこではない。


「BLだなんて!聞いてない!」


 スマホを更に突き付けて強く訴える。
 肘置きに背を預ける朔鴨志田さんに跨って、ほぼ馬乗りの状態だろうとお構い無しだ。当の本人は「言ってなかったっけ?」とニヤついてる。わざとだろこれ。腹立つ!
 BL恋愛ストーリーというからには、鴨志田さんはアクアとハグをするかもしれない。役柄としてだけど。キスはカメラアングルや照明でしてる風にするんだろうけど。濡れ場ともなると、上裸でくっついたりするのだろうか。心が悲鳴をあげるから、これ以上考えるのはやめた。

「そんなに慌てる?」
「いや、」
「あぁ。嫉妬してんだ」
「は違ぇし!あれだ恋人と友達がイチャつくのが、複雑なだけだから!」

 言い訳があまりにも下手くそで虚しい。
 重いとか面倒とか思われたくなくて咄嗟に出たにしても酷い。最近の鴨志田さんはミュージカルや舞台が多かったから油断していた。
 役柄と言えど、ふとした瞬間に垣間見える『鴨志田さん』の表情に、酷く心を揺さぶられてしまう。それでも鴨志田さんは今をときめく人気俳優で、今後もイチャイチャシーンなんてごまんとあるんだろう。早く慣れなければ。
 そんな様子を察してか、鴨志田さんは嘆息しながら髪を掬い、項を撫でた手でグイと顔を寄せた。

「ぅ、わ」
「不安そうじゃん」
別に、」
「んな心配すんな。濡れ場はねぇから」
……そ、なんだ」

 どうして分かるんだろう。そんなに顔に出てただろうか。

 ほんの数秒前まで考えないようにしてたくらいの大きな不安。
 真っ向から否定されたことに安心して、ちょっと顔が緩んで、それに気付いた鴨志田さんはもっと緩んだ顔してた。心の中を見透かされたような言動に悔しさから素っ気ない態度をとってしまう。でも声が少し上擦っちゃって、悔しさ倍増。

 付き合い初めて3ヶ月。
 全身で愛を伝えてくる鴨志田さんには、まだ慣れていない。ヘラヘラとした女好きと、覗き込まれた時の鋭い目と突き刺すような声色の印象が強かったから。舞台裏で小声を言われることもあった。芝居は見惚れるくらい上手いけど怖くて、嫌われてるのが目に見えるのが悲しくて。今思えばお互い最悪な第一印象。
 今の鴨志田さんは一途に俺を想って、綻んだ顔で名前を呼んでくる。全くもって正反対。愛されてるなぁとは思うけど、慣れてないからなのか小さな出来事ですぐ不安になる。まさに今がそう。鴨志田さんと付き合うまで、自分がこんなに面倒くさい性格だとは思わなかった。
 向けられる好意を疑ってるわけじゃないのに、濁った蟠りばかり募る気持ち嫌だった。

 だから、これはチャンスなんだ。

 ドラマを追って耐性をつけてみせる。それにアクアと鴨志田さんの演技を学べるしで一石二鳥。我ながら名案だ。
 そうと決まればとソファに座り直し、スマホで放送時間を確認した。深夜帯だからリアタイは難しそう。録画すっか、なんて考えていると、スマホを覗き込んできた鴨志田さんが口を開く。

「見てくれんの」
「そりゃあね」
「フクザツーとか言ってたのに」
ダメなの?」
「うわっあざと。ずるいわそれ」
「へへ」

 耐性を付けたい半分、鴨志田さんの芝居は全部観たい半分。どちらも口に出すのは恥ずかしいから、適当に誤魔化した。

「メルト」
「んー」
「一緒に観る?」
んー」

 本音を言うと、一緒に観たい。
 鴨志田さんと演技についてあれこれ話すのは楽しいし勉強にもなるから。

 けれど、今回のは楽しんで観れるか分からない。鴨志田さんだって隣で不貞腐れてる恋人がいたら気が散るし面倒だろう。一時停止とか巻き戻しもしたいし。
 「不安になっちゃうだろ、お前」とけらけら笑う鴨志田さんが恨めしい。それを克服する為にも観るんだよ!

 「平気だし」「一人で観れるし」そんな戯言を呟きながら顔を背けると、鴨志田さんが顔に手を伸ばしてきた。


「それにさ、」


 人差し指と中指で下唇をふにふにと触られ、少し変な気分になり顔を上げる。そして後悔した。

 鴨志田さん、すげぇ悪い顔してた。



「濡れ場はねぇけど、キスやハグは結構あるからな。どんな反応すんのか気になんじゃん」



 信じられない。

 こちらの覚悟も露知らず、弄ぶ気満々。
 変な気持ちなんて遠い彼方へぶっ飛んでった。

 イチャコラ描写がなんだ。絶対に慣れてやる。
 不安がなんだ。微塵も感じなくなってやる。
 そんな意思表示と腹いせを込めて、結構な力で指に噛み付いた。

 いてぇ~なんてほざく鴨志田さんを見据え、毅然と宣戦布告をする。



「俺は! 一人で! 観る!」



一緒になんて、絶対観てやんねぇ!!






※観る