リュン
2025-06-03 20:43:07
2205文字
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君の隣で

シルヴァンオンリー開催誠におめでとうございます!!
シルヴァンとベレト先生が転生した現代で再会するお話です。

長く降る雨に泥濘んだ泥が重く絡みついてくる。
地面に伏せた君の身体から生命の証が溢れて雨に流れていく。
選んだのは自分だ。紋章に縛られない世を作るという信念を持った彼女についていくと。
だから一度繋いだ手を離した。
「ははなんて、顔して、る、ん、ですか……
君の手が頬に触れる。冷たい雨に打たれた篭手は氷のようで君の熱が分からない。
あの時触れた君の手の温かさをもう一度感じたいのに。
シルヴァン、……もっと、君と、話がしたかった」
……俺も、ですよ、っ……ぐ、げほっ、ぅ、ぐ
「シルヴァン!」
「あんたは、っ生きて、くださいよ、自由に気ままに、しているのがあんた、らしい……
するりと地面に落ちる手。濁っていく榛色の瞳に否応なく彼の最期を突き付けられる。
……生きるよ、君の思いとともに生きさせてくれ
君の命の証が、流れていく。

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物心ついた時から何かしらが足りない感覚があった。父も母も健在で双子の姉もいて決して一人ではないのに、時折強く思う感覚があった。

隣に君がいない。

君、というのが誰なのかは分からない。だけれど確かに誰か、家族とは別の誰かが隣にいてくれた記憶がある。
顔も声も分からない。いつか出会うのだろうか、なんて夢物語のようなことを考えては馬鹿げていると自分の思考に苦笑していた。


ある朝。モニターに映された風景に目が離せなくなった。
食べることも飲むことも忘れて画面に釘付けになっていたら、隣から伸びた手が皿の上のブルゼンを浚っていってしまった。
……ベレト、ここ、行きたい?」
………うん」
姉の問いかけにするりと口から出てくる言葉。答えてから速くなる鼓動。どっ、どっ、と強くなる音と熱くなる身体。
この場所を知っている。
モニターからはその平原の名前が読み上げられる音声。大昔に戦争で多くの血が流れたその場所で最近になって出土した過去の遺産があるとのことで、歴史好きのアナウンサーが興奮した様子で語っている。
……行かなきゃ」
翌日には飛行機に飛び乗っていた。

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大切な人がいた、と記憶している。それが誰だったか分からないけれど。自由に生きる姿に妬みと、憎しみと、そして強烈な憧れを抱いた記憶。
だからってのか、誰と交際しても何かが足りない。その人の面影を探して探して次の人へ、次の人へ。幼馴染に言わせると、とっかえひっかえやら、色情魔やら、散々な言われようだったけど。
俺なりにきちんと誠実にお付き合いってのはしてきたつもりだ。振られる時は決まって「貴方は私じゃない誰かを見てる」のセリフで締めくくられちまうけど。

それなら運命の君とやら、探しに出ちまうかって。まだ自由が利く学生の内に父親を説得して飛び出した。
会社を継いでからではしばらくは勉強の日々だろうから、今の内に世界を見て回って見分を広げたいって主張は半分本当で、半分後付けだ。まぁ悟られていただろうから、深くて長いため息の後に許可が出たのには驚いた。
兄貴には俺に皺寄せがくるだろうって渋い顔をされてしまったけれど。
苦笑いでごまかしながらパスポートとでかいバックパックと記録の為の手帳とを持って家を飛び出した。その解放感といったら。
待ってて下さいよ、顔も知らないあんた。

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かつては神聖王国と呼ばれていた国に平原はあった。中心都市から離れたその場所へ行くには今日は遅すぎるから、城を観に行くことにする。過去の戦の大火で焼け崩れたとされる城や城下町は数十年かけて丁寧に修復され、今は歴史的観光地となっている。宿に荷物を置いて城下町に出る。
広がる街並みになぜだか懐かしさと同時に感じる哀しみ。初めて来たはずなのに、なぜだか行き先が分かる。迷いなく動く足のままに進んでいく。
たどり着いた広場から見上げる城は大きくて立派で、ここがあの子が守りたかった場所。
………シル、ヴァン」

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昔からその場所の写真や映像を見るととても懐かしくて温かくて、そして胸が締めつけられるような感覚があった。生まれた国は違うのに。
いつかその場所に帰るのだと、なぜかそう思った。だからまずは旅の初めの目的はその場所。
城下町から石畳の坂を登っていく。抱えたバックパックの重さが仇となってるけど、進む足は着実に道を踏みしめて後退することを許さない。
登り切った先で少しだけ弾む息を整えて顔を上げた時だった。
視界の先に移るその後ろ姿。風に揺れる深い藍色。
嘘だろ、……あんた、何してんだ。
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「先生っ、」

とても懐かしくて愛しく感じる呼称に弾かれたように振り返る。あたたかい光を受けて紅く煌めく髪が眩しい。喉が震える。まだ君の名前も知らない。
なのに君を待っていたんだと心が逸る。
「っ、……、!」
駆け出してその手を掴まなきゃいけない。


振り返ったその人のことをまだ何も知らない。なのに口をついて出た言葉はひどく馴染んだ。
早く、早く、腕の中に閉じ込めて、離さないでおかないと。