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夢篠
2025-06-03 01:18:05
2837文字
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二人で夫婦になる話
実はめちゃくちゃ気の長い黄昏甚兵衛と夫婦になっていく話
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
殿が嫁取りした。今更である。俯いて歩くその娘の事を私は殿の命により調べ上げた。生まれの事も、その為人も、くにでどのような扱いを受けていたかも、全て。
為人は悪くない。ただ、致命的だと思ったのは城主の妻となるには教育が足らなかった事だ。娘はくにで蔑ろにされていて、そのせいで体系的な教育を受けていなかった。多分嫁取りしても表に出せるような妻にはならないだろうと思った。だからそう進言したと言うのに!
「そちらの方が面白いだろう」
言うに事欠いてこの殿は~~!とは思いながらも、少し殿の様子がいつもと違う気がした。これという決め手は無いけれど。
結果的に娘はタソガレドキに嫁いで来た。嫁いで来てすぐのその顔が酷く曇っていたのが印象的だった。まあ、そりゃあそうだろう。彼方からすれば戦好きの殿の治める大国に政略で嫁いで来たのだから。殿に挨拶する時の声の震えが、彼女の不安と絶望を表していた。でも殿も殿で非道いよなあ、と思う。あんなに震えた声の娘に「下がって良い」としか言わないなんて。
「殿ってばひど~い。
ナマエ
様、泣いてましたよ~」
娘が退出して、そろりと殿の横に降り立つ。殿の視線がゆっくりと動いた気がした。そうか、と平坦な声がした。何を思っているのだろう。いつもより、殿が読めない気がした。
翌朝、早速殿があの娘の寝所から出て来たから予想よりも早いお手付きだな~と思った。正直なところ、あの人はそういう欲が殊更に強いようには思えなかったから。寧ろ政略での縁談だから、あの娘は飼い殺しのまま放置されると思っていた。下手にお手付きして子が出来たら厄介な事もあるだろうに。まあ、良いか。
その二日後、今度は舶来の髪飾りを見繕うために商人を手配しろと言われた。これには少し、おやと思った。予想が正しければそれはあの娘に贈られる物の筈だ。だって今、殿が懇意にしている女はいない筈だったから。ご機嫌伺いは大切だが、それにしても。まあ、良いか。
七日後、また殿が彼女の許へ御渡りになった。意外とあの娘の事が気に入ったのだろうか。まあ、別に構わないけれど。もう少し様子を見ようか。
彼女がタソガレドキに輿入れしてから十日後、初めて彼女に認識された。それは偶然だったけれど。思慮深そうな大きな目が驚いたように見開かれていて、嗚呼、私の醜いせいで高貴な方を驚かせてしまったなあ、と顔を歪めていると彼女が目を瞬かせて口を開いた。
「こ、こんなに、上背のある方を初めて見ました
……
。ろ、六尺はございますか
……
?」
その発言が何だか面白くて、不敬だとしても笑ってしまった。隣を見たら殿も笑っていたから、多分許される。娘は、
ナマエ
様は困ったように目を白黒させていた。
ナマエ
様が殿の許に来てからひと月が経った。相変わらず、殿は三日にあげず
ナマエ
様の許を訪れている。意外だな、と思った。おぼこくて愛らしい娘とは思うがそれだけだ。殿の好みとは違うような気がしたのだが。
「このままなら、お世継ぎも直ぐでしょうねえ」
何の気無しに振った話題だ。だってそう思うじゃない。
ナマエ
様が嫁いできてひと月で、既に両手の指が足りなくなるくらいには御渡りがあったのだから。なのに殿がめちゃくちゃ怪訝そうな顔をするからこっちが怪訝な顔になってしまう。
「何を言うておる?言っておくがあの者には何もしとらんぞ」
「へえ、何も
…………
。
………………
、はあ!?」
驚いて包帯が出てしまいそうになる。ちょっと飛び出したのは適当にしまっておいた。は?え、何も?「何も、していない」?遂に不能になったのか?
「おい、不敬ぞ」
思っていた事が顔に出てしまっていたようで、殿が苛立たしげにため息を吐くのが聞こえた。ええ、あんなに足繁く通ってたのに何してるんだろ。そう聞いたら殿がめちゃくちゃ顔を顰めながら歓談、と答えたからちょっと面白くて声を出して笑ってしまった。そしたらめちゃくちゃ睨まれたけど面白いから良いや。
こんな面白い事、放って置ける筈が無くて、遂に私は殿の御渡りを忍んで眺めてみる事にした。いや~、高貴な方にはやっぱり護衛が必要デショ?
ナマエ
様の室の天井裏に潜む。彼女の室は質素だけれど、整然としていてとても綺麗だった。
ナマエ
様は文机で草子を読んでいた。あれ、あの草子、この間殿が「読みたいから手に入れて来い」って私に言ってたやつだな。人気だったから手に入れるのに苦労したから覚えている。
…………
まさか、な。
そんな事を考えている内に殿の御渡りを告げる声がして、
ナマエ
様の室に殿が入って来て二人きりになる。正しくは二人と一人きりだけれど。見ている此方が何故か緊張してしまう。
「甚兵衛様、」
まだ少し、遠慮がちではあるけれど
ナマエ
様の声には「嬉しい」という感情が多分に混ざっていた。表情も、最初に見た時よりも随分明るくなっている。
「息災か」
「ええ、お陰様で。良くして頂いてとても感謝しています」
夫婦なのに絶妙に微妙な距離感の二人が焦ったい。
ナマエ
様の声が殿に対して好意的な分余計に。殿の目が細まるのが見えた。ゆっくりと殿の手が
ナマエ
様に伸びる。おや、遂にか。そう思ったのに、殿の手が最終的に行き着いたのは
ナマエ
様の指先だった。
「儂は、一度だけ此処に来る前のお前と顔を合わせておる」
急に始まる話に
ナマエ
様が少し戸惑っているような気がした。私も戸惑っていた。そういえば、殿は同盟を結ぶため(それは殆ど脅迫に近いものがあったけれど)に一度だけ、
ナマエ
様のくにに行った事があったっけ。その時の事を言っているのだろうか。
「え、あ、そ、それは
……
、大変な失礼を、」
ナマエ
様は覚えていなかったようで酷く恐縮している。殿は含むように笑った。そこにはあまり、邪心は聞こえなかった。
「あの時、お前に問うたぞ。『お前の周囲を、どう思う』と。お前は、今と同じ事を寸分違わず言った」
「え、あ、そうでした、か?」
いよいよ困惑している様子の
ナマエ
様との距離が無遠慮に縮められる。一足飛びに二人の距離が消えて、殿の手が
ナマエ
様の頬に添えられる。やや強引に上向かされた
ナマエ
様の顔を覗き込むように殿が顔を寄せる。口吸いのための距離ではない。それは表情を読み取るための距離だった。
「だが、あの時の表情とは似ても似付かぬな。今は何やら、嬉しげに見える」
ナマエ
様が驚いたように目を瞬かせている。初めて私と相対した時のように。でも、直ぐにその顔が綻んだ。嗚呼、なんかもう、暫くは世継ぎとかどうでも良いのかも知れない。だってこれはこれで幸せそうなんだもの。
だって、甚兵衛様がいらっしゃるから、なんて、こんな乱世でそうそう聞ける言葉じゃないじゃない?
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