桐子
2025-06-02 23:04:34
2640文字
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まっさら⑦


検査の結果は、特に問題はなかった。
無口な護衛にマンションまで送り届けられ、水木は部屋のソファに身を投げ出した。身体が鉛のように重い。これからあの男に抱かれるのかと思うと、逃げ出したい気分だった。
「なんでこうなっちまったんだろうなあ……
水木はため息をついてまだ湿った髪をがりがりと掻いた。準備をしておけと言われたので、シャワーも浴びたし、ネットで調べて胎内の洗浄もした。だが、後ろに指を入れた時の異物感に耐え切れず、途中で断念してしまった。あの時、股の間に挟まれていた男のモノは、自分よりもずっと太くて大きかった。あれが本当に入るのか。
水木はそわそわと時計を見上げた。男が何時に来るのか、ここまで送り届けてくれた護衛に聞いておけばよかった。緊張でどうにかなりそうだった。
「ああ!」
バッと立ち上がり、水木はキッチンに駆け込んだ。そして、無駄に大きな冷蔵庫を開けた。中にはペットボトルの水とビール、シャンパンなどが冷やされている。生活感のない中身だ。水木は迷わずビールを手に取った。酒でも飲んでいないと、とてもじゃないが平静を保っていられそうになかった。
プシュっとプルタブを開けて一気に流し込む。冷たい炭酸の泡が喉を通り、胃の中に落ちていく。ごくごくと喉を鳴らして飲み干した。一本目を飲み終わると、二本目の缶を開ける。安い発泡酒とは味が違ったが、味わう余裕もない。ただ早く酔ってしまいたかった。
「っ、はあ……
二本目を空けようと缶を傾けた時、玄関が開く音がして、男が来たのだと分かった。リビングのドアが開く。護衛は帰したのか、男は一人だった。彼はキッチンでビールの缶を持っている水木を見て、あきれたようにため息をついた。
「酔った勢いなぞ止めておけ」
「別にいいだろ」
むっと唇をとがらせ、残ったビールを飲み干した。男は水木の手から缶を取り上げると、そのまま手を引いて寝室へ連れて行った。
「服を脱いでベッドへ上がれ」
当然のような口調で言われ、水木は恥ずかしそうにうつむいた。今からこの男に抱かれるのだと思うと、どうしたって緊張するし居た堪れない気持ちになる。だが、金銭を介しているのだから今更嫌だとは言えない。水木は震える手でパーカーの裾を掴み、まくり上げた。
「っ……
男はベッドに腰掛けたままじっと水木の身体を見つめている。その強い視線に、まるで視線で愛撫されているような気分になった。ジーパンも靴下も下着もすべて取り去ると、水木は裸のままベッドに乗り上げた。
「それもじゃ」
それ、と言われたのは眼鏡だった。水木は黙って眼鏡をはずし、サイドテーブルの上に置いた。
まだ羽織も脱がず、そのままの恰好をしている男と、素っ裸の自分。まるで、捕食する側とされる側を暗に示されているようで落ち着かない。
「そう不安がらんでもよい。初心者相手にひどいことはせん」
男は水木を抱き寄せた。少し甘い白檀と樟脳の香りが鼻孔をくすぐった。彼はそのまま、水木をシーツの上にそっと押し倒した。
「う……っ、あ……
肌の上を男の手が滑る。肌を優しく撫でられるのが心地よくて、小さく喘いでしまう。大きな手が肋骨をたどり、脇腹を撫でる。男の手はそのまま胸へ移動し、乳首を指の腹で押し潰した。
「んっ……
くすぐったいようなむず痒いような感覚に身を捩る。女の乳房のような膨らみもないのに、何が楽しいのだろうと思う。男はそんな水木の反応を見て、くすりと笑った。そして、今度は親指と人差し指できゅっと摘まみ上げる。
「ひ、あっ!」
びくん、と腰が跳ねた。男はますます笑みを深くし、今度は人差し指でくりくりとこね回した。
「や、それやだ……っ」
「本当か?あの夜は、随分と感じておったようじゃが」
かあっと顔が熱くなった。男の言う通りだ。胸を触られ、吸われて、女のような高い声を出して感じ入ってしまった。思い出したくもないことを指摘され、水木は悔しくて唇を噛んだ。
「ほら、こっちを向け」
「ん、んっ…………
男に顎を掴まれ、口を塞がれた。柔らかくてかさついた唇同士が触れ合い、水木は思わず目を閉じた。
「んっ、んん……ッ」
唇の隙間から舌が入り込んできた。つん、と舌先が触れ合い、そのまま優しく舌を絡ませられる。くちゅ、と唾液の絡まる音が頭に直接響いてくるようだった。歯列をなぞられ、上顎の裏を舐められるたびに身体が震える。飲み込み切れなかった唾液が口の端からこぼれた。それすらも舐め取られてしまう。
「は、ぁ……ッ」
長い口づけから解放され、水木は必死で酸素を吸い込んだ。男は水木の顔をのぞきこみ、目を細めた。
「覚えたか?」
「ッ……
何を、なんて聞かなくても分かった。これが男のキスの仕方であり、水木が覚えるべきことなのだろう。
「覚えられんなら、もう一度じゃ」
「ん、う……っ」
今度は最初から深く口付けられた。男の舌が歯茎の裏や上顎を舐め上げていく。まるで口内を犯されているようだった。その舌使いに頭がくらくらしてくる。男はしばらく水木の唇を貪ってから、ようやく解放してくれた。
「は、ァ……っ、ん、もう、覚えました……
「よしよし、聡い子じゃ」
男は機嫌よさそうに目を細め、水木の頭を撫でた。頭を撫でられるなんて、何年ぶりだろう。
「よし、今度はおぬしからしてごらん」
そう言って男は水木を抱き起し、自身の上に座らせた。そして、水木の後頭部に手をやり、ぐっと引き寄せてくる。
「ん……っ」
男の端正な顔が近づいてきて、唇が重なった。だが、それ以上のことはしてこなかった。戸惑って目を開けると、男の赤い瞳がじっとこちらを見つめている。早くしろ、と急かされているようで、水木はおずおずと舌を差し出した。
「ん……ふ、ぅ……
舌を絡ませながら、男の首に腕を回した。そしてそのまま身体を密着させるように抱き着く。
「っ、んんっ……んむ、ぅ……っ」
まるで恋人同士のように抱き合いながら、水木は必死に舌を動かした。この男はどうやっていたか懸命に思い出しながら、水木は一生懸命に舌を絡めた。
「ん、ン……ッ、う、ぅ……
少し息苦しくなって唇を離すと、銀の糸がつうっ……と二人の間に引かれた。それが切れる前に、今度は男の方からキスをしてきた。舌を吸われて甘噛みされると、ぞくぞくとした快感が背中を走る。
「あ……っ」
「及第点じゃな」
男はそう囁いて妖艶に微笑んだ。