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1883文字
Public まほやく
 

《ワンライ》6月1日(オーカイ)

新手の匂わせを始めるフォ学らしき世界のオーエン。友人からもらったネタでワンライしたもの。

※ モブ出演注意



 絶対に絶対、自分がリアコだなんて認めたくないから、物分りのいいファンの顔をして、「これ、よければ彼氏さんと」なんて言って、わざわざポップアップショップまで足を伸ばして買ったキレイな花柄のタブレットチョコを手渡した。
 出待ちも食品の差し入れも止める人がいないのは、カインくんが超人気インフルエンサーとはいえデビュー前のインディーズアーティストだからで、わたしの名前を覚えていてくれているのは、単純に記憶力と性格がめちゃくちゃ良いからだ。
 カインくんは「すごくキレイなチョコだな、食べるのがもったいない」と微笑みながら受け取って、数秒後に「……彼氏?」と繰り返して首を傾げた。心底なにを言ってるのかわからないという表情の、そのシラの切り方が完璧で、なんだかカインくんが本当に遠くへ行っちゃったみたいだった。
 そんなことを言いながら、このチョコも端からバリバリかじって食べちゃうんだろうなあ……と思ったけど、彼氏さんと一緒に食べるんならそんなことはないのかも、丁寧に丁寧に分け合って食べるのかも、と思ったら涙が出てきて、わたしはわたしがリアコであったことを認めるしかなくなってしまった。



「さっきの人見た?」
「見た。ロック画面チラッと見えて嬉しくなっちゃった。男性ファンって珍しくない?」
「ていうか顔が良かった」
「それ。言うてあんまちゃんと見れなかったけど」
「あの画像、初めて見た気がする」
「昨日インスタあがってたやつじゃない?」
「アングルが違う」
「怖」
「怖いよね! なんだろ、一瞬あげて削除したやつとか? あっちのが上目遣いぽくて可愛かったけど、カインくん可愛いよりもカッコイイて言われたがるじゃんね?」
「おめえがだよ」
「そっちか」
「てか物販何時からだっけ?」
「今日物販あんの?」
「たぶん?」
「全部自分でやってるんだから、偉いよね〜事務所入ればいいのに」
「高校卒業するまでは……ってこないだの配信で言ってたけどね。それって何年後だよっていう」
「算数できない子かよ」
「二年?」



 SNSでの匂わせなんて素人のやることだ。イタい奴としてスルーされるだけならマシで、最悪、個人情報を特定されて退学処分になるかもしれない。……なんて言うと周囲の不良たちは「退学が怖いのか」とバカにするのかもしれないけれど、退学しても構わないなら最初から底辺校に通ったりしていない。
 今はネットよりも現実のほうがよっぽど足がつきにくい。だから僕は現実で匂わせを始めることにした。方法は単純。カインのフォトクラウドアカウントを割って、同期されている写真からSNSにあがっていない自撮りを選ぶ。それを端末にダウンロードして、ロック画面の待ち受けにセットした状態で、カインのライブ会場近くのカフェに足を運ぶ。
 あとは手遊びにスマホを弄るフリをして、あいつのファンがロック画面に目を留めるのを待てばいい。そのうちの何人かは、壁紙に設定されているのが誰も見たことのない写真であることに気づくだろう。
 ガムシロップを五個注いだアイスココアを啜りながら、指先をスマホにコツンと当てる。バックライトに浮かび上がるカインの写真。おずおずと、それでいて下世話に突き刺さるファンのやつらの視線。背後から聞こえてくるヒソヒソ話。最高の気分だった。



 「キャア」と、ごく短い、けれど色で言うなら「黄色い」と表現するしかない叫び声が聞こえて、オーエンは控えめに後方をうかがった。ギョッと目を見開いたあと、すぐに表情を消して前を向き直す。

「ここにいたのか、楽屋で待ってたんだぞ」

 背後から聞こえる声の響きは親しげで、まるで親友か恋人に対するようだった。二人は初対面であるにもかかわらず。
 ゆっくりと背から肩を抱かれて、二度は驚きの表情を隠せない。それでもオーエンは緩慢に声の主を見上げる。

「あ、その画像。誰にも見せるなって言っただろ?」

 カインはどこか甘ったるい笑顔で言ったあと、声を低くし耳元で囁いた。

「なにが目的だ? 楽屋でゆっくり話を聞かせてもらおうか」

 オーエンは、にんまりと笑って「目的は、おまえの人生をめちゃくちゃにすること」と答えた。カインが大きな溜息をつく。

「大切なのは理由じゃない?」

 カインが今さら何をという顔で「俺のことが嫌いだからだろ?」と答えた。


How I Met My Husbandこれが二人の出会いであった

(↑タイトルかつオチ)
(続かない)