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みつる
2025-06-01 17:54:31
4123文字
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出久メモリーほしかったよ駄文
※タイトルの通り
※なんでも許せてスルーできる人向け勝デ
※プロヒ
「は?」
その日、俺はウキウキだった。
ヒーローデクのデビューを記念して、デクグッズ発売が公式に発表されたのだ。今までの、『デクのことを応援したい有志がコソコソ出していた非公式ギリギリのグッズ』とはわけが違う。きちんと出久(と弟子のことに関してはなかなか厳しいオールマイト)の許諾を得て発売された、公式で正当なデクグッズなのである。俺はウキウキのルンルンであった。全てのグッズを買うつもりでいた。
「は?」
そして、先ほど。デクグッズ公式アカウントから正式発表があったのが、こちら。
「め、メモ帳
……
?」
いいグッズだが。ヒーローデクがメモ帳の端っこで『みんなが来た!』とポーズを決めているのは、これがほしかったんだよの極みではあるが。
「
……
?」
なぜか、どれだけスクロールしても、メモ帳しか現れなかった。メモ帳。メモ帳、メモ帳。いや、よく見たらボールペンもあった。メモ帳とボールペン。以上。
「
……
??」
理解が追いつかなかった。おかしい。なぜメモ帳とボールペン。メモ帳にしてはお高いが、グッズにしては財布に優しい価格帯。こっちは貯金をいくらでも切り崩すつもりでいたのに。ノベルティじゃねぇんだぞ。
気づいたら、俺は携帯端末を取り出していた。呼び出すのは、渦中の人。
『かっちゃん、どうしたの? 今日ってご飯の日だったっけ?』
「メシの日じゃねぇが、ツラ貸せや」
『うん! どこ行く?』
「俺んちか、おまえんち」
『えー、秘密の話でもするの?』
「する」
これは、事情聴取が必要である。アポイントを取り付けて、出かける準備をする。向かうは出久の家。
「っと、その前に」
今一度、デクグッズ公式アカウントの発表を確認する。もちろん、グッズの通販開始時間をリマインドに入れておくためだ。通知設定も忘れない。
きっと俺はポップアップストアに行くことはできない。現地に買いにいけないならば、通販で戦うしかない。メモ帳とボールペンしかないとはいえ、デクグッズと縁が結べなければ、俺は三日ほど寝込んでしまうだろう。これは自己管理の範囲内である。
◆◆◆
「かっちゃん、いらっしゃい!」
かっちゃんが家に来てくれて嬉しいと顔に書いてある。出久の笑顔、プライスレス。値段なんかつけることはできない。あと俺以外にこの顔を向けたらコロス。
「オジャマシマス」
「かっちゃん、なに飲む? 今日は麦茶とコーヒーのご用意があります!」
「ドリップか?」
「ごめん、インスタント」
「んじゃ、麦茶」
俺と出久の仲だ。飲み物のオーダーだって、してもオッケーだ。いえいえこちらが突然お伺いしまして、どうぞお気遣いなくなんていうやり取りは不要だ。そして俺はドリップコーヒーが好きだ。
「はい、どうぞ」
「おう」
出された麦茶はよく冷えていて美味しかった。出久と並んで飲む麦茶、プライスレス。好きなヤツと肩を並べて飲む麦茶以上に美味い飲み物なんてないだろう。
それはそれとして。
「それで、秘密の話って、なに?」
小首を傾げて尋ねてくるこの男、俺と同い年の成人男性なのだから恐ろしい。かわいいと思ってやってんのかと問い詰めたいが、実際に俺はKAWAIIと胸を撃ち抜かれているので、あまり強く言えない。かわいい顔しやがってと心の中で言うだけだ。
「おまえのグッズ、見たぞ」
「見てくれたの? ありがとう!」
発売オメデトウゴザイマスと言うと、出久も深々と頭を下げて、ありがとうございますと言った。こういう茶番もできるようになった。
「そんでよ」
「うん」
「なんでメモ帳とボールペンしかねぇんだよ。もっとおまえに投資したかったファンの気持ち、考えろよ」
出久に出資した額ナンバーワンであろう俺からしても、あのラインナップでは不満だった。同じようにわくわくウキウキ待っていたファンたちは、さぞかし物足りないだろう。転売を疑われるほど大量買いしてしまうファンが現れる可能性すらある。蛮行だ。それは阻止したい。俺は、グッズは一人でも多くのファンに行き渡ってほしい派である。
正直、出久の回答はある程度予想できている。ここで出久から飛び出すのは『メモ帳とボールペンなら、あっても困らないでしょ?』だ。
出久がまたこてんと小首を傾げて口を開く。
来る。
「メモ帳とボールペンなら、かさばらばくていいでしょ?」
微妙にニュアンスは違ったが、概ね合っていた。クソがと言いそうになるのを堪える。出久が自分を高く見積もれないのは俺のせいでもあるのだから、これは言えない。言えない、が。
「おまえ、オールマイトや俺のグッズで、かさばる・かさばらんを考えたこと、あんのかよ」
別の角度からなら、気付きを与えられる。出久自身がオールマイトや大・爆・殺・神ダイナマイトに向けるのと同じ熱量で、デクに熱を上げているファンがいるのだとどうして想像できないのだろう。いや、わかっているが。俺と出久の過去を振り返れば、嫌というほど理解できるが。どうして、とは思う。
「オールマイトや大・爆・殺・神ダイナマイトのグッズに、かさばるからいらないなんてものなんてないよ! 全部ほしいよ!」
「だよな? じゃあ、デクも同じだよな?」
「え? 同じじゃないけど
……
?」
な ん で だ よ 。
つーかおまえ、この前のチャートで四位だったの、もう忘れたんかと噛みつきたくなる。おまえ、俺より順位が上なんだぞ。すぐ追い越すけど。じゃなくて。おまえ、四位なんだぞ!
「
……
おまえさ、てめぇが自分を低く見積もるだけで、苦しむ人間がいるなんて、考えたこと、ねぇんだろ」
つい、言ってしまった。本音のカケラが溢れてしまった。
だって、そうだろう。俺にとって出久は、こんなにも好きで好きで仕方がなくて、もう人生の一部といってもいい存在なのに、出久本人が『こんなもの、いらないでしょ?』と言ってくるのである。いらないわけがない。
俺にとって、出久は──
……
。
「ごめん、かっちゃん」
出久がティッシュを差し出してきた。気がつくと、目から涙が溢れていた。ダッセェと思いながらも、出久からティッシュをぶん取る。出久の前では、俺だって、ただの男なのだ。
好きで好きで仕方がないやつのことを貶められたら、はらわたが煮え繰り返ったって、仕方がない。それが、好きで好きで仕方がない本人であっても。
「それ、実は企画の人にも、オールマイトにも言われたんだ」
「ンでそん時に改心しねぇんだよ。俺が傷ついてて嬉しいんか、てめぇ」
「嬉しいわけないよ! 泣かないで、かっちゃん」
「おまえのせいだぞ」
「うん、ごめんね
……
」
出久が優しく俺の涙を拭う。これで八割くらい許してしまう俺も大概だ。自分が泣くよりも、誰かが泣いている方が辛いのだ。緑谷出久という人間は。
「トイレットペーパーとかポケットティッシュも提案したんだけど、却下されちゃって」
「当たり前だろうが。グッズ第一弾で胸像持ってきたっていいくらい盛り上がっとったんだぞ、こっちは」
「も、盛り上がってくれたんだ
……
」
「クソほどアガっとった。別にあのメモ帳とボールペンでもアガるけどよ、おまえのぬいとか、タオルとか、アクスタとか、無限にあんだろ。次は出せよ、アクスタ」
「次、あるかなぁ」
「ある。俺たちは血眼になってメモ帳とボールペンを獲りにいく。受注生産にしろやって苦情が入る可能性もあるから、その点に関しては制作会社と入念に打ち合わせしろ」
「うん
……
」
俺の涙と俺の言葉をどう受け取ったのか、出久は目に見えて元気がなくなった。麦茶をチビチビ飲んでやがる。手間のかかるめんどくさい男である。
「
……
よかったわ、あのメモ帳。使うのもったいねぇくらい」
「ホント?」
「ホント」
「メモ帳もね、既存の写真だけじゃなくて、新しく写真を撮った方がみんな喜んでくれるよねって企画の人が言ってくれてね、恥ずかしかったけど、がんばったんだ」
「ふーん。ボールペンは書き心地次第だが、使ってやらんこともない」
めんどくせぇことこの上ないが、俺はもう緑谷出久に惚れてしまっている。惚れた方が負けとは、先人たちはよく言ったものである。
「へへ、えへへへへ」
ほら、出久が笑っただけで、俺の胸も軽くなる。でも少しだけ悔しいので、だらしなく笑う頬を摘んでやった。出久はさらに嬉しそうに目を細めた。
「ごめんね、かっちゃんを傷つけるつもりなんて、なかったんだ」
「次回のグッズ発売で挽回しろや。つーか、次回からは俺も通せ。オールマイトはおまえに甘いから、おまえが渋ったら強く言えねえだろ、あの人」
「うーん。そうかも」
「決まりな。俺も呼べよ。最高のグッズ展開をして、第一弾はなんだったんだって言わせてやる」
俺がそう息巻いていると、出久はまた嬉しそうに言った。
「かっちゃんのグッズ展開、とってもいいもんね! 僕、毎回どれを買おうか迷っちゃうんだよね」
グッズ展開とか、そういうの興味なさそうなのにねと出久は言う。のんきなものである。
「誰かさんのスーツのために、必死だったからな、俺は」
いいものを作るに決まっとるだろ。そう言って、出久の髪をもてあそぶ。本当に、がむしゃらに、必死だった。あの額を出久に投じた今、出久のグッズを全部買うことなんて、誤差の範囲である。
メモ帳とボールペンは獲りにいく。グッズ第二弾ではもっとすげぇもんを出す。構想は、既にある。ヒーローデクの復帰が待ち遠しかったのは、俺も同じだ。緑谷出久は、誰にも渡さねぇけど。
触り心地のいい出久の髪を触りながらそんなことを考えていると、出久がまた小首を傾げた。
な、なにが来る?
「そう言えば、企画の人が『抱き枕だけは絶対に出したい』って言ってくれてたんだけど、かっちゃんどう思う?」
「かなりほしいが、抱き枕だけはぜってぇにグッズ化すんなよ。絶対だぞ」
俺を通すことを約束させてよかった。抱き枕はとんでもなく売れるだろうが、絶対許可しない。絶対にだ。
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