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草枕
2025-06-01 17:05:34
1741文字
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syzygy
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syzygy_overweight_005
記憶
「
……
そう、つまりその星に棲息していたのはチュパカブラなのであった!恐怖!」
「フン、まるでB級映画だな。つまらない、次」
「そう言いながらオレの軍服シワシワに握り締める系ツンデレやめない? でも次の話いくのにはさんせー!」
「へぇへぇ。じゃあそこのピヨっこ、お前はどんなやつが好きだ?リアル系? そうだな──」
深夜、鏡に映る自分に向かって「お前は誰だ?」
と問いかける。それを毎晩繰り返す。
そうすると、いつの間にか、自分が誰なのか分かんなくなるんだそうだ。
いや、『自分が誰であったのか』だったかな?
*
シルーはルクスの都市部
……
と呼ぶには首都から多少の距離がある、故に地価が安いような地域で生まれ育った。移民街もいくつかあり、街によって治安の良し悪しには激しい差があった。
ひときわ大きなパンデミックがあった頃、シルーは16だった。医療品どころか、衣料、食料、生きるために必要なあらゆるものの値段が、際限などないように日に日に釣り上がっていく。
暴動の鎮圧と再熱をニュースが繰り返すのを聞きながら、今いちばん安定して生活ができるのは、間違いなく兵士だろう、と思った。
*
シルーは一等地に土地を持つ裕福な家庭に生まれ育った。今では時たま思考の柔軟性を褒められる程度に落ち着いてしまったが、町で一番の神童と言われたくらいに出来の良い少年であった。父親は所謂エリートの軍人であり、自分もそのレールの上を進み、士官学校に通っていた思春期の頃、当時の紛争への意見の対立から喧嘩をした。今もなんとなく疎遠である。
けれど、軍人になる以外の道は考えられなかったのだ。
*
シルーの生まれ育った北部の山村には、実質の徴兵制があった。公にはそうと認められていない、大昔に移民である祖先を受け入れてくれた恩だとか、弱みだとか。真偽の程が不確かで実体のない同調圧力が、毎年学生の進路希望を進学ではなく軍人とさせた。
本当は皆が腹一杯食べられる農業の研究がしたいと、こっそり明かしてくれた幼馴染は、十年前の暴動で死んだ。
*
シルーは、非行少年であった。いつもむしゃくしゃしていて、世界よめちゃくちゃになれと思っていた。ある時さびれかけた地元を歩いていた時、ルクス軍は武装を放棄するべきと叫んでいたばかな男を見かけて
*
シルーは、十年前
*
シルーは
*
十年前の出来事は、パンデミックに付随した暴動と鎮圧。ではなく、移民への弾圧。
ではなく、メロペイアとルクス間の戦争である。
未だ残る記憶の揺らぎに、シルーは顔を顰めた。
シルーの大切な人たちは軍人であり、syzygy隊員ではなかった。記憶を操作されていた。『パンデミックの暴動鎮圧作戦』に参加した話を聞いたことを、しっかりと憶えている。何度も繰り返した記憶だ。
──だが、シルー自身は?
自分は十年前、どこで何をしていたのだったか。
頭の中のルクス史は、十年前の弾圧とはメロペイアとの戦争だったと認識し直しているのに。思い浮かぶのは、語り聞かせてもらった話ばかりである。
……
あるいはどれか一つが、自分の記憶なのかもしれないが。
「まあ、問題はない」
ルクスか、アルゴスに戻れれば『シルー』の記録でもあるだろう。見れば思い出すこともあるかもしれないし、
思い出せなかったところで、あの人たちのことを忘れてしまう事に比べたら、何でもない。
『あの人たちを忘れないという意思』だけ残ってさえいれば良い。
それが、シルーが生きるということだ。
そして、望む。
シルーの生に付随する、一つの願いが成就することを。
これは、我欲だ。シルーが必ず行なうべきとはいえない、わがままである。あの日助けられてからずっと、身を奮わせてきた狂おしい希望。生き残ってしまった罪悪感を消し去るほどの光。
光だ。
拍動の度に痛む頭と、垂れる鼻血を無視する。
ここが戦場の真中であろうと、誰と敵対しようと、変わらない。
ただ光だけを求めて、シルーは長い道を征くのだ。
端末を閉じる。
先ほどまでくっきりと見えていたメロペイアの衛星は、もう、液晶画面の眩しさにくすんでいた。
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