恋人と休みが重なった日にすることなんて、俺の場合ほとんど限られていた。基地からジープでハイウェイをかっ飛ばしてあいつの家へ行き、ダイナーのボックス席かダイニングのでっかいTVの前で簡単な食事をとって、それからはクラブか、照明を落としたリビングでダンスをする。BGMはクラブなら流行りの曲、リビングならティーンの頃流行ったビートの効いた恋愛ソングで、俺たちはポップで甘い歌に乗せてキスをして、身体を寄せあって体温を確かめ、抱き合ってベッドになだれ込み、彼が気絶するまでファックする。
それが俺とゼノとの休日。特別なものなんて何もない休日。この世界の何よりも大切な天国。そう、ゼノは俺を天国に連れて行ってくれるのだ。何の魔法も使わず、ただその唇がこぼす囁き一つで、ルールも何もない、心地よくて泣きたくなるくらいの天国に、彼は連れて行ってくれるのだ。
俺は紆余曲折あって特殊部隊の隊長に据えられていたが、基地の中でくすぶって訓練に励むのも仕事の一つだった。俺みたいな連中は、平時はそう駆り出されるものじゃない。合衆国軍は世界の警察だと嘯いてはいても、そんな警察にだって暇な日はある。それよりも大変なのはゼノの方だった。NASAに入局した彼はいつも仕事に追われていて、休日が重なって会う度に目の下のくまを濃くしていた。でもそれでも彼は俺とベッドで遊ぶことを好み、奔放に俺の腕の中や腹の上で乱れた。誰も知らない、俺以外誰も知らない天才の顔に、俺は独占欲を満たされた。だって、普段は世界の頭脳を集めた所で涼しい顔をしているこの男が、声が枯れるまで俺のディックで喘いでるなんて想像しただけでも最高だろう?
二人の休日が重なった今回の週末は、彼のクラフツマンスタイルの家に篭りきりになり、ずっとファックしてた。ゼノは身体の中から水分が消えてしまうくらい泣いて、気持ちいい、気持ちいいと泣いて、俺をきゅうきゅうと締め付けて中に射精してくれとせがんだ。俺は黒いコンドームをいくつも使って彼の要望に応え、好きだ、愛してるってぼんやりとしてしまったゼノに囁いた。
そんな彼は今、俺のために用意されたゲストルームのベッドで寝ている。俺が私物を持ち込んでる、そんなゲストルームで寝ている。俺たちがファックした彼のベッドルームはというと、それはそれは酷い有様だったので、後で片付けねばならないだろう。とはいえ、シーツやカバーを真新しい洗濯機にぶち込むくらい、幼い子どもでも出来る手伝いだったのだけれども。
でも、俺はなんとなくそうしたくなくて、情事の余韻に浸っていたくて、明かりを落としたリビングで、いつ買ったのかも忘れた古いCDを聞きながらソファに沈んでいた。歌の内容の通り、俺は夜のしじまの中で、熱の時に見るようなハイな夢を見て熱に浮かされていた。ゼノは俺にとっちゃあ悪い、悪い男だ。彼は輝く高価なおもちゃで、俺はティーンの頃それが欲しくてたまらず、この世界の神様から奪い取ったのだ。
俺はそんな歌を口ずさみながら、上半身裸のまま、ドッグタグを首からぶら下げたまま、メキシコ製の瓶ビールを飲んだ。ライムを添えて、塩を一つまみ入れて。そしてここに来るまでにテイクアウトしたブリトーの残りを食い、彼を味わった口から恋人の味が消えてゆくのを知って勿体なく思った。
そう、俺たちは今日はずっとファックしてた。ゼノの家の近所には気安い人々が多く住んでいたが、小さな子どもがいる家族はキャンプに、気難しいティーンの子どもがいる家族はばらばらに近所のモールに、子どもたちが巣立っていったのだろう老婆はいつものようにカバードポーチの安楽椅子で編み物をしていた。もう外は暗いから、彼らは家に帰ったかもしれない。もしかしたら、もう眠りについたかも。
俺たちは我を忘れてセックスして、求め合って、だから時間感覚がおかしかった。まだ一緒に食事を摂った昼時のようにも思えるし、ただ音楽が流れる部屋は〇時過ぎのようにも思えたし、足元はぐらついてた。
(やられてんな
……)
ゼノといるとすごく満たされるのに、いつまで経っても彼とのファックは新鮮で、俺はティーンの頃みたいにはちゃめちゃになる。初めて本気の恋をした相手をベッドに誘う時のように、俺はがちがちになる。もちろん表向きはちゃんとエスコートはしてるさ。でも、心のうちは、いつも彼に乱されているんだ。
「スタン、僕にもくれないか」
そんな時、ソファの後ろから声がかかった。ゼノだ。彼は俺が持つ温くなったラベルがうるさい瓶を指先で弾き、俺の耳たぶにキスをした。俺はそれに、CDを流したまま振り向く。女は歌う。今日みたいな夏を歌う。
――ほらヘッドライトは消してちょうだい。夏ってナイフみたいね。あなたがぎりぎりを攻めるのを待ってるの。悪魔がサイコロを振る、天使は呆れてる。たとえ血が流れても、あなたには最後まで教えてあげない。
俺は照明落としたままのリビングで、彼の頬をなぞりながらビールをやる。するとゼノはそれを飲み干し、最近は夜も暑いねって、俺にとっちゃあ当然のことを言った。その言葉に振り向くと、彼は俺が着てたミリタリーシャツを羽織っただけの格好で、生っ白い足をリビングの絨毯の上で遊ばせて、ソファに寄りかかっていた。俺は唾を飲み込む。さっきまであの足の間のあたたかな場所にディックをぶち込んでいたっていうのに、また中に戻りたいって思う。
でも、ゼノは疲れていることだろう。俺が会えなかった間の欲をぶつけられてくたくたになって、そもそも毎日の夜遅くまでの仕事で疲れているんだし、ビールが入ったらすぐに眠ってしまうかも。正直残念だったけれど、俺は出来た恋人だったので、彼が安全に眠れるように抱き締めるだけですまそうと思った。けれど、ゼノはどういうわけかこれじゃあ足りないなって言って、キッチンに入り、大きな銀色の冷蔵庫からメキシコビールを二本取り出し口を開けた。ソファ脇のテーブルの上には俺が切ったライムがあって、彼は器用にそれを絞ると、汗をかいたビールを一本俺に差し出した。
「君も飲む?」
「あんたって酒強かったっけ?」
「弱くはないね。頭が鈍るから普段はあまり飲まないけれど」
俺の意味のない問いに答えて、ゼノはビールを押し付けて来た。まぁ、俺も喉が渇いていたところだし、酔っ払いたい気分でもあった。そう、酔っ払って、彼と眠りにつきたい気分だった。
「僕が酒を飲むと君は不満そうだ」
「そんなことねぇよ。でも、いつもは飲まないから」
何か思う所があるのかと、俺は心配になる。でも、それを知ってか知らずか彼は笑って、なまめかしく喉を鳴らしてビールを飲み干すと、こんなふうに言った。
「酔っ払って理性を飛ばして、君とまたファックしたいんだ。さっきよりもずっと酷いやつをさ」
俺はその言葉に、頭を殴られたような気分になる。ゼノって、たまに俺の想像の上を行くよな、天才は何を考えているか分からなくなっちまうよな、確かに俺も、あんたの腹の奥にぶち込みたい気分だったけどさ。
「あんた、何言ってんのか分かってんの?」
「もちろん、分かって君を誘ってるんだよ、スタン」
ゼノはそう言ってビールを飲み干すと、ライムを瓶の中に落とし、また俺の耳たぶにキスをした。スタン、って、甘ったるくてしょうがない囁き声がする。それはベッドの中でしか聞こえない、そんな濡れた声で、俺はもう我慢が効かなくなって、彼の腕を引き、ビールをテーブルの上に置いて、痩せた身体を抱き締めた。ベッドでするのもいいけど、あんたソファでするのも好きだろう? 後始末は俺がしてやるからさ、いろんな場所でファックしようぜ。俺、もう待てないよ、あんたが連れてってくれる天国まで待てないよ。
「全く、とんだ淫乱なプリンセスだ」
「好きなくせに」
ゼノが笑う。俺も吹き出す。そして俺たちは唇を重ねて、指を絡めて、そして静かに抱き合う。近所に住む気安い人々は家に帰ったろうか? もう寝床に入ったろうか? 俺たちは真実二人きりだろうか? 誰にも邪魔されない? 邪魔されないで天国に行ける?
俺はそんなことを考え、ゼノを強く抱き締める。そしてソファの上で混ざり合って、境界線が消えてゆくのを感じながら、何度も何度も、好きだ、愛してるって囁く。すると彼も、僕もだって俺の唇を塞ぐ。
これが俺とゼノとの休日だった。特別なものなんて何もない休日だった。この世界の何よりも大切な天国だった。そう、ゼノはこうやって俺を天国に連れて行ってくれるのだ。何の魔法も使わず、ただその唇がこぼす囁き一つで、ルールも何もない、心地よくて泣きたくなるくらいの天国に、彼は連れて行ってくれるのだ。
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