KARATATTI
2025-06-01 10:42:39
2571文字
Public
 

色んな趣味

ラス6♀のとある日常回です。ほんわかのびのびしています。それとちょっと+αです。

 床に大きめのクッション敷いて、ごろりとうつ伏せで寝転がる。端末を立ち上げて企業のACパーツのカタログや中古ショップ、オークションサイトを斜め読みする。目新しい物や珍しい物は意外と少ない。毎日見ているのだからそうかもしれないが、趣味なのだから仕方がない。他のサイトの巡回を始めたところで、隣にどすんと大きなお尻が降ってきた。
「こぉら。床で寝るのは行儀が悪いぞ、戦友」
 言葉は咎めるものだが、声色は優しい。怒っていないことを確認するとそのまま端末に目を戻す。終売になった中古ACパーツのオークションがあと一時間弱で終わるらしい。入札者は一名、買えない金額じゃない。試しに入札者よりも一割高い金額で入札すると、簡単に自分が最高額入札者になった。素直に引き下がってくれることを願いつつ他のページを見ていると、彼の大きな手のひらが髪を撫でる。
「無視をするなら私も好きにさせてもらう」
 シャワーを浴びた直後だろうか。それとも元々の彼の体温だろうか。自分よりも遥かに暖かいそれが髪の上を往復し、そして首輪と頚椎を通って脊椎、臀部にまで到達する。今はそんな気分じゃない……とちょっと煩わしく思うが、すぐに手は頭に戻りまた頚椎を通って脊椎で止まり、頭へ……を繰り返す。
 これは。あからさまに、撫でられている。
 撫でられるのは不快じゃない。さっきみたいに際どいところを撫でられると反応してしまうくらいなので、好きにさせておく。
 すると端末から通知が届いた。先程入札したパーツの入札状況に変化あり。どうやら先に入札していた人が自分の入札額を上回る金額を付けたらしい。競り合う気か、このわたしと。
 再び一割高く入札すると自動的に更新がかかり先の相手が最高入札者となる。これは自動入札とか言うやつか。狙いのパーツは出品者が即決価格を出してはいないため青天井。どこまで吊り上がるのか見ものではあるが、誰かに負けるのは面白くない。
 恐らく設定してる金額より更に高い額で入札して更新、最高額入札者になると再び更新、競り合っている相手が上回りまた金額を上乗せして入札、入札、入札。
「このまま撫でていたら君はぺったんこになってしまうだろうなぁ」
 自分が繰り広げている電子戦は知りもせず、彼は無心に自分を撫で回す。コネクタの繊細なところでもこうやって撫でられると案外気持ちがいいものと気付けたのはよかった。よかったのだが、彼の手で撫でられるごとに身体が伸びる。頭上へ、爪先へ。気持ちよくてリラックスしている証拠だとエアが言っていた。マッサージに近いそれをなんとなく享受して、また入札を繰り返す。そろそろ諦めてくれればいいのに。制限時間はあと数分。ここらでこちらの出せる最大額を提示して黙らせる他あるまい。
「おーい、せんゆー?」
「レイヴン、その金額はいささか……
 二人の声を聞こえないふりをして、こちらの最大額を入力し、入札。画面が『あなたが最高額入札者です!』に切り替わり、落ち着いた。これで入札してくるやつならとんだ負けず嫌いかAC好き過ぎる様子のおかしい人だ。勝利を確信してまだ撫でている彼の手に意識を割いてまた伸びてみる。ぐーんと指先から爪先まで伸びてみて、こういうのも悪くないと返そうとした瞬間。

『情報が更新されました』

 通知が届く。そんな馬鹿な。自分の依頼料の約一ヶ月分だぞ。気軽に入札できるような金額じゃない。更に出そうと思えば出せるがこれ以上金額を吊り上げて買う価値のあるものか? どんな保存状態かも知らないアンティークのACパーツ。買ったとて動かなければただの鉄屑。そんな、そんな物に……
 そして無慈悲にもオークション終了の通知が間も無くして来た。落札者は自分ではない。文字通り目が飛び出る金額をかけたやつだ。
「戦友、どうしたんだ」
 枕にしているクッションに顔を埋める。こんなよくわからない物に大金をかけていたのが恥ずかしい。それになによりこんな物で競り負けたのが悔しい。負けるのは嫌いだ。ACでも何でも負けたという事実が悔しい。力が及ばなかった事実が悔しい。悔しくて悔しくて、でもどうすることもできなくて不貞腐れる。
『そのまま撫でて』
「ん? 君がそう言うなら……
 理由は聞きたそうだが、深くは追求してこない優しさを感じて身体の力を抜く。変わらず大きな手が頭から背中まで撫ででくれる心地だけを感じて深いため息を吐いた。
「君が良ければ、マッサージでもしようか?」
 こちらの様子を気にかけて言葉をかけてくれる。こんな自分勝手な理由で不貞腐れていることなんていざ知らず、そう言ってくれる言葉だけで嬉しくなってしまう。
『いい。撫でてくれるだけで』
「承知した。……ふふっ。君が素直に甘えてくれるのは嬉しいなぁ」
 素直に。
 今まで彼に甘えることはたくさんあったけれど、素直に、というのは意外だ。彼に嘘を吐いたことはほとんどないはず、いつだって素直に甘えてきた。次はもっとこんな風にした方がいいのかもしれない。
『背中も。いっぱい撫でて』
「よしきた」
 嬉しそうな声が降ってくる。今日は声にして思う存分甘えてみよう。あんな馬鹿な後悔が霞むくらいに。
「改めて、人間は不思議ですね……?」
 自分もそう思うと静止してくれた友人に返して、大人しく好きな人の手に身を委ねた。
 
 ▽▽▽
 
……また何か変な物を買ったのか」
「失敬な。終売になっていたプラズマブレードだぞ。うちともタキガワとも機構が違う珍しいやつだ」
「はぁ……。備品管理するこちらの都合も考えろ」
「これは俺の私品だから気にしてなくていいぞ。封鎖機構も止まった上にようやくガレージの管理権限が戻ってきたんだ、使わない手はない」
「元はと言えばお前がスネイルに権限譲渡したのが悪い」
「あいつが勝手に譲渡項目を増やしたんだ」
「だが承認印を捺したのはお前だ」
「勝手に最後の書類だけ改ざんしたんだ」
「それくらい見抜けないお前が悪い」
「ぐっ……
「勝手にやれ。俺はスネイルほど細かくないんでな。今はあいつの抜けた穴を埋めるのにうんざりしてるんだ」
「俺もそうだが」
「お前は自分の元々の業務が返ってきてるだけだろう」
「ぐぅっ……