かん
2025-06-01 05:34:29
9964文字
Public
 

隣の席の美人さんは 何故か僕のメガネで授業を受ける

谷口愛季さん

「はい、じゃあ前回の続きから行きます」




6月に入り中間試験がひと段落した朝の教室。

梅雨真っ只中の影響か外は雨が降って、教室にも
じめじめした空気が漂う。




〇〇:


中間終わりの席替えで、自分は1番後ろの左端に。

クラスを一望できる配置、内職やスマホもバレにくい。

壁にもたれかかれる。

ここはいわゆる当たりの席らしい。


ここが決まった時ちょっとだけ嬉しかった。

色んな人に交代も打診された。

まぁ多分それだけが理由ではないけど。



「はいじゃあ、今の質問を隣の人とお互いに、
自分なりの答えでやってみてください」





『●●くん!』





愛季:私から聞いてもいい?






〇〇:もちろん


愛季:えーっとWill you


舌ったらずの発音でこちらに問いかける彼女。

谷口さんと隣の席になったこと、この席が当たりだと言われたいちばんの理由。



愛季:あっhelp with my homework?


〇〇:


愛季:むぅ……ちょっと!


〇〇:!?……なに?


愛季:今の話、聞いてましたか〜?


〇〇:……うん


愛季:ほんとに〜?


〇〇:……ほんと


愛季:ちゃんと目、見て?



綺麗に分けられた髪から見えるおでこ。

真っ白な肌と調和した薄く暖かいほっぺ。

光って見える唇、眩い瞳。



〇〇:……Sorry no I will not


愛季:


まともに目も見れない。

1週間ジュース奢り、宿題代わりにやる、掃除やらなくてもいい。

男共が色んな手を使って自分をここから追い出そうとした理由がわかる。


愛季:……じゃあ交代


そしてそれらを一掃して、なぜか僕と隣になった谷口さんが、意味不明だった。

僕はあまりこの席に魅力を感じない。

というかみんなからの提案に魅力を感じた。

どれにしようか迷ってたところで、谷口さんが隣じゃないとダメだと。

意味がわからない。

僕は近くに美人な人がいると、緊張する。

それにそういう恋愛には疎いもので。

なんで僕がいいのか



愛季:って、なんでNoなの!?


〇〇:は?


愛季:そこはYesでいいから!


むっとこちらを可愛く睨む。


〇〇:どっちでもいいよこんなの


愛季:わざわざNoって言わなくてもいいじゃん


〇〇:ただの英語の質問だから


愛季:ただの質問じゃない


〇〇:いやだってこれ授業の一環なんだけど


愛季:私の質問日本語にしたら


〇〇:私の宿題を手伝ってくれませんか?


愛季:Yesでいいじゃん


〇〇:本当にどっちでもいいよ


愛季:わ、私はほんとに


〇〇:2択くらい選ばせてよ


愛季:だ、だって


〇〇:そもそも谷口さん、僕より勉強できるよね?


愛季:でも




「はい、じゃあ終わった人から問4を解いてください」




〇〇:


ページを捲ってノートに問題を解く。


愛季:ね、ねぇ!!


〇〇:谷口さん、授業中


愛季:●●くんも質問してよ!?


〇〇:


愛季:


〇〇:


愛季:無視しないでよっ!!






**********************






なんだかんだで夏まで乗り切ろう、乗り切れるだろうと考えていた。



だが事件は次の日、早速発生。




……33ページからか、あのぉーここはねぇ」





この学校一筋40年、定年まであと僅かというお爺ちゃん先生の古典。

時刻は午後2時15分、6限の途中。

お爺ちゃんの脈絡ガン無視トークにより、開始5分で既に約半数が離脱。


しかし隣で爺さんの目を見て授業を受ける彼女。

美人が近いと緊張するので、あまり睡魔はやってこない。

こういう時、美人は有り難い。




「えー、ここね、誰か意味分かるか?」




〇〇:あー


この人、字が汚い上に小さい。

見にくい


〇〇:すいません



「そう、ここはラ変、で?」



〇〇:すいませーん



「連用形になると、つまり



〇〇:



耳が遠すぎるお爺さん。




愛季:●●くんっ


〇〇:ん?


愛季:板書、見える?


〇〇:見えにくい


愛季:ふふっそっか


どこか嬉しそうに笑う谷口さん。


〇〇:なんでわかったの?


愛季:●●くん、すっごい目細めて眉間に皺よってたから笑


〇〇:ほんとに?


愛季:うん笑


全く自覚してなかった。相当重症だ。

てかそんなとこよく見てたな


〇〇:.どうしよ



これでは聞くだけで授業が終わってしまう。



愛季:あ、もしよかったら私の見せよっか?


〇〇:え、いいの?


愛季:うん


〇〇:めっちゃ助かる、ありがとう


これで授業終わるまで寝れる

いや、寝ちゃだめだ。






愛季:その代わりなんだけど


〇〇:ん?


愛季:お願いがあって


〇〇:


愛季:いいかな?


〇〇:まぁできることならなんでも







愛季:メガネ貸してくれない?






〇〇:ん?


愛季:メガネ


〇〇:……誰の?


愛季:●●くん


〇〇:は?


愛季:……実はあぃりも目が悪くて


〇〇:


愛季:だから貸してほしいなって



たどたどしく泳ぐ瞳。





〇〇:あ、じゃあ、遠慮します


愛季:えっ、なんで!?


〇〇:そんな無理してまでは


愛季:全然!全然大丈夫!


〇〇:これは目が悪い人に言う話じゃないし


愛季:●●くんよりは視力いいよ


〇〇:見えてないなら一緒だから


愛季:メガネがあれば見える


〇〇:メガネを忘れたの?


愛季:……うん




相変わらず目が溺れている谷口さん。


彼女がメガネをかけてるイメージはない。

普段そんなに彼女を見ていないからか。

そもそもメガネをしないのか。




〇〇:このメガネ結構、度強いけど


愛季:だ、大丈夫大丈夫大丈夫


一瞬目をぎゅっと瞑り何か決心した様子。


〇〇:やっぱりいいよ、申し訳ない


愛季:掛けてみないとわからないからっ!


〇〇:そもそもこの行動が意味わかんないけど


愛季:メガネ掛けたら見えるっ!


ちびっこみたいに駄々をこねる谷口さん。


〇〇:僕のと度が合わないと思う


愛季:掛けてみないとわからないからっ!




「おーい、そこの君、静かにしなさい」




向こうから渋い声が飛んできた。

多分ターゲットはこっち。

目が合ってるから。



〇〇:すいません



それは聞こえるんかい。

なら谷口さんにも言いなさいよ。

そしてもう6月、名前を覚えて。



という気持ちをぐっと堪える。





愛季:授業進んでるからっ


〇〇:


愛季:貸して?


〇〇:.はぁ


メガネで収まるなら少しの辛抱。

ここはひとつ我慢。


メガネを外してレンズを綺麗に拭く。




愛季:メガネなしだ


〇〇:ん?なに?


愛季:なっなんでもない


〇〇:じゃあどうぞ


愛季:どうも


彼女はそれを恐る恐る受け取り、ゆっくりと
フレームを耳に掛けた。




愛季:どう、かな







〇〇:




思わず息を呑む。

目から入った情報が体中に巡る。





そしてその感情は、心の中で爆発した。





愛季:聞いてる?


〇〇:!?


愛季:どう


〇〇:度、合ってる?


愛季:ちょっと強いけど、慣れれば大丈夫


〇〇:……じゃあ、後でノート見せてね


愛季:ちょっと


〇〇:


愛季:メガネ、どう?


〇〇:


愛季:




〇〇:ごめん、目が悪くて見えない


愛季:うぇっ!?


〇〇:お、おやすみ


愛季:ちょっと!!寝ないでよ!!!




彼女の顔が何故か見れなくなって、顔を伏せる。



この逃げ場のない感情をどうにかしたくて、必死に寝ようとした。



でも結果的には狸寝入りになってしまう。



そうするしかないくらい、自分の中で谷口さんのメガネ姿はなにか、衝撃的だった。





**********************





美青:あれ、愛季メガネ掛けてる


瞳月:ほんまや、珍し


愛季:えへへどう?


美青:可愛い


瞳月:似合ってる


愛季:えへえへへへ


瞳月:それ誰の?愛季の?


愛季:そ、それはぁ……えへへ……


瞳月:ニヤニヤしすぎやろ


美青:?




〇〇:




おかしい。

休み時間、ひとり頭を抱える。



谷口さんがかけてるメガネ、あれは僕のだ。

間違いない、授業中だけ貸す約束だった。

なのに、いくら待っても返してくれない。

今も掛けたまま、友達とおしゃべりしてる。

何を言ってるかは分からない。





「あれ、〇〇メガネは?」


〇〇:今なくて


「え、無くした?」


〇〇:いやいやっ、無くしたというかなんというか


「見える?大丈夫?」


〇〇:見えない


すごく迷惑している。


これではますます見えない。


板書も、天気も、姿も、それ以外も。


声をかけようとした。

したんだけどなんか急に、彼女を見れなくなった。


恥ずかしいというか、なんというか

今まで感じたことない感情。



さっきまで普通に話せてたのに





「おーい」


〇〇:!?


「聞いてる?」


〇〇:ごめんなんだっけ?


「なんでずっと、谷口さん見てるの?」


〇〇:え?


「なんで?」


〇〇:……見てない


「見てた」


〇〇:見てない


「見てた」


〇〇:ほんとに?


「うん、ずーっと」


〇〇:




美青:なにそれ笑


瞳月:距離の詰め方笑


愛季:だってわかんないもん


美青:かわいっ


瞳月:正直になったらいいやん


愛季:そんな簡単に


美青:大丈夫だって〜


愛季:もし振られたら






〇〇:


「可愛いよね〜」


〇〇:なにが?


「メガネ谷口さん」


〇〇:


「可愛いよね」


〇〇:


「なんか言いなよ笑」


〇〇:うん


メガネがない今、彼女の姿は見えない。

でもなんかわかる。


小さな顔に全然合ってない、大きなメガネを
掛けた谷口さん。

耳に髪を掛けて、たまにクイッとメガネを持ち直す。



絶対可愛い。



明らかに何かおかしい、さっきから彼女のことしか考えられない、体が熱い。




「もしかして、あのメガネ?」


〇〇:多分、僕の


「多分って笑」


自分でも変なこと言ってるのはわかる。

でもそれくらい現実か定かではない。




「なんで貸してるの?」


〇〇:なんでなんでって……


「パクられたの笑?」


〇〇:いや、谷口さんがそんなことするはずない


「確かに」


だから怖いんですけど。


〇〇:ほんとに僕の?


「知らないよ笑」


〇〇:ですよねあはは


急に悪寒が





谷口さんのこと、好きなの?」


〇〇:はぁっ!?

ガンッ







〇〇:あすいません


メガネを掛けなくてもわかる。

視線が集まってしまった。




「図星なんだ〜笑」


〇〇:い、いやいやなんでそんな、いきなり
そんな


「落ち着いて笑」


〇〇:お、落ち着いてますけど


「〇〇テンパると敬語になるからな〜笑」


〇〇:そんなんじゃない


「え〜?ほんとに?」


〇〇:好きとかじゃ


「まぁ最初は正直になれな






愛季:あ、あの●●くんっ.


〇〇:あ


「あら



気づけば目の前に谷口さんが。

ぼやけてるけど声でわかった。



「ごゆっくり〜」


〇〇:おいっ、そんなんじゃないから





愛季:ああのっ


ますます彼女を見れない。


〇〇:は、はい


愛季:もしよかったら






愛季:放課後


〇〇:放課後




愛季:一緒に、帰りませんか




〇〇:えあ、僕ですか?


愛季:あもちろん


〇〇:え、あの……え?


愛季:嫌ですか?


〇〇:いやいやいやいや


愛季:あ、嫌なら


〇〇:嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい


愛季:ふふふっほんと?


〇〇:嫌じゃない、嬉しい


愛季:えへへ……そっかぁ



嬉しさが隠しきれない谷口さん。

かわいい。



〇〇:……ただひとつだけ


愛季:ん?


〇〇:谷口さん


愛季:えっ今……


〇〇:ん?



急にあわあわしだす谷口さん。

顔も熱って髪を手でくるくる触る。



〇〇:谷口さん?


愛季:は、はいっ








〇〇:メガネを返してほしいんだけど


愛季:ん?


〇〇:その.メガネ、返してください


愛季:な、なんで!?


〇〇:だって僕のだし


〇〇:授業終わったし


〇〇:メガネがないとほとんど見えないんで
危ないんですよ



現にここからトイレに行くのも心許ない。

交差点とか気が気じゃない。



愛季:い、いやっ!


〇〇:は?


愛季:あああぃりもメガネないとやばいから


〇〇:いやいやいやいや


そんなわけはない。


愛季:ほんとだからっ!


〇〇:いっつも掛けてないよね


愛季:あ……あのあ、コンタクト!コンタクトしてるから!


〇〇:じゃあメガネいらないね


愛季:あ……


騙されませんよ。

めっちゃ思いついた顔してたから。


愛季:きょ、今日は忘れて




〇〇:どうしたら返してくれる?


愛季:一緒に帰る


〇〇:メガネないと帰れない


愛季:あぃりいたら帰れる?


〇〇:メガネがあれば、安全に帰れます


愛季:じゃあ!あぃりと帰ろ?


〇〇:いやだから


愛季:あ!隣にあぃりいたら帰れるよね!


〇〇:ん?


愛季:●●くんの目になります!!


〇〇:なにを言ってるの?


愛季:じゃあ放課後!帰ろうね!


〇〇:話を進めないで





愛季:あぃりと帰りたくない?









〇〇:そんなことないです





愛季:えへへならいいけど



ほっと胸を撫で下ろす谷口さん。


こっちの心臓は暴れ回って効かない。




愛季:そ、それだけっ!


〇〇:えっ



そう告げるとすぐ、友達の方へ逃げてしまった。



〇〇:





〇〇:何?




「デート楽しんで笑」


〇〇:お前なぁっ!?









**********************








「掃除したら鍵閉めて持ってこいよー」



普段は長く感じる7限が風のように過ぎて、終礼も終わる。




「〇〇帰……あっ楽しんで」




絶対ニヤニヤしながら言ってる。

この緊張をあいつにも味合わせたい



〇〇:





美青:愛季今日はどこ行く?


愛季:あっ先帰ってて


瞳月:部活休みやしラーメン行こ


愛季:今日はちょっと


美青:なんか隠してる笑?


愛季:えっ!?


瞳月:図星や、何?


愛季:な、なんでもないからっ


美青:あ、●●くんだ


愛季:えぇ!?


美青:うっそー笑


愛季:もぉ


瞳月:さっきからチラチラ見過ぎ笑



〇〇:え




愛季:み、見てないしっ.


美青:なんで強がるの笑


瞳月:頑張りや


愛季:頑張るって何を


瞳月:美青、ラーメン行こ


美青:よしっ行こ


愛季:えぇちょっと.


美青:じゃあ、愛季ファイト!


愛季:声が大きいっ


瞳月:明日じっくり聞かせてな笑


愛季:あバイバイ







〇〇:


愛季:聞いてた?


〇〇:何も?


愛季:食い気味バレバレだから


〇〇:うっ


愛季:行く?


〇〇:あそうだよね、行こっか



ぎこちない会話のまま、久方ぶりに席を立つ。



愛季:見える?



〇〇:ぼやけてる


ぼやーっとしてるドアと地面。

進めないことはない。




愛季:それは危ないね


だから返して欲しいんです。


〇〇:か、帰ろっか


愛季:周り気をつけて


足早に廊下に出る。しかし





〇〇:階段


愛季:あ


視界が悪いときの階段がいちばん怖い。


〇〇:


愛季:大丈夫?


〇〇:だ、大丈夫大丈夫




恐る恐る一歩目を




〇〇:怖い


無理だ。


愛季:そうだよね


〇〇:あのーやっぱりメガネを


愛季:手、捕まって


〇〇:え?


愛季:あぃりの手、握って


〇〇:いやいや流石に


愛季:いいからっはいっ


差し出される小さな手。

それを、ゆっくり握ってみる。


愛季:い、行こ


ぎこちなく階段を下りていく。

身長差はあるけど、多分歩幅を合わせてくれてるんだ

優しさが滲んでる。


彼女の表情までは見えないけどわかる。




〇〇:谷口さんの手、暖かい


愛季:●●くん、冷たい


〇〇:あ、ごめん緊張してて


愛季:あぃりも緊張してる


〇〇:え、意外


愛季:なんで


〇〇:谷口さんクラスでも人気だから、てっきりそういうことに慣れてると思ってた


愛季:あぃり手も繋いだことない


〇〇:えっ!?


愛季:そんな変


〇〇:意外過ぎて


愛季:●●くんはあるの




〇〇:まぁ幼稚園のときなら



愛季:


〇〇:えー.幼馴染の子



愛季:女の子?


〇〇:まぁうん




グキッ





〇〇:いてててててっ


思いっきりつねられる利き手。


〇〇:なんでつねるの!?


愛季:


〇〇:幼稚園のときだよ?物心ついた初っ端だよ?


愛季:ばか


ぷいっとそっぽを向く。


〇〇:谷口さんなんで


愛季:


階段の途中で完全に立ち往生。

何故か怒らせてしまった。

しかし相変わらず握られた手、彼女につけられたメガネ

谷口さんだけが頼りの現状。



〇〇:谷口さん早く行かないと


愛季:


側から見たら、男女が手を繋いで廊下に突っ立ってる。


〇〇:谷口さん


愛季:初めてだった


〇〇:ごめん、僕なんかが





愛季:●●くんだから、いいと思った





〇〇:え、あそれって


愛季:もうっ!


〇〇:うぇっ?えっ!!!


そう言うといきなり、勢いよく階段を駆ける。


〇〇:谷口さん!!!やばいやばいやばい


視界ぼやけながらの階段下りは、ジェットコースターのようなもの。

ますます彼女の手をぎゅっとする。




愛季:ふふっ……あははっ




〇〇:わ、笑いごとじゃ……うわぁぁぁ


愛季:あははっ行けー!!!


〇〇:死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!





なんとかそのまま下駄箱まで駆け走りきった。





愛季:あーあははっ


〇〇:


愛季:ふふっ大丈夫?


〇〇:死ぬ死ぬ



肩で息をしてバクバクの心臓。



愛季:だいじょーぶ、生きてるよ〜


谷口さんの柔らかい手に、ぷにぷにされてる利き手。



刹那、自分のことを客観視する。



〇〇:なんで手繋いでるんだ


愛季:えへへ


ほんとになんで手繋いでるの?


〇〇:


愛季:あっ!●●くん見て!


〇〇:え


指を指した方を見ると、さっきまで曇天だった空に、綺麗な夕日が輝いてる。

ぼやけて見えないけど。




愛季:雨止んだ!止んだー!!




ぴょんぴょん飛び跳ね喜ぶ谷口さん。


意外と子供っぽいところあるんだ



〇〇:あ、えーっと


愛季:よしっ


解こうとしてた手を、再び繋ぎ直す谷口さん。


〇〇:え谷口さん


愛季:行こ?


ほんとは見えないはずなのに


そう尋ねる彼女の表情が、何故か想像できた。








〇〇:えっ!?じゃああの2人付き合ってるの?


愛季:うん笑、珍しい2人だよね



乾ききらないコンクリの歪みにできた水たまりに、夕日が照らされて町が綺麗に感じる。



〇〇:でも、あの2人なんかいい感じだね


愛季:わかる、あぃりもそう思った




彼女の家に送るまで、色んな話をした。


家族の話、顧問の愚痴とか、勉強の仕方。

メガネひとつでこんなにきらきらしてるなら、
貸しっぱなしでもいいかな

なんて思えるくらいに終わってほしくない時間。





愛季:●●くんって好きな子いる?


〇〇:好きな子


愛季:いるの


〇〇:わかんない


愛季:ん?


〇〇:いないかな





愛季:そっか



〇〇:谷口さんは?いるの?


愛季:はぁ秘密


〇〇:ずるっ教えてよ


愛季:あぃり告白されたい派だし


〇〇:ん?


愛季:..なんでもない


何かの意思表示なのか、強く握り直される手。






愛季:あ家ここ


〇〇:おぉ


愛季:何その反応笑


〇〇:いや人の家の感想、いちばん難しくない?


愛季:何でもいいから、なんか言って




〇〇:いい家ですね!


愛季:棒読み笑


〇〇:難しいよ


愛季:あははっ


笑い声が聞こえるだけでくすぐったい耳。




明日も会えるはずなのに

笑顔みたいなぁと思ってる自分がいる。





愛季:今日楽しかった


愛季:●●くんと初めてこんなにお喋りできて


〇〇:僕も、あっという間に終わっちゃった楽しかった




愛季:メガネ、返す


名残惜しそうにメガネを外す谷口さん。



〇〇:ありがと



愛季:●●くんはさ.





愛季:あぃりがなんでメガネ借りたと思う?


〇〇:メガネ忘れたって


愛季:ううん、違う


〇〇:え、じゃあやっぱり目良いんだ


愛季:いつもコンタクトしてる


〇〇:意地悪したかったの?


愛季:ううん


〇〇:なんで?








愛季:……好きな人の物ってね、なんか特別だなぁって




愛季:触ったり、つけてみたり、同じものでも
なんか違う



〇〇:


愛季:その子にとってなんでもなかったとしても


愛季:あぃりにとってはすごく大切で、絶対忘れられないんだよ?








大きく揺さぶられる心の中。



〇〇:えっ


突然顔を触られる。




愛季:動いちゃダメ



彼女から、ゆっくり掛けられるメガネ。



その瞬間、視界が一瞬で鮮明に。





愛季:今のは告白じゃないから


愛季:好きな人にはされたい派だし


〇〇:うん






愛季:あぃりのこと、ちゃんと意識してね?







〇〇:


愛季:ま、また明日!




こちらを振り向くことなく、家に入る。





メガネを掛け、改めて見た谷口さんは


また一際、綺麗だった。


FIN