かずきち
2025-06-01 02:27:41
2735文字
Public 直優
 

passo

直優 初期も初期です。やきもちやいた


「随分かわいい光景だねえ」

 共有ルームに入ってきた孝明さんが声をかけてくる。それもその筈で、俺の後ろにはナオがぴったりと付いて来ているからだ。
 今朝からそうだった。ナオを起こしに部屋まで行って、おはようと挨拶を交わしてからお昼時のこの時間まで、ずっと後ろをヒヨコみたいに付いている。椅子に座れば隣に座って、飲み物を取りに立ち上がると立ち上がって一緒に冷蔵庫を覗く。ぴょこぴょこと効果音が付きそうな今日の行動は正直、すっごく可愛いのだけど、事の発端が自分のせいなので居た堪れない気持ちにもなる。

「昨日の夜、優馬くんと直助くんで台本のチェックをしてたんですけど、優馬くんがちょっと無理してたみたいで。それを見てた兄さんが『バカに付き合ってねーで怠いんだったらさっさと寝ろ』って」
「はっはーん、それで直助は拗ねた訳だ」
「拗ねてない!です!」

 昨日の事を見ていた二葉さんが状況を説明してしまう。少し怠かったのは事実だけどそれも寝不足だっただけで問題ない範囲のものだったのに、一紗さんに見抜かれたのは予想外だった。ナオにもバレて心配させてしまうし、反省点ばかりが浮かぶ。そんな事を考えていると後ろにいたナオがずいと出てきて孝明さんに対峙する。

「今日は皆お仕事でいなくなっちゃうから俺が一日優馬の事見てるんです!無理してもすぐ気付けるように」

 いつもの調子よりも真っ直ぐな声で宣言するナオに孝明さんはぱちぱちと拍手を送る。

「おー直助は偉いなー。優馬が言わなかった事にじゃなくて気付けなかった自分に責任を感じたんだな。かっこいいぞ」

 ドキ、とした。

「よし、それなら優馬の事は直助に任せて俺たちは仕事行くか。……優馬、本当に具合は平気か?」
「あ、……はい。大丈夫です。心配おかけしてすみません」

 急に振られて慌ただしく返事をする。すると手がのびて来て頭をぽんぽんと叩いてくれた。優しさのある力加減。

「何かあったらすぐ連絡しろよ。マネージャーも、俺たちも。すぐに駆け付けるから」
「はい!」

 頼れるリーダーの台詞にナオと二人で顔を見合わせてから大きく返事をした。大きな存在だ、と思う。

「それじゃ二人とも、行ってきます」

 いってらっしゃいと手を振り二人を見送って、ドアの閉まる音を聞けば部屋は一気に静寂に包まれる。
 ナオと二人きりの空間。どうしようかとばちりと目が合う。静寂の中に響く、お腹の音。

「とりあえず飯くおっか」
「そうだね」



 昼食を準備している時もその距離感は続いていて、これは本気で一日やるつもりなんだなと俺も覚悟を決める。それでナオが満足するなら、してもらえるなら。いざ食べる時にまで選んだ席が向かい側じゃなくて隣だったのは流石にちょっとびっくりしたけど、ナオとなら何一つ嫌な距離ではなかった
 片付けを済ませて昨日の台本の続きをしようと提案をするとその首は横に振られてしまう。でも途中だったから出来れば最後まで終わらせてしまいたかったんだけど、と戸惑うと手を引かれて誘導される。
 ん、とソファを指差すナオに遠慮をするといーから!と強引に引っ張られてしまう。ぽすんと勢いが付いたけれどソファの丁度いい反発感に受け止められて、その後にゆっくりと体が沈む。この気持ち良さは一紗さんが気に入るのも頷ける。そうやってつい心地良さを堪能しているとナオがこっちに体重を預けて寄り掛かってくる。好きだと言われてお互い想いを伝えあった後でも頻度の変わらないスキンシップはただの戯れなのか、恋人として意識してくれてるのか判断がつかなくて緊張してしまう。でも今の雰囲気はそんな甘い物ではないのは分かっている。曇った表情のナオは傍らのクッションを強く抱きしめながら零すように呟いた。

「ごめんな優馬。俺、すぐ気付かなかった」
「俺が隠してたのが悪いんだよ。ナオが謝らないで?」
「でも……

 さっき孝明さんが言っていたのを思い出す。ナオは俺が体調不良を隠してた事でなくそれを見抜けなかった事が引っかかっているみたいだった。そんな責任の感じ方をしているナオをかっこいいと思う。それと同時にすぐにその気持ちに気付かなかった自分を恨む。孝明さんはすぐに分かって褒めていたのに。悔しい。
 突如うまれた子供のような独占欲が胸に広がっていくのを感じているとふいにナオが体を離して、両手を広げる。多分飛び込んでこい、的な意味なんだろうけど。

「は、恥ずかしいよナオ」
「俺がしたいの!」

 またもや問答無用で腕を引かれる。ばたんと倒れてソファに二人して横になって、抱き締められた俺はナオの腕の中にいる。殆ど乗っかってしまっている状態をどうにかしたくて動いてみるけれど頭を胸の前でしっかりホールドされてて身動きがとれない。視界は暗くてナオの体温であたたかい。
 俺が抵抗するのを辞めると頭上から声がする。

「優馬の事俺が気付かなかったのが悔しくて。しかも一紗にはそれが分かったのも悔しくて、それが、なんかやだった!」

 ガキっぽいけど、と続けるナオの言葉がじんわり胸に沁みて、広がっていた感情に混ざっていく。
 今しがた抱えたばかりの感情と同じものを持っていた事実に驚いてしまう。ナオは全然そんな感じがしないから。嬉しい、と思ってしまう。

「俺が優馬が好きって言ったじゃん、だから俺が一番優馬の事分かってたいのにさ」

 進む気持ちの吐露に顔が熱くなる。友情の延長にとれなくもなかったナオから明確な独占欲が見えて震える。

「それって、一紗さんに嫉妬した……って事?」

 つい高揚して割り込んでしまうとピタリと空気が静まる。動かなくなったナオの様子を伺おうともぞもぞ抵抗を試みると少しだけ、耳の辺りが見えて自分も固まる。赤い。赤く染まった、ナオの耳。

「ナオ、」
…………うん」

 名前を呼ぶとかすかな肯定が聞こえた。いつも比重が大きいのは俺だと思っていて、正直この重さがいつかナオを押し潰してしまうんじゃないかと不安になった頃もあったけど、これで、たったこれだけですっと軽くなった。一緒だ。同じように些細な事に嫉妬して、小さな独占欲に心を乱していた。ナオも俺も。それがどうしようもなく嬉しい。

「ナオが良ければなんだけど。顔、を見せてくれたり、しない?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜だめ!」

 照れたナオを見たくてお願いしてみるけどあっさり断られたどころか腕に力をさらに込められて今度こそ視界が真っ暗になる。
 顔を見られないのは残念だけど、抱き締められて伝わる鼓動の速さだけで俺の気持ちは満たされた。