ちよど
2025-06-01 01:20:44
16122文字
Public わし様など
 

練習1P 2025年4~5月分まとめ

#練習1P、のタグで書いていたもの。
わし様中心SS。節操なくCP混在。

■2025/05/30 No.605
ビマヨダ
「振り向けない」

 指を指して笑ったドゥリーヨダナにビーマセーナは振り向かなかった。
 氷原を雪混じりの風が吹き抜けてふたりの髪を靡かせる。巨人を仕留めた岡田以蔵が刀を仕舞った。ちょっと躊躇って大柄なビーマの背中を軽く叩く。
 初陣での失敗は誰にでもある。
 マスターに巨人の足を潰すよう命じられた新入りが力みすぎて槍を空振りさせた、だけの話だ。
 褐色の指が銀色の槍を強く握りしめる。
 彼が生前槍ではなく棍棒を握っていた頃、ビーマセーナは敵の足を潰した事はなかった。ただ一度を除いては。
 行く宛のない風が髪を乱す。背後からの嘲り声は飽きたのかいつの間にか止んでいた。
 それに息を吐いて。ビーマは自分が呼吸すら忘れていた事に気づく。
 たいした事ではない。こんな失敗はすぐに挽回出来る。
 そう自分に言い聞かせていたビーマの背後で足音がした。隠す気のない気配が近づいてくる。
 あの決闘でビーマが足を潰したからもう歩けなくなったはずの男が。亡霊となって蘇る。
 ドゥリーヨダナがどんな顔をしていたのかビーマにはもう思い出せない。最後に見た鮮血ばかりが脳裏に浮かぶ。
 亡霊の手がビーマの背中を軽く叩く。
「ビーマ」


■2025/05/29 No.604
わし様+あしょかさん
「前言を撤回する」

「ユディシュティラの事をわし様に聞いてどうする?もっと適任がおるだろう?」
 そう言われてアショカ王は静かに微笑んだ。
 昼のピーク時を過ぎた食堂ではサーヴァント達がまばらに座っている。その中でわざわざドゥリーヨダナ達と同じテーブルに腰掛けた彼はゆっくりと指を組んだ。
「生前、私は貴方達の物語を書き記すように命じたのだ」
「なるほど。おまえはユディシュティラのモデルと言われているらしいな。この聡明なわし様が率直に言ってやろう。──まぁったく似とらん!!」
 断言にアショカ王の目が僅かに見開かれる。
「わし様は昔、あやつの飲む酒を酢と取り替えてやった事がある。──お主ならどう対応する?」
 いつでも毒殺出来るぞ、との脅しに地獄だった男は口を閉ざした。それに魔性の王子は苦々しく顔を歪める。
「あやつは酢を全て飲み干した挙げ句。美味しかったとほざいたのだ」
「なるほど。聖王たるに相応しい」
「わし様はそうは思わん。入れ替えたのが慈悲深いわし様でなければパーンダヴァの旗頭は死んでおったぞ」
 だが、そうしなかった王子を転輪聖王は静かに見つめた。
「あなたを信用していたのだ」
 ドゥリーヨダナの顔が心底嫌そうに歪む。


■2025/05/26 No.603
現パロ?カルヨダ
「オレに盗めないものはない」

 今宵、至宝を奪います。
 そう世間を騒がす怪盗に予告されたドゥリーヨダナは大きな金庫の前で駆けつけた警官に眉を寄せた。
「なぁんで刑事課のおまえが来ておるのだ!!ビーマ!!」
 制服姿のビーマがそれに応えて口の端を上げる。
「俺がいたら困ることでもあるのか?最近おまえ妙に羽振りいいよなぁ?」
……それはわし様の企業努力というものだ」
 ビーマは警部補だ。妙な真似をすれば即座に令状を請求されるだろう。ドゥリーヨダナはそわそわと時計を見た。
 23時59分。
 打ち合わせた時間まであと少し。鍵が掛かっていない金庫の扉に手を掛ける。と、扉が内側から弾かれた。
「しまった!すでに侵入されんん?」
 大袈裟に騒いだドゥリーヨダナは金庫の中から飛び出してきた怪盗に抱き上げられていた。
「この至宝はオレがいただく」
「打ち合わせと違うではないかー!!」
 大柄なドゥリーヨダナを抱えたまま駆け出したカルナは真面目な顔で答えた。
「アリバイづくりに好きなものを持って行っていいと言ったのはおまえだ」
「やっぱりおまえ!盗ませた品を転売してやがったな!!今度こそとっつかまえてやる!!」


■2025/05/22 No.602
わし様+マスター
「それは無理」

「ようこそ、カウラヴァパレスへ」
 そうマスターの少女を招き入れたのはLv120絆15のいわゆる完全体のドゥリーヨダナだ。
 隠居前の馬車馬も真っ青になって逃げ出すような鬼周回時代に稼いだQPでシュミレーターの中に宮殿を築いた王子様は心を込めてマスターをもてなした。
 モーツァルトがピアノを奏でるきらびやかなラウンジで紅女将の会席を、クレオパトラが提供するリラクゼーション、そしてマシュと彼女が作ったケーキを添えたアフタヌーンティー。これでもかと言わんばかりの圧にマスターは苦笑した。
「こんなことをしなくてもグランドに指名するのに」
「ハァ!???そ・ん・な・わ・け・な・か・ろ・う!?」
 素っ頓狂な声をあげたドゥリーヨダナは少女の額を指で小突く。揺れる小さな頭を最後に指先で軽く弾いてカルデア最強の男は胸を張った。
「わし様のようなつよつよのサーヴァントがグランドになるのは当然というものだ。今更お前に接待などする必要はなぁい!!」
「その心は?」
「わし様は今の生活が気に入っておる。何しろ金はいくらでもある。楽隠居というものだ。わし様はこのまま時折喚ばれる以外はのんびりカルデアで暮らしていたいのだ」
 ドゥリーヨダナの訴えにマスターは首を振った。


■2025/05/20 No.601
アシュヨダ
「ありがとう」
※殺害シーンがあります

 だって、アシュヴァッターマンはありがとうって言ってた。
 立ちすくむ藤丸立香に返り血を浴びたドゥリーヨダナが振り返った。にかり、と何事もなかったように笑う。
「どうしたマスター?わし様との別れはもう済ませただろう?」
 人理修復の旅は終わり世界は巻き戻る。その前にお世話になったスタッフやサーヴァント達と藤丸立香は別れの言葉を交わしてまわっていたのだ。
 ドゥリーヨダナとも、そしてアシュヴァッターマンとも藤丸立香は別れを済ませていた。その時にアシュヴァッターマンに言われた「ありがとう」の続きが気になって戻ってきたのだ。
 そして見てしまった。ドゥリーヨダナが無抵抗なアシュヴァッターマンの霊核を砕くところを。
 藤丸立香は思い返す。
 アシュヴァッターマンは言ってたのだ。
 ──今までありがとうな。旦那が面倒をかけると思うが許してやってくれ。
 過去形ではないその言葉は今の状況を指していたのだろう。
 サーヴァントの骸は残らない。今度は先に逝ったアシュヴァッターマンが残したのはドゥリーヨダナが浴びた返り血と、思い出だけだ。


■2025/05/17 No.600
カルさん+モブ
「間に合わない」

 スータが武術を覚えたところでクシャトリヤの駆る戦車に引き潰されて死ぬだけだ。そう言うと幼馴染の変わり者は首を振った。
「あの程度、オレにも出来る」
「言葉を選べって。いくらお前の親が王の御者をしてるからって俺達はスータだぞ」
 ひそひそと声を交わす俺達に役人の視線が飛んで俺はヴァスシェーナの口を手で覆った。しかしざわついているのは俺達だけではない。役人はすぐに他に視線を向けた。
 集められたのは都の若い男ばかり。誰もが嫌そうな顔を隠しもしない。だってそうだろう。誰がよそ者のバラモンになんか武術を教わりたい?使い捨てられるだけだ。
 だがまあ、みんな分かっている。盲目とはいえ王の命令から逃げられるはずがない。クシャトリヤにとって俺達はせいぜい数でしかないのだろう。
 俺はヴァスシェーナに囁いた。
「いいか、手を抜けよ。ぜっったいクシャトリヤの目に留まるような事はするな」
 仕事の合間に武術を真似て棒を振っているような変わり者は不思議そうに俺を見た。絶対分かっていない。
 ああ、戦場の中。あんなに言ったのにクシャトリヤと成った幼馴染は泥の中戦車を持ち上げようとしている。お偉いクシャトリヤ達は誰もあいつを助けようとしない。弓が引き絞られた。俺は駆け出す。


■2025/05/13 No.599
現パロ アシュヨダ
「弟相手なら許そう」

「アシュヴァッターマンに弄ばれた、とドゥフシャーサナが言っていたのはこれか」
 ふたりきりのエステルーム。ベッドに全裸で横たわったドゥリーヨダナの胸元にパウダーを伸ばしていたアシュヴァッターマンは唇を尖らせた。
「弄んでねぇよ。あいつから実験台になるって言ってきたんじゃねぇか」 
「良く出来た弟と恋人を持ってわし様は幸せだな」
 からかう響きがないそれにアシュヴァッターマンは瞬きをした。
 自宅にエステルームがあるドゥリーヨダナには専門のスタッフがついている。一度、ドゥリーヨダナに誘われてその施術を受けたアシュヴァッターマンがエステシャンの資格を取りに走った意味を気づいていない男ではない。
 恋人の弟で練習した手技を鍛えられた肌に滑らせると、くすぐったいのか小刻みに震える。
「なぁなぁ、旦那。上手く出来たら」
「んんー?仕方がない。わし様のスタッフには新しい職を紹介してやろう」
 パッとアシュヴァッターマンの顔が輝く。普段人を追い落としたりしない男だがよほどドゥリーヨダナの体を触られていたのが嫌だったのだろう。
 そんな可愛い恋人を眺めながらドゥリーヨダナは心の中で呟いた。


■2025/05/11 No.598
次男+あしょかさん
「僕達が盾になればいいだけのこと」

 ドゥリーヨダナの宝具を眺めるアシュカ王の横顔にマスターは声をかけるのをためらった。
 兄弟と死後も共にいるドゥリーヨダナと、王位を巡ってその尽くを排除したアシュカ王。思うところはあるだろう。
「そんな目で見るなら最初からやらなきゃいいんだよ」
「ドゥフシャーサナ」
 宝具の開帳が終わったというのにフィールドに残った百王子の次兄がアシュカ王に近づいた。その覆面の青年に転輪聖王は問いかける。
「私は王だった。だから問おう。おまえたちに死を命じた兄を恨んではいないのか?」
「はぁ!?確かに勝てねぇ相手と戦になったのは兄貴のせいかもしれねぇが。──兄のために死ぬのは弟の甲斐性だろうが」
 アショカ王の口元がかすかに強張った。それに気づいたのか覆面から垣間見える口元がにたりと笑う。
「あんたにはひとりもいなかったのかよ。進んで命を差し出してくれる兄弟が。──だから『ひとり』なんだよ」
「おとうとキックー!!!」
 突如理不尽な蹴りがドゥフシャーサナの頭部を襲う。兄の頭を物理で下げさせた百王子のひとりが勢いをつけて謝罪した。
「失礼しました!兄はあなたの宝具に気が立っていて。本当に気にすることなんてないのに。だって」


■2025/05/10 No.597
ビマヨダ
「おまえに傷はないだろう?」

「わざわざ3臨で、わし様を笑いに来たのか」
 咲き誇る花に覆われた視界の向こう。煌めく金の鎧に吐き捨てると、ビーマの奴は部屋の入り口で立ち止まった。
 傷口から花が咲く。そんな霊基異常に見舞われたカルデアで、わし様の下半身と顔面に咲いたのは野原に咲くような素朴な花だった。
 マーガレット。聖杯によれば「真実の愛」「私を忘れないで」などの意味があるらしい。
 よりによってビーマから受けた傷からそう咲き誇る花を誰に見せられるはずもない。だから自室にこもっていたというのに、一番見られたくない男がのこのことやって来た。
 この男はいつもそうだ。
 こちらの防御が薄いと見るや飛びかかってくる。
 コツン、と金属の靴が床を踏む音がした。花越しに見上げればなんの瑕疵もない男が立っている。
 生涯負けなかったらしい男に傷などあるはずがない。だというのに、ビーマは何故か胸を押さえていた。鎧から垣間見える唇が音を落とす。
昔、恋人のために花を摘もうとした男が川に落ちた。男は川に流されながら花を恋人に投げて叫んだらしい」
 含みがあるような話をするビーマは胸から手をどかした。厚い金の鎧に亀裂が走る。裂けた胸元から噴き出したのはあいつの髪と同じ色の小さな花。
 ──私を忘れないで。


■2025/05/06 No.596
カルヨダ
「1度目は再会した地獄で」

「おまえの顔など見たくなかった」
 そうカルナに言われた召喚されたてのドゥリーヨダナはハグしようと開いていた腕を閉じた。両数形で語られるほど分かちがたい友にそう言われるのは2回目だ。
 ドゥリーヨダナは心得て辺りを見回す。召喚されたばかりでも基本的な知識は与えられている。人理を修復するために7つの異聞帯を滅ぼしてきたカルデア。その彼らの本拠地であるストームボーダー。ふたりしかいない召喚室。そしてドゥリーヨダナが召喚された円卓の盾。
「マスターとやらはどうした?」
「ここにはいない。おまえの召喚はイレギュラーだ」
「この盾の持ち主は?」
「いない」
 ふむ、とドゥリーヨダナは首を傾けたがすぐに戻した。
「ふふふ、この寂しんぼめ!」
 大柄なドゥリーヨダナに抱き寄せられてカルナの体がすっぽりと包まれる。仮初とはいえ生前と同じ温もりと香りにカルナの視線が伏せられた。
「すまない」
「たまにはこういう結末もよかろう!」
 ドゥリーヨダナが笑うとガタガタとストームボーダーが大きく揺れる。その意味を聞かない友の背にカルナは腕をまわした。
 会いたくなかった。けれど喚んでしまったこの終わりに。


■2025/05/06 No.595
生前アシュヨダ
「甘い息が吹き込まれた」

 アシュヴァッターマンが背伸びをしてもドゥリーヨダナの肩までしか届かない。けれど今は同じ目線で話をしている。ドゥリーヨダナが湖の中にいるからだ。
「ドゥリーヨダナさま、ちちうえに怒られるよ」
 この湖は場所によって様々な顔を見せている。ふたりがいるのは川底が急激に深くなるため危険だと言い含められている所だった。
「ドローナ師の小言など気にするな。──それより、特別におまえだけにいいものを見せてやろう」
 そう手招きされれば子供の好奇心が勝つ。服を脱いでアシュヴァッターマンも湖に飛び込んだ。
 泳いで来た少年をドゥリーヨダナは抱き締める。
「息を止めていろ」
 声と同時にアシュヴァッターマンは水底に引きずり込まれた。とっさに暴れた体を抑えつけていた手が緩む。
「もういいぞ」
 水の中なのに声がした。息が、出来る。驚いて振り返ったアシュヴァッターマンに得意げな顔が上を見ろと促す。
 そこでは光が踊っていた。彼らの頭上を行き交う魚たちの影はこちらに構わず思い思いに泳いでいる。
「叔父上に教わった真言だ。──絶対に秘密だ。いいな」
 至近距離で囁かれて、アシュヴァッターマンは何故か自分を抱く濡れた体の温度に気がついた。
 無言で見上げるアシュヴァッターマンに顔が寄せられる。


■2025/05/01 No.594
ビマヨダ
「簡単には死なせない」

「わし様を殺した責任をとれ」
 『勝った方が』裁かれる特異点。数々の英霊が並ぶそこで有罪判決を受けた罪人の中ひとり。ビーマにドゥリーヨダナは言い放った。
 言い返そうとしたビーマを木槌の音が遮る。
「判決は確定しました。彼らは──」
「ぬるい!ゆるすぎる!!」
 今度はドゥリーヨダナの大声が裁判長を遮った。
「死刑?そんな生ぬるい事で許されるものか!」
 あまりの言いようにドゥリーヨダナと同じく被告の席に座らされた英霊が彼の腕を引っ張る。それを振り払ってドゥリーヨダナは続けた。
「罪の軽重は被害者のためにあるべきだろう?ならはあやつの判決を下すのはわし様であるべきだ」
 ドゥリーヨダナの言い分に裁判長は問いかける。
「ならば、あなたはどのような判決を求めるのです?」
「わし様の奴隷にする。死ぬまでこき使ってボロボロにしてやるとも!」
「おじさんもその方がいいねぇ」
 ドゥリーヨダナの主張に乗ったのはトロイア戦争の敗者ヘクトールだ。その目はアキレウスに向けられている。
「半神ならそうそう死なないだろうし」
 ヘクトールの言葉に察しの良い者が次々と同意の声を上げた。彼らは口を揃えて訴える。


■2025/04/29 No.593
パパ+ママ
「しょうがない人」

「逃げるんだ」
 迫りくる炎の気配に告げると妻は逆に私の手を取った。
「どこに逃げると言うのです?」
 その老いた手に私は彼女が嫁いでからの年月を思う。101人の子供達が生まれ、息子達が皆戦死し、王宮から出てこの森の小さな庵に住むようになった。
 その間ずっと彼女の視界は塞がれたままだ。
 盲目の私と異なり、たった布1枚に塞がれた彼女の視界は今なら取り戻しても誰も非難しないだろう。
 だが。目隠しを外して逃げろ、と口に出せない私の手の甲を彼女はそっと撫でた。
「覚えてますか。嫁いだばかりの頃、歩けない私をあなたはずっと手を引いてくださいましたね?」
 覚えている。視界を奪われたばかり、勝手の分からない宮殿で覚束ない足音を立てていた妻の手を私は何度も引いて共に歩いていた。
 ……優越感を覚えながら。
 強引に連れられてきた妻の視界を奪えと命じたのは私だ。
 耐えられるはずがない!この目で生まれた時からの哀れみと蔑みを、生涯共にする女からも浴びせられる事に。
 黙っている私の手を妻の手が包み込む。
「知ってましたよ。──あなたがガンダーラの侵略に反対していたことも」
 炎の匂いと音が近づいてくる。妻が私を抱きしめた。


■2025/04/27 No.592
現パロ アシュヨダ
「かんべんしてくれ」

 カウラヴァグループの本社ビルには豪華なカフェがある。
 セミビュッフェスタイルのそのカフェは格安で一流シェフの味が楽しめると評判だ。私も今日みたいな商談の帰りには必ず寄っている。
 店内に入れば汚れひとつないガラスウォールから都心の街並みが見下ろせる。明るい日差しが照らす広い床は本物の木材だ。ヒールの足音を静かに受け止められながら進み、点在するテーブルを選ぶ。ゆったりとした椅子に座るとすぐに上品な制服のウェイトレスが水とメニューを運んできた。滑らかな水をひとくち飲んで私はため息をつく。
 これさえ無ければ最高なのに。
 私の視線の先。カフェの中央に置かれたモノ。人の背丈ぐらいはある。大きな。カウラヴァグループ長男の胸像さえ無ければ!
 ドヤ顔を浮かべている胸像を私は睨みつける。正直センスがない。見栄っ張りにも程がある。TPOを考えろ!!
 と、いつものように罵詈雑言を思い浮かべていた私は今になって気がついた。
増えてる」
 長男の胸像の横にもうひとつ胸像が増えていた。ここからだと影になってよく見えないけど整った顔立ちのショートカットの、そう今目の前を横切った人のような
 私の前を通る赤毛の青年は不自然に胸像達から目を逸らしていた。小さな呟きが聞こえる。


■2025/04/26 No.591
現パロ ビマヨダ
「彼は写真すら持っていない」

「LINEのひとりグループの作り方、ですか?」
 最近自作スタンプが流行るようになり、家族の間でスタンプが行き交うようになったが兄であるビーマは相変わらず必要な時にしかLINEを使わない。
 そんな兄がLINEで壁打ちをしたがる理由が分からずアルジュナは渡されたスマホに視線を落とした。
 無防備に開かれているアプリの画面を見る。トーク相手も家族か、時々嫌がらせを送ってくるという従兄弟ぐらいしかいない。
 不思議そうな顔を隠さないアルジュナにビーマはきまり悪そうに頬をかいた。
「あー。思いついたレシピをメモしておこうと思ってな」
 確かに。兄はレシピを書いたメモとたまに無くして困っていることがある。LINEならば使いやすいだろう。
 納得してアルジュナはビーマひとりのグループを作ってあげた。

 ──アルジュナは知らない。
 その後ひとりになったビーマが誰とのトーク画面を開いたか。そこにひとつだけ送られて来た自作スタンプをどんな気持ちで長押ししたのか。とある人物のいろいろな表情が並ぶショップでためらいなく決済した速度を。
 アルジュナは知らない。


■2025/04/24 No.590
カルジナ
「アフターケアもちゃんとしなさい」
※大人の女子会(ちょっとだけ)

「男の人ってすぐ飽きちゃうっスよ
 ガネーシャ神の小さな呟きにコノートの女王はさくらんぼを摘んでいた手を止めた。彼女が認める英雄。カルナの恋人である少女をふたりっきりの大人の女子会に引きずり込み、いろいろ聞き出していたのだ。
 口当たりのいい果実酒。柔らかな音楽。仄かな香り。そして気負いのないおしゃべり(メイヴ視点)に当初は固まっていた少女がやっと口を開いたのがそれだった。
確認だけど、ドゥリーヨダナのことじゃないわよね?」
「カルナさんっス」
 ベッドの中での話をしていたのではあるが、メイヴにはカルナが飽き性には見えなかった。大概の英雄は一途なものだ。そうでなければ英雄になれない。
「飽きる、ねぇ。──それってすぐやめちゃうってコト?」
 確認に顔を赤らめた少女はこくりと頷いた。
「ふぅん」
 恋多き女の眼差しが少女を検分する。どう見ても男慣れしてそうにない。
ふぅん」
「──何っスか」
 幼い仕草で唇を尖らせた少女を、生前妻も子もいた男が不器用に大事にしている。それはメイヴの趣味ではなかったが、彼女は少女の髪を優しく撫でた。
「馬鹿な男ね。この私からちゃんと言っておくわ」


■2025/04/21 No.589
カルジナ
「ボクは何度でもあなたを書き記す!」

 やっと見つけたカルナは背中を丸めて馬をひいていた。
「カルナさんっ!!」
 ガネーシャ神の呼びかけに貧相な青年は顔も上げない。ボロ布のような服の隙間から見える太陽神の鎧は薄汚れて彼を別人のように見せていた。
(ガネーシャ神。今のヤツは『カルナ』ではない)
 霊体化しているドゥリーヨダナが囁く。
 ここはマハーバーラタが記録されなかった特異点。ドゥリーヨダナはレイシフトした途端実体を保てなくなったのだ。そして同行していたカルナはかき消えた。
 残ったのはマスターとガネーシャ神のみ。戦力に不安を覚えた彼らは現地のサーヴァントを探してハスティナープラの街中を探っていたのだ。
あ、あのヴァスシェーナ、さん」
 再びガネーシャ神が呼びかけると、青年はゆっくりと顔を上げた。覇気のない瞳が異邦人を映す。
「えっと、その、──英雄になりたいですか?」
「ヴァスシェーナ!!またサボってんのかっ!!」
 怒声に青年が体をすくめる。ジナコの知る彼とは違いすぎる姿に彼女は彼の腕を掴んだ。
「戦士になりたいですか?」
 青年の目に浮かんだ諦めきれない憧憬にジナコは白い牙を取り出した。それはこの神の折れた牙。とある叙事詩を綴ったモノ。


■2025/04/20 No.588
わし様+マスター
「ああ、よぉく分かったぜ」
※マスターが駄目な子

「どうしたらドゥリーヨダナを召喚できるの?」
 サポート先のマスターにきらきらとした目で見上げられてドゥリーヨダナは口元を綻ばせた。
「この最優にして最強のわし様を求めるとは!」
「うん!だってアーツ全体宝具バーサーカー便利だよね!」
 悪気のない回答に紫の瞳が細められる。
 ドゥリーヨダナを召喚していないマスターは当然バレンタインでの出来事を知らなかった。知っていれば顔に巻かれた帯越しに見た表情と同じだと分かっただろう。
 笑顔のままドゥリーヨダナがマスターに問いかける。
「おまえの所にカルナとアシュヴァッターマンはいるか?」
「うん!霊基保管庫に!」
 笑顔で問われたので笑顔で返したマスターに柔らかい笑みが返る。微笑んだままドゥリーヨダナはマスターの耳に口元を寄せた。
「これは秘密なのだが。あのふたりはわし様の召喚の露払いをしておるのだ。つまりあのふたりが『ここはわし様に相応しいカルデアだ』と思えばわし様はそこに召喚される」
 重大な情報にマスターの顔が輝いた。たったそれだけでアーツ全体宝具バーサーカーが手に入るなんて!!
 喜び勇んでカルデアに戻ったマスターは霊基保管庫からレベル1のままだったカルナとアシュヴァッターマンを実体化させた。
 事情を説明するとふたりとも口元で笑って頷いてくれる。


■2025/04/20 No.587
生前カルヨダ
「この花の名は『太陽の目』」

「雑草ではないか」
 夕暮れが近づくアンガ王宮の庭。示された小さな白い花を見てドゥリーヨダナが吐き捨てるとカルナは困ったように首を傾けた。
「珍しい種だと聞いた」
「おまえなぁ。命を助けたバラモンに騙されてどうする」
「だが、見たことがない」
 カルナの言葉に応じるかのようにゆっくりと日が沈んでいく。ぽつぽつと火が灯される中、小さな花弁が徐々に小さくなっていく。──ひとりでに閉じているのだ。
 ドゥリーヨダナの顔つきが変わる。
種は残っているのか?」
「全部使った。──オレ達の未来の花だと告げられたからな」
「未来だぁ??」
 ろくでもない金儲けの顔からうさんくさそうな顔に変わった友の手をカルナは取った。
「この花は朝になればまた開く。そういうことなのだろう」
「わし様達カウラヴァは何度でも蘇ると?待て、滅ぶのが前提ではないのか、それは?」
 困惑するドゥリーヨダナにカルナは珍しく微笑んだ。
「オレがいる限りお前が滅ぶことはない」
 黒く変色した手がするするとドゥリーヨダナの腕を遡る。硬い頬に触れたその手にドゥリーヨダナは当然のように頭を預けた。カルナの唇が動く。


■2025/04/18 No.586
マフィアパロ アシュヨダ
「死の接吻」

「始末は終わったか?」
 豪奢な椅子にゆったりと腰掛けたドゥリーヨダナの問いに数時間ぶりにこの執務室に戻って来たアシュヴァッターマンは頷いた。
 その姿に僅かな汚れすらない事に紫の瞳がおかしそうに細められる。
「また頬を削いだのか?あまり特徴を残すとわし様とて後始末に困るのだが」
「裏切り者があの世に持っていくには過分のモノを置いていってもらっただけだぜ」
 当然だと答えるアシュヴァッターマン達が話題にしているのは数時間前にこの部屋にいたひとりの男のことである。
 ドゥリーヨダナの無言の指示を受けて、その男を『始末』してきたアシュヴァッターマンはほんの少し、すねたように唇を尖らせた。
「なんでまた、死の接吻なんて古臭いもんを始めたんだよ」
「そりゃあ、意味に気づいて命乞いする裏切り者の顔を見るのが楽しいからに決まっておる」
 ろくでもない回答にアシュヴァッターマンは深くため息をつく。そんな彼の様子にドゥリーヨダナはくつくつと肩を揺らした。
「それにしても困ったなぁ。お前の悪癖のせいでわし様の接吻を知るのは家族の他は。──おまえだけしかおらぬではないか」


■2025/04/15 No.585
生前アシュヨダ
「彼はまだ愛しているのだと」

 まだ幼さが残る声が英雄譚を歌い上げる。
 それはきらびやかな宮殿に広がり人々はため息をついた。知識がある者でなくとも分かるその韻律の美しさ。
 神の半化身ではあるもの今はまだ無力な赤毛の少年が、どれほど精魂込めてこの英雄譚を編み上げたのか。誰もがその真摯さに打たれる中、英雄と讃えられている当の青年は豪奢な椅子に座ったまま顔をしかめていた。
 歌い終えた少年がおずおずと青年の顔色をうかがう。
 ドゥリーヨダナは称賛される事が好きだ。どれほどの美辞麗句を浴びてもまだ足りないと望む程に。
 だからアシュヴァッターマンは考え抜き、バラモンの口承を真似てドゥリーヨダナの英雄譚を作り上げたのだ。
 ドゥリーヨダナがゆっくりとため息をつく。
「確かに内容も韻律もわし様に相応しい。──だが、アシュヴァッターマン。おまえはそんな者になりたいのか?」
 英雄譚などを謡うのはバラモンの仕事だ。だが、幼いアシュヴァッターマンが憧れているのはそんな存在ではなく。──そしてドゥリーヨダナはその憧れを肯定してくれているのだ。
 それを理解してアシュヴァッターマンの表情が輝いた。

 そして時は流れて。人が寄り付かない古い森の奥から時折青年の歌声が聞こえるという。その美しい韻律の遥か昔の英雄譚に人々は囁いた。


■2025/04/14 No.584
次男+ビマさん
「殺してくれてありがとう!」

 昔、俺達が現代に生まれる前。ドゥフシャーサナが王族らしくなく不機嫌を隠さない日があった。
「そんなに兄貴が恋しいのかよ」
 それは必ずドゥリーヨダナが出かけている日で。そんな時は他の弟妹も奴には近づかない。見かねて俺が声をかけるとぎろりと睨み返された。
おまえはユディシュティラと出かけたことがあるのかよ」
「?当たり前だろ??」
 答えるとドゥフシャーサナは考え込んだ。
「──ユディシュティラとアルジュナだけで出かけたことは?」
こちらに来てからはねぇな」
 言われてみれば兄と弟はふたりだけで出かけたことはない。いつも俺が一緒だ。──それは意味があったのだろうか。
 ドゥフシャーサナが口を歪める。
「例えば俺が兄貴と一緒に出かけるとする。そこを襲撃されたら後継者教育をされたふたりともいなくなっちまうだろ。他の連中はただの王子だからな」
 うちもそうだ。兄貴とアルジュナが同時にいなくなれば立ち行かない。俺ではふたりの代わりは出来ないのだ。
「一度でいいから兄貴と一緒に出かけたい」
 そう嘆いていた奴は、生まれ変わって俺に笑顔を向けた。


■2025/04/12 No.583
生前ビマヨダ
「あいつの骨を折った時と同じ音だ」

 そう兄ちゃんが呟くと彼の父母の表情が変わった。
 王族の昼餉は公式の場だ。そこに前王とその妃を招くのはカウラヴァとパーンダヴァの和平の証でもある。
 兄ちゃんがまた肉がついたままの骨を折り取った。
「あいつの骨を折った時と同じ音だ」
 今は無力となった夫婦が俯く。誰も兄ちゃんを止めない。何故なら彼ら以外は兄ちゃんの表情が見えているから。
 あの戦が終わり、最強の戦士と讃えられるようになった兄ちゃんはそれでも鍛錬をやめなかった。
「もう平和になったことですし、少しは休んでは?」
 私がそう言うと兄ちゃんは困ったように頬をかいた。
「でもなぁ。あの馬鹿がいつ戻ってくるか分かんねぇだろ?」
 ──ああ、兄ちゃんは私と違ってあの男の亡骸を見ていないのだ。
「兄ちゃん。ドゥリーヨダナは死んだのです。でなければアシュヴァッターマンがあれほど狂乱するわけがない!」
 言い募ると兄は優しく私の肩を叩いた。
「落ち着けって。あいつの悪だくみは今に始まったことじゃねぇだろ。そりゃちょっとやりすぎたかもしんねぇが」
 私は息を吸った。
「兄ちゃん。いくらドゥリーヨダナでもあの怪我では助かりません」
 見開かれた兄の瞳が毒が染みるように色を変えていく。


■2025/04/10 No.582
現パロアシュヨダ+モブ
「マーキング」

「君にテーブルマナーを教えたのは、その香水の贈り主かね?」
 よく聞くクラッシックがシックなグランドメゾンに流れている。片隅のテーブルには若い男と壮年の紳士が二人。アシュヴァッターマンと、取引先の上司である。
 その取引先の社員が大きなミスをしたのを見かねたアシュヴァッターマンがフォローしたのだ。この会食はそのお詫びの1つだった。
「香水?」
 フォークを置いてからアシュヴァッターマンは首を傾げた。
 彼にテーブルマナーを教えたのは恋人であるドゥリーヨダナだが、香水を贈られた覚えは無い。
 そんな彼の仕草に紳士は目を細めて口元に手を当てた。
「──話は変わるが。昔とある武将の妻が突然下働きの女を折檻したそうだ。その理由が分かるかね?」
何か失敗したとか?」
 アシュヴァッターマンの答えに紳士はくすくすと笑った。
「答えは。──自分が使っていた香の匂いがその女からしたからだよ」
 数瞬後、顔を赤らめた青年に紳士は声をあげて笑った。
「君のテーブルマナーはマナーそのままではなく君が一番『良く』見えるように仕込まれている。君に移り香を付けた恋人はなかなかいい趣味をしているようだ」


■2025/04/08 No.581
転生ビマヨダ
「この国は奴らに覆われていた」

「弟達が迎えに来た。──別れよう」
 ふたりきりの河川敷でドゥリーヨダナがそう告げると、一斉に桜並木が夜空に花びらを散らした。
 この現代日本に転生した俺とドゥリーヨダナはお互いの係累もおらず国もなく、ただふたりきりの同じ記憶を持つ者として恋人になった。──そう思われているだろうが。
「じゃあ会わせてくれ。別れるのはその後だ」
 ずっとずっと好きだったんだ。やっと手に入れたんだ。土下座してでも渡さねぇ。
 ドゥリーヨダナはそんな俺の本心が分からないのか不思議そうな顔をする。
「弟達ならもう来ている。──毎年会っていたのにわし様が気づかなかったばかりにずっと待たせてしまった」
「毎年?」
 転生して容姿が変わったのだろうか?問いかけるとドゥリーヨダナはうっとりと両手を広げた。
「わし様の下半身は女神が作った花で出来ていた。弟達はそんなわし様と同じ肉から生まれた」
 ざわざわと並んで植えられた桜の木々が枝を揺らす。風もないのに。ここにある桜は全てソメイヨシノ。同じ木から増やされたモノ。それは。
「──待たせたな。我が弟達よ」
 ドゥリーヨダナが囁くと桜吹雪にヤツの姿がかき消えていく。必死に手を伸ばす。だけどすでに。


■2025/04/05 No.580
生前カルヨダ
「オレはおまえに海を見せたいだけだ」

 アンガの先には海がある。
 それは平原のクル国育ちのドゥリーヨダナには珍しいもので、彼は毎年カルナからの招待を楽しみにしていた。
 アンガと海の間にはいくつか国があるがこの2人にとっては小さな事だ。
 カルナほどの武力もなく、ドゥリーヨダナほどの富もない彼らは今年もカルナが先導する豪華な行列を息を潜めて見送っていた。
 そんな彼らを馬上から眺めてカルナは息をつく。カルナはドゥリーヨダナに海を見せたいだけなのだ。好んで滅ぼしたいわけてはない。──ドゥリーヨダナが望まない限りは。
 随伴する従者に促され振り返れば、行列の中心の豪奢な輿でドゥリーヨダナが手招きしていた。馬を寄せる。ドゥリーヨダナがにやりと笑った。
「どうだ?今年の海も穏やかか?」
「おまえがはしゃいで輿から落ちない限りは」
 カルナの返答にケラケラとドゥリーヨダナは笑う。
 たかが享楽のために周辺国に道を開けさせているこの状況は、見栄っ張りで小物なこの男の虚栄心をこの上もなく満足させていた。
「来年もまた来たいものだ」
 海に着く前から次の事を言い出したドゥリーヨダナは、傲慢のあまりカルナの表情を見落とした。


■2025/04/04 No.579
生前カルヨダ
「おまえが望めばオレは叶えるだろう」

「我が父スーリヤを喚び出したい?滅びを望むのか?」
 そんな理由で王宮に呼び出したのか、と言わんばかりのカルナを侍女達は静かに着飾っていく。
 さらさらと滑る布、宝石の連なり、カルナの白皙の顔に色が乗せられていく。
 そんな彼女達の仕事を満足げに眺めていたドゥリーヨダナは窓へと視線を移した。雨が降っている。
「おまえも知っての通り今年の雨季は長すぎる。このままでは洪水、飢饉、反乱と忙しくなりかねんのだ」
「だが、」
 カルナの父はスーリヤだが実際に会った事もない。そもそも太陽神を召喚するなどただで済むはずがなかった。
 渋るカルナにぐるりとドゥリーヨダナは振り返る。愛嬌のある顔がにかっと笑った。
「なぁに、おまえはただ着飾って舞台の上でわし様の教えた通りに叫べばいいのだ」
「欺瞞だな」
「欺瞞で結構。民草の心を安らかにするのも王族の務め。どうせすぐに雨季は終わる」
「悪辣だな」
「悪辣だとも。──こんな理由でもなければお前は着飾ったりせんからな」
 民草のためと言いながら自分の欲望を満たすことしか考えてないと言う男にカルナは手を伸ばした。頬に触れる。


■2025/04/03 No.578
ビマヨダ
「風はひとりで吹くものだ」

「ビーマさんの宝具を重ねた方がいいのかなぁ」
 マスターのぼやきにドゥリーヨダナの眉が跳ね上がった。我が物顔で占領していたマスターのベッドから起き上がりビーマセーナの宿敵は今の主の手元を覗き込む。案の定そのタブレットには高難易度クエストのリプライが再生されていた。
 1-1-1の敵編成。1、2waveは他のアタッカーでなんとかなるが。3waveに満を持しして登場したビーマは、毎回敵のHPを削りきれずオベロンのスキルのデメリットでなすすべもなく退去するのだ。
 ドゥリーヨダナの眉間にくっきりとしわが寄った。
「──おまえはもうちょっとマシな奴だと思っておったが。まさかユディシュティラより間抜けとは」
 罵倒される意味が分からず首を傾げたマスターからタブレットを取り上げ、ドゥリーヨダナは嫌そうに、心底嫌そうに編成を組み上げる。
「これでやってみろ」
「???Wコヤンは分かるけど、クリティカル礼装なんて意味ないし。そもそもアタッカーがビーマさんしかないよ」
「いいからやれ」
 言い切られてマスターは再び高難易度クエストにリトライする。いきなり変わった編成にビーマが不思議そうにしているが、仲が悪いドゥリーヨダナの発案だなんて言えるはずがなかった。そして戦闘が開始され──。


■2025/04/03 No.577
生前ジュナさんとシャラちゃん
「戦いはもう終わったのでしょう?」

※馬祀祭の話。ジュナさん、シャラちゃんより年下の可能性があるのでは?と思った

「尊き方に申し上げます」
 王族の挨拶ではなく恭順の礼を示した私に従兄弟は息を呑んだようだった。
 門の前で膝を付き、頭を下げた私に彼は──アルジュナは問いかける。
「誰に強要されたのですか?」
「いいえ」
 遠い故郷での戦争の結果はこの国にも伝わって来ている。兄達も夫も義父も、目の前のアルジュナ達に殺されたのだ。
 そうして今、慣例に従い彼らはこの国も手に入れようとしている。
 突然、視界が塞がった。私を強く抱きしめる温かい腕。
「お許しください!どうか、お許しください!!」
 命乞いの叫びは義母のものだった。
 もう私はクル国の王女ではなく、カウラヴァの生き残りでしかない。血を繫ぐ私はパーンダヴァにとって目障りな存在でしかないだろう。
 そんな私を差し出すどころか宮殿の奥に閉じ込めて、この国の人達は自分達で今のクル国を迎え撃とうとしたのだ。
 彼らの誤算は私が宮殿からの脱走に慣れていた事だろう。ろくでなしの兄が百人もいれば自然とお転婆になろうというものだ。
 私は優しい義母腕から従兄弟の顔を見あげる。彼は子供のような顔で立ちすくんでいた。私は微笑む。


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読んでくださってありがとうございます。
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