ガタガタとドアが鳴ったと思ったら、鍵の開く音の直後大きく開かれた扉の向こうからじんたろうが飛び込んできた。満開の笑顔で「ただいまあー!」と元気に挨拶をするのは構わないけれどまだ玄関の扉が開いたままだ。
おかえり、と返しながら玄関に向かい、腕を伸ばしてドアノブを掴む。と、何を勘違いしたのかじんたろうが僕のことをぎゅうっとキツく抱きしめた。扉をしっかり閉めてから僕もじんたろうを抱きしめ、とんとんと背中を叩いて「お疲れ様」と追加で伝える。
「おう! すっげー楽しかった!」
「あれだけのライブをこなして一言目に「楽しかった」が出てくるの、じんたろうらしいね」
「褒めてるか?」
「すっごく褒めてる。良いライブだったよ」
「へへっ、ありがとな! ていうか見てたのか!? 今日仕事だって言ってなかったか!?」
「うん、だから会場には行けなくて配信で見たんだ。レイとクックも一緒に見てたよ」
「おー! そうかそうか、やっぱりじんたろう様が一番かっこよかったか?」
「……」
「おい! そこは悩むなよ!」
「いや、悩んでるんじゃなくて、本当にじんたろうが一番かっこよかったんだ。どうやって褒めてやろうかと考えてて……」
「っ!? そ、そうかそうか! 丸眼鏡でも言葉が出てこないほどかっこよかった、と!」
「うん。すごくかっこよかった」
まっすぐにそう伝えるとじんたろうはパッと顔を赤くして、困ったように視線を彷徨わせてからもう一度僕のことをぎゅうっと抱きしめて肩口に顔を埋めて隠した。本当は言葉を尽くしてキミのことを褒めたいのに、単純な言葉の方がよく伝わるんだよな。そんなところだって愛おしいけど。
「じんたろう、打ち上げでごはんいっぱい食べてきた?」
「……おう。丸眼鏡は? もうメシ食った?」
「うん、ちゃんと食べたよ。ちょうどお風呂が沸いたところだから入ったら? 今日は疲れてるだろうしちゃんと湯船に浸かった方がいいと思う」
「お前も一緒?」
「え?」
「……風呂、一緒に入ろーっつってんの」
思わぬ誘いに返事を出来ずに固まっていると、じんたろうが顔を上げて僕の顔を覗き込んできた。ライブ終わりでテンションが上がったままなのだろうか。二人でお風呂なんて、一緒に暮らしてからどころか付き合ってから一度もない。インターナートでの生活の中で大浴場に同じタイミングで入ったことはあったけれど他の人もいたし、なによりあの時はまだ付き合ってなんかいなかった。なんとも思っていない男の裸なんて見ても、なんとも思うわけない。
「丸眼鏡?」
でも、今の僕とじんたろうは付き合っていて、そういうこともそこそこしてて、じんたろうの裸は今の僕にとってはなんとも思わないとは言えないようなものになってしまっている。きょとんとした顔で覗き込んでくるじんたろうは、それをちゃんと分かって言っているのだろうか。
「……今日は一人で入った方がいいんじゃない? 二人で入ったら狭いし、きっと疲れも取れないよ」
「……ふーん。じゃ、いいけど。寝ないで待ってろよ」
「どうして?」
「したいから」
「? なにを?」
「はあ? ……おまえ、イジワルで言ってるんじゃないよな?」
「え?」
「……えっち、したいから」
「!」
「だから寝ないで待ってろよ! すぐ出るから!」
恥ずかしさからか顔を赤くして吠えるようにそう言い、じんたろうはようやく玄関から上がってそのままお風呂場へと走って行った。一人玄関に残された僕はシャワーの音が聞こえ始めるまでそこから動くことができなかった。
「……ライブ後って、アドレナリンが出てるから興奮して寝付けないって言うもんね」
うんうんと一人で頷き、誰もいないのに赤くなった顔を誤魔化すように眼鏡を直す。ライブを見ていた時のように心臓がドキドキと激しく鳴っていた。
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