みずあめ
2025-06-01 00:05:22
2387文字
Public vsa
 

なごレオ

この二人のことなんもしらね〜〜!という気持ちで書いてますのでなんでも大丈夫な方だけどうぞ。

コトッと小さな音を立てて、目の前の机に紙カップが置かれた。そのカップから離れていく手を追って顔を上げれば、俺のことを優しく見つめるなごむと目が合う。
なごむはいつものように柔らかく微笑み「よかったらどうぞ」と言った。もう一度カップに視線を戻す。白いクリームからふわりと湯気が立っていた。
「カフェラテにしたけど、コーヒーの方がよかった?」
……いや、いい。さんきゅ」
「どういたしまして。ここ、座っていい?」
「ああ」
リハーサルが終わって、本番までの空いた時間。じんたろうやアグリは用意されたケータリングに飛び上がって喜び、さくやは二人が衣装を汚さないようにいつも通り世話を焼いていた。イッセイはふらっとどこかに散歩に行き、サクヤは控え室の隅で精神統一をしている。
俺は、鏡前でメイクを直した後、自分がいまいち落ち着けずに余裕がなくなっていることに気がついて、どうにか意識を変えられないかと一人で考えていたところだった。相変わらずこの男は人のことをよく見ている。
「レオンはお腹空いてない? ごはんだけじゃなくて甘いものもあるみたいだけど」
「いい。ライブ前はあんま食いたくねぇ」
「そう? お腹空いちゃわない?」
「ちょっとくらい空いてる方が体が動くだろ。朝はちゃんと食ってきてる」
「そっか、たしかに」
……おまえは好きに食ってこいよ。あいつらなんかがうまいとか騒いでただろ」
「さっきじんたろうに一口もらってきたよ。おいしいたこ焼きがあったみたいで、できたて熱々のやつもらっちゃった」
「ふん」
「レオン、本番までもうずっとここいる?」
「わかんねーけど。なんで」
「落ち着かないからちょっと体動かせないかなって。隣の控え室は大きい鏡があるみたいだからダンス合わせない?」
……これ、飲み終わったら」
「! うん、やった、ありがと」
にこっと笑うなごむから目を逸らす。バラバラに散らばっていた頭の中が、いつのまにかひとつにまとまっている気がした。
なんでもない会話も、落ち着かないと素直に溢すことも、あまりにいつも通りだから俺のためにやっているとは少しも思えなくても、コイツはそうやって自然に周りを気遣える人間だと知っているから、やっぱり俺のためなんだろうなと思う。俺がじっとしていて気が落ち着くタイプじゃないってこともコイツなら知っている。
飲み終わったカップをもらって二人分まとめてゴミ箱に捨て、廊下に出てケータリングのある方から聞こえる騒がしい声に笑うなごむと視線を交わし、俺たちは隣の控え室に移動した。扉を閉めれば外の音は遠ざかり、人のいない静かな空間にほっと息を吐く。
「とりあえずセトリ順に流そうかな。レオン、やりたい曲ある?」
「なんでもいい」
「オーケー。あ、この机だけ動かそっか。そっち持ってくれる?」
「ん」
鏡の前を広く開け、体から無駄な力を抜いて立つ。なごむはスマホを操作して曲をかけ、それを床の端の方に置いて俺から少し距離を取った位置に立った。曲に合わせ、カウントも無しに同時に体を動かす。頭の中に完璧に入っている振りを、七人並ばないと少し物足りないそれを、二人で踊った。全力でやるつもりなんてなかったのになごむがソロパートをしっかりと踊り切り鏡越しに俺に視線を寄越すから、煽られるままに俺も自分のパートを指先まできちんと意識して踊ってやった。楽しそうに笑うなごむに釣られて俺まで表情が緩んでしまう。
音楽アプリは曲同士の間を少しの時間も置かずに次々流すから、数曲踊った後になごむがスマホに駆け寄り音を止めた。あははっ、と笑ってしゃがみ、鏡を背にして俺に顔を向ける。
「ノンストップはキツいや。でも緊張してる余裕がなくなってちょうどいいかも」
「おまえが途中から本気でやり出すから」
「だって楽しくなっちゃって。レオンのダンスやっぱりかっこよくて好きだな。独り占めして、ファンの子に怒られちゃうかも」
「そんなの、お前の方だろ」
「おれ?」
「お前のダンスのファン、多いんじゃねーの」
……えへへ、そうかな」
ふにゃっと笑うなごむの方へ近付き、視線の高さを合わせるように俺も床に腰を下ろした。誰も使っていない控え室の床は綺麗で衣装が汚れる心配もない。
俺はスマホを持っているなごむの手を掴んで引き寄せた。バランスを崩したなごむは床に膝をつき、顔が近付いて丸く見開かれた目が俺を映す。
「レオン」
「ダメなら拒否れ」
二人きりの場所に誘われた時点で、こっちはお前に触りたくて仕方ねーんだよ。いつもよりゆっくりと顔を寄せて目を伏せたけれど目の前の男がそれを遮る気配はない。ふっと掠めるように触れただけで離れれば、なごむの手が俺の後頭部を優しく押さえた。離れたばかりの唇がむこうから重なり、一瞬で深く絡まる。剥き出しの二の腕をぎゅっと掴まれ心臓が跳ねた。
そっと唇が離れて、だけど呼吸が伝わる距離のまま鼻先がちょんとぶつかる。瞼を上げるとなごむが変な顔をして俺を見つめてた。
……んだよ」
「ライブ前なのに、こんなこと……
……それでライブに集中できなくなるんなら良くねーけど、おまえはちゃんとライブに向き合えるだろ」
「それは、……うん、そうだね。今なら良いパフォーマンスが出来そうな気がする」
……もっかい、する?」
「えっ。……え、っと、……でも、その、ダンスも合わせたい、し、…………もう一回だけいい?」
「ん」
ふにっと触れた唇の表面をなごむの舌が舐めた。やることやんだから、最初っからしたいって言えばいいのに。ぐだぐだ言って悩んでるなごむを見るのも案外嫌いじゃないけれど。
いつも通りの会話と、本気になれるダンスと、それから俺の心を溶かすキス。ライブ前の俺に必要なものは一人の時間じゃなくなごむだったみたいだ。