さゆき
2025-05-31 23:29:37
4515文字
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黄玉の視線

トパーズ視点のアベ星小話です。
「多ければ多いほど良いよね」って言ってる星ちゃんが、なんの変哲もないエディオンコインを「幸運の象徴」として持ち歩いてるのが刺さった時に書いたお話。
100万信用ポイントは階差宇宙説明PVから来てますが、本当にアレはなんだったんですかね?
あの印象が強すぎたのか、ここでは総監が入金マシーンと化しています

「そういえば、トパーズに聞きたいことがあったんだよね」
 星がそう切り出したのは、ランチのデザートが終わったタイミングだった。
 久しぶりのオフ、しかも給料日直後!一番テンションが上がる時に星から「ピアポイント近くの星に停泊してるから会いたいな」なんて可愛いお誘いまであって、この時は思わずカブにぐりぐりと頬擦りしてしまうくらいテンションが上がってしまった。
 せっかくなら普段行かないような、ちょっとリッチで見た目にも癒されるカフェで女子会したい!と選んだお店も大当たり。
 ご飯も美味しかったけど、デザートのミルフィーユはサクサクのパイ生地に程よい甘さのクリームが挟まって最高だった。
 隣にいるカブもペット用の専用ご飯をもらって、今はご機嫌そうにクッションで昼寝をしている。
 今日はゆっくり過ごせて最高だな、なんて思いながら星の方へ向くと、彼女は結構真剣な顔で私を見ていた。
「どうしたの、星?改まっちゃって。あ、カンパニーに入りたいならいつでも歓迎だよ?」
「そういうことじゃないんだけど……あのさ、アベンチュリンってちゃんと寝れてる?」
……は?」
 可愛い友達の口から、あんまり得意じゃない同僚の名前が出て思わず声が低くなってしまった。いけないいけない、交渉において自分のペースを乱すのは御法度……
「前にメッセージで『毎日違う悪夢を見てる』って言ってたから、ちょっと心配なんだよね。その割に『良い夢を見てね』ってパジャマ贈ってきて」
……へぇ~?」
 いや、これは冷静になれと言う方が難しい。あの、『あの』アベンチュリンが、よりにもよってあの男が、星に思わせぶりなメッセージやプレゼントを贈っているとは。
「特に不眠とは聞いてないけど……顔もメイクでクマとか隠せちゃうからなぁ。いつも通り、って感じだよ」
「そう……
「星、いつの間にアイツと仲良くなったの?騙されてない?もらったパジャマに発信機付いてなかった?」
「姫子とヴェルトに一応確認してもらったけど、普通のパジャマだった。……まあ、お値段は全然普通じゃなかったけど……
 これ、と星が見せてくれたのは上質なホライゾンシリーズのパジャマを着た星の写真。ピノコニーでも有数のトップブランドが集まるお店のパジャマだった。……そういえば、アベンチュリンも同じお店の商品を自分用で運んでもらっていた気がする。
「せっかくだからこの写真、アベンチュリンに送ろうかと思ったんだけど」
「それはやめなさい。女友達ならともかく男はダメ」
「なのにも同じこと言われた。似合ってないかな?」
「アイツを認めるようで悔しいけど、星にはぴったりだと思う。これ、オールシーズン快適なパジャマでしょ?旅の疲れも取れそうだし」
 そういう気遣いをスマートに入れられるようジェイドさんが徹底的に叩き込んだんだろうけど、それにしたって女の子にパジャマはどうなんだろうかと苦々しい気持ちになる。
……ねえ、星。アイツから変なメッセージとか送られて困ってないよね?同僚がセクハラとかしてたら流石に黙ってられないし……
「?特には……見る?姫子たちからも心配されてメッセージ見せたけど、特に変な顔はされなかったよ」
……やめとく。それはプライバシーの侵害になりそう」
 本音を言えば直接確認して、問題があればジェイドさんにも相談したいところだったけれど。姫子さんたちがOKしたのなら、問題ないってことだろう。
 星は「他にも贈ってきそうだから、パジャマだけにしたんだけど……他のも高そうで……」と遠慮していたけど、多分アイツはその候補も含めて全部先に買ってる。そのうち何か理由をつけて星にプレゼントするつもりだ。
「この間も、ピノコニーの飛行艇を譲渡されたお祝いにって沢山プレゼントをくれて……お礼を伝えたいなって思ったんだけど、上手く伝えられなくて」
「良いんじゃないの、貢がせておけば。良い女は黙っていても貢がれるものだよ~?ジェイドさんなんかまさにそう」
「何もしてないのにほぼ100万信用ポイント送られてみなよ、むしろ怖い……
「え、それは引く……アイツなにやってんの……
 振り込み限度額上限値まで振り込まれた信用ポイントは姫子さんの管理の元、星穹列車の「アベンチュリンさんからの預かり金」として手付かずで保管しているらしい。さすが姫子さん。
「まあ、その……アベンチュリンの気持ちは有難いんだけど……それなら自分に有効活用してほしいというか」
「それ、直接本人に言ったら?」
「言ったら『君は優しいね、それじゃあ君に信用ポイントを贈るよ。君の旅の役に立てるなら、それが一番の有効活用だ!』ってまた信用ポイントが積み立てられた」
……なんか、ごめんね……
 同僚の奇行に頭を抱えてしまう。アイツはことあるごとに自分の信用ポイントを取引相手に渡すやり方を良くするけど、これは度を越している……
 星も呆れているだろうと顔色を伺うと、彼女はポケットからコインを取り出した。
 夢境で見かけるエディオンコイン。金色のものは限定品だった気がする。
「アベンチュリンは今まで沢山くれたけど、一番嬉しかったのは……これかも」
「エディオンコインが?……ラッキーナンバーでも刻印されてるの?」
「これはアベンチュリンが7回ルーレットで大当たりを出した時のコインなんだって。持ってると、なんだか良いことがありそうな気がする」
 一緒に贈られた星穹列車のミニチュア模型も嬉しかったし気に入っているけれど、と星はコインを握りしめる。
……側から見たら、ただのコインだけど。私にとっては『幸運の象徴』なんだ」
 どんなにお金を払っても手に入らない、そもそも価値なんてあるかもわからないもの。
 高価なプレゼントやお金を与え続けてきた人間が唯一贈った、『気持ち』のプレゼント。
 それが一番嬉しかったけれど、上手く伝えられなくて困っている、と星は真面目な顔で眉を下げた。
……不器用同士かぁ」
 聞いている私としては、なんだか甘酸っぱいようなむずがゆいような、同僚の意外なエピソードを連ねられて居た堪れないというか。
 はあ、と深いため息をついて紅茶を煽る。何の甘みもないお茶が今は有難い、そんな気持ちだ。
……星、アベンチュリンに困らされたら私に言いなね。同僚としてしっかり釘を刺しておくから」
「?うん、わかった」
 
***

「アベンチュリン総監、これ」
 会議が終わり、昼休憩に入ったところで私はアベンチュリンに紙袋を手渡した。午後は互いに別のセクションへ行くから、渡すタイミングはここしかない。周りが珍しげに眺めていたのはこの際無視する……私の昼休憩の時間が惜しい。
「おや、君からのプレゼントなんて珍しいね!明日にでも世界が終わるのかな?」
「残念だけど私からじゃないし、そんなことで終わる世界なんてありません。いらないなら返してくるけど?」
……誰からなんだい?」
 あからさまに警戒した態度に、口角が上がりそうになる。この男がカンパニーの社員から陰に日向に狙われているのを私は当然知っているからだ。
 けれど、その心配は杞憂だ。幹部である私から手渡される時点でこれは「そんな心配をする必要なんてないもの」なのに。
 ……まあ、らしくないことをしている自覚は私もあるけれど。
「私たちの大切な友人から。『いつもありがとう』ですって」
……まさか」
「大事なオフの大半が、君へのプレゼント探しで終わるなんてね。ま、銀河中を駆け回る彼女を丸一日独占出来たんだから良しとするわ」
 夜まで一緒に色んなところを見て、ついでに私や彼女の買い物も出来た。星と楽しい時間を過ごした私が一番のご褒美を貰ったと言えるだろう。
……すごく時間をかけて、色々考えて選んでた。最後の最後は二択で悩んで、コイントスで決めてたけど」
「コイントスで?」
「君から貰った、エディオンコインでね」
 その言葉に、アベンチュリンは一瞬呆然として……次の瞬間、私は世にも珍しいものを見ることになる。
「そっか……そう、なんだ……
 カンパニーの高級幹部でも、派手なギャンブラーでも何でもない、普通の青年みたいな表情。いつもこうしていれば胡散臭さも減るのに。
「星ちゃんが僕を想って、休日まで使ってくれたなんて嬉しいなぁ。カンパニーに入社したらきっと僕のところに来てくれるに違いないね!」
「は?星は私のところに来るに決まってるでしょ。寝言は寝てから言ってもらえますか、アベンチュリン総監?」
 一瞬で元に戻ったアベンチュリンに悪態を吐くけど、彼は上機嫌で私の話なんて上の空だ。仕事を終えたらすぐにでも帰宅して、星からのプレゼントを開けるんだろう。いや、昼休みの時点でもう開けてしまうのかもしれない。
……ま、いっか。行こうカブ」
 鼻歌でも歌い出しそうな彼を放って、カブと会議室を出る。後で星に「渡したよ」って連絡しておかないと……
 と思っていたところで、星からメッセージが来た。
『今、アベンチュリンから大量にプレゼントと信用ポイントが贈られてきてる……お願いトパーズ、止めて……
……うっわ……
 中身をまだ見てないのにコレなら、開けたらどうなるんだろう。星穹列車が彼からのプレゼントで埋まってしまうかもしれない。
 そっと会議室の扉を再び開くと、アベンチュリンは機嫌良くどこかに電話をかけているところだった。
「もしもし、ああ僕だけど。星穹列車宛に今すぐ手配してもらいたいものがあってね」
……ストップ!その電話一旦切って!」
 それからしばらく星穹列車は飛空艇も含め手紙以外の配達物を受け付けない特別措置を行い、星のメッセージアカウントは金銭の授受を一切行えないチャイルドロックがかけられることになる。
『アベンチュリン、手紙に信用ポイント貼って送ってくるのやめて』
「君のアカウントに送金できないんだから、こうするしかないだろう?……まあ、これだと端金しか送れないから僕も不満なんだけど」
『私のアカウントはあんたの預金通帳じゃないんだけど……
「ああ、その手があったか!僕の口座を君の名義にすれば良いんだね。じゃあ今度、一緒に名義変更しに行こうか、星ちゃん」
『絶対に嫌』
 そんなビデオ通話をカンパニーのラウンジでしているものだから、ここ最近カンパニーでは「アベンチュリン総監がナナシビトに全力で貢いでいる」という噂で持ちきりだ。まあ、噂も何もそのままなんだけど。
……デートしたいなら、私みたいに普通に誘えばいいのに」
「ブヒ?」
「ねー、カブ。カブもそう思うよね」
 楽しそうに星と話すアベンチュリンを横目に、私はカブと一緒にラウンジを出る。
 どこか普通ではない二人のちぐはぐな友人関係は、側から見ていると危なっかしくて仕方ないけれど……
「まあ、楽しそうだしいいか」
 ため息と共にそう呟くと、カブも「そうだね」と頷くように「ブヒ!」と答えてくれた。