きなこ湯
2025-05-31 22:43:12
1231文字
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素晴らしきドライブデート

破天荒な展開に巻き込まれる任務中のベネッタと候補生の話。
候補生が使用しているハンドガンはブローニング・ハイパワーです。


「ああ、どうしようこれ……
「フ、何度目の嘆きだ? マエストロ」
「一体誰のせいだと」

 天を仰ぐ。憎らしいほど晴れた夜空には明るい星の光が眩しく輝いていた。星の光がよく見えるのは都市部から離れた高速道路を走っているからで、私たちの乗る車が洒落たオープンカーだからだ。もちろん、私たちの所有するものではない。

「そう悲観的にならないでくれ。せっかくのドライブデートが台無しじゃないか」
「ドライブデート?」
「違うか?」
「どこからどう見ても違うと思う」
「そうか。まあ、あなたがそう言うなら、そうなんだろう」

 残念だ、とどこか他人事のように呟いて、ベネッタは片手に挟んだ煙草を吸った。当然のようにハンドルは片手で、煙草をふかしながら運転する仕草が驚くほど様になる。よく手入れされた上質なコートは埃を被り、ところどころ焦げて破けた跡が残っているが、乱れた青い髪すら風格を醸し出していた。
 助手席に座る私も同じような汚れ具合だが、どうしてこうも差が出るのか。ベネッタが仕事終わりのマフィアらしい雰囲気があるのに対し、私は夜明けを待ちながら狙撃態勢をとる戦場の兵士そのものだ。もっとも、私の手元にあるのはUL96A1ではなくM1935だけれど。
 任務の目的はあくまで偵察だった。それゆえベネッタとふたりで行動していたのだが、なぜかトルレ・シャフと地元ギャングの構成員が出入りするクラブに直接乗り込む羽目になり、案の定銃撃戦へ発展して、挙句の果てには彼らの車をひとつ奪って逃走している。
 その場の判断一つひとつには仕方がなかった部分があるかもしれない。偵察段階では決定的な情報に欠けていたし、クラブへの潜入は主にベネッタの言いくるめで問題なくパスできた。銃撃戦とは言うが、違法地下クラブは出入りする人間の誰しもが何かしらの法を違反しているような場所だ。負傷は逃亡の際に少し手首を切った程度で、怪我らしい怪我もしていない。車を奪って逃げたのは、証拠品のトランクケースを入手したからで……

「これが始末書で済んだなら奇跡だよ」
「Va bene! ならその奇跡を祈ろうじゃないか、マエストロ。生きて帰ることを欠片も疑っていないとは、さすがあなただ」

 ベネッタがアクセルを踏み込む。頬に当たる風の勢いが増した。郊外の高速道路を走る車の影は私たちの他になく、ここなら地元住民を巻き込むこともなさそうだ。

「さて。準備はどうだ?」
「再装填、OK」
「頼もしい」

 バックミラーで後ろを伺う。逃げた程度で許してくれる相手なら、最初からこんなことにはなっていないだろう。
 ベネッタは運転から手が離せない。迎撃するなら私の役目だ。視界はずいぶん悪いが――目視できるタイヤのひとつやふたつくらい、当ててみせよう。

「あなたとふたりきり、最高のデートじゃないか!」

 ベネッタが高らかに笑う。私は深く息を吸い込んで、M1935の安全装置を外した。