fedge
2025-05-31 20:30:28
3113文字
Public カピオロ
 

眠り姫

0531ワンライの産物。眠り姫を起こそうとするオロルンの話※カピオロです

「ほら、ばあちゃん、もうすぐ家だ」
「なぁにがあらたなきりくちよぉ、あのながれだったらハッピーエンドでしょうよ!!」

草臥の家で潰れてしまいくだを巻いているシトラリを抱え、オロルンは祖母の家へと連れ帰っていた。

「うっぷ」
「ばあちゃん、頼むから背中で吐かないでくれ」
「これがダマってられるかってのよ!こっちはずっとツヅキを楽しみにしてたっていうのに!」

どうやら読んでいた物語の結末が相当に気に食わなかったらしい。何時にも増して酔っている祖母がつらつらと文句を言っている。

「眠り姫はねぇ!王子サマのキスで起きるってソウバが決まってるのよぉ!!」

ひときわ大きくそう叫ぶと、くたりと力が抜けて背中ですぅすぅと寝息を立て始めた。丁度彼女の家にたどり着いたオロルンはシトラリを背負ったまま、慣れた手つき、もとい足つきで器用に扉を開ける。寝室に祖母を降ろして、用が済んだのだからとさっさと家を後にした。

……眠り姫か」

玉座で眠っている彼の姿を思い起こし、オロルンは北方の空を眺めた。

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「僕は君の王子様と成りえるだろうか」

姫と呼ぶには少々どころではなく無理のある逞しい躰の前で、オロルンは独り言ちていた。玉座に座する隊長は変わらず何も言わず、ただ呼吸をするのみだ。

……王子様、って、いったいどうやってなるんだ?」

独り言から質問が派生したオロルンは、新たに生まれた疑問に思考を移す。

「そもそも王政を敷いている国があっただろうか。運よくそこの子供になれたとしても、血筋を引いていなければ王子にはなれないだろう」

自身の出自が解らないから、もしかしたら、本当にごくわずかな可能性で、どこか名も知らぬ王族の血がこの身に流れているかもしれない。

「ものは試しだ」

オロルンは座している隊長の唇にそっと触れるように口付けたが、言わずもがな、何も起こらなかった。

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「王子様になる方法?」
「ああ。旅人のじいちゃんなら、何か知っているんじゃないかと思って」

各地を旅して色々なことを知っている旅人であれば、もしかしたら知っているかもしれない。その淡い期待を込めてオロルンは旅人に問いかけたが、その問いを受けた旅人の顔は、一瞬曇ったような気がした。

……どこかの国の王位継承権を得られればなれると思うよ。オロルンは王子様になりたいの?」
「ああ。試したいことがあって、どうしても『王子様』になりたいんだ」
「と言っても、テイワットの国々は神様によって治められているし……そうだ」

また何か妙なことを考えているなと察した空は、矛先を変えてオロルンに提案した。

「オロルンは雷の神の目を持っていたよね?とある人から聞いたことがあるんだけど、『神の目の所有者はみんな、神になる資格を持っている』んだそうだよ。それを継承権があるとみなせば、実質『王子様』なんじゃないかな」
「さすが旅人のじいちゃんだ、なんでも知っているんだな!」

目をキラキラとさせたオロルンに若干の罪悪感を抱えながら、旅人は用事があるからと去っていった。オロルンは別れたその足で、再びオシカ・ナタへと向かう。

……というわけらしいんだ。その理論なら、僕も『王子様』だと言えるらしい」

オロルンは座している隊長の唇にそっと触れるように口付けたが、当然のように、何も起こらなかった。

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「なあイファ、王子様じゃ駄目だった時ってどうしたらいいと思う?」
「はぁ?何だ、また妙なことを考えてるのか?」

花翼の集のイファの診療所で、たくさんの仔竜を相手にしているイファに、オロルンはのんびりと訪ねた。今日は健康診断だ。

「んなもん、今度はお姫様にしたらいいんじゃないか。何のことだがさっぱりわからんが。おーい、そっちに行っちゃだめだ!じっとしていてくれー、カクーク、あの子をこっちに呼び寄せてくれないか」
「わかった、きょうだい!」

列を外れてふらふらと歩き出しているイクトミ仔竜を連れ戻してもらいながら、イファは話半分で質問に答えた。

「オロルン、暇なら手伝ってくれないか。今日は大忙しなんだ」
「すまない、イファ。僕はこれから用事があるんだ」

回答を貰えたオロルンは、いそいそと支度をしてシトラリの家へと向かった。

「ばあちゃん、居るか?」
「居るわよ。どうしたのよ、突然くるなんて」
「ちょっと相談があるんだ、前にばあちゃんが買ってサイズが合わなかったと言っていた服があっただろう、あれを貸してほしい」
「あー、サイズ間違ってかなり大きいやつを買っちゃったヤツね。別にイラナイからあげるけど、ナニに使うの?」
「知り合いが、急に礼装が必要になったらしくて探しているんだ。だから、借りたい」

シトラリからだいぶ訝し気な目でじぃと見つめられるが、オロルンは努めて平静を装った。

「どうやらホンキのようね……まあ、どうせタンスのコヤシになってるだけだし、ジャマだから貰ってっていいわよ。その人にあげてちょーだい」
「ありがとう、ばあちゃん。今度お礼に野菜をもってくる」

シトラリからドレスを借り受け、オロルンはその足で、三度オシカ・ナタへと向かった。

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隊長は悩んでいた。
というより、悶々としていた。
度々オロルンがオシカ・ナタの玉座へとやってきて奇行を行うことにはもう慣れてしまっていたが、ここ数日の彼の行動の意図を測りかねていた。
一日おきにやってきては、そっと口づけだけをして去っていくのだ。口づけた後にじっと隊長を見つめ、顔を覗き込み、しゅんと哀しそうな顔をして去っていく。それがもう二度も行われていた。
王子様がどうのこうのと言っていた気がするが、一体何を考えているのだろうか。

そうこうしていると、また今日もオロルンの気配が玉座へと近寄ってくる。今日は何をするつもりかと見やると、なにやらいつもと格好が違った。

「王子様が駄目なら、お姫様ならいけるんじゃないかと思って着てみた。似合うだろうか?」

ティアラの代わりだろうか、白い花で編まれた冠を被った蝙蝠耳の無邪気な青年が、そこに居た。宵闇色のドレスを身に纏い、くるくると回って見せてくる。
可愛いか可愛くないかで言えば可愛いが、どうしてそのような恰好をしているのだ。
くるくると回りすぎて少し目が回ったのか、よろりと倒れかけてなんとか体勢を立て直す。
そしてここ数日繰り返しているように、座している隊長の唇をそっと奪っていく。
柔らかい感触がそっと離れ、また同じように顔を覗き込み、変わりないことを確認すると眉を寄せて少し寂しそうにする。

「やっぱりだめか。隊長は『眠り姫』じゃないもんな。『眠り騎士』か?いやなんかそれも違うな……

よからぬ事を考えていたことは確かだったようだ。諦めたのか、残念そうな顔をして玉座を去っていった。
このどうしようもなく悶々とした気持ちを残して行かれたのは少々辛いなと、オロルンが去ったあとの灰色の空を、隊長は心が鎮まるまでただただ眺めた。

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「イファ!お姫様も駄目だったぞ!」
「なんのことだ……ってお前、何て格好してんだ!?」

玉座から帰ったその足でイファの診療所を訪れたオロルンは抗議の声を上げたが、イファにとってはなんのことだかさっぱり解らない。困惑したまま、健康診断を終えて疲れ切った竜医は理不尽な蝙蝠の怒りを受けることとなった。