Maisie_Lyju
2025-05-31 15:24:40
6460文字
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異世界転生ヒカセンは逆ハーを目指さない⑤

乙女ゲームの世界に転生しちゃった光の戦士(脳筋ララフェル)は逆ハーなんて興味ないので全力でアゼム(悪役令嬢)とエメトセルク(王子ってか魔王)をくっつけます!

4:光の戦士、バウムクーヘンを所望する(逆ハー絶対阻止!)

 
 所詮人とは、「世界」というおおいなる舞台で踊らされているにすぎないというのか……
 私は自身の腿に肘をついて手を組み合わせ、そこに目を伏せて項垂れた。
 こうやって、別の世界の記憶があればその違和感に気付くが、そうでなければきっと知らずに踊り続けるのだろう。元の世界だってそうだったのかもしれない。私は英雄という役を振り当てられていたにすぎないのかもしれない……
 くそーーーー! 神(世界の開発者)め!!
 ……
 ……………
 あ、でも。
 まぁ、別にそれでもいいか。
 役だったとしてもあたしは真っ当に努力、根性、そして友情でそれをこなしてきた。いつだって舞台を降りられたし、世界を救わないでいることだってできた。ここまで進んで来たのは、確かに「私自身」。それは揺るぎない事実なんだし。
 そして、それはこの世界でも変わらない。
 舞台に上がった以上、全力で公演するのが私ってもんよ!
 ぱっと顔を上げ泡ヒュを見る。
「BAD ENDが退学だとして、HAPPY ENDはなんだと思う?」
 泡ヒュからしたら驚いたり落ち込んだりしていた私の言葉は唐突だったのだろう、疑問符の浮かぶ顔をしているけれど、質問には的確に答えてくれる。
「んー、卒業かな。 アナイダ・アカデミアは順当に年次が上がって卒業というわけではないからね。卒業できないまま在学可能年数を超えてしまって退学、もしくはそのギリギリ手前で自主退学というのはよくある話だ」
「ま、そうなるよね。おけ。全力で卒業してやろうじゃないの!」
 私は筋肉をほぐすように腕をぐるぐると回した。
「まぁ……
 意気揚々とした私を泡ヒュはそう言ってじっと覗き込むように見る。
「きみの場合、とくに何もしなくても卒業できそうだけどね」
「あ、すでに出来上がっちゃってる感じ?」
 無双する為に筋トレしすぎたか。
「うん。きみは光魔法の才がずば抜けているようだから、それだけで学位は堅いね」
 筋トレの成果じゃないんかい!
「制御できなくて焦げつかすんだけど?」
「制御できていないんじゃなくて、出力が強すぎるんだよ」
「いや、まぁ何事も全力投球が身上で……
 心当たりがありすぎてツラい。
 試しにちょっと、指先でちょこんとシャインを撃ってみる。
 ビカッとその場に雷のような光が出現する。
「わぁあ!!」
 泡ヒュが目を覆って悲鳴を上げるので、慌てて消した。
「す、すごい輝度だったけど……
「だいぶ抑えた」
「うん、ありがとう。そりゃ普通に撃ったら焦げるよ……。とにかく……きみはとくに何か努力しなくても、卒業できるから安心して」
 泡ヒュはなんだか宥めるように言う。
「なんかそれ……、HAPPY ENDじゃなくない?」
「そうなのかい?」
「むしろNORMAL ENDだよそれ」
「だめなの?」
「ダメじゃないけど……
 面白くない。
 むくれていると、泡ヒュがハッとした顔をした。
「いや、待って卒業がHAPPY ENDでないと仮定すると、退学もBAD ENDではないということになる」
 私もハッとする。
「確かに……
「何より……ここときみの元いた世界が本当に並行なら……世界は、十四分割でないとしたって何かしら破滅に向かっているはずなんだ」
「BAD END……楽園ではなく……学園の終焉……
「ちなみに、学園が崩壊したら世界も危機だよ」
 泡ヒュは真面目な顔でサラリと怖いことを言った。
「な、なんで?!」
「オリヴィア・ブライトは首都から遠い場所に暮らしていたから知らないんだね。確かに十四人委員会は、この学園、アナイダ・アカデミアの自治組織だ。学園に籍を置く教師と生徒から選ばれた十四名がそれぞれ座につき、学園の全権を握っている。入退学の是非とかもね。だけど、十四人委員会の最も大事な役割は『学園の』運営じゃない。この学園は星の最高学府だ。星じゅうから選抜された超優秀な生徒たちと、それを導くその分野の最も権威ある教師が在籍している。だからカピトル議事堂は『星の』運営指針の策定に、十四人委員会の意見を仰ぐんだ。つまり十四人委員会の最も重要な役割は、カピトル議事堂のシンクタンクであることなんだよ。ただ、シンクタンクと言っても、カピトル議事堂が十四人委員会の提言を反故にすることは決してない」
 相変わらずの口を挟む間もない長台詞で、泡ヒュは私の知らない世界設定を教えてくれる。
「てことは実質、十四人委員会こそが星の運営指針を決定している、と」
「そういうことだね」
 それでエメトセルク達と他の生徒があの距離感だったわけか。なるほど……
 なる……ほど。
 ……ということは、私の元いた世界と、じつはそんなに実態は変わらない……世界が並行、いや平行的に進んでいくなら……
「あかん……このままでは十四人委員会は闇堕ちする……
「闇堕ち?」
 私の絶望の表情とは対照的に、泡ヒュはきょとんとした顔をしている。闇堕ちの恐ろしさを知らないばかりに!
 私はガシリと泡ヒュの両肩を掴んで、そのきょとん顔を真摯に見つめる。
「そうだよ! 十四人委員会はアシエンっていう闇の力に寄った存在になってしまう。そして闇堕ち、それは大抵人や世界を滅ぼす道を選ぶんだ!」
 黒い法衣を纏い、世界を蹂躙せんと暗躍する……それがアシエン。
「まさか! 十四人委員会が世界を滅ぼすなんてあり得ないよ!」
 泡ヒュは信じたくないというように首を振った。
「それが起こるのが闇堕ちなんだよ! 実際私は闇堕ちした彼らと戦ってきたんだ! 確かに世界を十四分割したのはヴェーネスだけど、その前に、彼らは命で命を贖う禁忌に手を出した……それが闇堕ちのはじまりだった……
「そんな……十四人委員会が……
 泡ヒュは顔を覆って俯く。
 私もその隣で力なく項垂れた。
 BAD ENDは、結局この世界でも、楽園の終焉ということだ……
 ということは、HAPPY ENDはそれを防ぐということになるわけだが……、古代の死生観がない以上、闇堕ちメーティオンは生まれないはず……
 ……
「なるほど、ハハ、そういうわけか……
 私の乾いた笑いを伴った呟きに、泡ヒュは不安そうな目を上げる。その目を、無情に見返す。
「私が制御不能なほど莫大な光魔法なんてチート能力を付与されてるのはその為なんだ……
 エオルゼアには光魔法なんてない。これだけはオリヴィア・ブライトに付与された能力だ。
「チート能力……?」
「そう、異世界転生というとんでもない運命と引き換えに付与される力、それがチート能力。それにね、私は知ってるんだ。この光は、闇堕ちエメトセルクも、倒せてしまうんだ」
 ノルブランドから夜を消し去るほどの光を溜め込んだ私は、最古にして最強の魔道士エメトセルクを倒した。まぁ、全力でぶつかったせいで、光と闇が相殺されてしまって、最後は筋力の勝負だったから勝てたのだけど……。あのエメトセルクの転身体は、魔法を使うことに特化しすぎていて、筋肉なんてなかった。私の渾身の投擲はそうしてエメトセルクを貫いた……
「いや、いくら光魔法でも無理だよ! エメトセルクは冥王の異名をとるほどの当代一の魔道士だよ?!」
「冥王……。やはりエメトセルクが魔王ポジ……なるほど。相手にとって不足ないな」
 納得する私に泡ヒュは慌てる。
「ダメだって! さっきも言ったけど、十四人委員会が崩壊したら世界も危機なんだって!」
「でも、闇堕ちしてたら仕方ないだろう……? それにエメトセルクを倒したって、代わりはいる……。ヒュトロダエウスだ……
「ヒカリ……きみ……
 泡ヒュは信じられないものを見る目でこちらを見て、身を引く。
 ドン引きというやつだ。
……というのが、たぶん、ヒュトロダエウス END……
……ヒュトロダエウス END?」
 私は重々しく頷いて腕を組んだ。
「そう、HAPPY ENDには複数パターンがあるのが世の常だ。幸せの定義なんて人それぞれだしね。どれをHAPPY ENDにするかは、個人に委ねられている……
「う、うん、まぁ、そうだね」
「おそらく、ヒュトロダエウス END以外にも、エメトセルクEND、エリディブス END、アゼムとの親友ENDなんかもあるかもしれない。だけど……
「だけど?」
「たぶん、私にこのチート能力がある以上、どのルートでも必ず誰かが闇堕ちして魔王になる」
 私の言葉に泡ヒュは肩を怒らせる。
「そんなの結局BAD ENDと変わりないじゃないか!」
「そうだよ! そうなんだよ……! でも、そうなってるんだよ!」
 私は頭を抱えて叫んだ。思いの外悲痛に響いた声で。
 泡ヒュの怒っていた肩から力が抜けていく。
「なんで……どうして……
 泡ヒュの力無い呟きを受け止めながら、私は細く長く息を吐いた。
 そして、姿勢をただす。
「それは……別のENDを目指させる為だ……
 私の言葉に、泡ヒュは不安そうではあるものの、顔を上げる。
「BAD ENDでもない、HAPPY ENDでもないENDがあるってこと?」
「ああ……。世界にはまだ、TRUE ENDというものがある……
 低い声で言ったのに、泡ヒュの目はきらりと輝く。
「それを早く言いなよ! で? そのTRUE ENDっていうのはどんな ENDなんだい?」
 泡ヒュの目はキラキラしているが、対する私は苦虫を噛み潰す心地だ。きっとエメトセルクばりの眉間の皺ができているに違いない。
「く……大概の場合、それは……
「それは?」
「ぎゃ…………
「逆?」
「逆ハーと呼ばれる……
 苦しげに絞り出した私に、泡ヒュは首を傾げる。
「逆ハーって?」
……逆ハーレム状態になるということだ」
「なるほど」
 泡ヒュは至極冷静な顔で頷く。
「納得するな! こんな ENDが許されていいのか?! 逆ハーだぞ?! 倫理観あんのか?! 人道はどうした! 性欲オバケか?! そんなことになったら子の父親特定できんだろうが!! それでなくとも、どう考えても一触即発、爆発寸前、胃痛の極み、頭痛のタネにしかならない! つまり逆ハーとは、ヒロインの胃を犠牲にして成り立つ、もはや病みEND! 体が資本の私にとってそれは、メリバ、メリーバッドエンド以外の何物でもない!!」
 捲し立ててぜいぜいと息をする私に、泡ヒュはまぁまぁと宥める。
「世界の終わりよりよくない?」
「く……男の子め……!」
 ハーレムは男の夢というのはこの世界でも同じなのか!
「いやまぁ、それは冗談だけど、別にハーレム状態でもさ、きみがしっかりしていれば、ね?」
 泡ヒュは小首を傾げて優しげに言う。
「はぁーーー? 無理に決まってるだろ! 私がエルピスで抱いた感想を教えてやろうか? イケパラ、イケメンパラダイスなんだがーーー? そのイケメンたちに好意向けられて、抗えるわけないだろが!!」
 小首を傾げた泡ヒュよりもさらに深く首を傾げて泡ヒュを睨め付ける。
「わかった、わかったよ。落ち着いて。うん、逆ハーはダメってことだね。いい案だと思うんだけどなぁ……TRUE END」
 泡ヒュは肩をすくめて言う。その声音はまだ逆ハーに未練有り有りだ。
「ダメオブダメ。ナシよりのナシ。たぶん、むしろ逆ハーみたいな危うい状態になったら、針の一突きで世界終わるね」
 私は強く言った。
「まぁ、確かにねぇ。闇堕ちよりもそっちの方が十四人委員会崩壊としては有り得るか……
「あ……
 その時、私は筋トレで頭空っぽにしたせいで忘れていた重要事実を思い出して青ざめた。
「どうしたんだい?」
「逆ハーはマジでダメだ。その場合、アゼムが断罪されて追放される」
 アゼムは、縦ロールなのだ!!!
「ええ?! なんでそうなるの?!」
 やっぱり逆ハーに未練たらたらだったらしい泡ヒュは戦慄している。
「知らんけど、そうなるんだよ! 逆ハーと、あとメイン攻略対象の ENDを迎えるとアゼムは追放される……。アゼム、婚約者とかいない?」
「婚約者なんていないけど……あ、でも、初等科の頃にエメトセルクをかばってアゼムが怪我をして、幼いハーデスは責任を取るって……
「それだーーーー!」
 恋愛抜きで幼い時代に婚約が成立するやつ!
「ええー。もうじゃあ、いったいどうしたらいいんだい? HAPPY ENDもTRUE ENDもダメだなんて……うーん、なんとか全てが丸くおさまる方法はないかな……
 泡ヒュは悩ましげな声で言った。
「丸く……
 その時、私の脳裏に円形のお菓子が浮かんだ。
「バウム……クーヘン……
「ばうむくーへん?」
「あ、うん。私も食べたことはないんだけど、アラガントームストーン同人で、読んだことがあるんだ……。そんな名の焼き菓子をもらうのを……
「それが、何か関係あるのかい?」
「バウムクーヘンをもらうのは、エタバン……結婚式のお土産としてなんだ。大好きな人が別の人と結婚して、でも、大好きだからこそその結婚を祝福するんだ。そして結婚式のあと、その焼き菓子を食べるんだよ。とても、甘いそうだ」
「え。聞く限りめっちゃ苦そうだけど……
 今の説明のどこに苦味があったのかわからないけど、泡ヒュは眉をひそめる。
「? とにかく、それを食べるのが、その名の通り、バウムクーヘン ENDだ。好きな人が幸せになるのを見届ける。という END。これってさ、めちゃ丸くおさまってない?」
「そ……そうかな……。結婚した方はそうかもだけど……置いてかれたほうは……いや、本人も祝福してるのなら……いや、でも、うん……
 泡ヒュはモゴモゴ言っているけど、私はすくりと立ち上がり、ジャンプするように片足を少し前に出し、両手を腰に当てた。ララフェル時代によくやった待機ポーズだ。この体じゃ可愛さ8割減だろうが。
 そして、
「私は決めたぞ泡ヒュ。私はバウムクーヘンを食べる!!」
 そう宣言した。
 泡ヒュは戸惑ったような顔をする。
「え、と、つまり、誰かと誰かを結婚させるってこと?」
「チ、チ、チ」
 私は立てた指を振った。
「私はエオルゼアにその人ありと言われた光の戦士。エオルゼアの英雄にして千年戦争に終止符を打ちし者。紅蓮の解放者にして闇の戦士。その正体は世界を救いし暁の英雄! その私がバウムクーヘンを食べると言えば、どういうことか、わかるだろう?」
「え。わ、わからないよ」
 泡ヒュの顔には困惑しか浮かんでいない。
「食べるんだ。まるごと全部ね。」
「全部」
「そう、逆ハーの逆。」
「逆ハーの逆」
「全バウムクーヘン ENDだ!!!」
 泡ヒュはしばし停止する。思考停止か?
 と思ったが違った。やがて泡ヒュは目を見開く。私はその頭上にビックリマークを幻視した。
「なるほど! BADENDはもちろん、HAPPY ENDやTRUEENDも目指さない。つまり世界を出し抜くということだね!」
 私は大きく頷いた。
「察しが良過ぎるよ。泡ヒュ。そういうことだ」
 私たちは得た解にがしりと強く握手して頷き合う。
「全力で協力するよ」
「ああ。きみがいなければ成せない偉業だ。世界終わらせないし、誰かを魔王にもしない。アゼムを追放しないし……
 そう言って、私は一呼吸ついて、天を見据えた。いや、世界を。
「私は、二度と、絶対に、エメトセルクを殺さない」
 もちろんラハブレアも、イゲオルムも、ナプリアレスも、ミトロンも、エリディブスも。
 みんなで楽しく学園ライフを送る。それが私の「絶・アナイダアカデミア」だ!