wawan78
2025-05-29 20:23:56
1980文字
Public
 
1425485

送り火蝶々

スクリックさんと主人公。 全ルートコンプ後推奨。

先生
 たすけてください、たすけてください、かみさまどうか、どうかどうか

 細く弱く儚い声が縋りついてくる。かわいそうで仕方がなくて、手を差し伸べたら喜ぶものだから、それで嬉しくなって次へ次へと声を助けて救って回って、そうしたら重たくなって動けなくなった。
 動けないのに、もう差し伸べられる手は埋まっているのに、それでも声は止まらない。たすけてください、たすけてください、その声は段々怒りを含んだ。どうしてたすけてくれないんですか、かみさまでしょう、かみさま、かみさま、

「ごめんね」

 ごめんね、ごめんね、かみさまなのに、なのにわたしは救えない。どうしたらいいの、どうしたらいいの、だれか、
 そこまで言おうとして飲み込んだ。わたしはかみさまなのだ。かみさまは「たすけて」なんて言えない。だって、だれもたすけてくれないから。声に潰されて苦しくても、動けなくなっても、誰も助けてくれなくても、かみさまは、かみさまだから、

 そうしていたら突然青い炎が周りを焼き尽くした。

 声は小さく小さく灰になって、あたりを漂うだけになる。まだなにか言っているけれど、何を言っているかは聞こえない。

「これはこれはお客様、このような素敵な星空の夜に、暗い顔をしてどうなさったのかな?」

 気がつくと真っ暗な空間は夜の空になっていて、瞬きの星がちかちかと揺れていた。星の下で青い炎は人の形をしていて、眩しく輝いている。
 スクリックだった。6代目が肩にいない、どこに行ったのだろう。スクリックはステッキを持って、大げさにポーズを取っていたが、さっと腕を下ろして体を揺らして笑った。

「ハッハッハ、どうよ先生、スクリックお得意の夢渡りマジックショーだ!」
「夢……あれ、これは夢なの?」
「おうよ、こんなこと現実で起きちゃたまんねえ。……動けるか?」

 重くない。スクリックが声を燃やしてしまったからだ。軽々と立ち上がると楽しそうに、青い炎が揺れた。

「夢の守りも俺の十八番だ。ちょいと掃除させてもらったぜ」
「うん。……
「お前、随分といろんなものを背負い込んできたんだなあ。神様でもやってたのか?」
……たまにね」

 漂う灰を見る。声は聞こえない。聞こえないけれど、しくしく泣いているのはわかった。誰だろう。もうそれすらもわからないのに、かわいそうでかわいそうで、また手を伸ばそうとした。
 するとスクリックの燃える手が、手首を掴んで止めた。

「やめとけ。あれは誰でもない。夢の中の残り香みたいなもんだ」
……でも、泣いてるよ」
「そうだな。こいつらは救われることなく消えてった連中だ。でも所詮こいつは夢の中の存在、今のお前にはどうしようもねえよ」
……

 炎の手は夢の中だからだろうか、掴まれた部分は全く熱くなくて、不思議な暖かさがあった。力強いのに、きっとこちらが掴もうとすると解けてしまうのだろう。
 そうだなあ、とスクリックは大きな帽子を持ち上げて、ひらひらと遊んだあと、何かひらめいたのか被り直して、また芝居がかった振る舞いを始めた。

「今宵は星空、特別なお客様のために、さらに特別な魅惑の炎をご覧にいれよう。拍手の準備はよろしいか?」

 青い炎は緑の炎に変わった。帽子から、派手なスーツから、あらゆる場所から緑の炎のスクリックは溢れ出て、星まで届く大きな火柱になる。
 口をぽかんと開けて見上げていると、声の灰たちが吸い寄せられていった。ゆるりゆるりと流れて行って、一瞬で燃やし尽くされる。
 
 灰が燃えたら何になる?
 何がいいかな? そうだ!

 きらめく色とりどりの蝶が緑の炎の柱を取り巻いて、星の彼方へ登っていく。かなしい泣き声はもう聴こえない。きらきら、きらきら、ただただ輝いてきらめいて眩しくて、さいごの蝶が天へ上るのを眺めていた。
 気が付くと星空には色とりどりの瞬きが満ちている。スクリックもいつもの姿に戻っていた。

「いかがかな? どうか盛大な拍手を!」

 ぱちぱちぱち、たったひとりの拍手で満足気に胸を張り、恭しくお辞儀する。彼は正しくエンターテイナー、心を照らす救世主。
 頭を上げるとスクリックは手を差し出した。

「このまま少し歩こうぜ。夢の中なら腕だって組める」
「どこに連れてくの?」
「そいつはお前次第だ。何しろここはお前の夢の中なんだからな。俺はちょっとお邪魔してるだけよ」

 差し出された手を握る。さっきよりも柔らかくて、ふわふわしていた。炎ってこんな感じなのかしら。調子に乗って腕に抱きついても、体をくっつけても怒られなかった。

 ここはわたしの夢の中。
 わたしがわたしでいればよい。

 心軽やかに歩き出す。もう誰も泣かなくていい。




(あのね、むかしね)