しゃどやま
2025-05-29 19:56:24
5209文字
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【宗戴】真面目なマッサージ

宗戴が真面目なマッサージをする話です。ギャグです。昔付き合ってたかもしれない。

 皇紀に手を揉まれてから、戴天は考え込んでいた。宗雲の右腕である皇紀には、人一倍警戒しているつもりだったのに、その皇紀に見破られた身体のコリ。よほど身体に現れているのだろうか。
「マッサージも大事なのでしょうか……
 戴天は悩みながら、軽くタブレットで検索する。マッサージ業界は広く、様々なホームページが自分に任せろと主張していた。レビューが良く、三ヶ月先の予約ができ、信頼できそうなマッサージ屋に予約をいれる。戴天は手帳にも書き込み、ため息を吐く。
「しかし、知り合いでも医師でもない方に身体を触れられるのは抵抗がありますね……

「おまたせいたしました。本日担当いたします宗雲です」
「超絶知人」
 三ヶ月後のマッサージ店。上着を脱いでベッドに座り、施術者を待っていた戴天に宗雲が挨拶をする。白い整体師のスクラブに身を包んだ美青年は、どうみても宗雲だ。というか名乗っている。戴天の四字熟語の悲鳴に、宗雲は腕を組む。
「他人だろう」
「い、いえ、他人ですが」
 戴天は慌てて手帳を取り出す。予約した時の記録によれば、担当者の欄には斎藤と書いてあった。
「担当は斎藤さんという方のはずですが?」
「ヘルプを頼まれて入っていたが、お前が予約したと聞いて変わってもらった」
「何故……
 ウィズダムがヘルプを頼まれる相手とはなんなのだろう。商工会で強大な力を持つマッサージ店なのか、それとも潜入捜査をする必要がある闇のマッサージ店だったのか。混乱する戴天に、宗雲が不機嫌そうな眉を寄せた。
「覚えていないのか? 皇紀にマッサージをさせただろう」
 戴天は手を激痛で揉まれた日を思い出す。皇紀から戴天の身体がこっているということが伝えられたのか。しかしマッサージをさせたというのは誤解があった。手当のついでに、勝手に揉まれたというのが真相だ。戴天は宗雲を睨みつけ、怒りに唇を震わせる。
「あ、あれは向こうが勝手に……
 ――戴天の顎を、宗雲の長い指が持ち上げた。顔が近づき、瞳を覗き込まれる。長い睫毛と、忘れようもない二連の黒子。宗雲は囁く。
「その肉体でウィズダムのスタッフを誘惑するとはな……
「語弊!」
 誘惑などしていない。勝手にこりすぎた肉体に興味を持たれただけだ。なんなら断った。しかし宗雲は、戴天が皇紀の獲物にされたことに怒りを感じているようだった。
「俺のテリトリーに手を出したことを、後悔するがいい」
「何をするつもりですか」
 戴天が警戒しながら問いかける。宗雲の手が滑り、戴天のネクタイに指をかける。
「お前が二度と皇紀のマッサージを受けられないよう、六十分コースでその体に教えてやる」
「本当に何です?」
 ネクタイが外される。何がなんだかわからなかったが、マッサージは行われるようだった。

「まずはうつ伏せになれ。軽く触っていくぞ」
「は、はあ……
 戴天が従うと、宗雲はまず首筋から肩を撫でる。シャツ越しでも肩を重点的に触れられたのがわかった。宗雲は独り言のように悲痛な声を漏らした。
「酷いな……肩が凝り固まっている」
 宗雲は肩に温かいパットを乗せる。中に入ったジェルは風呂ほどの温度に温められており、じんわりと肩にぬくもりが広がっていく。パットをそのままに、宗雲の手は背中と腰に動いた。きゅ、きゅと軽く押し、宗雲は絶句する。
「腰もこれでは動くのにも重いだろう」
 戴天は答えない。客と施術者の間で、必要のない会話をするつもりはない。そう意思表示した。
「尻も……デスクワークが続いているな?」
 宗雲の手が尻を鷲掴みにする。戴天の眉が怒りでぴくりと動いたが、心のなかで「平常」を意味する四字熟語を羅列して事なきを得た。宗雲はスラックス越しにふくらはぎを撫で、確かめる。右の足の裏に軽く触れながら手で包み込む。親指を土踏まずに押し込んだ。
「足はパンパンだ。足の裏まで……
「あぐっ!」
 戴天の口から声が漏れる。ずんと重たい痛みが走った。神経を撫でられるような苦痛に、戴天は全身を硬直させる。宗雲は意外そうに声をあげた。
「痛かったか? ゆっくりとやっていくぞ……
 指先は、続いて優しくするすると撫でる。痛みを与えないようなフェザータッチに、戴天の身体から緊張が抜けていく。緩慢すぎるほどの動きで、戴天の白い足裏を押していく。ゆるゆると筋肉を揉みほぐしていった。宗雲は吐息混じりの声で言う。
「足裏は第二の心臓と呼ばれている。革靴もいいが、きちんと温めてほぐしていけ」
 冷え切っていた足の裏が、徐々にうす赤くなっていく。宗雲は続けてささやきながら、小指をつまんだ。軽く引き、くるくると回転させる。小指を曲げ伸ばしさせた後、薬指に移る。
「指を……一本一本伸ばして回していく……
 異様に甘い声に、戴天はぶるりと背筋を震わせる。シチュエーションが謎だった。
「なん、で、囁くん、ですか」
「大声でやるものでもないだろう」
「確かに……
 戴天はぼんやりと同意する。ハキハキと喋る宗雲というのも、それはそれで不気味だ。宗雲は足首をつかんだまま、反対の手で爪先を掴む。ぐりぐりと足首を回すと、痛み寸前の心地よさが戴天の身体に響く。戴天は目を伏せて、思わず声を漏らす。
「ああっ! そこ……っ」
 途切れ途切れの喘ぎに、宗雲は薄く微笑む。満足そうな輝きを瞳に浮かべていた。
「気持ちいいか? もし痛みがあれば堪えるな、筋肉を傷つけてしまうからな……
「くううっ!」
「声を堪える必要もないぞ。呼吸はゆったりと……
「は、ぁい……っ」
 戴天は素直に身を任せる。宗雲が真面目に施術していると信頼し始めていた。
 ――この男に、奉仕をさせていると考えればいい。私が支配していると思えばいいんだ。何も羞恥を感じる必要など無い。
 そう考え始める。宗雲は左足に移り、確実に足裏をほぐしていく。指、足首と続けられると、戴天の身体が蕩けていく。
「あぁあ……足首、きもちい……っ」
「素直になってきたな。心もリラックスしていけ……
「んん……!」
 宗雲は続いて、ふくらはぎに手を伸ばした。筋肉があり引き締まったふくらはぎだが、材木のように硬い。手のひらで温めるようにさすった。

「歩いてはいるようだが、ふくらはぎが固まっているな……ゆっくりと湯船に使ってセルフケアをしろ」
「ふぁ……
 そのような時間はない。けれど、宗雲が下から揉み、持ち上げるように圧迫すると、血の巡りが良好になるのを感じる。湯船に入っている時のように。戴天は、今日は入浴剤を入れようと思った。雨竜くんにも勧めましょう。
 宗雲の手が太ももに登る。ぺちぺちと軽く叩かれた。宗雲は説教するように声を厳しくした。
……太ももには太い血管も筋肉もある。槍術の腕を鈍らせたくないなら、ストレッチの時間もとれ」
「そんな、こと、言っても……っ」
 内腿に触れられるとこそばゆい。うつ伏せなので、宗雲が次にどこに触れるかわからない。けれど、戴天は次第に警戒心を感じなくなっていく。ただ宗雲が触れているだけだと、そう思いはじめた。
 戴天は尻を鷲掴みにされても呆れのような感情しか抱かない。宗雲の真面目な様子に気圧されたのもあった。
「尻が冷えすぎている。健康な筋肉は温かいんだぞ」
「よく知り合いの臀部を揉めますね……
「他人だろう」
「あ、はい」
「いや、今は客だったか……
「そうでした」
 のんびりとした会話に、戴天は力の抜けた回答をする。首筋が火照っていくのを感じた。
「さて……腰は少し力をいれるぞ」 
…………
 戴天が曖昧に相槌を打つと、宗雲は同意とみなし先に進める。手で筋肉を緩めた後、ぐっと力をかける。戴天の身体の奥で大きな筋肉が動く感覚があった。
「ああっ!」
 曲がっていた何かが、ごりゅっと正される。戴天の喉から惚けたような声が漏れ出た。
「あー……っ」
 宗雲は満足そうに続ける。左右のバランスを確認しながら、丁寧に圧迫していった。
「気持ちいいようだな」
「はいぃ……
 戴天は蕩けた表情で頷く。口が半開きになり、瞳が潤む。宗雲は背中も同じように伸ばしてやりながら、教師のように語りかけた。
「筋肉が強張っていると、怪我にも通じる……お前一人の身体ではない。大切にしろ」
「っく、ふぅ……!」
 夢見心地の戴天には聞こえていない。宗雲の言葉の言い回しにツッコミをいれることはできなかった。
「さて、肩だが……
 宗雲は淡々と、温熱パットを外す。芯から温められた肉体は、少しだけ汗ばんでいた。宗雲は戴天の両肩に手をかけ、持ち上げるように動かす。肩甲骨を引き寄せた。体の内側でごりごりと何かが動く。僅かな痛みとそれを上回る快感が、戴天の身体を貫く。
「んああっ!」
 肩をぐりぐりと動かされ、戴天は自分の身体がパズルのように変形していくのを感じる。宗雲は続けて右腕を持ち、後ろに回させる。
「軽く引っ張るぞ」
「おっ、ああ、はああ……っ」
 戴天は目を見開く。身体が普段動かない角度に動く。肩の可動域がめりめりと広がっていく。宗雲は独りごちた。
「コリすぎていて恐ろしいな……
 宗雲の言葉に戴天は反応しない。肩甲骨や背中がばきばきとほぐされていく快感に、悲鳴のような嬌声をあげることしかできなかった。
「あっ、んあっ! いいっ!」
 戴天は目を閉じ、こぼれそうになる唾液を飲み下す。顔をタオルに擦り付けながらうっとりと呟いた。
「きくぅ……っ」
「わざとか?」
 宗雲が何かを尋ねている。戴天は左肩を回されながら、吐息混じりに聞き返した。
「何が、はぁ、っ、ですか?」
「いや……別に……
 何かものいいたげな宗雲は、再び施術に戻る。戴天は、酔いきった瞳で呟いた
「はあ……っきもちい……

 肩を終え、戴天は呼吸を整える。宗雲の指が戴天の首に向かった。その気になれば絞め殺せるほどの距離感で触れられているが、戴天は抵抗しない。宗雲は長い髪を掴んで避けた。
「首も疲れてそうだな。この髪の長さだ」
 戴天は、無言になる。「はい」と答えることは、高塔として許されることではなかった。その長さも、重さも、戴天が背負ったものだ。
 だから、一言だけ尋ねた。
……切れと言いますか?」
「いや。俺にはそんな権限はない」
「フン……
 宗雲の迷いのない返答に、戴天は不愉快さを顔に浮かべた。

 次の瞬間に快感を顔に浮かべていた。宗雲に頭を抱えられ、首をぐいぐいと伸ばされる。軽く擦った後の首は、角度を変えて引っ張られることで心地よい痛みをもたらした。戴天は表情を緩めて目を閉じ、ふぁあと声を漏らす。
「あああっ! それっ、すき……っ」
「それほどにか」
 笑う宗雲に、戴天は素直に答える。
「あぁー……もう少し……っ」
「ほどほどにな」
 ぐ、と反対に力をかける。戴天は嬉しげな声を上げた。宗雲は痛みに変わる前に力を緩め、戴天の頭を下ろす。戴天の頬に触れた後、ベッドを叩く。
「仰向けにするぞ」
「ひゃい……
 戴天は素直に身体を転がす。はだけたシャツを気にすることもなく、とろりとベッドに仰向けになった。宗雲は戴天の首筋を撫でる。少しだけ強く擦ると、血が通っていくのがわかった。
「顔色が良くなってきたな。体温も高い」
「ん……
 屈み込んで宗雲は鎖骨を擦る。顔が近づいた。戴天は宗雲の視線を避けるように目を閉じる。
「キスでもねだってるのか?」
 からかうように言う宗雲に、戴天は反論しようとした。
「すぅ……
 しかし、穏やかな呼吸が漏れたのみだ。戴天はまぶたの重たさに、力が抜けていることに気付く。
「眠っていてもいいですよ、お客様……
 宗雲の優しい、よそ行きの声。その声はいやだと言おうと思っても、意識は沈んでいった。

「ハッ?」
 戴天は目を開く。見慣れない真っ白で清潔な部屋。マッサージ店だ。混乱しながら腕をついて身体を起こす。唾液を慌てて拳でぬぐった。
「六十分コース、終了したぞ」
 宗雲が使用した温感パットを片付けている。ごく平然と言う宗雲に、戴天は問いかけた。
……わ、私、眠って……?」
「ああ。しばらく意識をうしなっていた」
 ふ、と小さく笑う。宗雲は視線だけ戴天に向けて言った。
「寝顔を見るのは久々だったな」
 戴天の頭に、怒りや羞恥が血となって一瞬で登る。鞄を引き寄せ、立ち上がった。
……帰ります。口外しないように」
 不機嫌さを懸命に示しながら、ハンガーからジャケットを外す。肩に通した瞬間、戴天は叫んだ。
「身体が軽いッ!」
「何に怒っているんだ」
 戴天はドアを丁寧に閉めて去っていった。



おしまい