なび
2025-05-29 15:42:00
1938文字
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嵐の行く末

ギーさまの素敵な絵に話をつけさせていただきました。

我慢ならんかったんです、すみません……

 
 

 空は分厚い黒雲に覆われ、天地の区別なく、雷鳴が断続的に走る。
 風が耳元で吹き荒び、雨粒は塊となって上からも下からも打ちつける。
 波は船を子どもの玩具のように持ち上げ、落とし、木の葉のようにくるくると翻弄する。
「これしきの嵐、どうとでもない」
 と鼻で笑っていた双神の兄もさすがに閉口したようで、早々に星の子とマスターとマシュを船長室へ放り込んだ。
 とうに帆は下ろし、索具はすべて固定した。海に捨てられる荷物はすでにない。
「バーソロミュー!」
「わかっている!!!」
 指示を仰ぐ同胞へ鋭く叫び、普段ならばこれほど頼もしいものはないと思っているメインマストを見上げる。今にも倒れそうに軋み、悲鳴を上げるそれ。
「パーシヴァル!」
「何か!」
 怒鳴りあっても声が届かない。英霊ゆえの聴覚に感謝した。
「マストを折る!! ロープをすべて切ってくれ!!」
 斧を押しつけられた騎士は、しかし、と言い淀んだ。
「しかし!! それでは貴方の船が!!」
「マスターを殺す気か!!!!」
 この海に投げ出されては何も残らぬ、助からぬ。我々は最悪どうとでもなろう、けれどマスターは。
 叫ばれ我に返ったか、パーシヴァルは口を固く結ぶと留め具に掴まりながらも持ち場へ向かう。
「オリオン!! 頼む!!」
「はいよ!!」
 超人の膂力がマストに斧を叩き込む。それでもってしても、海水を吸ったマストは抵抗を示し、一度や二度では倒れない。
 何度目か、ついにメリメリと柱が横倒しになり、海へと落下した。
 だが安堵したのも束の間、
「来るぞ!!!!」
 二人がかりで舵輪を押さえるカストロとポルクスへ手を伸ばし、舵を大きく回す。
 次の瞬間、全身に海水が叩きつけられる。
 波に耐え、しかし稲妻が見せた迫り来る壁のような波に、バーソロミューの頬が引き攣った。
「ッ、マスター!!!!」
 喉が裂けても構わないと叫ぶ。一か八か、破れ被れだが、何もしないよりはと叫ぶ。
「オッケー!!!! パーシヴァル!!!!」
 船長室から飛び出したマスターの令呪が、パーシヴァルの魔力を満たす。
 船体が波に乗り、ぐう、と垂直に近くなる。
「行け!!!!!」
……ーーロンギヌス……カウントゼロ!!!!!!」
 バーソロミューの声を背に、パーシヴァルの宝具が波の壁を壊す。その一瞬の隙をつき、波を越えていく。
「やっ!!」
 たー! と快哉を上げようとしたマスターをボイジャーとマシュが再び船長室へ引きずり込み、喜びの声は消えてしまったが、確かにまだ喜ぶときではない。
 内臓の浮く感覚とともに、船体は海面へ叩きつけられる。
 どぉーーー!!
 雨粒に上乗せするように海水が降りかかる。
 バーソロミューはしかし唇に笑みをのせたまま、パーシヴァルへ視線を向けた。
 それが合図であったかのように、だんだんと風は弱まり、雷鳴が遠退き、少しずつ空と海がわかれていく。だんだんと。だんだんと。



 雲が切れ、月明かりが差す海をマストを一本失った帆船が行く。
「貴方の船が傷だらけになってしまった」
「パーシヴァル」
 振り返れば円卓の騎士が立っていた。
「相棒には、きっちり謝ったとも。港についたら大改修だ」
 実際は宝具を改めて展開すれば良いのだが、それだけでは気が済まない。
「マスターたちは」
「寝てもらったよ」
「それは良かった。ここからが正念場だからね」
 はて、と首を傾げる騎士へ、大海賊は口の端を吊り上げる。
「食料は最低限しか残っていない。君に盛られたらひとたまりもない」
 虚をつかれたパーシヴァルは瞬きをすると、へにゃりと眉を下げた。
「それは……善処するよ」
「頼むよ」
 嵐なぞ嘘だったかのような海へ視線を戻す。
「まあ、嵐は想定以上だったが、必ず抜け出せると自信はあったよ」
「それは、貴方の航海術があるからだろう?」
「そうではなく」
「では?」
「星の導き手が四人もいて、助からないわけがない」
ボイジャー、ディオスクロイ、オリオン。
 宇宙そらに関する四人を指折り数えて、バーソロミューは笑う。
「あちらで ひかりがみえたよ! とうだいかしら!」
 タイミング良く、檣楼からボイジャーの弾けるような声が響いた。
「それは重畳! そのまま頼む!」
「ろじゃー・かぴー!」
 残ったマストの周りをボイジャーが飛んで回る。さながら、喜びを表すよう。
「ほらね?」
 それを見守ったバーソロミューがパーシヴァルへウィンクをひとつ投げれば、
「それは確かに」
 つられてパーシヴァルも相好を崩した。
 ゆっくりと波を割いて、船は行く。
 数多の星をしるしとして。